さて、あなたの話をさせてもらおう。
あなたはどこかのバーでブルイックラディを飲んだ。あなたはそのシングル・モルトがとても気に入った。そんなあなたがジェイズ・バーに来たのだ。もちろん、「例えば」の話である。

仕事が終わって軽い食事を済ませたあなたは午後9時にひとりでジェイズ・バーに来た。1杯目のオーダーはジン・リッキー。牛丼を食べたかもしれないし、ラーメンを食べたのかもしれない。あるいは会社に食堂があるのかもしれない。あなたはひとりで食事を済ませジェイズ・バーに来た。

そんな時にジン・リッキーが飲みたくなる気持ちは僕にも良く分かる。「素敵な選択だな」なんて思いながら、僕はライムを搾っている。「どうか、おいしく飲んでもらえますように」と願いながら、僕は炭酸を注ぐ。

ジン・リッキーで少し喉の潤ったあなたは最近飲んだブルイックラディの話を始める。どこかのバーで飲んだ、とても気に入ったブルイックラディ。でも、あなたはそのブルイックラディの詳細を覚えていない。覚えてはいないのだが、印象に残っている。忘れられなくなってしまったのだ。そう、だからあなたはブルイックラディについて僕と語り合いたくなってしまった。

僕の中にも印象に残るブルイックラディはいくつかある。シングル・モルト好きの人とシングル・モルトについて語り合うのは愉しいし、僕がかつて愛したブルイックラディと、もしもまったく同じものをあなたが好きになってくれたのなら、そんなに嬉しいことはない。肩を抱き合ってその喜びを分かち合いたいくらいだ。だから僕もあなたとブルイックラディについて語り合いたい。

さて、そんな僕とあなたは少しばかり困ったことになる。何せ、あなたはどんなブルイックラディを飲んだか良く覚えていないのだ。ブルイックラディであることに間違いはないはず。でも、オフィシャルなのか瓶詰業者なのかも覚えていない。だけど、途方に暮れることなんかないのだ。あなたは思い出すかもしれない。話をしているうちに思い出すかもしれない。少なくとも、そのブルイックラディはあなたが好きな味なのだ。あなたがどのようにそれを気に入ったのかを語れば良い。客観性などいらない。正確な知識など必要ない。ブルイックラディとあなたが愛し合った記憶を語れば良い。

とはいえ、僕だってあなたの一方的な「のろけ話」ばかり聞かされていても口惜しいではないか。あなたが惚れたそのブルイックラディの正体を突き止めたい。もしもその娘がジェイズ・バーにいるなら、もう一度引き合わせてあげたいし、もしも同じ娘がいなければ、似たタイプの娘を紹介したい。あるいは、よくよく話を聴いてみると実はそんな娘よりも、もっとあなたにお似合いの娘がいるかもしれないことを僕は思いついてしまったり、そんなあなたが何故その娘に惚れたのかが分からなくなったりすることもある。

そんな時に僕はイメージの中で僕とあなたの間にテーブルを用意する。
記憶を手繰り寄せ僕が出会ったブルイックラディたちをテーブルの上に並べる。
さて、僕の仕事の始まりだ。
襟を正してお願いしたい。人気ブログランキング
テーブルのブルイックラディ