昨日の早朝、僕は久し振りに長く残業をすることになった。そのことは昨日の記事でも少し触れた。躊躇う気持ちもあるのだが、今日はそのことについて少しお話をしたい。つまり、今日はシングル・モルトの話ではない。

深夜遅い時間、僕が長い間お世話になっている飲食店のオーナーさんがやって来た。いつものようにソルティ・ドッグを2杯飲み、ウィスキーを飲み始めた。他愛のない世間話をして、その人は自分の経営する店に電話をして、その店の店長を呼んだ。

その店の店長とも10年近い付き合いがある。二十歳を過ぎたばかりの小僧という風体だった彼も、30を過ぎて少し落ち着きを手に入れ、しかし、まだ身の程を知らず、ものを言いたい盛りだ。

オーナーが店長に声を掛け、バーで一緒に飲む。特に珍しいことではない。上司と部下の関係でもあるのだ。日常的とさえ言っても良い。上司は部下に言いたいことがあり、部下も上司に言いたいことがある。酒を飲みながら話すことではないのかもしれない。だけど、話し合わないことは何より愚かだ。

上司は結果の出なくなった部下に不満を持っている。そして、結果を出すためにして欲しいことがある。部下は結果が出ないことを自覚している。だから、自分なりにチャレンジはしている。

その店のオーナーも店長もジェイズ・バーのお客さんだ。オーナーは時々飲みに来て、店長は最近飲みに来ていない。店長には飲みに来たくない理由があったのだろう。愚痴をこぼし続ける彼に、僕は「お客さんの方を見なさい」。そう言い続けた。

彼らふたりの話し合いはこじれ、結果としてオーナーは「お前はもうクビだ!」と捨て台詞を吐いてジェイズ・バーを出た。午前9時のことだ。残された店長は気が収まらず悪態をついている。もちろん酔っている。ふたりとも。

少し落ち着いた様子の店長に僕は声を掛け座らせた。
「おごってやるから、1杯飲んでけ」。

お前は損をしてはいけない。ということから説明をした。どのように、ここまで辿り着いたのかを思い起こさせた。経営者と店長は同じ利害を抱えていることを納得させた。頑張ることに価値などないとは言わない。だけど、頑張っていることは言い訳にはならない。とても残念だが、頑張らないで結果が出る人がいるなら、今のお前より偉いのだ。確かにそれは事実のひとつの側面でしかないが、数字はそれを妥当に反映している。お前はそれを受け止めねばならない。

お前と経営者は同じものを見ているはずじゃないだろうか。でも、ふたりは同じものを反対側から見ている。前にも言ったことがある。テーブルの上のボトルを向かい合って見ている状態と一緒だ。同じものを見ているのに、自分と相手は違う風に見える。違いを明らかにしようと思えば、話はずっと噛み合わないままだ。でもお前は、反論はするが対案は出さない。

お前は今日、経営者と話をして、自分の至らなさに気付いたのではないだろうか?できていないことが分かったはずだ。つまり、やるべきことが分かったのではないだろうか。やれば良いのではないだろうか。つまりこれはチャンスだ。昨日まで、何をして良いのか分からなかったお前は、今、何をしたら良いのか分かっている。

今、お前は、どこへ行くべきかを分かっている。「行くべき所」、それは今、お前の中に生まれたのではないだろうか。つまりそれは目的地だ。それを見つけたなら、歩いて行けば良い。

歩いて行くことと、靴底が減ることはトレード・オフの関係にある。靴底が減った分だけ、人は歩いたことになる。歩いていれば、目的地に近付いているはずだ。

お前は時々、自分の靴底を指差し、
「こんなに靴底が減っているじゃないですか!」。そう叫ぶ。
でもどうだろう。お前は靴底を床に擦り付けているだけではないだろうか。
あるいは同じ場所をグルグルと廻っていただけじゃないだろうか。
靴底は減るが、どこにも行けない。

仕方がなかったかもしれない。だってお前はどこに行ったら良いのか、分かっていなかったのだから。途方に暮れたお前は、歩いて目的地に向かうことではなく、靴底を減らすことが仕事になっていたのではないだろうか。でもどうだろう。今のお前は目的地を分かったのではないだろうか。チャンスだったのではないだろうか。

「僕だって大変だったんです」。
お前はそう言った。確かに大変なのだろう。でも、靴底は減ってもお前はどこにも行っていない。
残念だが、事実だ。
でもどうだろう。今のお前は目的地を分かったのではないだろうか。


「チャンスは目の前にある。やらずに逃げるか?」。僕は言った。
「蓮村さんは何でオレにそんな風に言ってくれるんですか?」。
「お前が好きだからだよ」。
「・・・・・・」。
「侘びを入れて、もう一度やらせて下さいって言ったらどうだ」。

「お願いします」。
席を立って深々と頭を下げたついでに、彼はカウンターに顔をぶつけた。痛いと言いながら店を去る彼を見送りながら、僕はその店のオーナーに電話をした。彼が頭を下げるのは僕ではないのだから。

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