戦争を語るブログ

平和を愛し、いさかい好む

2018年08月

ファンタジー余話//ドラゴンとワイバーン


今日まで、知らなかった。
ワイバーンというドラゴンの亜種があることを。
それで、このワイバーン。ドラゴンとどこで区別されるかっていうと……。


ドラゴン
翼が背中にはえてる。

画像はどちらも、いらすとやさんのフリー素材

ワイバーン
両手と翼が一体化

ほかにワイバーンは、炎を吐かず、ドラゴンとくらべ体格は小柄で知性も劣るとのこと。
ドラゴンがゴジラなら、ワイバーンはアンギラスってところか。






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「ワイバーン」
(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ワイバーン






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ライトノベル「アレが見えるの」三の2


「とにかくクラスのみんなが黒石御影って女の子の言うことを信じてる。だって、現に三人も祟られたんだから。しかも早乙女呪怨という人が専門的な立場から裏付けてみせた」
「なんなの、その早乙女じゅおんって?」
「ネットで知り合った自称霊能者。たぶんインチキだ」
「そりゃそうでしょう。インチキでもなけりゃ自分で霊能者だなんて、恥ずかしくて名乗れないわよ」
 そうなのか、それが大人の世界での常識か。やっぱりネットの中だけじゃわからないんだな。僕の内部で早乙女呪怨の権威は、ラピュータの城のように跡形もなく崩れ落ちた。

「あと、御影石とかいう女の子。何者なの? 同じクラスの男子に幽霊がとり憑いてるなんて、どんな顔して言ったのかしら」
「黒石御影だよ。面と向かって言ったんじゃない。幽霊が大嫌いで、ぼくには寄るのも避けてた。親しい仲間にだけ話してたのが、いつのまにか噂になって広まったんだ」
「虚言癖なの? 頭の変な子?」
「いや」
 僕は我知らず、力をこめて否定した。
「嘘つきでも頭がおかしいわけでもない。彼女の友だちでそんなこと言う子はいない」
「へえ〜。それなりに人望があるんだ」
「もの静かな子だよ。みんなをリードして、べらべらまくし立てるようなタイプじゃない。でも嘘をついたりはしない。だからみんなが真に受けたところもあるのさ」
 お姉さんは、怪訝そうな顔をした。僕の言ったことじゃなく、言い方に対して。
「その子が噂の出所でしょ? あり得ない内容のデマの言いだしっぺ。きみが風評被害で困ってるのはその子のせいなのに、なぜ弁護するようなこと言うわけ? 嘘つきじゃない、なんて」
 ぼくはなぜか、どぎまぎとする思いを味わった。
「べ、弁護なんかしてないよ」
 おねえさんは、僕の戸惑いの理由を見きわめようとするかのように、こちらをじっと覗き込んできた。
「その子って、可愛い子?」
「どうかな、好きなタイプじゃない。まず目立たない子なんだ。この僕の周囲で幽霊が群れてるなんて言い出さなければ意識することもなかった」
「ふーん。つまり彼女、きみに自分を意識してもらいたくて嘘を言いはじめ、ついに目的を達したわけね」
「なんだって?」
 何を言い出す、おねえさん。
 そんなのとぱ違う。御影が僕に惚れてて気を引くために嘘を言いふらしたなんて。絶対にあり得ない。あの子の態度を見ればわかる。今日まで十七年、ダテに生きてきたんじゃないぞ。女の子が自分に恋してるかなんて、僕にだってわかる。あれは、僕なんか眼中にもない反応の仕方だ。御影の関心はあくまでも僕にとり憑いた幽霊ども、それを避けることにだけあるんだから。

 でもおねえさんの欠点としていささか自信過剰なところがあったから、自分の通りいっぺんの人間分析について見立て違いなどとは思いもしなかった。僕のさも意外なこと言われたって驚きようを、真を突いた分析だったので言葉も出ないと思ったようだ。
 僕はいや参りました、おみごとですという返しでつくろい、あらぬ向きに逸れようとする話題を修正した。
 御影のことなんて話したくもなかった。

「それにしても。ずいぶん理不尽な目に遭ってるのにね。きみは何にもしてないわけでしょ」
「そうだよ。自分がしたことじゃないのに、僕が責められてる」
「ほんとにそうね。何にもしなかった」
「まったく。何にもしてないのに」
「そのままでいいと思ってる?」
 変だ。話がどこかかみ合わない。おねえさんが責めてるのはクラスのみんなじゃなくて、僕のほう?
「自分を守るために何もしてないでしょ。きみはただ、降りかかる火の粉から逃げてるだけ。」
 おねえさんは僕の目を覚まそうとするように、目の前で指をカチッと鳴らしてみせた。
「常識を使いなさい。きみに幽霊がとり憑いて祟ってるなんて馬鹿なことあるわけないじゃない。みんなが言うのってオカルトでしょ、オカルト。洒落じゃ済まない、現実にきみがバッシングされてるのよ。不運が連続するのは誰かのせいだという思い込みからくる濡れ衣を着せられて。そのままにしたら、きみが学校で存在できる余地がないじゃない。せっかく頑張って入った高校なのに」
 おねえさんは、宣告するように指を突きつけた。
「いい? みんなにとり憑いた考えこそ悪魔なんだから、守屋護にとっての。全力で排除しなければ。オカルトを排除するか、きみがオカルトから排除されるか、二つにひとつ。なんで祟りも呪いもあり得ないって、みんなが納得するまで説得を試みないの?」
「言ってもどうせ通じないに決まってるから」

 おねえさんはもっともらしく、威勢のよいことを言うが。パンがなければお菓子を食べなさいと言うのとどこか似ていた。現場を知らないんだ。
「もう、そういう空気が出来上がってるんだ。担任の先生はあの件で怪我して入院中だし(もとから頼りにならない人だけど)、誰も僕に味方してくれないよ。僕ひとり何を言おうと、空気の圧力で押し切られちゃうのさ」
「なにが空気の圧力よ」
 おねえさんは俄然、怒気をはらんだ目で凄んでみせた。どうしても呑み込めない文法や数式を僕に叩き込んだ家庭教師の頃を髣髴とさせる。
「空気に権威なんかあるの? きみのはオカルトよりたちが悪い。空気に平伏するなんて。空気なんて汚れたら入れ替えるだけのものでしょ」
 僕は今そこにある空気を読み、おねえさんの忠告に従うことにした。
「そうだよね。おねえさんの言うとおり。空気なんかに負けちゃいけないよね」

 さて。
 その後はまあ、雑談というかたち。今度は僕が、おねえさんから女子大生の私生活にまつわる不満や悩みを聞いてあげる役目を仰せつかった。こっちの相談に乗ってもらった三倍も時間をとられて。
 その間おねえさんは、クラブハウス・サンドと山盛りのフライドポテトを注文し、僕にも勧めた。僕のほうはまるで食欲なくてポテトをつまむ程度だったけど、憂さ晴らしでしゃべりまくるおねえさんは快気炎をあげながらサンドイッチを平らげ、さらにジェラートを追加する。
 なんのかんの言いながらおねえさん、僕と違って満ち足りた人生なんだなあ。


 そんなわけで。愚痴を語り尽くし清々した感じのおねえさんと僕が店を出たのは、もう日が暮れかけた頃だ。
 おねえさん本当は、僕をさらに連れ回し、色々なことをして宵まで過ごしたかったようだけど、相手が高校生なのでさすがに躊躇したらしい。
 躊躇しないでもよかったのに。

 実際、誰もが振り向かずにいられない魅力あふれる女子大生と、お茶を飲んだくらいで行儀良く別れるとは大人の男だったら悔恨の念を抱く場面に違いない。
 喫茶店で同席中も、頭の中のかなりの部分が面と向かったおねえさんの肉体的魅力が引き起こすあらぬ想念を抑えようと懸命だったのは正直に言ったほうがいいかな。
 唇を重ね合わせたい可愛い顔。服からつかみ出したいやわらかい光沢の乳房。そしてしがみつきたくてたまらないぷりぷりした感じの両脚。
 すべて自分のものにしたかったのに、手を握るくらいしかできないなんて。
 家庭教師として同じに勉強を見てもらう間柄だったのに、彼女と性交渉を持つところまでいった別の高校生と、いまだに清い関係のままな僕とではどこに違いがあるのだろう。

 別れ際、おねえさんは僕に降りかかった災いのことでダメ押しをした。
「いい、マモルちゃん? オカルトなんて認めたら、ダメ。きみがオカルトを食うか、オカルトにきみが食われるかになるわよ」
 それから、またの再会を僕と約し合ったおねえさんは、やわらかなオレンジ色の夕陽が降りそそぐ街の雑踏の中に消えていった。
 おねえさんの後ろ姿を見送りながら、僕はこの人にこれまでにない愛おしさを感じた。
 勇気以上のものをもらったような気がした。



 翌日、僕は屈することなく学校に行った。
 そして不幸の連続はまた起きた。


(続く)






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ライトノベル「異世界は衰退しました」4


「沖先生、起きてください。先生!」
 異世界が飛び込んできた。
 唐突にではない。来る時刻は決まっている。
 沖はその声で、朝だと知った。
 しかも、八時過ぎじゃないか。
 愛鈴(アイリン)が来たからにはそうなのだ。
 合鍵は渡してある。そうでないと、まず沖をたたき起こす仕事ができないからだ。
 今朝も彼女はためらいなく、雇い主へのサーヴィスを開始した。
 机上に突っ伏していた沖の身を揺さぶり、耳元で加減なしに叫びたてる。
「先生! 起きないと、ゴキブリ捕まえて背中に入れますよ、先生!」
 これでは起きずばなるまい。
 沖は上体をそり返らせ、両手で虚空をつかむように、大きく伸びをした。

 傍らには、普段着ながらもメイドのようにかしこまった姿勢で、アイリンが控えている。
 見慣れた顔ではあるが、見飽きることがない。
 朝の陽が差し込んだ部屋で光の粒子に包まれながら立ち働くアイリンの若々しさ、そのしなやかな身のこなし、生命力を内奥から発散させる瞳の輝きはいつ見ても新鮮だ。

 アイリンはどこからともなくやって来た娘だ。
 ある日、沖の家を訪ね、愛読者だから弟子にしてもらいたいという。
「お給料はいりません。先生のため尽くしたいんです」
 まるで安っぽい漫画のような関わりの求め方ではある。

 沖は申し出の通りにしてやった。
 いや、給金は払っている(ゴホン!)。
 ただし若干のブラックな雇用主ぶりを発揮、アイリンには昼間だけ通ってもらい、アシスタントの名目で雑用を任せることにした。創作と関わりない、身の回りの世話だ。
 最低賃金の提示にもかかわらず、彼女は喜んで引き受けてくれた。
 しかも、よく働くこと。
 掃除も、洗濯も、買出しも、料理も、そして後片付けまでみごとにこなすのだ。
 おかげて、沖の家は見違えるほど綺麗になった。
 沖自身も見違えるほどでなくとも、前よりはさっぱりした風体になった。

 アイリンは、このうえなく愛らしく、快活で、不平も吐かず、働き者なうえに気が利いた。
 リアリズムを重んじる作家ならば、ここまで美点――男視点での長所――ばかりで成り立った女性など気恥ずかしくて登場させられまい。
 そんな娘が自分のほうから登場したとあっては、受け入れるほかないというものだ。
 彼女はまさしく、異世界からの贈り物なのである。

 ほんとうに、アイリンはどこから来たのだろう?
 容姿はともかく、挙措はまるで日本人離れしている。
 本人は台湾生まれと言ってるし、なるほどそういう雰囲気ではあるが実のところは怪しい。
 もっとも。国際事情にうとい沖に、人の国籍の判別などできない。
 だいたい、彼自身が風采にかまわぬせいか、出生地をよく間違われるのだ。
「日本語お上手ですね」

 まあ、いい。
 ようするにアイリンがどこの生まれだろうと、台湾でも韓国でもフィリピンでもブラジルでも、あるいはヴェトナムやネパールでも、沖はまったく気にしなかった。
 アイリンは変わらず、献身してくれる。
 いまも彼女は、用意した熱いタオルを拡げて、沖の前に差し出す。

 沖は至福の思いで、熱気むんむんのやわらかい布地に顔全体を包み込み、まんべんなく擦り付けると生き返ったようにフウーッと息をついた。
 本心では、アイリンの豊かな胸に顔をうずめ、思う存分その若々しい魅力を満喫したかったが、性格がアレなため、師弟以上の関係となるのに踏み出せずにいるのだ。
 今も、私事に触れるのを避けるように、話題を仕事のことだけに自分から限定してしまう。これでは、いつまでたっても進展しないはずだ。
 手の早い男からは、もったいないと嘆息される状況に違いない。

「どうしても書けなくてね。寝込んじゃったんだ」
「お布団で寝込んでください。風邪ひきますよ」
「風邪ひかなくても寝込みたいんだよ。ラノベなんか書けって言われちゃあ」
「先生がラノベを? あんなにラノベの悪口ばっかり言ってた沖先生が?」
 アイリンは、頓狂(とんきょう)な顔で、目をパチクリさせる。
「よく引き受けたものですね。書かせるほうも書かせるほうだけど」
「ラノベ作家が団体で失踪したらしい。なんでかはわからない。変なものばっかり書いてたから、集団性の精神疾患でも発現したのかな。あっはっは」

「いいことなんですか?」
 アイリンは、他人の不幸を笑う沖を咎める口ぶりながらも、面白がっている。
「とんでもない。おかげでこの沖栄一が、穴埋めで苦労してるってわけさ」
 沖には、ライトノベルの購読層ばかりか、あんなキワモノを珍重する出版業界全体が気に入らなかった。
「まったく、人材の無駄遣いもいいところだ。あいつらときたら、ケーキが出来ないんだからパンを食えばいいのに、子供のようにケーキ台にしがみついて離れない。やるに事欠き、凄腕のパン職人を連れてきてケーキの飾りをさせやがる」

「名言です」
 アイリンはわが意を得たりという顔をした。沖ならこう例えてみせるのではと予感したとおりの言い方だったから。
「先生ってほんと、ライトノベルお嫌いね」
「嫌いどころか、天敵だよ。あんなものツー・ネットとおなじに日本語圏のモラルを蝕むだけ。ラノベが滅びるか日本文化が滅びるかだって、いつも言ってる」

 ツー・ネットとは、悪名高い巨大掲示板。
 頭のいかれた愛国者や差別狂、変質者の群がる巣窟だ。
 規制を求める声には聞く耳なし、運営人は厚顔にも言論の自由を盾にして平常営業、ツー・ネットそのものを敵対意見を圧殺する言論テロ空間に仕立て上げてしまった。
 ネット文化の草創以来、日本社会におよぼした害ははかり知れまい。
 ラノベの批判ばかりする沖が、このツー・ネットのラノベ板でアンチとして晒され、「恥祭り(ちまつり)」と呼ばれる悪罵による集団リンチをこうむったのも一度や二度ではない。
 沖の見るところ、ラノベの隆盛とツー・ネットの台頭とは奇妙に重なり合うところがあって、どちらも現実から逃避したがる層を相手に経営が成り立つところで共通しており、つまるところどちらも、けっして手を組めない相手なのだ。

「でも、名言は慎んで言わないと」
 アイリンは、沖が調子に乗っていると、乗り過ぎないよう訓戒するのが常だった。
「ラノベの愛読者って砂の数ほどいるんでしょ? そんなこと公言したら、恨みを買いますよ」
 なんたるバランス感覚。
 主人に同調し、おだてるだけじゃない。先行きまで気遣ってくれる。

「なんとでも言えだ」
 沖は肩をすくめた。
「ラノベを書く参考に、投稿サイトの「小説家のヤロウ」で上位ランク作に片端から目を通してみた。辟易させられたよ。『異世界に飛ばされ、無双してやった』『中年オヤジだけど良家の令嬢に転生しちゃいましたの』『いっしょにお風呂はいろう、お兄ちゃん』……こんなのばっかりなんだぞ、本当に! マカロニウエスタンや香港空手映画を十本続けて見せられるより酷い気分さ。まったく。文芸市場の先行きには荒廃のほか予見できないってもんだろ」
 実際、そうなのだ。
 沖が口をきわめた言を吐き捨てたくなるのもよくわかる。

 アイリンは屈託のない笑顔で、冗談めかした解決策を提案する。
「先生も割り切って、そういう、思いきり幼稚で変態ぽいのを書いてみたら?」
 なるほど。
 咄嗟(とっさ)にはいい考えだと思う。しかし……。
「平凡な奴が異世界に転生、有力者に見込まれて成り上がり、女にモテまくる話をか?」
 アイリンは罪のない顔でこっくりとうなずくが。
 恥があるなら無理というものだ。現に、徹夜でねばって一行も進まなかった。
 いや彼女にも、沖がそんなもの書くわけないとわかりきっているのかもしれない。
「先生なら、どんなもの書かせても平凡にはならないと思う。ライトノベルの世界に新風を吹き込めるのは、先生しかいません」
「平凡にはならない……もしかしたら、そこが嫌われる理由かもしれない。よく言われるんだ。素直におさめればいいのに、あいつのは余計なひねりが多いって。筋運びでも、台詞でも」
「わたしは先生のそんなところ、大好き」
 アイリンはひたすらフォローしてくれるけど、それで本が売れたら世話がない。彼女のように沖を大好きになってくれる読者が少ないからこそ、ラノベなんぞ書かねばならないのだ。

 沖は甲斐のない問答を打ち切り、シャワーを浴びにいく。
 朝の日課だ。
 熱い湯に全身を打たせながら思いめぐらす。
 しかしアイリンと話すうちに、自分はつくづくライトノベルに不向きな作家なのだと実感できた。やっぱりこんな仕事断って、実入りが悪くとも書きたいものを書くべきなのかな。
 しかし。ここで断ったら、次の仕事はもう入ってこないという予感がしてならない。
 思案のしどころだ。

 とりあえず身体だけでもすっきりさせて戻ってくると、アイリンが朝食の支度を整えてくれている。
 これも日課のようなもの。
「はい、先生。朝ごはん」
 台所に引っ込んでたアイリンが、お盆をかかえてきた。
 献立は何パターンかの日替わりみたいなものだが、今朝は、熱いココアに豆乳がけミューズリー。半熟卵。豆を添えた温野菜とバナナ。
 だいたい、週のこの日の定番だ。

 アイリンが来るまでは栄養管理なんてできなかった。
 以前は、目玉焼きにハムかベーコンをつけた。多いときで六枚くらい焼いたのを、熱いコーヒーで流し込む。
 それを彼女は自殺行為だと呆れてみせ、食生活を改めさせたのだ。
 ベーコンを食べなくなってから体の調子がいい。腹も引っ込んだ。そういえば知人の一人は、カリカリに焦がしたベーコンの常食をやめられずにいたが、あっけなく大腸がんで殺られたっけな。
 アイリンは命の恩人かもしれない。


(続く)






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ライトノベル「アレが見えるの」三の1


 先日の出来事と、黒石御影(くろいし・みかげ)の目にうつる守屋護(もりや・まもる)の幽霊たちへの人気ぶりとが結び付けてとらえられるのに長くかからなかった。
 守屋にとり憑いた悪霊こそ一連の災厄の元凶。
 そう考えれば、すべて説明つけられるんだ。

 かくして先生たちの災難は、僕にあらたに憑依したという何ものか――御影はけっしてそれが何かを明かさない――の仕業にされた。そして、僕が招いた災厄でもあるってことになった。
 そうさ。僕のせいにされたんだ。

 非難する連中に言わせれば、そんな怖ろしいものがとり憑いてるのに学校という公共の場にやって来て周囲に災いを撒き散らすなんて無神経きわまりない行為だから、とうぜん守屋くんにも狭義の責任があるというのだ。
 なるほど。それじゃもう観念して、関係ない人たちにこれ以上の迷惑をかけないよう自分は学校に行かず、家でおとなしくしてるしかないよな……。
いや。
冗談じゃない!

 いったいこの僕が、本当にとり憑いてるかも、存在するかもわからない魔性にだ、学校に来て先生たちを怪我させるよう頼んだり命じたりしたというのか?
 魔性が僕にとり憑いてるなんて、御影が言ってるだけじゃないか。御影のほかに見た人がいるか? みんな、御影が見えると言うのを真に受けてるだけだろ、本当だか確かめもせずに。
 なんで恨みもない学校職員たちの労働災害がたまたま連続しただけで、僕が悪いことにされるんだ。

 道理は通じなくなってた。
 なぜって。「集団は道理より強し」だから。
 クラスの中で、ぼくに味方してくれる者は誰もいない。
 みごとなまでの孤立。
 あれ? 守屋護って、こんなに支持率低かったっけ?
 唖然とするしかない。


†             †             †



 帰途。
 打ちしおれて町を行く僕の前に、突如として救いの神が現れた。
 いや、女神か。
 通りを行き交う人の群れ、見知らぬ顔だらけの雑踏から、聞き覚えある若い女性の声が僕を呼ぶ。
「あら、マモルちゃんじゃない」
 三田のおねえさんだ。

 ダークグレーな雲が重くのしかかる世界の囚われ人だった僕はいきなり、あざやかな赤や白、ピンクの薔薇が咲き乱れる花園に解き放たれたようだった。
 実際、彼女の服装は、ベレー帽、ジャケット、ワンピース、ハンドバッグなどすべて白を基調に、真紅のスカーフや淡いピンクのシューズでアクセントをつけるという、なんだかメルヘン調というか少女趣味なんだけど、でもおねえさんにはよく似合ってる。
 やっぱり女子大生、服装も服に包まれた体も、高校生じゃかなわない華やいだ色香を発散させてた。
 メークが上手で、おとなしい地顔からぜんぜん化粧と思わせずに艶やかさを引き出してる。カラコンで盛ったぱっちりと大きな目も、生まれながらのようだ。誰もが口づけしたくなる唇は厚塗りにならないピンク系の口紅で若いお色気を強調している。
 体型は普通でヒールも上げ底なんだけど、身のこなしが颯爽として、二十代女子の恵まれた経済状態と自由の身を謳歌するような自信たっぷりな歩き方でとても格好よく見えた。
 ようするにおねえさんは、自身を魅力的に引き立てるのが巧みだった。
 お洒落のセンス抜群で、一流ブランドを普段着のように、または普段着を一流ブランドのように着こなせる。とにかく、この人が身につけるとどんな服でもさまになる感じ。おねえさん自身がひとつのブランドみたいな存在だ。
 こういう人に目の前に立たれると、どんな落ち込んでても高揚してくるものがある。

 三田のおねえさんは、アニメの声優のように抑揚のはっきりした、温かくて可愛い声で年下の友人との何週間ぶりかの再会をよろこんだ。
 浮き浮きとした調子で、天然っぽく笑いかける。
「マモルちゃ〜ん、おひさ! また少し大人びた感じね」
「おねえさんもますます綺麗、モデルか女優かと思った」
「うふふ。どう、調子は?」
「うん……絶不調」
「まあ、それはいけませんね。何があったの?」
 おねえさんはいたずらっぽく気遣うように、笑顔を寄せてきた。上品な香水の匂いが鼻腔をくすぐる。
 僕は思いきって、一切を打ち明けることにした。
 僕なんかの話を親身になって聞いてくれ、有効なアドバイスをもらえる相手がこの人のほかにいるだろうか。いや何はどうあれ、温もりがほしい。
「おねえさん、実は折り入って……」
「ふふふ、また誰かを妊娠させちゃった?」
 おねえさんは僕の深刻な様子を察し、無意識のうちに緊張をほぐしたかったのか、即座に冗談で返した。冗談で。そう、冗談だ。信じるなよ。冗談だからな、冗談。まだ誰も妊娠なんてさせたことないぞ。

 おねえさんは中学時代の僕の家庭教師だった。いろんなことを教えてもらった。稲葉高校に合格できたのも彼女のおかげ、苦手と思ってた数学や英語での埋もれた資質を引き出してくれたからだ。
 その頃はよく一緒に遊びに行ったし、アパートにも出かけて手料理をご馳走になったりした。高校に進んだ僕が本格的に春を迎え、同年代の女の子と付き合うようになってからはおねえさんとの仲もそれまで通りのようにいかなくなり頻繁に会うこともなくなったけど、かつての先生と教え子というより年の差はあるけど気の合う若者同士として絆は今でも続いてる。おねえさんに勉強を見てもらった生徒でこんなに親しくしているのは僕だけかもしれない。

 家庭教師としてのおねえさんの評判はけっして芳しくない。
 受け持ちの男子生徒と問題を起こしたり(僕とじゃないぞ)、別の家では教え子の父親のほうと問題を起こしたりで、きわどい話題には事欠かない人なんだけど、男性遍歴の多さで女性を評価しちゃいけないっておねえさんから教わったことだった。
 いい人だ。そういう眼差しで接してれば最善の人物として応じてくれる。

 今もおねえさんは、わざわざ時間を割いて旧交ある年下男子の悩みの相談に乗ってあげるという。いや、どうせ暇だったんだろうとか、気晴らしにちょうどいい相手を見つけたからとか邪推しちゃいけない。僕は腕をつかまれるようにして、少し離れたところにあるおねえさん馴染みの珈琲店に引き込まれた。

 若いカップルが行くような店とちがう。ビジネスマンが商談や会合の場にするような落ち着いた雰囲気の内装とBGM。客層もそれにふさわしい人たちだった。メニューを見たら、コーヒーだけで千円とかそんな値段だ。
 二人分の飲み物を注文してから、おねえさんは話を切り出した。
「ねえ、マモルちゃん。きみらしくもなくしょげ切ってるようだけど。いったい何が、快活明朗だったあの守屋少年をそんなに追い詰めたのかな? おねえさんにわかるように説明してちょうだい」

 僕は学校で続けて起こった事を、適当に端折りながら語り聞かせた。もちろん自分に共感してもらうための話だから、自分のことはかなり同情的に描写した。
 おねえさん、こっちが期待する以上のいたわりに満ちた受け止め方をしてくれると思いきや。
「へーえ。きみって幽霊にとり憑かれてたんだ。まわりに霊が集まってくる、そういう体質だったのか〜」
 あきらかに、おちゃらかしてる。
 そうやって場をやわらげてから、いきなり踏み込んできた。

「でも馬鹿みたい。マモルちゃんの同級生って、みんな高校生なんでしょ、高校生といったら、「遅れてる〜」とか「黙れ、童貞」とか合い言葉にしてる人達だよね。なんで怨霊の祟りとか呪いを疑いもなく信じちゃうわけ?」
 いや、それは……。僕ら高校生って、定説に背くことを真実めかした調子で語られたりすると、たやすく信じてしまう種族だから。おねえさんは十代の頃を忘れてしまったのだろうか。
「いくらなんでも無知蒙昧すぎるでしょ、まるでライトノベルに出てくる迷信深い山奥の村のよう。本当に二十一世紀のニッポンなの? まったく。そんなだから韓国に抜かれるのよ」
 おねえさんは弟分をいたわってその敵を撫で斬りにする勢いで今度は、現代日本の教育問題をまな板に乗せた。あのさ、そこまで戦闘範囲を拡大しないでも。
「そうだよね。韓国に負けるよね。おねえさんの言うとおりだ」
 僕はそうだそうだと同調する口ぶりで、国際的視点にまで舞い上がったおねえさんを飛び立った場所に引き戻す。


(続く)






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ライトノベル「アレが見えるの」の説明(続)


着想したのは、三年前の夏。
(もっと前かもしれないが、記録に残るかぎりの日付では)
わりとすらすら書き進んだが、「その九」まで行ったところで、多くの事情が重なり中断せざるを得なくなってしまった。
以来、他の創作に関心が移ったこともあり、「中断したのだから失敗作なのだろう」と自分で思い込んだまま忘れていたという次第。
それが。
最近になって読み直したら、驚くほどまともな出来との感想をもった。
(いや。人物描写や話の展開はどうでもいい、笑いが豊富でその一点だけでも埋もれさせるのはもったいない。とにかく、これは魅力をもった作品だ、と)

なぜだろう。
小説を読む目は書いた頃より肥えてるから、いっそうつまらなく思えて当然なのに。
理由があるとしたら、アレかもしれない。

ここしばらくラノベなるものを研究しようと、某投稿サイトでの上位ランク作に片端から目を通した。
それで辟易させられ、文芸市場の先行きに荒廃のほか予見できなくなった。
(マカロニウエスタンや香港空手映画を十本続けて見せられた気分だ)
対比的に、自分のものですら(!)読みやすく、個性的で、傑作っぽく感じられたってことか。

自分寄りにうがった見方をするならば。
これまで自作を、在り来たりなものにだけはならないよう気をつけて書いてきた。
その姿勢が、三年後に読み返した自身に対して説得力を発揮したと言えないだろうか。

まあ、いい。
とにかく。
エライくだらないものだから、読んでください。






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ライトノベル「アレが見えるの」二の2


 どうやら、終業時間まで自習するのが僕らの運命のようだった。
 自習といったってまともに勉強なんかやる者はなく、誰もがスマホをいじり(授業中は禁止だが、知ったことか)、この不思議な現象を知り合いにメールしたりTwitterやLINEにも投稿、あわよくば話題をさらおうとする。
 実際、ネットでわがクラスのことは次第に関心を集めつつあった。デロ河童(仲村よし子)なるアカウントでTwitterではわりと人気者らしい伊東など、自分のつぶやきが運営関係の隠れアカに引用されたのを皮切り、またたく間に千を超えるリツィートを重ねたと嬉しそうに見せて回る。しかし、授業中でもネット活動する奴が全国でこんな大勢いるとは驚きだ。

 それは「#呪われた教室」というハッシュタグまで作っての連続ツイートで、朝から続く不幸の頻発を実情より大げさな怪現象として、おもしろおそろしく実況する内容だ。初めのうち真に受ける者は少ない様子で、リプライを見ると、「黙れ、童貞」「昼間っから悪夢うなされてんじゃねぇよ、ボケ」「てめえの顔のほうが怪異だわい」など盛大な出迎えぶりだった(そら、馬鹿にされるわな)。

デロ河童のプロフィールはこうだ






 ところが投稿を重ねるにつれ、疑わない者が増えてくる。
 お節介なユーザーの尺力で学校や人物が特定され、まるっきりネタ話でないと裏付けられたことにもよるが、やはりこんな摩訶不思議な話でも連爆ツイートでの効果は大きいのかもしれない。

 なにしろ伝えるのがデロ河童だけじゃない。
 僕らのクラスはおろか学校中がみんな総出で、稲葉高校の怪異についてツイートする活況だ。「#呪われた教室」はさながら、現場からの絨毯爆撃という観を呈し、トレンドの首位にのし上がった。
 もちろん、Twitterなら僕もやってる。ネタ垢のデロ河童と違って僕の場合、わりとまともなアカウントとして通っており、映画評や時事問題でのつぶやきが大手ブロガーからリツィートされることもしばしばだ。そいつがデロ河童の同級生で、しかも自分もその場にいて一部始終を見た、デロの言うことは本当だと請けあうのだからこれは事実と認めねばと思った人もいたのだろう。
 それなりに裏付けでの貢献を果たしたわけだ。

 かくたる次第で、この教室のことはいまや、全国的な話題となった感がある。
 ネットでもさまざまな反応が飛び交っていた。
 三人の教師がひとつの教室で一時間おきに被災する確率は本来ならあり得ないほど小さいのだという、理工系の大学生の投稿を見た僕らは今更ながら、直面する事態の特異性に昂ぶりを覚えた。
 それにしても、自分たちが現におかれた状況の由々しさについて学校側に伏せられ、外部から得た情報で知らされるというこの理不尽さはどうだろう。
 正直に言うけど、そんな成り行きもまた、僕らをわくわくさせていた。

 親切に、厄払いの仕方を教えてくれるリプライもあった。私が出向いて御祓いしてあげます、というメッセージも受けた。学割の特別料金で請け負ってくれるという。
 テレビ局の公式アカウントからはツィート紹介の依頼でのデロ河童とのやり取りを通じ、学校に取材を申し込んだところ丁重に断られたという内情を明かされ、僕らをどよめかせた。
 もっと派手な話題になればと願う生徒たちと違って、職員側は騒ぎを大きくしたくなかったわけだ。

 しかし、もう手遅れだ。
 「呪われた教室」の実況はどのつぶやきも何千ものリツィートを重ね、日本中をかけめぐり、絶大な反響を巻き起こしつつあった。
 そんなわけで現に起きたことが全国にこれだけ知れわたってるのに、学校側は表向き、稲葉高校に怪異は存在しないという態度を頑として変えない。
 しかも生徒たちを家に帰さず、自習をさせている。
 なんという茶番。なんたる猿芝居。

 この出来事が契機で、通常なら高校生が関わるはずのない人たちとコンタクトを持つことになった。
 ジャーナリスト、評論家、教育者、宗教者、精神科医、大手ブロガー、作家……いちばんの変り種は、早乙女呪怨(さおとめ・じゅおん)というプロの霊能者を自称するアカウントで、僕らのことにかなり興味をそそられたらしく、いろいろとこみ入った質問を投げかけてきた。メシの種にする気なのか。

 はじめのうち、早乙女呪怨の質問にクラス中の者が一斉に応答するものだから混雑状態を呈したが、大人相手では僕がいちばんまともな受け答えができた。しだいに淘汰されるかたちで、呪怨氏との応対はこの守屋護が代表のように受け持つことになる。
 リアルタイムのやり取りをみんなに、Twitterで注視されながら。

 早乙女呪怨は、そこは墓場のあった場所だから怨霊の通り道になっていて霊障が起きるのだ、ともっともらしく由来を説いた。あれ? ここって畑だったはずだし、災難の連続は今日からなんだけど。
 相手は反駁した。そんなはずはない、太古の時代は墓地だった。それを畑に利用していただけだ。今までに、何か兆候が見られただろう? 教室で幽霊が目撃されたり説明のつかない不思議なことが起こらなかったか?

 ここからが転回点だ。
 いや、そんなの起こるはずない。幽霊なんて誰も見ないし。と返そうとした矢先……。
 教室のみんなは一斉に、ある生徒を見やった。もう一人の生徒と交互に見比べ、関連付けるように。
 僕と、それから御影とを。
 どの顔からも、そうだったのか、やっぱり、との思いが見てとれた。
 なるほどな……。こっちまで妙に納得した気分になった。
 守屋には幽霊がつきまとってるという噂がここにおいて、絶大な効果を発揮したようだ。抗弁しても無駄な雰囲気だった。僕は勝手にしやがれという素振りで天井に吐息をついたが、御影はといえば周囲から注がれる視線を避けるように顔をそむけていた。
 自分と守屋護で共犯者みたいに見られるのを嫌がってるのはあきらかだった。


(続く)






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ライトノベル「アレが見えるの」二の1


 教室に入る僕を一目見るなり御影は、いつもの不安そうにこっちをうかがう顔が驚愕の表情に変わり、無駄に身を隠す仕草をみせた。
 いままでと違う。
 いや、これまでも彼女は僕を一瞥するだけで顔を背けたけど。
 今日は、なんだろう。引き方がちょっと違うんだ。昨日の一件があったせいかな。そう納得していつも通り、自分の席に着いた。
 あとで間違った推測だったのがわかる。

 昨日まで御影が僕を避けたのは、幽霊が集団でとり憑いていたから。
 今朝ああいう反応を示したのは、そのとり憑いた群れの中にあるものを認めたからだった。
 いままで見えなかった存在を。

 変な出来事が立て続けに、教室で起こった。
 突風がゴウーッと吹き込み、教卓の花瓶が落ちて割れた。お花の当番で物静かな須田が花瓶の破片を拾おうと窓際にお尻を向ける格好でかがみ込んだとき、突風の第二陣が襲いかかり、スカートが大きくめくれあがって花柄のパンティーが衆目の目にあらわとなった。
 仏頂面の安藤がブッと鼻血を吹いた。
 ちなみに、須田のパンツまる見えと安藤の鼻血に関連性はない。

 そのあとも異常が続いた。
 のろまの山崎が通路で転んだ。のっぽの大和田が出入口に頭をぶつけた。始業ベルで駆け込んできたあわて者の内村が机の角で股間を打った。
(ちなみに内村はここじゃない、隣りのクラスの奴だ。よく教室を間違える)

 やれやれ、朝からドジばかりしやがって。みんな、まだ眠いんだなと思いながら、僕の頭の中は苦手な古典の授業で指名されたらどうするかでいっぱいだった。
 異常事象とは思いもしなかったし、他人の不幸が頻発しようと知ったことか。

 だが災厄が本格的になったのは、授業が始まってからだ。

 一時間目。
 古文の馬場が、例のもったいぶった態度で教壇に上ろうとして足を取られ、ものの見事に転倒する。
 打ち所が悪かったようでしばらく起き上がれずにいたが、やっと立ち直ってか細い声での最初の言葉は、「御免なさい。先生、授業が出来ません」。
 よろよろと出ていくさまが哀れだった。
 自習になった。

 二時間目。
 物理のアボガドロ、いや鹿内があの陰険な顔で、じろーーっとみんなを見渡したあと眼鏡をかけようとして災難に遭った。どういう手元の狂いだろう、眼鏡のテンプルの部分で耳の付け根をゾリッとやってしまったのだ! いつもの仕草なのに。なぜ、今日にかぎって?
 ものすごい血が噴出し、鹿内は顔とシャツを血だらけにして逃げるように教室を出ていった。
 どんなアボガドロの嫌いな者でも同情をさそう場面だった。
 自習になった。

 三時間目。
 今度は何が起こるかと、みんな待ち構えるようになった。
 しかも、あの若い美貌の才媛、町田こまき先生の世界史だ。
 だが。
 来るはずの町田は来なくて、担任の野田が入ってくる。
「えへへへ」
 この先生を語るには三語あれば足りるようだ。
 小柄で小太り、いつもにこやか。

「みなさん。馬場先生と鹿内先生がご不幸に見舞われ、町田先生は職員を代表してお見舞いに行くため授業には出られなくなりました(ほんとうは町田の奴、怖がって来なかったらしい)。どうなるか心配でしょう?」
 ああ、心配だよ。だからさっさと今日の授業は打ち切って帰らせてくれ。みんな、内心ではそう思っていたに違いない。美人の町田の授業が中止ではなんの楽しみもない。
「でも大丈夫。授業はちゃんとやりますからね、えへへへ。代わりにわたしの倫理社会の特別講義となります」

 そのとき、ぜんぜん大丈夫じゃないことが起こった。
 野田の背後の黒板がはずれたのだ。それだけなら不幸ではない。せいぜい取り付け工事の手抜きぶりが責められるだけだ。
 はずれ方に問題があった。黒板は上だけはずれ、下は固定されていたため、お辞儀をする格好で野田の背後から襲いかかった、つまり野田の後頭部を直撃したのである。
 ただ頭にぶつかっただけならたかが黒板だ、「痛いですよね、えへへへ」で済んだかもしれない。だがさすが黒板だ。野田は倒れた黒板に押される格好でそのまま前のめりとなり、教卓を押し倒す格好で教壇から崩れ落ちてしまったのだ。
 つまるところ、生徒の前でお辞儀をしたまま逆すべりに落下して床に頭を強打するざまをさらした。
 脳震盪を起こし、ひくひく痙攣していた。

 騒ぎになった。近隣のクラスからも、ものすごい音に驚いた先生や生徒が駆けつけてきた。
 他の先生らに助け起こされた野田は、介助され頭をさすりながら教室を出ていった。
「えへ……えへへへ……」
 深刻な頭の様子ではないようだが、大事をとって車で病院に運ばれるという。

 僕らは、壊れた黒板とともにそのまま残された。
 自習をするしかなかった。

 そして四時間目。
 始業時間をずいぶん過ぎても誰も来ない。さては教師たち恐れをなして近寄らずにいるのではと憶測するうち、ようやくミスター=ロウが来た。
 ロウはカナダ人で、この高校に招かれて英語を教えている。
 あとでわかったが、あのクラスに入ると理由はわからないが教師は災難に遇うから今日は行くなと言われたのを、不幸な偶然にすぎない、そんなものはオカルトだと、職員のみんなが止めるのを振り切って出てきたらしい。

「コニチワ」
 ロウは、日本人向けにつくった笑顔で挨拶した。西洋人はこうすれば受けると思ってるようだ。
「皆サン、先生タチニ次々ト不運ガ起キタノデ、サゾヤ不安ナ気持チデイルコトデショウ」
 うわ、いかん。外人らしさを出そうと台詞をカタカナにしたら読み苦しさMAX。面倒だから普通の日本語で記す。
「でも挫けてはいけません」

 いや、挫けてなんかない。思ったほどじゃない。むしろ面白がっていた。
 特別の心配性ならともかく、僕らのほとんどは周囲で異常なことがやたら起きるのに興奮を味わってる。とにかく表向きはそう見えたはずだ。
 でもこれをマスコミが取り上げると、一部の心配性にだけ焦点が合わさり、恐ろしい出来事の頻発でみんな脅えてるかのように報道されてしまう。
 今回、思い知ったことだ。

 ところでミスタ=ロウがそれから何をしたかといえば、まず窓際の生徒たちに指示を出した。
「窓を開けて、すべて窓を大きく開けてください」

 そういえば、教室は野外の酸素と光の粒子から密閉されていた。朝から風が強く花瓶が割れて鼻血を出した者がいたので、窓が締めっきりになってたんだ。
 言われたとおり、生徒たちが次々と窓を開け放った。
 果たしてカーテンが一斉に吹き上げられ大きくはためく視覚効果とともに、強い風がドワーーーッと吹き込んでくる。そして新鮮な空気でみんなを満たした。

「グッド!」
 それからミスタ=ロウは腰に手を当て、檄を飛ばす仕草を取った。みんなで気勢を上げ、教室に垂れ込めた悪い運気を吹き飛ばそうというわけだ。

 ミスタ=ロウは拳を振り上げ、叫んだ。
「悪魔なんかいない!」
 みんな、面白がってミスタ=ロウに続き、唱和する。
「悪魔なんかいない!!」

 さらにミスタ=ロウが、叫ぶ。
「幽霊なんかいない!」
 唱和が続き、教室中がどよめいた。
「幽霊なんかいない!!」

 ロウが、声を張り上げる。
「呪いなんか嘘だ!」
 どよめきが轟きわたった。
「呪いなんか嘘だ!!」

「Never give up!」
「ネバー・ギバップ!!」

 檄を飛ばし終えるとロウは、息を切らしながら晴れやかな顔でみんなに同意を求めた。
「さあ、これで清々したでしょう?」
 実際、気分転換になった。みんなは賛同のまなざしをロウに注いだ。
「馬場さん、鹿内さん、野田さんが怪我したのは偶然です。恐れてはいけません。勇気をもって試練に立ち向かい、そして打ち克つのです」
 月並みだがロウが言うと実感のある励ましの言葉を聞きながら、この先生は頼れる兄貴分のようだと感じるようになった。頬を火照らせ崇拝に近い目で見つめる子もいた。次はどんなパフォーマンスをやって盛り立ててくれるか、誰もが期待していた。

「それじゃ、みなさんは自習をしていてください。サヨナラ」
 ミスター=ロウは教室を出て行った。もう戻らなかった。


(続く)






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ライトノベル「アレが見えるの」の説明


三年前の夏に書きはじめ、「その九」まで書いて息切れし、そのままになってたやつです。
捨てるのも惜しいので、もっと手を入れて娯楽度を高められればと思ってます。

――――――――――――――――――――――――――――――――
守屋護(もりや・まもる)は好感度満点を自負する高校生。
同じクラスの黒石御影(くろいし・みかげ)は目立たぬながらも美少女で、それも霊が見えるという特異な能力の持ち主らしい。
彼女から無数の怨霊がとり憑いていると言われたせいで、護くんは「憑依男子」として学校中の評判になってしまう。
折悪しく、クラスであり得ぬ災厄が連続。
「おまえに憑いた悪霊の呪いだ。もう学校に来るな!」
みんなから非難を浴びせられ落ち込む護だが、家庭教師だった女子大生、三田和美の励ましもあって、負けてはならじと意を決する。
いったい、黒石御影には何が見えるのか? 彼女はなぜああなったのか?
御影が家族ともども某カルト宗教に帰依しているのを突き止めた護は、入信したと見せかけて教団に潜入、秘密を探り出そうとする……。
――――――――――――――――――――――――――――――――

というお話なんですが。
ホラーじゃありません。
コメディのつもりです。


(続く)






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ライトノベル「アレが見えるの」一


 幽霊なんて僕に見えるわけない。
 でも幽霊からは僕が見えるという。
 それも大人気、寄ってたかって取り巻いてるんだ。幽霊が見えるあの娘はそう言ってた。
 あいつ、黒石御影(くろいし・みかげ)が。

 転校生じゃないけど、そう紹介されても通じるほどクラスの中で存在感のなかった子。みんなから「霊言(ことだま)娘」とあだ名される、ちょっと毛色が変わってるけど、わりと美形なのでそういうことは大目に見られるタイプの子。
 はっきりと僕に告げたわけじゃない。誰れ彼かまわず言いふらしたわけでもない。少数の友だちに話しただけらしいが、こんな話を聞いたら誰かに話さずにいられなくなる。それで、どんどん広まっていくようだ。
 おかげで僕は「幽霊たちのアイドル」としてクラス中の評判になってしまった。これはもう、風評被害の域だ。ちなみに、御影のほかに幽霊が見えるとか言ってる子は誰もいない。

 その彼女は僕に近寄ろうともしない。いつも遠目で見るだけで、なんだか避けてるみたい。そばに寄れば、離れていってしまう。
 そう、避ける。とにかく、僕を避ける。まるで無意識に、自然体で避けられてる気がする。
 ちくしょうめ! なんで、こんなに避けられるのが気に障るんだろう。好みのタイプでもないのに。

 ある日、ついにたまらなくなって本人に問いただした。
 じかにではなく、ケータイで。御影と仲良くしている園田喜代美(そのだ・きよみ)に連絡を取りもってと頼んだのだ。彼女はずっと親切だった。もっとも僕が頼めば、たいていの女の子は言うことを聞いてくれる。
 園田が御影に電話をかけ、僕と替わった。
 僕は、御影と仲良しの子から一時的に借り受けたピンク色のケータイに向かって勢いよくまくし立てたい欲求を抑えながら、静かに、丁寧に訊いてみた。

「僕が幽霊に取り巻かれてるって言いふらしてるけど、おかげで迷惑してるんだよ」
「迷惑なのは、幽霊にとり憑かれてるから? わたしがそう見えると言ったから?」
「決まってるじゃないか。きみが言いふらしたせいで、みんなが僕を変な目で見るようになったからだろ」
「それだったら、みんなのほうに文句を言うのが筋じゃないかしら」
 むむむ。妙に納得した気になった……なんてことはない。丁重に謝罪を求めてこんな応答されたら、怒るのが筋だろう。
 こいつ、微塵も反省してないぞ。真相はどうあれ、自分の口で他人に災い招いたくせに。

「なんで僕って、そんなに幽霊に評判がいいんだろ」
 御影は電話を通して話せば、そう内気な感じでもなかった。はっきりとした口調で、自分の意見を言う娘だと思った。
「オバケ好きがするタイプなのよ」
「それじゃ特異体質じゃないか。そんなにみんなと違って見える? 自分で言うのもなんだけど、変人とか異常だとか言われたことないからね」
 そうさ。変わってるのは断じて、御影のほうだ。僕なものか。
「それは、あちらのほうで決めることだから」
 彼女は、他人事のように、変えられない規定事項のように、僕が幽霊にとり憑かれる定めだと決め付けていた。
「人間から見てどう見えるかは大事じゃないの。いるのよ。何万人かにひとり、そういう体質の人が」
「ほんとにオバケが見えてるの?」
 思い余って僕は、心の中でわだかまっていたことを口にした。ほんとにヤバイ気配なんか感じない。だいたい、いままで幽霊なんて見たことない。この自分が数多の幽霊にとり憑かれてるなんて、からかってるんだろ。
「今だって、周囲には誰の気配もしないし」
「そうかしら。通話口からにぎやかな声が漏れてくる。とても騒がしい雰囲気よ」
「今、教室でひとりなんだけど」
 廊下で御影の友達が待ってるだけだ。
「そうでしょう。独りでないと、オバケは周囲に群れないの」
 ぞーーっとしたわけではない。あっけらかんと応じるしかない言い草だった。
 御影はさらに突っ込んできた。
「あなた、霊気とかそういうもの感じない?」
「ぜんぜん」
 なんだか、きみといるほうが怖そうだとまでは言うまい。
「やっぱり。そういうものなのよ」
 何が、そういうものだろう。
「でも無害だから心配いらない。幽霊ってそうなの、だいたいにおいて。たまにものすごいタチ悪なのがとり憑く場合もあるけど、たぶん大丈夫。ほら、生きてる人間と同じ。大多数は普通の人で、凶悪犯に出くわすなんて稀でしょ」
 そういうものかなと思った。御影の語ることは説得力ある感じで同調しそうになってくる。
 いや、こんな自分ではいけない。僕は文句の付けどころを切り替えた。
「きみは僕を避けてるようだけど。幽霊が怖いのかい、僕が怖いのかい。どっちなの?」
「あなたを避けてるんじゃない、あなたにとり憑いたオバケたちを避けてるの」
「なんで? ほとんど無害だと言ったよね」
「あたし、幽霊が大っ嫌い。無害とか有害とか関係なしで、ぜんぜん関わり合いたくないの、ほんとに見るのも嫌だから。でも、見えちゃうの。あなたのそばに大勢」
「僕には見えない」
「見えないほうがいいわ」

 話はここまでだった。約束の時間がきて、会話の内容がわからない距離で僕が話す様子をうかがってた御影の友だちが、ケータイ返してと割り込んできたのだ。
 通話は終わった。
 僕はため息をついた。そして、同調を求めるように御影の友だちに訊いてみた。
「そっちにも見えるかい、僕のまわりにいるオバケって?」
「見えない。まったく」
「霊気とか感じる?」
「感じないよ、ぜんぜん」
「それでも、あいつの言うこと信じる?」
「嘘をつく子じゃないから」
 なるほど、そういうことか。友達は嘘吐きじゃない、自分が見えなくてもそれは関係ない。
 園田は声をひそめ、顔を寄せてきた。
「ずーっと見てるとわかるんだって。幽霊たち、他の人たちには目もくれないのに、守屋くんには気が付いて、そばに集まってくるそうよ。守屋くんの存在だけ認知するみたいだって」
 守屋というのは僕の苗字だ。紹介が遅れた。守屋護(もりや・まもる)。一部では名門の誉れ高い、私立稲葉高校二年。学力も体力もまずまずなら、容姿もまずまず、たぶん家柄もまずまず。ついでに言えば、この高校の程度もまずまずさ。
「そう言ってるだけなんだろ」
「そう。あの子はね」
「信じるわけ?」
「嘘を言う子じゃないから」
 堂々めぐりだな、これじゃ。
 あいつが嘘吐きに見えるか見えないかはどうだっていい。幽霊が見えると言った。そのせいで、僕はみんなから異様な存在に見られてる。まさにそれこそが問題だ。
 幽霊に団体でウォッチされてるなんて、確かめる術はない。確かめる必要もない。ただ、そうだと言ってる御影を黙らせればいい。変な噂を広めて済みません、もう言いませんと謝ってもらえばいい。そして風評がこれ以上広がって害をもたらすのを阻止したい。
 それだけだ。

「でもね……」
 園田は言いにくそうにして言葉をつないだ。フォローしたかったのかな。
「あたし、守屋くんだったら、そばに何がいたって気にしないけど」
「そう?」
 僕は挨拶だけして、教室を出た。
 園田はもっと一緒にいたい様子だったが、こっちはそんな気分じゃない。
 御影と仲良くする子はいつも決まっていた。容姿や頭の出来、家庭の事情などどこかしら不幸なところがあり、僕の目には魅力がない子ばかりだった。
 独りになれば幽霊どもが寄ってくるのだろうが、見えない相手といたほうが気が楽だ。

 さて。
 次の日、もっと劇的な事態が降りかかった。


(続く)






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ライト文芸「異世界は衰退しました」3


 仕事を引き受けたあとで、沖は思案した。
 ライトノベル仕様でのファンタジー世界はどう造型したらよいのだろう。

 わからない。
 これまで彼の作中世界は、まがりなりにもリアリズムを基調とする手法により表現されてきた。
 しかし依頼を受けたのは、沖栄一作品ではなく、良野部軽(らのべ・けい)の代筆作だ。
 リアリズムなど入り込んではいけないのである。
 優先すべきものは。
 願望。
 とにかく読み手の願望を充足させる。
 苦労知らずなわけではなかろうに、あまえることに逃げ、本の中での苦労までは御免こうむるという十代読者のだ。
 教訓などたれようものなら嫌われる。訴えたいことは人物の行動というかたちで見せねばならない。
 いや、書き手の主張なんぞはじめからいらないのだ。良野部(らのべ)の小説にかぎっては。
 求められるのは、楽しさや華やかさ、萌えやときめき、スリルと興奮、勝利と栄誉の疑似体験。
 テーマ?
 せいぜい友情とか愛の尊さを称えあげれば十分。かくして感動大作の一丁あがりだ。

 あるいは。
 沖は若い頃にやった洋菓子工場でのバイトの作業を思い合わせた。
 クリームのたっぷり塗られた異世界というケーキ台に、勇者や姫君、魔王や人外といった定番の飾りを見てくれよく配置する。
 その上から魔法や超能力、萌えにやおいといった香料を振りかけて魅力を引き立てる。
 ラノベ書きとはこれではないのか。
 まるで、デコレーションケーキをしつらえていく仕事だ。

 けれども、ここが肝心だが。
 どうわかった気でいても、書かせられるのは沖なのだ。
 彼の立場は、ラノベの読者でもなければ洋菓子ラインの作業員とも違う。
 なによりも彼は、ケーキのような物語をつくり出すのを願望していなかった。
 沖はのっけから筆が進まなくなり、机の前での停滞(On desk delay)に見舞われた。
 中身のないものを書くのがこれほど至難なことだとは。
 良野部(らのべ)の流儀にあわせての創作は自分には越えがたいほどの壁だ。

 沖はしまいには、夢想さえ始めた。
 ああ、いっそ本物のファンタジー世界があってくれたらいい。
 異国の辺境を訪れる気分で実地に足を運び、かの地の風景や人々を前にして取材できたらどんなに楽だろうかと。
 その世界では一から十まですべてのことが、邪魔立てされずに都合よく運ぶに違いない。ラノベの愛読者が望んでいるとおりに。
 そうした場面を模写するだけなら世話がない。
 なにしろ好むと好まざるとに関わらず、目の前の現実だ。
 認めるほかにない。
 そうあってくれたほうが、気が楽というものだ。

 彼なりの願望に浸りながら沖はいつしか、机の上で眠りほうけていた。
 異世界は向こうから、やって来た。


(続く)






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ライト文芸「異世界は衰退しました」2


 さて。
 話を戻すが。
 こういう男に、ファンタジーを書いてくれというわけだ。
 依頼をおこなったのは、ライトノベルの大御所ペディアファクトリーの編集者、川上都貴子(かわかみ・ときこ)である。
 普通のおとなしい女性に見えるし態度も控えめだが、その方面での実権はなかなかのものらしい。
 沖は、素朴な疑問をぶつけてみた。
「いったい何だって、ぼくにファンタジー小説なんかを?」
 こちらの適性は知ってるはずだ。
 相手は、要求を押し付けることなく、まず沖の疑念にあわせた応答をする。
 ごもっともです。実は……。
 川上都貴子は、沖を驚愕させる衝撃の実情を語りはじめた。
 本来なら執筆を依頼すべき売れっ子のラノベ作家が行方知れずになってしまった。
 ひとりではない。何人もが、相次いで。
 いずれも痕跡が残らぬ消え方で、所在が皆目つかめない。
 まさに予期せぬ事態に見舞われたと呼ぶしかない状況で、出版界全体が恐慌をきたしているのだという。

 ラノベ作家が相次いで失踪?
 沖にとっては、小躍りしたくなるほど良いニュースだった。
 けれども。
 それで狂おしくも気障りなラノベブームがすたれ、沖のようにさっぱりした落ち着きあるものを書く作家に出番が回ってくるかといえば。そうはならず逆に、沖のところにまで忌まわしいライトノベルの注文が舞い込むとは落胆するしかないが。
 声を大にして、言いたかった。
 いい加減もう、ラノベ中毒から立ち直れよ、日本人。

 川上都貴子によれば、集団失踪の穴埋めのため日本中の大衆作家に急遽ピンチヒッターを引き受けてくれるよう打診中だという。
 それでか。
 だからってやるに事欠いて、この沖栄一にラノベを書かせようとは。
 ラノベ……。
 題名がだらだら長いばかり、現実逃避に承認欲求とハーレム願望の充足のほか内容もなく、萌え画の挿し絵をつけないと中学生にも読まれない、まさしく最底辺の売り物。
 あれを、自分が……。
 やたら愛らしいキャラ絵を押し出したカバーに「沖栄一」の名が付いた新刊が本屋に並ぶ。思い浮かべると、ぞっとしない。
 何より、みんなの反応が気がかりだ。
「あれほどラノベを貶しまくった、ぼくがだよ。自分でラノベを書いたら、なんて思われるか」

 川上都貴子は、何を案じるという顔である。
「いえ、先生の名前が出ることはないんです。ご心配なく」
 なんだって?
 さらに話を聞いてみれば。
 なんと。
 なんと、この沖栄一名義じゃない、他の作家の代筆の依頼だったのだ。
 俺の書いたものが、あの良野部軽(らのべ・けい)の作品として刊行されるという。
 よりによって、良野部軽(らのべ・けい)の代筆とは。
 あんな、世界観は陳腐、登場人物は無個性、展開はご都合主義、何の葛藤もなしに出来事が勝手に落着したあとでの喝采ばかり求める、まさにラノベを擬人化したようなヘボ作家。
 俺の代筆がつとまるかさえ怪しい奴の本を、俺が代筆させられる。
 なんたる侮辱。
 しかも。
 しかも、だ。印税は、良野部(らのべ)と折半なのだという。
 創作にまったくタッチしない、所在不明のまま代筆されることすら知らずにいる良野部(らのべ)とだ。
 なんたる侮辱。

 これは断らねば。
 理由を見つけるのは簡単だ。
「俺とあいつじゃ文体が違うでしょ。すぐバレちゃうよ」
「それもご心配なく。いかにも良野部(らのべ)さんの文章のように、こちらで修正しておきます」
 うわ、なんたる侮辱。
 仮にも職業作家に向かって。修正を前提に、執筆を頼み込むとは。
 川上都貴子が言うには、良野部(らのべ)はもともと凡庸な書き手で、そのままでは素人臭が強いため、いつも原稿の半分くらいは編集者が手を加えているのだという。
 さらに川上都貴子によれば、良野部軽(らのべ・けい)名義だと沖さんの本より何倍も売れるから、印税が折半としてもけっして悪い商売ではない、むしろ自作を出すより稼げるのではと。
 沖が喜んで引き受けるだろうと疑ってもいない様子だ。
 これ以上にない侮辱!


 しかし。
 沖は結局、侮辱を受け入れた。
 ローンの返済に追われており、多くの金が入用だった。


(続く)






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ライト文芸「異世界は衰退しました」1


 ファンタジーの世界は荒廃していた。
 資源が使い尽くされたのだ。
 勇者も、魔王も、人外も、そして美少女も数が減り、しかも質が落ちていた。
 もともと有限だったそれらのものは、こちらの世界で果てもなく量産されるライトノベルに格好な素材として餌食になり、あまりにも乱獲がきわまったと言ってよい。
 そう、ファンタジーとはけっして無尽蔵なものではない。
 良いものはあらかた、奪い取られてしまった。

 いまや。
 かの地を大いなる退屈と呼ぶには空虚すぎる感情が支配している。
 新しいことはもう何も起こらない……かと思われた。
 だが。
 救いの人は、ファンタジー世界とは別の次元、この現実世界から訪れた。
 いや、訪ねていくことになる。
 今はまだ、そうなるのを夢にも知らず、こちら側にいるが。


†             †             †



「沖先生。ファンタジー小説、書いてくださいよ」
「書けないよ。恥ずかしい」
 いかにも素っ気ない返事だが、心からなる意の表明にほかならない。

 沖栄一(おき・えいいち)は中堅どころの純娯楽作家だ。
 小器用な才の持ち主で、それなり面白いものを書く。
 ロマコメ、喜劇、サスペンス、ホラー、時代劇、SF、ミステリー……。
 自分で挿絵も描くし、物語の場面をイメージしたBGMまで付けられる。
 あり余る才能が存分に使いきれていないと評されるほどの彼だが、まったく適性を発揮できずというジャンルがひとつだけあった。
 ファンタジー。
 これとだけは何としてもそりが合わせられない。

 いや、ファンタジーの古典を読むのは好きだ。
 勇者が出てきて魔王の軍勢を討ち、姫君とその王国を救う。
 こうしたオーソドックスな流れのものならまだいい(あまりに使い古されてはいるが)。
 ところが、現今ラノベ界隈で氾濫する自称ファンタジーたるや。
 挿し絵に顕著な少女性愛、筋肉崇拝、ハーレム、同性愛、獣姦(ケモナーのことですね)、性転換……今流のとち狂った変態趣味――でなくて何であろう――がてんこ盛りである。
 そのうえ教訓や批判など主張を盛り込むのは御法度とされ、読み手の我がままな願望をひたすら充足させるものでなければいけないらしい。
 とにかく。
 ライトノベルで描かれるファンタジーは調子が狂うのである。
 しかも目下のところ、日本でファンタジーと呼ばれるのはそんな類のものばかりなのだ。

 どうして、こうなった?

 思えば。
 彼の学生時代は誰も彼も、ライトノベルという得体の知れないものにはもっと心ある態度で接した。
 教室で読んでると、好餌にされたもんだっけ。
「お〜い、みんな〜! ○○の奴はな〜、高校生にもなって、こんな可愛い絵のついた本読んでんだぜ〜っ!」
 ドドッ! と哄笑がわきおこる。
 あははははっっ!!
 か〜わいい〜♪ 少女まんが〜?

 晒した奴はさらに面白がって、手にしたラノベから一文を読み聞かせる。絶対に受けると信じきった口ぶりで。
「なに、なに〜? 『いやん、王子さま。ミーたん、ほんとは男の子なのよ』だとwww」
 げらげらげらげら!!
 変態〜っ! おっかま〜〜♪

 嘲笑われた持ち主が、晒した奴から本を取り返そうと、真赤になってつかみかかる。
 奪い合いをするうち、晒した奴がおどけて悲鳴をあげた。
「わー! 手が〜! 俺の手が、表紙に出てる女装野郎のケツに触れちゃったよ〜♪」
 まるで毒物でもつかんでしまったような慌てぶりで、ふざけてみせるのだ。
 みんなも便乗して、はやし立てる。
「そいつも今から、変態の仲間だ!」「逃げろ、カマオ菌が感染るぞ!」「寄るな! 来るな! こっちを見るな!」
 えんがちょ〜〜!! えんがちょ〜〜!!

 いや、大変な騒ぎである。
 かくして。馬鹿にされた者は、心の痛手をますます深めていく。
 あの頃、ラノベを読むのがいかに恥ずかしいこととされたか。

 それが、いまや。
 中年のオヤジまでが、血眼になって群がる(沖にはそう思える)。
 出版界でもドル箱扱い、そこそこの売れ行きでもチヤホヤされる有様で、さながらラノベ作家にあらずんば小説家にあらずとの勢いだ。
 情けない。
 仮にも文芸を、少女画の魅力で売ってもらうとは。
 また、そんなキャラ絵を目当てに買いあさる読者がいようとは。

 おまけに、内容。
 内容。
 内容……。
 ラノベに内容なんかあったっけ?
 あんな調子よ過ぎなもの、中学の二年以上に分別のついた大人の作家に書けるもんじゃない。
 いや。獄屋につながれ鞭打たれながら、書けと言われれば書けんこともないが。
 たぶん、書きあがったものを読み返す気もしないに違いない。


 沖栄一はかくたる見解の持ち主であった。
 傍目には、ファンタジー世界の味方になれる存在とはまるで思えない。


(続く)






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「異世界は衰退しました」
(小説家になろう)
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質問【年長者の登場人物をどう描いたらいいのかわかりません】


――質問です。
おっさんとか爺さんとか、年長の登場人物をどう描いたらいいかわかりません。
いえ、剥げ頭とかデカ腹といった見かけじゃなく、精神構造が推し測れないって意味で。
ほんと。あいつらの内面どうなってるのか見当つかないや。
だって自分、年少者なんだもん。


――回答です。
自分もそうでした。
こういうのって実際に年をくわないと、感覚としてわかりませんよね。
いや。
身も蓋もないことを言うようですが、年長者の内実はあなたとまったく変わりません。
もちろん見かけは老けてるし、社会的な立ち居振る舞いなど多くの面で若者と異なりはするでしょう。
でも所詮、それだけのこと。
大人が少年少女から進化もしくは劣化した、別種の生き物ということはぜんぜんないのです。

ぶっちゃけ、大人とは子供が成長したものだと思ったら大間違い。
子供に見られないよう、大人の皮のかぶり方を体得しただけの存在にほかなりません。
(これが出来ないのは、よほどダメな人か奇跡的に真正直な人かのどちらか。いずれも世の中では爪弾きにされるので、みんな、大人に見せられる皮のかぶり方を学ぶのに必死となるのです)

それこそが偽らざるところ。ほとんどの大人は、見栄も、甘えも、我がままも、妬みも、狡さも、悪戯でスケベなところも、ようは内面のほとんどが子供時代とすこしも変わらないと心得てください。
では。なぜ多くの大人が若者の目には汚れた存在に映るかといえば。
若い人が、無意識にも感じる自身の認めたくないマイナス要素を、こんな風にはなりたくない姿をした大人に投影して見てしまうからなんですね〜。
若者が大人社会から見いだす醜さって自分たち自身の本性なのですよ、あなた。
(いかんな。ノーベル賞級の真理を語ってしまった)

しかるわけで。
くれぐれも、大人は若者とは別人種だとか、逆に大人を買いかぶったり大人はこうあるべきとの思い込みによる、一面的な描き方はしませんように。
大人になって読み返せば、きっと恥ずかしくなると思います。


追記。
いや、してもいいですよ。結局のところ、あなたが女の子でないのに上手に女の子を描いたり、外国人でもないのに外国人をそれらしく描けるというなら、年少者の身で年長者を描いたって何ら問題ないはずなので。






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「オンライン文芸創作講座」
(文芸新世紀)
http://www.geocities.jp/ondorion/bungoo/novel-question.html






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すべてのオンライン小説作家に言いたいこと


これは自戒もふくめて言うんだが。
「小説家になろう」での投稿作にざらっと目を通した印象。

ほとんどのオンライン小説には、面白いとかつまらない以前の問題がある。
とにかく、読みにくい。
文章が素人にありがちな、ぎこちないものばかり。すらすら読めるよう書いてくれるのは十人に一人ぐらいという。いや、ほんと。
まずはその十人に一人になることから始めよう。






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ライトノベル「悪童島」13


 モモは敷き詰めた砂利を踏みしめながら、慎重に進んだ。

 果たして、屋敷の内部は凄惨きわまりない様相だった。
 ケダモノたちは仰天してざわめき、お軽は何度も慄きの声を発した。
 敷地の中は死体だらけと言っていい。
 下男も、下女も、警護の者もみんな……。
 彼らの死に様は、逃げても抵抗しても容赦のなかった賊たちの非道ぶりを物語っている。
 しかもこれだけの殺戮、大人数でなければできない。

「偵察が必要だな」
 モモは心の揺れを隠そうとするように、有能な指揮官ぶりを発揮しはじめる。
「よし。まず、キジ。舞い上がって、この屋敷が今どうなってるか、空から俯瞰してこい。犬、猿。この桃太郎は中央を行くから、おまえらは左手と右手に分かれ、敷地の中をぐるりと調べるんだ」
 しかし。
「やだよ〜〜っっ」
 犬と猿とは臆しきって従おうとしない。
「賊の奴ら、まだ居残ってるかも。出くわしちゃったらどうすんの?」
「それにさ、モモ隊長。分散はしない、かたまって戦えって、昼間の出入りのとき言ったじゃん」
「昼と今では事情が違う。敵がどこにいるかわからないから分かれて探索する必要があるんだ」
 モモは、キジまで動かないのをいぶかった。
「キジ、おまえは空飛べるから、何かあってもすぐ逃げてこられるだろ。なぜ行かない?」
「ぼく、昼と今とで事情が違うの。夜だと鳥目で見えないの」
 ええい。役立たずどもめ。

 やむなく彼らは、かたまって地上行動する。
 このうえなく美しかったはずの庭園を慄然たる思いで通り抜けたモモたちは、豪壮な家屋の入り口に達したところで立ち止まった。
 長い渡り廊下が続いている。
 静かだ。
 人の気配がまるでない。
 誰も、誰もいないのか?
 モモは思いきって大声を発し、暗がりに向けて呼びかけた。
「誰か、誰かおらんかーーっ!」
 意外にも、返答はすぐに来た。
「誰もおらんぞ〜」

 え??
 きゃ〜〜っっ!!
 殺された者ばかり見せられたモモたちは、誰もいないと思われた空間に誰かいる、その一事をもって震えあがった。
「ほら……誰もいないってさ」「全滅だよ、全滅。ぜ〜んめつ」「いったん引こうよ、親分。朝になったら出直そう」
「待て、待て。誰もいないなんて、嘘かもしれないだろ」
 うろたえるケダモノたちを制しつつ、モモは、闇の彼方に目を凝らす。果たして、奥のほうでは何物かうごめいている。
 人だ。人が、こちらに向かい、やって来る。烏帽子をつけた公家らしきなりの男が、よろよろとした足取りで闇の中、異様な姿を浮かび上げながら。
 だんだんと、だんだんと近づいてきた。
「おらんぞ……もう誰も……おらん……みんな……みんな殺され……誰も……」
 心乱れているようだ。
 意識朦朧となって目は宙を泳ぎ、顔は血まみれ、装束もまた血だらけ、歩いたあとに血を滴らせ、致命打を負わされながらかろうじて身を支えるという風で。
 モモたちの前までくると事切れて、バタ! と倒れ伏した。
 目をそむけたお軽は、モモの身にしがみつく。

 ケダモノたちが寄ってたかって騒ぎたてた。
「この人なの、小椋大納言?」「そうじゃない。昼間見たのと違う顔」「じゃさ、大納言どこよ?」「盗賊を退治するとか言ってたけど……先手打たれて、盗賊から退治されちゃったんじゃない?」
 ほんとうに、小椋大納言はどうなってしまったのだろう?
 わからない。まるで、わからない。
 そもそもモモは、ミステリー本を売るため造型されたキャラとは違う。
 彼は童話の主人公。身上は、悪者を追い詰めることでなく、悪者を懲らしめることなのだ。

 お軽は、ここにはいたくないが、モモのそばから離れたくないといった風だ。
「ねえ……ここから先に……行く勇気ある?」
「お軽さん。いまさら戻る勇気がありますか?」


(続く)






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「悪童島」
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