例えば、30年前のこと。ウイスキーを欲しがる人がまだ少なかった時代。僕らは余裕を持ってウイスキーを愉しんでいて、まぁ、今やそんな時代ではななくなった訳だ。


響や白州の販売休止がひと騒動を起こしている。それは、サントリーだけの問題ではなく、日本のウイスキー全体の問題でもあると思っている。


需要の拡大とそれに追い付かない生産と、問題の本質はそこに生じたギャップによるものだ。もちろん、今回の騒動に始まったことではない。


ウイスキーが3日で作れるものではないことは、誰でも知っていることで、だけど、欲しがる人がたくさんいるなら、3日ですべてがなくなることだってあるのかもしれない。


足りないと言われれば、欲しくなるのが人情で、だけど、漢字のラベルを貼って瓶詰するだけで、ウイスキーが売れるのなら愚かな事態だと思う。


「人間だって顔じゃなくて中身だよ」。誰だってそれに表向き反対しないけど、顔が気にならない人はあんまりいない。


僕らが安心してウイスキーを愉しめるのは、そこに信頼があるからだ。


例えばそれが、どんなシングルモルト・ウイスキーでも構わないが、そのラベルに蒸留所の名前が書いてあるなら、「中身のすべてはその蒸留所のウイスキー」ということを僕らは当たり前のこととしてウイスキーを飲んでいる。


もちろん、いくつかの蒸留所のウイスキーを混ぜて瓶詰することは反則ではない。そのラベルに「ブレンデッド」であることが明確に表記されているのならまったく問題のないことだ。


シングル・モルトより美味しいと感じるブレンデッド・ウイスキーなんていくらでもあるものだし、混ぜることで優秀なコストパフォーマンスを実現できるなら素晴らしいこと。


当然だけど、混ぜることは簡単なことではない。そこには生産者の知恵と努力と技術が集結している。その歴史と伝統がそのブランドに対する信頼の根底にあるはずだ。


確かにブレンデッドを「何でもアリ」のウイスキーと解釈することは可能ではある。対照的にシングル・モルトを「純粋なモノ」と位置付け、ブレンデッドを格下と見る向きもあるだろう。


まぁ、心情的には理解できなくもないが(笑)、それらふたつのウイスキーの愉しみ方は違うもの。「何でもアリ」の状況から、価値あるハーモニーを生み出す技術を僕は心から尊敬する。


その違いはよく「ソリスト」と「オーケストラ」に例えられるけれど、「オーケストラ」の中にいる「ソリスト」の存在感に気付かせてくれるのは、シングル・モルトではなくブレンデッドならではのもの。


先程は「問題の本質はそこに生じたギャップによるもの」と申し上げたが、もちろん、前提としてジャパニーズ・ウイスキーの好調がある。


背景には全般的な日本のモノづくりに対する信頼感もあるのだろうし、日本のウイスキーが世界的に評価されるなら、喜ばしい限りだ。


多くの人がウイスキーに関心を持ってくれる時代になったことを、当然、僕は歓迎している。共感できる仲間が増えることを、僕はこれまでも人生を通じて望んで来たから。


ただ、好調であるが故にウイスキーが足りなくなり、足りないことは人々の心を刺激してしまう。日本において既に、ウイスキーは一足先にデフレ脱却を果たしている。


市場のニーズが高まれば、そこに資本が投下され新しい生産者が現れる。今起こっている小規模蒸留所のブームとはそういうことだろう。


ただ、バブルとバブル崩壊を繰り返して来たのもウイスキー業界だ。5年後、10年後、僕らのウイスキーがどのように愉しまれているのか?僕にも分からない。


ウイスキーが3日で作れるものではないことは、誰でも知っていること。だから、サントリーは響と白州の愛飲者に向けて「しばらくお待ち下さい」の看板を出した。残念ではあるが、正しい判断ではないだろうか。


もちろん、10年前、20年前、サントリーが正確な未来の需要予測をしていたなら、こんな事態にはならなかったというのは正論ではあるが、酷な話だ。時に正論は身も蓋もない。


翻って考えるなら、10年前、20年前、飲み手である僕らが、ウイスキーを上手に愛せていなかった結果でもあるのだから。当時の生産者が、ある意味絶望的な判断を下さざるを得なかったのは、飲み手である僕らの責任でもある。


最近の小規模蒸留所の隆盛も同じこと。今立ち上がった蒸留所のウイスキーを、僕らが豊かに愉しめるようになるにはまだまだ時間がかかる。僕らは「しばらくお待ち下さい」の看板を見つめるしかない。


何かを期待して待つという行為には知的な想像力が必要だ。ウイスキーが熟成を前提として愉しまれていて、熟成に時間が掛かるというのは、僕らにとって周知の事実。


「待つこと」というのは大人の振る舞いだ。子供は未来に期待して現在を我慢するということができない。駄々をこねるとはそういうことだろう。


5年後、10年後、僕らは上手にウイスキーを愛せていられるだろうか?


だから、僕は「待てない!」と叫ばない。知的な想像力を持って、「しばらくお待ち下さい」の看板を見つめようと思う。そして「愉しみにしてますよ」と伝えたい。それが僕の立場だ。


ところが一方、「待てない」飲み手もいて「待たない」メーカーも現れ、当然ながら、市場において両者は繋がってしまう。そして、「知らない」飲み手は「待たない」メーカーの格好の餌食となっている。


特に「知らない」外国人が、後からそれが「日本産のウイスキーでなない」ことを知った時、どのような反応をするのだろう。彼らは「日本のウイスキーをお土産に持って帰りたい」と思っている人たちだ。


もちろん、法律上の問題はない。倫理・道徳の問題ではあると思う。ただ、倫理・道徳問題を無視することで、利益が上げられると判断するのが「待たない」人たちの心理だ。


「待たない」メーカーは「知らない」人たちにウイスキーを売ることで、利益を上げている。だが、「知らなかった」人たちもやがて「裏切られた」ことに気付くだろう。


確かに、「知らなかったお前が悪いんだろ?」という意見があるなら正論ではあると思う。ただ、リテラシーのある飲み手の認識と、一般消費者のそれには大きな乖離がある。


要するに「優しさ」の問題なのだ。ウイスキーを愉しむ人たちが増えたなら、「知らない」人たちに「知らせる」努力が必要だ。「裏切られた」人たちが日本のウイスキーから離れて行くなら、僕らは将来の優秀な飲み手を失うことになる。


結果として日本の優秀な生産者に対する信頼も崩れて行く。そして、それは既に少しづつ始まっているのではなかろうか。僕らのウイスキーの未来をも損なうことになるだろう。法律と倫理・道徳の間にルールを作るべきではないだろうか。



相変わらず前置きが長過ぎたが、ここからが本題(笑)。

今夜はイチローズ・モルト&グレーンを扱う記事なのだから。


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現在、池袋ジェイズ・バーには3種類のモルト&グレーンがある。同一のコンセプトのウイスキーなので、ラベルのデザインにも共通性がある。


左から、

「イチローズ・モルト&グレーン(ワールド・ブレンデッド / ホワイト・ラベル)」

「イチローズ・モルト&グレーン(ワールド・ブレンデッド / リミテッド・エディション」

「イチローズ・モルト&グレーン(ジャパニーズ・ブレンデッド / リミテッド・エディション」。


価格も安い順に左から「ホワイト・ラベル」「ワールド・ブレンデッド」「ジャパニーズ・ブレンデッド」となっている。


ご存知の方も多いと思うが、このラベルのデザインはイチローさんの手掛けるウイスキーの中でも定番商品のひとつ(手軽な入門編としても定着した感のある)「ホワイト・ラベル」の系譜であることは明らかだ。


数年前、まず最初に「ホワイト・ラベル」がリリースされ、その時僕は「イチローさんは新しいチャレンジを始めたのだな」と感じた。


秩父蒸留所というシングル・モルトを製造する蒸留所のボスとしてだけではなく、ベンチャー・ウイスキーという会社のチーフ・ブレンダーとしてのポジションを取りたいとの野心を感じた。


「ホワイト・ラベル」はある意味、お手軽な廉価版のブレンデッド・ウイスキーとして知名度の高いウイスキーになった。だけど、そして、僕は期待をして待っていた。「ホワイト・ラベルの次があるはずだ」と。


正直に言うなら、僕は随分と待たされた訳だ。「イチローズ・モルト&グレーン(ワールド・ブレンデッド / リミテッド・エディション」(写真中)がお披露目されたのは今年の秩父ウイスキー祭でのこと。


その当日、僕はそんなことはまったく知らずに実行委員の仕事をしていて、秩父蒸留所の若手の太郎君が「飲んでみて下さい!」とプラカップに入ったそれを持って来てくれた。その時の彼のドヤ顔を今でも覚えている(笑)。


詳細を聴きながら、香りを嗅ぎ口に含み、「これはサントリー響の穴を埋めるウイスキーになるな」と感じた。そのことを正直に太郎君に伝えると、「それは褒め過ぎです」と照れ臭そうに笑っていた。


立て続けに、「イチローズ・モルト&グレーン(ジャパニーズ・ブレンデッド / リミテッド・エディション」(写真左)がWWA世界最高賞受賞の報を受けひとり喜んだ。


受賞したことも含め、売行きが好調であることも含め、それらの事実はイチローさんのブレンダーとしてのセンスと技術が評価されたと言って良いだろう。


もちろん、これで終わりの話ではなく、僕は次に期待して待っている訳だ。


ご存知の通り、秩父蒸留所はグレーン・ウイスキーを製造する設備を持たない。だから、これらのウイスキーには秩父蒸留所が買い付けた国産あるいは外国産のグレーン・ウイスキーが使われている。


同様に「ホワイト・ラベル」に関しては、「9蒸溜所のモルト原酒と2蒸溜所のグレーンウイスキーをブレンド」とアナウンスされていて、(恐らくは)外国産のシングル・モルトが使われていることは明らかだ。


先日、イチローさんがジェイズ・バーにふらりと訪れた。僕らはいつもの様にいくつかの話をして、最近はアメリカ市場で「ホワイト・ラベル」の販売が好調だとの話を聴いて嬉しくなった。


もうどのくらい昔の話だっただろうか。あれはまだ、「ホワイト・ラベル」をリリースしたばかりの頃だったろうか。


イチローさんは「ホワイト・ラベル」を手にアメリカに商談に行き、それが「秩父蒸留所のシングル・モルトではない」ことを残念がる相手に少々落胆している様子に見えた。


僕が最近のアメリカ市場での好調を嬉しく思った背景には、そんなエピソードがあった訳だ。


もちろん、好調の要因はアメリカ市場でのパートナーに恵まれたことや、フラッグシップたる「ジャパニーズ・ブレンデッド」のWWA受賞が需要を喚起しているという側面もあるだろう。


だけど、イチローさんは「知らせる」ということを辞めなかった。これは「9蒸溜所のモルト原酒と2蒸溜所のグレーンウイスキーをブレンド」したウイスキーであることを説明し続けた。


筋を通し知らせ続けることで、勝ち得る信頼というものがそこにあるのだ。好調の要因がそんなところにもあるなら、本当に嬉しい限り。


僕らは「本当のこと」を知りたいのだ。

だから、生産者が「知らせてくれる」ことを望んでいる。

「寝た子を起こすな」と考える人もいるかもしれない。

だけど、「寝た子」は必ず眼を覚ます。


化粧をした女の子が美しくなることは素敵なこと。

でも、偽物の仮面を被った女の子とは付き合いたくないんだ。


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