イチロー C-2(2)先週末の続きである。
イチローさんは遠く東北の地に子供たちの揺りかごを見つけた。イチローさんのウィスキーは現在もそこで熟成を続けている。今でこそ「売れるウィスキー」となる予感を十分に感じさせるようになったイチローズ・モルトであるが、当時のそれらはある意味「不良在庫」であったのだ。どんなに品質が優良であろうと、売れないで残っていれば「不良在庫」である。

ただし、幸運なことにウィスキーは熟成庫で過ごす年月と共にその熟成を重ねる。熟成とはまさにウィスキーの製造工程の一過程である。ウィスキーの熟成庫は単なる倉庫ではない。「不良在庫」は熟成庫の中で、より品質が優良な在庫となるのだ。ちなみに当時のその「不良在庫」の総数は何と4,000樽。驚くばかりである。

イチローさんが作っていたものが料理ではなく、ウィスキーであったことに感謝をしたい。幸運なことにウィスキーは面倒さえ看れば腐らない。料理とは違う。揺りかごの中のウィスキーは時と共に熟成もしてくれるのだ。大事な子供たちを東北の地に預けたイチローさんは、子供たちを不憫に思いつつ立派に育てることを心に決めたのではないだろうか。

子供たちの預け入れ先を決めた後、一息付くことさえできなかったでイチローさんだろうが、少々時間的に余裕ができたのではないだろうか?以前も申し上げた。とても簡単に言ってしまえば、ウィスキーの製造工程は、「発酵」→「蒸留」→「熟成」であると。蒸留所を閉鎖したイチローさんは「発酵」→「蒸留」の作業に携わることはない。ならば、彼の作業の大半は「熟成」へと集中し、その関心もそこにシフトしたのではないだろうか。

あるお客さんの「イチローさんは何で樽をふたつ使うんですかね?」という質問に、「ヒマなんじゃねぇの?」、「まだ、新しい蒸留所できてねぇから」。などと答えてしまった僕である。無礼千万と思いながらも、この侍がそう思う理由はそこにある。手を休めることを不安に思う職人は少なくない。手を休めないことを望んだイチローさんは「熟成」の作業に、ある時期没頭したのではないだろうか?侍にはそう思えてならない。

リリース前に「ハートの9」のサンプルを持ってイチローさんが来てくれたのが去年の夏。僕はその時、「イチローさん、これはきっと売れるよ」。そう申し上げた。もちろんその予言は的中した。また、去年の暮れにピートを土産に来てくれた時は、「イチローさんはそのうち、クーブレーじいさんみたいになるんじゃないかと思うんですよ」。そう申し上げた。

クーブレーじいさんは「ウィスキーの品質の95%は熟成で決まる」と公言して憚らない人である。イチローさんがその意見に100%同調するとは思わないが、イチローさんはクーブレーじいさん同様、樽使いの名手になるのではないだろうか。僕はそう思っている。そして、イチローさんが樽使いの名手となるきっかけを作ったのは、皮肉なことに羽生蒸留所の閉鎖という事実があったからではないだろうか。

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