今の米軍には、大規模な長期戦は不可能という話


かつてブログ主は、第二次大戦での日本が、米国に短期決戦を挑んで講和に持ち込もうとした愚を指摘し、掲示板への投稿で以下のように書いている。




……アメリカに戦争をやりづらくさせ(つまり可能なかぎり米軍に人的損耗を強いるような世界戦略図をあらしめ)、かくしてアメリカ兵の死傷が膨大な数におよぶという危惧から、米国民が厭戦気分に傾いたならば、日本が余命を保つ見込みはあっただろう。

これはヴェトナムや現代のイラクの場合も同じだが、アメリカに軍を引かせるには、とにかく耐え難いほどの人的損耗をあたえ、国民世論を継戦放棄の方向に追いやる以外にない。
(どの程度の死者数を「耐え難い」と感じるかは時代によって異なるが)

真珠湾で艦隊を失えばアメリカ人は落胆すると期待した山本だが、結局彼には、軍艦にいくら打撃を与えても無意味で、大量のアメリカ兵の命を奪われ、戦争を続ければさらに多くの息子たちが死ぬとの恐怖を抱いたときはじめて、米国民が継戦を耐え難いと感じることがわかっていなかった。




このけっして日本軍にはできなかった戦い方を、いまや原理主義者のイスラム教徒がアメリカに対しておこない、前線を支える後方に対しての赫々たる武勲を示すこととなった。
米国民の半分が、イラク、アフガンでの軍務遂行を耐え難いと感じるまでに追い込まれているのだ。

人命をまったく軽視するタリバンの戦い方の奏功した理由が、米軍自体の人命尊重姿勢にあるとは皮肉きわまることに違いない。

六十年代のヴェトナムですでに顕著だったことだが、米軍があまりにも自分側の人的損耗を惜しむ組織になりすぎたこと、国民の生命と権利を戦場においてすら尊重するという、近代国家の軍隊として誇るべきはずの特質が、軍務の達成を妨げる足枷と化しているからだ。

アメリカ人は卑怯ではないし、喧嘩が強い。
それは今も変わらないが、湾岸戦争のような、ごく短期のうちに大戦力を結集して敵を圧倒し、撃破できる場合にしか国民の大多数は軍人として適さなくなってしまった。

何十人もが死傷したフォートフッド基地での乱射事件。

犯人が「アラブ系」だという一事をもって事件の本質とみなしてはなるまい。
ハサン少佐がシリア生まれだったのは彼をこのような凶行におよばせたきっかけのひとつに過ぎないだろう。

真珠湾攻撃が全米を怒号させたあと、日系米国人は今のアラブ系米国人よりも露骨な差別待遇をこうむりながらも、祖国アメリカ合衆国に対する忠誠は揺らぐことがなかったのだ。

アメリカの国威はそれほど強いものだった。

ところが、先の大戦時にあれほど虐げられた日系米兵によってはけっして起こらなかったことが、米軍基地という場所において、普通以上に教育のあるはずの軍医将校によって引き起こされてしまった。

出来事の核心はここにあるようだ。

米国をチェンジさせ良くすることには熱意を示したアメリカ人の軍に対する忠誠は揺らいでいる。
軍には国民を服従させ、国のため命を捧げるのを強要するのがますます難しくなっている。

しかしアメリカはこうした国民を抱えたまま、アフガンでの戦争を遂行し、勝利に導かねばならないのだ。

それこそ、今回の出来事から垣間見える問題の本質だろう。



軍での銃乱射事件、「いつどこで起きてもおかしくない」
市民団体が警告


【11月8日 AFP】米テキサス(Texas)州の陸軍基地フォートフッド(Fort Hood)で5日、精神科医のニダル・マリク・ハサン(Nidal Malik Hasan)少佐が銃を乱射し、13人が死亡した事件について、市民団体関係者らは、ハサン容疑者が「いつ爆発してもおかしくない時限爆弾」のような状態だったと語った。

 イラクへの従軍を拒否したMatthis Chiroux元軍医は、このような事件について、「いろいろな場所で起きる可能性が十分ある。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した帰還兵ならば同じことをしかねないからだ」と語った。

 イラク、アフガニスタン両戦争に従軍した米兵160万人以上のうち、約20%がPTSDを発症しているという。にもかかわらず、米軍が帰還兵とその家族に適切な治療を提供していないとして、米軍に対する批判が高まっている。

 また、精神科医のハサン容疑者に治療が必要だったことに軍は気づくべきだったとの批判もでている。ハサン容疑者は、ワシントンD.C.(Washington D.C.)のウォルターリード陸軍病院(Walter Reed Army Medical Center)で検査を受け、「悪い状態」との評価を受けていたという。

 退役米兵のアン・ライト(Ann Wright)元陸軍大佐は、AFPに対し、「患者の1人は、精神科医(のハサン容疑者)も自分と同じくらい悪い状態に見えたと述べている」と語った。



(AFPBB News)



 2003年の米軍イラク進攻に抗議して辞任したライト氏は、ハサン容疑者の「精神が崩壊」した理由について、このような推測を語った。「到着したフォートフッドでこれから派遣される若者たちを見て、これまでウォルターリード陸軍病院でみてきた、帰還してきた若者たちの様子と対比してしまったのかもしれない」

 ハサン容疑者はウォルターリード陸軍病院で精神科医として勤務していたが、今年に入ってフォートフッド基地に転属となり、今後はアフガニスタンに派遣される予定だった。

 ハサン容疑者の家族によれば、同容疑者はくり返し除隊を希望していた。また、アフガニスタンで同胞のイスラム教徒と戦うことが嫌だったとも伝えられている。

「Center on Conscience and War」のカウンセリングコーディネーター、ビル・ギャルビン(Bill Galvin)氏は、「最近の軍隊は極度の人手不足のため、海外派遣が不可能などころか、除隊しなければならないような病状を持った人たちまで海外に派遣されている」と語る。

 ギャルビン氏は、良心的兵役拒否者として除隊を希望すれば、医師であるハサン容疑者のような立場の人物の除隊は許可されやすかったものの、ハサン容疑者の場合は軍が学費を支給したため、除隊は難しかっただろうと語った。「軍が、教育や訓練にたくさんの資金をつぎこんだ場合、除隊は難しくなる」という。

 ライト氏によると、米軍入隊者は大学の学費を肩代わりしてもらえるだけでなく、入隊するだけで最大2万ドル(約180万円)を受け取っているという。

 現在は反戦活動家となったChiroux元軍医は、「ある時、イラクに3回派遣された若者と話した」と語った。

「その若者は背中全体に怪我を負っており、まもなく退役するころだった」という。しかし、そこに軍が兵役を延長し、アフガニスタンへの派遣を命じた。

「若者は完全に自我が崩壊したような状態だった。『今から外へ行ってみんな撃ち殺してやる』と言っていた」

 現役米軍兵士で、「戦争に反対するイラク退役軍人(Iraq Veterans Against the War)」に活動家として参加するセレナ・コッパ(Selena Coppa)氏は、「(軍は)メンタルヘルスを非常に重要な優先事項として考えるべきだ」と語った。(c)AFP/Karin Zeitvogel


(AFPBB News/2009年11月08日)
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2661233/4870459




関連リンク

アフガン増派に反対は56%、軍事作戦反対58% 世論調査
(CNN.co.jp)
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200911110026.html




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