人間椅子和嶋慎治氏は2020年の現代にあっては、貴重なハードロックのギタリストである。
ハードロックは、ここぞというタイミングで、その曲に相応しいギターソロが入るのが王道だ。

和嶋氏は、メタルの速弾きとも異なる、ブルースを基調にした粘っこくも、時にトリッキーなソロを聴かせてくれる。

私自身も和嶋氏に遠く及ばないが、ギターソロを考えて弾いたことがある。そうすると、どうしても良いフレーズが思いつく時もあれば、手癖ばかりが出てしまう時もあり、調子の良し悪しがある

和嶋氏のギターソロもシビアに見れば、非常に調子の良い時と苦労している時があるように思える。調子が良いと思われる時の和嶋氏のギターソロは、それは聴いていて惚れ惚れとする。

今回はそんな和嶋氏のギターソロが冴え渡っているアルバム3枚を独断で選んでみた。
そして、中でも特筆すべきソロを弾いている楽曲を併せて紹介したい。

いずれもギターソロを耳コピしようと思っている人にはおすすめの曲ばかりだ。
最初に和嶋氏のギターソロの特徴の概要を押さえておこう。


・和嶋慎治のギターソロの特徴


和嶋氏のギターソロの全体的な特徴を3つにまとめている。
おさらい的な意味も含めて、確認しておきたい。

・ブルース色の強いハードロックギター

和嶋氏のソロの基本には、ブルースギターがある。
ブルースギターについて、長々と書くことは控えるが、端的に言えばペンタトニックスケールと呼ばれる、ブルースに特徴的な音階を用いる。

具体的な曲で言えば、「無情のスキャット」の終わりのギターソロは、ペンタトニックでぐいぐい押している。




また、ブルースギターは、譜面上に表しにくい、”タメ”を用いることも特徴的だ。
つまり譜面上の音符の長さよりも、音を伸ばしたり、その分後の演奏を速く弾いたりなど、演奏者のフィーリングで歌うようにギターを弾く、ということである。

「人間椅子傑作譜面集」が発売された際の奏法解説動画にて、ブルース的なフィーリングについて和嶋氏が語っている。
31:37頃〜



一方で、リッチーブラックモアの演奏するようなクラシカルなフレーズを苦手だと公言している。
いわゆるメタルの速弾きはほとんど取り入れられておらず、スウィープやタッピング(鉄格子黙示録など一部では使用)などのメタルギターのテクニックはあまり好みでないようだ。


・構築されたソロがほとんど

和嶋氏が各楽曲に収録するギターソロは、構築されたものが多い。
つまり、アドリブで弾いたものは基本的には入っていないと言うことだ。

ライブ時にはアドリブでソロを長く弾く曲もあるが(「狂気山脈」など)、基本はライブでもスタジオ音源と同じソロを弾くため、しっかりと流れを練って作られたソロを弾いている。

また、ブルース以外の要素として、キングクリムゾンのギター、ロバート・フリップに大きく影響を受けており、プログレッシブなソロを弾くこともある。
たとえば、「宇宙からの色」のソロは短いながらも、和嶋氏らしいソロだ。




・時期によって変化するギターソロ

概ねこれまで挙げたような特徴のギターソロなのだが、時期によって少しずつ違いがある。

特に変化が大きかったのは、7th『頽廃芸術展』で、速弾きを極力抑えたブルーステイストの強いソロになったことだ。
ここまで速さを封印したギターはこの1作のみとなったが、この後も渋いギターソロが多い傾向にあった。

オズフェストに出演後は、よりハードロックを意識するようになり、わかりやすく速いソロも弾くようになっている。
あえて手癖のフレーズも、何度も取り入れることで、最近のスタイルを確立しつつある。


※和嶋氏の近年の変化にも触れた関連記事





・和嶋慎治のギターソロが冴え渡るアルバムベスト3とおすすめの楽曲

筆者の独断により、ギターソロが素晴らしい3作を選んだ。
各作品を選んだポイントや聴きどころ、そして特に素晴らしいソロの楽曲をピックアップした。


第1位:6th『無限の住人』



文句なしの1位である。

選んだポイントとしては、まずどの楽曲のソロもかなり練られている上に、いつも以上に速くてテクニカルだ。
それでいて、口ずさみたくなるようなメロディのはっきりした部分もある。

さらに、”泣き”の要素もふんだんに盛り込まれており、こういうギターを弾いてみたいものだと言う素晴らしい出来である。

<ソロがおすすめの楽曲>
・晒し首
和嶋氏のソロの中では、かなりテクニカルなフレーズが含まれている。
それでいて、哀愁のある歌のメロディラインに呼応するように、ソロも泣きまくっている。

特に最後のワウを使ったソロは、楽曲の盛り上がりに合わせて、ロングトーンはのびやかに、それでいて怒涛の速さで紡がれるソロは、鳥肌ものである。

・黒猫
楽曲全体の構築の凄さもさることながら、中間部のソロも屈指の出来だ
ソロの中で何度も転調があるが、その切り替わり方がとてもかっこいい。

最後のソロは、ブラックサバスを意識した多重録音によるソロ。
徐々にせり上がっていくような展開は、複雑なソロではないものの、よく練られている。


第2位:10th『見知らぬ世界』

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『頽廃芸術展』以降少し速弾きを抑えた渋めのソロが続いていたが、この作品では気持ちの良い速弾きも復活している。
それでいて、この時期特有の味わい深いフレーズとのバランスが絶妙だ。

和嶋氏の新機軸の明るい曲調の「エデンの少女」「悪魔大いに笑う」などは、大変良く練られたフレーズが並んでいる。
それでいて「人喰い戦車」では泣きのソロ、「魅惑のお嬢様」ではサバス的なソロと変幻自在である。

<ソロがおすすめの楽曲>
・死神の饗宴
上記で挙げた以外に、王道の素晴らしいソロの曲を取り上げた。
鈴木氏も「和嶋くんのソロで一番の出来」と太鼓判の、見事なソロである。

怒涛の速弾きから、泣くように引っ張るチョーキングの流れも素晴らしい。

・見知らぬ世界
中間部の広がりのある音色から一転、ワウの中止め音で、切り込むような入り方がたまらない。
「死神の饗宴」同様においしいフレーズが盛り込まれており、聴き飽きない。

そして、リフのリズムに合わせて、弾きすぎないソロが渋くてカッコいい。


第3位:16th『此岸礼讃』

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近年のハードロック的なソロに移行し始めた頃の作品であり、その新鮮な息吹を感じるような開放的なソロが印象的だ。

ソロはフレーズももちろん大事だが、音色も重要な要素である。
この作品では、特にダウンチューニング用のギターのピックアップを交換し、とても良い音が出ている。

太い音ながら、輪郭のはっきりした音が心地よい。

<ソロがおすすめの楽曲>
・沸騰する宇宙
轟音のリフに負けないぐらいの、怒涛のソロである。

いわゆる”泣き”の要素が強いが、『見知らぬ世界』の頃とはまた異なる、音数の多さの中で泣きを表現している。
先ほども述べた通り、音色がとても良く、勢いを感じるソロだ。

・阿呆陀羅経
チョーキングによるロングトーンから、徐々に速くなるのがソロの常套手段である。
それをあえて、入りで一番の盛り上がりを持ってきたソロだ。

あまり長くないソロであるがゆえ、冒頭の勢いのまま一気に駆け抜けるソロとなった。
それほど難しいフレーズではないものの、聴いていて思わずコピーしたくなるような楽しいソロだ。


・まとめ

和嶋氏のギターソロの特徴と、ソロが冴え渡るアルバムを3枚選んでみた。

実際に3枚を選ぶのには大変苦労した
もちろん初期の作品のソロも素晴らしいし、新しい作品にも良いフレーズはたくさんある。

今回選ぶにあたっては、”良いフレーズを超えた何か”があることに注目した。
それは冒頭に述べた、”調子の良い時”に作られたものではないかと思う。

ギターソロはバッキングと異なり、作品の味付けをするものであり、少々の冒険ができると思っている。
その時の閃きをアイデアとして盛り込みやすいため、調子の良し悪しが出やすいのではないだろうか。

マジックのようなことが起こりやすいため、作品ごとに違いが出やすいが、むしろそれを楽しんでアルバムを聴いてみるのも面白いと思う。

和嶋氏のソロの進化はこれからも楽しみである。