戦争を語るブログ

平和を愛し、いさかい好む

2018年06月

ライトホラー「ゼロパレス」1



 その部屋にいたのは、「こんな幽霊が出たらやだなあ」と思うような幽霊だった。
 はじめて見たときに、「こいつはヤバイ」とすくみあがるほど。

 死に装束をまとった女性が闇の中にほの白く浮かび、もの言いたげにじっと見つめる。やがて髪ふり乱しながら、怨みの形相で静かに迫ってくるのだ。
 よく見ればありがちな顔だが、生きてる人間じゃない、幽霊というだけでそうとうに怖い。

 幽霊が出る場所でものすごく寒気を感じるのは、恐怖の感情ばかりからじゃない(いや、それもあるが)、心霊現象自体が化学的に冷気を発散させるからだという。


 ここは、ゼロパレス。
 外景はホテルかマンション、でも普通の宿泊施設じゃない。
 どの階のどの部屋にも幽霊が居ついてる。
 どの部屋にどんな霊が出るかはわからない。
 そして泊まる者は部屋を選べない。
 当たりはずれが大きく、くじ引きみたいなところがある。

 そこがいい。
 自分の引いた籤が小凶なのか大凶なのか、部屋に入り霊と遭遇するまでわからないという特有のゾクゾク気分。
 みんな、それに魅せられている。

 自分の場合だが。
 今夜は堪能できた。
 存分に震えあがらせてもらった。
 霊障が落ち着いたところで、ちょっと一服しようと部屋を出た。

 廊下の階段付近で集まった友人たちと感想を語り合う。
「まいったよ。知らない同士なのに百年来の仇のような目で睨んできやがる」
「俺なんか、あと少しで呪い殺されるところだった」
「しかし。はじめて会うのにどうして、あんなに怨まれるんだろ」
 美人占い師として知られる女性の弁。
「男を怨んで死んだからじゃない? 男はみんな敵なのよ。男の本性なんてこの百年、まったく変わってないわけだから」
「女の本性もだろ(笑)」

 新顔がいた。
「きみの部屋に出るのは、どんなだい?」
「まだ大人にならないうちに病気か何かで死んだ、女の子。おかっぱ頭できれいな和服着て、なかなか怜悧な容姿をしてました。部屋の隅でしくしく静かに泣くんですよ」
「美少女の幽霊か。いいな」
「よくもないです。しょせんオバケですから」
「俺んとこなんか、ふんどし姿のオヤジだぜ。寝てる上にかぶさって、くさい息で耳元に囁きかけてきやがんだ。いやんなっちゃった」
「ワッハッハッハッハハ!!」
 話題は尽きない。

 そんな中ニンマリとも笑わない者がいて、気になった。
 青白い顔。細面ですらりとした体型の若い女性。
 さっきからものも言わずに寄ってきて、みんなの話には加わらず、静かに聞いているだけなのだ。
「きみの部屋はどう?」
 訊かれても彼女、無言だ。
「そこのあなた。女性の方。はじめて見る顔ですが、どちらから?」

 指名された相手はようやく、静かに口を開いた。
「あの……あの……」
 か細い声で、まるで何事かを訴えるような口ぶりだ。
「わ、わたし……こんなところに来るつもりじゃなかったんです。タクシーを呼ぼうと電話だけお借りするつもりだったのに。だって、この付近に人家ってまったくありませんでしょ。おまけに、携帯の電波がどこにも届かなくて。でも管理の人が不在らしくて、電話もなくて……。それで、建物を出ようとしたら玄関にシャッターが下りてて。裏口のドアもロックされてて出れなくて。わたし、どうしようかと……」
 なんだ、迷い人か。成仏しそこなって彷徨い出てきた浮遊霊かと思った。そうだったら面白かったのに。
「それで建物の中を歩き回ってたら。ここにみなさん集まってるので救われた気がしたわけです。助けてもらおうと思ったけど、なんだか言い出しづらくて。聞けばみなさん、とても怖い話をしているし……」

 困ったな。
 このゼロパレスは夜分、決まった時刻になると建物の出入り口が閉ざされるようになっている。
 理由はいくつかあるのだが、今は説明しない。利用者はみんな了承しているし。
 帰りそこねたら朝になるまで出られない。
 そういう人を泊める場所はなくて、建物内のどこかの部屋で過ごさなければならない定めなのだ。
 とはいえ、この建物のどの部屋でも……。
 かならず、幽霊がいる。
 だが、そのほうが身のためなのだ。
 零時を過ぎてなおどこの部屋にも入らずロビーや廊下にいると、もっとヤバイことがおこる。
 消え失せてしまうのだから。
 この女性が誰かの部屋で一泊しなければ、生きて朝を迎えられないだろう。

 なぜなら、午前零時から四時までの時間帯は、デッドタイムだから。
 デッドタイム。
 このゼロパレスでは、起きて部屋の外にいてはならない数時間。
 管理人も消え失せる。呼び出しても出てこない。

(続く)






関連リンク

「ゼロパレス」
(文芸新世紀)
http://www.geocities.jp/ondorion/bungoo/zeropalace.html






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ド短編ギャグ小説「コンダラ太郎」


 若くしてチャンスをつかみ、財を築いた男がいた。
 彼は出身校に恩返しすることにした。
 母校で発足なったばかりのある運動部に、コンダラすなわち地ならしに使うローラーを寄贈してやろう。

 唐突に母校のOBからコンダラなど届けられ、歓喜する部員一同および女子マネージャー。
「うわーーっっ!! すげえ嬉しーーっっ!!」
「よかったわねえ」
 自分たちを応援してくれる強い味方がいたのだ。

 数日後、その卒業生は母校を訪ねる。
「寄贈してあげたコンダラは役立ってるかな」
「先輩〜。俺たち今、すごいミジメっすよ。俺らのクラブ出来立てで専用グラウンドもないのに、コンダラなんか贈られたってどうしようもないじゃないすか」
 ほんとうに何もない運動部だった。
 部員が足りない。顧問がいない。予算が付かない。部室もなく、ユニフォームも作れない。
「こんなこともあろうかと思ってね。あのコンダラの中には秘宝を封じ込めておいたんだ。ローラーを二つに割れば、中から高価な宝石類が出てくるから、それを部費に充てるといい」
 歓喜する部員一同および女子マネージャー。
「よかったわねえ」

 さらに数日後、くだんの卒業生は再び、母校を訪ねる。
 後輩たちの喜ぶ顔が見たかった。
 しかし。
「先輩〜」
 部員たちは困惑顔だった。
「コンダラを真っ二つに割れったって、あんなデカくて、重くて、やたらと固い石の塊、いったいどうやって割ったらいいか見当つかないじゃないすか」
「それは考えなかった」

 数日後、くだんの運動部には強力な粉砕機能をもった削岩機が追加で贈られた。
 さらに、別のコンダラがダメ押しで運び込まれた。

 またしばらくして。
「やあ、勝ってるかい?」
「連戦連敗で、未来に希望がつなげないっす」
 落胆の部員一同および女子マネージャー。
「くやしいわねえ」
 金銭面での援助をうけ運動具も練習場もユニフォームも何もかも揃いながら、肝心なものが欠けていた。
 天分に恵まれた強い選手がいなかった。
「こんなこともあろうかと思ってね。コンダラの中に遺伝子工学が産み出したコンダラ太郎という地上最強の選手になるはずの赤ん坊を仕込んでおいたんだ。あのローラーを真っ二つに割れば、中から、きみたちに勝利をもたらすコンダラ太郎が出てくるはずだよ」
 歓喜する部員一同および女子マネージャー。
「よかったわねえ」

 数日後。
「先輩〜」
「やあ、コンダラ太郎は役に立ってるかい?」
「コンダラの中から、赤ん坊の死体が出てきましたよ。桃太郎じゃあるまいし、あの石の塊のなかに赤ん坊なんか詰めても、死ぬだけだってわからなかったんすか?」
「それは考えなかった」
 あきれ果てた様子の部員たちとマネージャー。
「この先輩、頭の中になんにも入っていないのね」


†             †             †



 それから、しばらくして。
 今度こそ、生きたコンダラ太郎が部員たちのもとに届けられた。
 やがて、この物語の主人公となる赤ん坊だ。
 そう。やがて――。
 立派に育てられた場合の話だったのだが……。

「先輩〜」
「やあ、コンダラ太郎は……」
 部員たちは一斉に、噛み付いてきた。
「赤ん坊成長するのに何年かかると思ってるんすか。俺たちに親代わりになって育てろって言うんすか? あいつ、十五年はたたないと役に立たないじゃないすか」
「それで、コンダラ太郎はどうした?」
「捨ててきましたよ」
「そ、そんな……そんなこともあろうかと思って……」
 何事にも動じなかった男が今度ばかりは、わなわなと身を震わせている。
「普通の人間より早めに成長するよう遺伝子をプログラムしてある。だからたいして苦労はせずに済んだのだ。数ヵ月後には、立派な成人の姿になり選手として活躍できたはずだ。だが……」

「捨てたとなると、由々しい」
 彼の口調はまるで、これから起こる大惨劇のシナリオを読み聞かせるようだった。
「あいつの体の中には休みなくスタミナを発揮できるよう核融合炉が埋め込まれ、さらには優れた運動能力により周囲の喝采を浴びないと生きられないようプログラミングしてある。だからみんなから無視されると、誰からも愛されず称賛もされない場におかれるとだ、内部で原子炉が溶解し核爆発をおこすよう仕組まれているのだ」
 ひえ〜〜〜〜っっ!!



(画像はイメージです)

( おしまい )







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「コンダラ太郎」
(文芸新世紀)
http://www.geocities.jp/ondorion/bungoo/kondarataro.html






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ライトノベル「天国への遠征」4


 そ、それじゃ、それじゃ……キリスト紀元からこのかた、無数の人が天に向かって祈った行為は何だったんだ?

 神様はぼくの心の動揺をたちどころに読み取り、直裁に答えを返してきた。
「それ、それ、それじゃ。勝手に祈って、勝手に絶望する。願いが聞き入れられないと途端に態度を変え、神などいないと毒づき、信仰から離れてしまう。そんな手合いが地上には満ちておる」
 神様はさらに余勢をかり、キリスト教以外の信仰者もことごとく斬って捨てる。
「キリスト教徒にかぎらん。他の宗派でもだ。誰も彼もが、イエスだアラーだクリシュナだと、おのおのが掲げる偶像を奉じておるが。ひとつとして、まことの神と、すなわちわしと通じ合ったものはない」
「世界のどんな教派も、あなたと通じあえない? 仏教もキリスト教もイスラム教もユダヤ教もすべて? どれだけ熱烈に祈っても届かない? それじゃ宗教とか信心って、いったい何のためにあるんですか?」

 ぼくの疑問に、神様はどう答えたか。
 大事な台詞なので二度読んでほしい。
「宗教が何のためにあるかだと?
知らん。
わしは人を造った。しかし宗教は人が造った。そうして人は架空の神を崇めるばかり、実際の神を、このわしを見ておらん。
思うに、宗教は人類には余計なものだ。しかし信じるのをやめれば人でなくなる」
 ぼくにはポカ〜ンとするしかない。

 神様はそんな相手の顔をおもしろそうに眺めながら、一呼吸おく。
「まあ、よい。ここで長話しても何だ。外を歩きながら説いてやる」
「いやです」
 ぼくはきっぱりと拒絶した。
 身に何もつけない神様を相手に、往来で好奇の目にさらされながら宗教論議だなんて。
「では、おまえはよい。外で話せる相手を見つけてくる」
 神様はまたもや、裸のまま出ようとする。
「やめてください」
 またもや押しとどめる。
「おまえは……なんとしてもわしを、この狭い檻の中に縛り付けておきたいようだの」

 ああ、埒があかない。
 いったいなんだって、こんな苦労をさせられる。
 今にして思えば、最初に天使が現れたときから思い至るべきだったんだ。だってあの天使、身に何もつけてなかったもんな、羽根以外のものは。
(いや、天使なら綺麗だし可愛いからそれでいいんだよ。でも神様が丸裸だと困るだろ)
 天界の住人は服なんて着ないのだろうか。裸の恥を隠すという地上人の習性は理解できないのかもしれない……。
 ここにおよんでぼくはようやく、妥当な対案を思いついた。
 困るのは神様が裸だから。
 問題の根幹は神様が外に出ることでなく、外でも裸の姿でいようとするところにあった。

「神様、服を着けてください。なんでもいいから」
 ぼくはクロゼットから適当な衣類をみつくろう。神様の背格好はぼくと同じだから、サイズは合う。デザインは選べないが、神様ならばどんなブランドも着こなせるはず。
 折りたたんだ着衣一式をうやうやしく差し出した。
「そんな布で身を覆えとな。わしは神じゃ。人の前に包み隠すものなど何ものう」

(続く)






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「天国への遠征」
(文芸新世紀)
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ライトノベル「スーパーヒーローはもういらない!」1


 いつからだろう?
 良いことをするなら自分一人じゃなく、大勢を動かしたほうがずっと効果が大きいと気付いたのは。
 みんなで少量の善意を小出しにして悪事を取り囲む。
 そうやって、悪いことする奴(ら)を封じ込めてしまうんだ。誰でも参加させやすいし、一人ひとりの負担も少なく、いざという場合のリスクも小さいもので済む。
 いや、大勢で取り囲まなくてもいい。
 場合によっては、悪事をする者にじかに働きかけ、その行為をやめさせる。
 ただし、これはあまりやりたくない。悪意で心を占められた者を思い通りにするのは複数の善意を動かすのと比べても、おそろしく精神力を消耗することなので。

 スーパーヒーローはもういらない。

 まったく。自分だけで頑張ってる時は馬鹿みたいだった。
 たった一人で悪い行為者、場合によっては複数の行為者に立ち向かい、その程度の圧力では改心する気のない相手からしばしば暴力をともなう拒絶的対応を示され、徒労におわる結果を見た。
 よく、鉄拳の餌食にされたっけ。

 今はだいぶ違う。手に余る仕事は他の者にまかせられる。
 相手がガタイのいい人間ならば、こっちも屈強な体格の者を用意すればよい。
 弁が立つ奴には、もっと頭の切れる人に協力してもらう。相手を論破するんじゃない。周囲から見てこちら側が正しいと納得してもらえればいい。
 適材適所の配置をもって応じるのだ。
 そうやってセクハラでからまれたり、言いがかりをつけられたりして困っている人を救う。
 助けた誰かに感謝されても自分の功績にはならないが、善意が役立ったとの思いは抱ける。まあ自分がじかにした行為じゃないから、お礼をそっくり助力者に持っていかれるのはやむを得ないが。
 それでも、良いことをした後は気持ちがいいものだ。

 おっと。昔のことでもの思いに耽ってるときじゃない。やるべき仕事が出てきた。
 赤ん坊が泣いている。
 場所は朝のJR車内。大勢の人が利用する交通機関だ。
 大げさでなく鼓膜にダメージを与える乳幼児の甲高い泣き声たるや音響兵器の発砲にも等しい暴力行為そのもの。
 なのにこの混雑時、ベビーカーを押し入れるようにして乗り込み乗客数人分のスペースを奪って平気どころか、したり顔でスマホに夢中のあの若い母親ときたら我が子に泣かせるがままじゃないか。

 これを擁護し「赤ん坊は泣くのが仕事」とほざいた馬鹿がいるが、まるで違う。
 赤ん坊の仕事は泣くことじゃない、育つことだ。
 そしてあの母親、我が子を育てる義務をぜんぜん果たしていない。

 赤ん坊の泣き方にも二種類ある。
 まず、空腹なり粗相なりで助けを求めて泣く場合。これは仕方がない。
 もうひとつは、ある程度育った子に多いが、泣けば何でも望みが通ると思い込んだ子が威嚇的に泣き散らかす場合(聞けばわかる)。子供を躾けられない親のだらしなさが発現したものだ。
 こういう場合の赤ん坊の泣き声を気ざわりと感じるのはそのため、つまり親のエゴが子を通してそのまま出ているからで、これを誰もが自我を抑えてやり過ごさねばならない公共の場で聞かされてはたまったもんじゃない。昔の、乳幼児への躾が厳しかった頃にはあり得ない状況なわけで、「赤ん坊だから仕方ない」で片付けたら日本が困るのだ。
 今回の事案まさにしかりで、放っておくわけにいくまい。

 みんな黙ってはいるが、大多数の人が内心でこんな女はさっさと降りろ、消えろと念じているに違いない。それでも文句も言わずにじっと堪えている。日本人の習性だ。
 とうぜん爆発すれば怖い。
 誰かが堪えきれずに怒気をあらわにし、電車の窓からベビーカーとあの母親を放り出したいとの凶暴な衝動を実行にうつす前に何とかしなければ。

 さて。
 だれにまかせよう?
 この車輌の中から、適役を探さないと。
 ぼくの視界は車内のすべての人を含む範囲にまで拡張された。
 あいつはどうだろう。
 ひとつおいた乗降口の付近、端正な姿勢で吊り革をつかんでる、小柄だが筋肉質で真っ正直な性格が顔に出ている若者。
 たぶん適役だ。そうでなくても今は、他にまかせられるのがいない。
 念じよう。
 心に訴えかけるんだ。
 意識を集中して投射すれば、たいていの者は心の扉を開いてくれる。
 さっそく、若者は反応した。

 あれ? 細かい意味が伝わらないぞ、日本語が通じない。
 外国人だったのか。中華系? ヴェトナム? ネパール? まあいいや、心の交わりに言葉はいらない。
 役に立ってくれればいい。

(続く)






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ライトノベル「スーパーヒーローはもういらない!」
(文芸新世紀)
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ライトノベル「天国への遠征」3


 神様の反応は意外なものだった。
「みんなも困る? おまえの言うみんなとは、どういう連中のことだ?」
「それは……お隣のおばさんやお向かいの奥さん、それから通りを歩くお嬢さん……普通に常識をもった人たちです」
「普通に常識があると? その者たちは神の信徒なのか?」
 何をおっしゃる、マイガッド。日本じゃ特定の信仰などもたないのが常識で、へたに一神教にはまったら変わり者扱いされるんです。
 けれども神様に常識は通じないようなので、角が立たぬよう無難に答えるしかない。
「えーと……この国では信仰の自由があるから、中にはあなたの信徒もいるかもしれません」
 とりあえずフォローにはなるだろう。
 ほんと。神様ってどうして、こんな信仰とかけ離れた国にやって来たのかな? だいたいキリスト教の神様なのに、日本なんかに身を隠そうっていうのが……。
 だが。神様ときたら、こちらの思惑や配慮をよそに、かんらかんらと笑いはじめたではないか。嘲りの笑いである。
「信徒だと? わしの信徒? わしを崇める信徒? そんなものはこの地上にはおらん」

 なんたる身も蓋もなさ。
 神様からこう言われたぼくに、呆然となる以外のことができようか。なにしろ神様って奴には嘘がつけない、つまり発した言葉は本当なのだ。
 しかし信じられない。神様に信徒がいない?
「あなたって神様でしょ? 全世界のキリスト教徒二十億の上に君臨なされる存在では?」
「キリスト教会の認識ではそうなっとるがの」
 神様は、「キリスト」「教会」という語句をいかにも馬鹿にした含みをもたせて、口から吐き出すように言う。

「わしの認識は違う。たとえばローマ教皇。あれを地上でのわしの代理人とは一度として認めなどしなかった。カトリックのほうでは神から権威を授けられたと勝手に言い張っておるがな。大昔の王権神授説と同じで、んなわけないんじゃ」
 神様からじかに言われると、説得力がある。実際、誰に口答えできようか。
「ついでに言っとくが。キリスト教式に祈っても、わしには通じんからな。全地上でわしの信徒を自称する連中が教会なる場所に群がり大勢で祈っておるが、いかなる求めや願いも天上まで届いたためしがない。あれは信仰の空回りでしかないものだ」
 え? え? ええっ? そんな〜。

(続く)






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「天国への遠征」
(文芸新世紀)
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ライトノベル「天国への遠征」2


ところで。
ぼくには神様に通じる言葉がわからない。どう話しかけたらいいのか。
しかし向こうは、こちらの思うところをたちどころに理解した。
とにかくそういう反応を示し、心の中で生じる小さな疑問にも即答してくる。
さすが神様だ。これじゃ嘘がつけないや。
丸裸にされた気持ちだった。

丸裸といえば……。
映画や宗教画での神様は、奥ゆかしい長衣を身にまとった姿で描かれるのが常だけど。
ありゃあ、嘘だから。現物とまるで違う。
どこがって?
実際の神様は服をつけてない。すっぽんぽん!
しかも恥らう様子もなく、そのまま外に出ようとする。
すげえや、さすが神様だと感心できるわけもなく、、一心不乱で押しとどめるのが地上人としてのぼくの立場だ。

「神様、そんな格好で出歩かないでください。ぼく困ります」
 あの部屋の若造は裸の神様と一緒に暮らしてるなんて、町中の噂になったらたまらない。
「困るだと? わしはな、おまえひとりの神様ではないのだぞ」
 神様はいかにものたまうといった表情で、ぼくの心に語りかける。
「よいか。困っているのはおまえだけではない。この地上で救いを求める者は、ほかにも大勢おる」

 神様はああ言うが。
 神様の気ままな振る舞いのせいで困った立場に追いやられるのって、考えたらぼくだけじゃないか。ああ! こんなお荷物、引き取りさえしなければ……。
 しかし救いを、利己的な動機のみで求めても神様は取り合わないようだ。
 ぼくは立ち居地をひろげて訴えてみた。
「ですから、そのお姿ではみんなも困ります」
 嘘偽りないことだ。

(続く)






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「天国への遠征」
(文芸新世紀)
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ライトノベル「天国への遠征」1


 ある日、天使が部屋に舞い降りた。助けてほしいと言ってきた。
「天国は地獄に負けました」
 天国が悪魔の軍勢に乗っ取られたのだという。

「なんですって?」
 信じられない思いで、問い返す。
「だって天国でしょ? 悪魔の前に鉄壁ではなかったのですか?」
「天使が腐ると悪魔になるのです。多くの天使が腐っていき、攻撃される前に内側から陥落した状態でした」
 なんだかわからんが、防備の面で重大な手抜かりがあったらしい。

「それでどうするわけです」
「天上のわたしたちは地上に避難しなければなりません。わたしがお願いに来たのはそのためです。状況が好転するまで、ここにあずかって面倒見てほしいのです」
 ぼくはむしろ、歓喜したい気分だった。こんな可愛い天使といっしょに暮らせるなんて、まさに天国が舞い降りてくるようだ。
「受け入れてくださいますね」
「よろこんで」

 ところがである。
 ぼくの家に割り当てられた避難者は――。
 神様その方だった。

「世話になるぞ」
「………………」
一目見て、これじゃ人前に出せないと思った。
神様はそういう姿をしていた。
当分は、家の中でじっとしてもらわねば。神様なら辛抱できるだろう。

(続く)






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(文芸新世紀)
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カナダが大麻を合法化

カナダが大麻(マリファナ)を合法化。今後は、娯楽のため吸っても罪に問われなくなる。
となると。いままで行き渡った「大麻は身を滅ぼす」との広範な認識、大麻の売買が爆弾でも取引するような忌むべき行為とみなされたのは何故なんだろう?








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ずいぶん以前に書いたこと

盛大にネット右翼と喧嘩したせいで平和主義者と見られるようですが、そして実際に平和主義者なわけですが、ぼくという人間がけっこう好戦的な生き物だというのは断っておきましょう。
すくなくとも、エホバの証人やダライ・ラマのように無抵抗主義をつらぬいてるわけじゃありませんから。

それどころか、ぼくほど効果的な言葉の暴力でネット右翼とか2ちゃんねる系のアラシ野郎どもを叩くことのできるブログ主はないかもしれないのです。
「サヨク=平和主義者=無抵抗=好きに荒らせる」と思ってぼくのところにやってきたバカウヨさんはトラウマをこうむったんじゃないですか?(笑)

もちろん、ぼくのような平和主義者ばかりいるわけじゃありません。

ひたすら非戦主義を唱え、流血を忌み嫌い、みずからの内に好戦性や残虐性、被虐性さえもあることを認められない人。
「左翼」って正直者ばかりじゃない、稀にそんな人がいるんです。

暴力性をさらけ出すのはいけないんだという拒絶的な観念で凝り固まってて。もうゴチゴチの平和主義で自我を抑圧しきってる。戦争や虐殺がおこるのは独裁者が強権で命じたり、悪徳資本がたくらんだからで民衆は純然たる被害者、本性は善良なんだと信じきってるような。
彼らにとっては、戦争映画で興奮したり戦争ゲームで遊ぶことさえも罪悪なのかもしれません。

ぼくとしてはむしろ、そうした好戦的な娯楽ツールは、どんな人間の中にもヒトラーのような、チカチーロのような、独裁者や殺戮者が住んでいて、もちろん状況しだいで自分もそうなり得るんだと自覚させることになり、本人と社会のため有用じゃないかと思うんです。
だって、すべての人が心の内に棲むダースベイダーやジェイソンを認め、コントロールできれば、ほんとうに戦争は起こらないし、刃傷沙汰も減らせますから。

不幸なことに、自分の中にではなく、他人の中に悪魔を見出すような人ばかり多いのが現状です。
それこそ、第二次大戦で懲りたはずの世界でなお戦争がなくならない最大の理由かもしれません。






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ルイーズの娘ジュリーがまた可愛い

ところで。ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン女史は、1780年から一女の母でした。
娘の名前はジュリー。
これがまた、可愛い。
とにかく、可愛い。
もう、よけいな説明いらないくらい。ひたすらに可愛い。



七歳頃のジュリー(1787年)





上の絵と同じ頃(1787年)






九歳ぐらいの頃(1789年)
同年、フランスを大革命の嵐が襲い、このあどけない少女は母親とともに祖国から逃れ、以後は欧州各地を転々とすることになる。





12歳ごろ(1792年)






十代半ばの時期(1795年)






19歳ごろ(1799年)





上の絵の拡大図
やはり母親の面影が色濃い。



で、このジュリーさん。
残念ながら成人後は、あまり幸福な人生は送っていません。
20歳の頃、ルイーズの反対を押し切ってロシア男性と一緒になるのですが、けっして満ち足りた結婚生活とはいえず、やがて39歳で病没するという。
美貌に恵まれても男運に恵まれないところは母親譲りだったようです。
(ただしルイーズのほうは87歳まで長生きしましたけどね)






関連リンク

美女の肖像
(当ブログ)
http://blog.livedoor.jp/manfor/archives/52097044.html


「美魔女としてのルイーズ=ヴィジェ」
(当ブログ)
http://blog.livedoor.jp/manfor/archives/52097310.html





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美魔女としてのルイーズ・ヴィジェ



35歳頃(1790年)の自画像



ところで。
ルイーズさんって、ほんとにこんな綺麗な人だったの? との疑問はあるかもしれません。
いえ、不細工な顔でフランス王妃の取り巻きになれるわけないので当然、若かりし頃は人並み以上に整った容姿の持ち主だったはず。

そうなんだけど、この人の場合。
中年以降さらには還暦(!)を越えてからの自画像も、ほっそりとした顔立ちで皺も染みもない、まるで美魔女のようだという。
さながら映画の撮影で往年の大女優のアップの場面、カメラマンが苦労して難点を消し去ったかのようにきれいな顔のままなんですよ、ルイーズさん。
ある時期から自分で自分を描く時やはり手心を加えるようになったのは間違いありません。

今でさえ、女優やモデルの撮影時にはメークや照明を工夫して美貌をいっそう際立たせますよね。ルイーズ・ヴィジェが自画像でそれをやって責められるいわれはないと思うのです。
商業画家は好かれる絵を描いてなんぼのものだし。
また彼女は旦那がクズとしか言いようのない男だったため、絵を売って暮らしを立てねばならない身の上でした。そのうえに比類なき美貌の女流画家として喧伝されてしまい、独り歩きをはじめた名声に沿わぬわけにはいかないという事情もあったのでしょう。

さて。
一体ルイーズは、自己の姿をどう捉え、見る人にどう受け止めてもらいたかったのか。そして、年齢を重ねる自分をどう表現していったか。
30代以降からのルイーズ・ヴィジェの自己イメージの変遷を年代順に追ってみましょう。




31歳頃(1786年)の自画像
一人娘のジュリーと。まるで聖母画のようだけど。
母性愛をよそおったルイーズの百点満点な自己愛ぶりこそ作品の基調。






松島トモ子で〜す♪
じゃなかった――

32歳頃(1787年)の自画像で〜す♪





34歳頃(1789年)の自画像
経年変化は確実にあらわれてると思う。
すなわち、おのれを押し出すことにおいて何の臆面もなくなっている。
自身を美貌と表現するのに自惚れも恥じらいもないその態度、クールなナルシシストぶりを見せつけて動じることがない。






35歳頃(1790年)
作画中のヴィジェ=ルブランを描いたセルフイメージではもっとも有名な一枚だろう。実際、彼女を紹介する記事ではやたら引用されることが多い。また、絵のバージョンによってはずいぶん童顔に見えるので美魔女ぶりを話題にされやすい作品でもある。





40歳から45歳の間(1795年から1800年)の自画像
このへんから無理が目立ってきているような。
ほんとうに、皺もたるみもお肌の汚れもすべて消し去った超美容術を施しておいでで。
あ、頭にかぶってるのはエステ用のじゃなくて、当時のお洒落で流行ったターバンだから。






40代半ば頃(1800年)の自画像
ややリアリズムに目覚めた感じで、第三者視点を意識した描写。
邪推するに、「自画像見てすごい美人と思って来てみたけど。なんだ、実物たいしたことないや」とか批判や失望の声に動かされたのかも。
それでもやはり、顔の不快な要素は慎重に消し去り、見せる人への配慮を忘れていない。




これも45歳頃(1800年)の自画スケッチ
同年、ルイーズの母が死去。さらに一人娘のジュリーが彼女の反対を押し切ってロシアの男と結婚し、こうむったストレスはMAXだったと察せられる。
とにかくルイーズの人生では大きな曲がり角だったらしく、この時期から美貌を売りにした自画像は描かなくなってしまう。






上の絵の翌年(1801年)の自画像
並みの女性ならばとっくに、おばさん化しているところなのに。彼女、たとえおばさんになっても化けたりはしない。
化かすことにはご執心なんだけど。




美貌の信憑性

1802年、ロンドンでの名士を集める晩餐会に招かれたルイーズを評した英国人画家の一文があります。
「40歳ぐらいであろう。顔の表情が豊かで、とても美しい女性だ。」
(『マリー・アントワネットの宮廷画家』(石井美樹子著/河出書房新社刊)より抜粋)

ルイーズはそのとき47歳だから、年齢よりずっと若く見える人だったのは確かでしょう。他の女性とくらべ美しさや魅力をなお保っていたことも裏付けられたわけで。





48歳頃(1803年)の自画像
実は、彼女の自画像で一貫しているのは、自己を美貌に描くことよりも、自己をしっかりした知性ある女性として造型することではなかったかと思う。
そうした狙いがもっともよく達成されてる一枚。






53歳の頃(1808年)の自画像
もう年なのだし、長年ついてまわった「美人画家」の評判から訣別しようとの気負いが見られなくもない。
まあそれでも、けっして醜くは描かないというか描けないところがルイーズらしい。
どう見ても53歳の人の肌じゃないものな。






63歳ぐらい!(1818年)
さすがにもう、なんというか。
すでに自画像じゃなくなってる気がする。若手女優が下手なメークで老女に扮したようにしか見えないっていう。

しかし我々は、おのが老醜をさらしたくない、なお一個の名士として認めてもらおうとする、かつて才能と美貌でならした一人のおばあちゃんの心情をやさしく受け止めるべきだろう。
黒澤明がその晩年、どれだけ駄作を連発しようが、往時の功績に思いをはせ「巨匠」と呼ばねばならぬように(ドヤ声)



ちなみに。
このおばあちゃん、70代になっても誰かの肖像画を描き続けており、あくまでも耄碌(もうろく)とは無縁な人だったようです。
そのうえ80歳近くになって出版した『回顧録』が爆発的な評判を呼ぶという。
今日、同時代の女流画家とくらべヴィジェ=ルブランの知名度がひときわ大きいのも、作者の波乱に満ちた足跡、欧州各地での多彩な人々との交流を記したこの回顧録あってのことかもしれません。

そんなルイーズさんの没年は1842年(享年87歳)でした。
美女にして長命。
アントワネット、プロイセン王妃、エマ・ハミルトン、バイロン卿、娘のジュリー……ルイーズさんの絵のモデルになったのって薄命な方が目立つ気がするけど、描いた本人のこのライフの充実ぶり。






関連リンク

「美女の肖像」
(当ブログ)
http://blog.livedoor.jp/manfor/archives/52097044.html


「ルイーズの娘ジュリーがまた可愛い」
(当ブログ)
http://blog.livedoor.jp/manfor/archives/52097795.html






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