『パッチギ』を撮った井筒和幸が映画『永遠のゼロ』を「観たことを記憶ゼロにしたい」とボロ糞に貶したところ、原作者の百田尚樹が「そのまま記憶をゼロにして、何も喋るなよ」と返したということで。
失礼な話だと思う。
井筒監督は映画を見たとおりに評価しただけなのだから、出来が悪いと言われて不快ぶるなら映画化などさせなければよいのである。

井筒監督といえば何年か前、石原慎太郎が製作したこれも特攻隊の映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』をボロ糞に貶してたっけ。この時は、「見もせずに貶してる」と言い返されたわけで。『永遠のゼロ』の場合ちゃんと見てから貶したのだから、そこは評価すべきだと思う。

ちなみに石原慎太郎版の特攻隊映画は興行的に大コケだった。特攻隊を描いた映画だから『永遠のゼロ』がヒットしたわけではないということになる。







ところで。
特攻隊の生き残り老人が「神風」を自爆テロだと言われ、「自爆テロと一緒にすな。非戦闘員を標的にしなかった」と憤激したという逸話を読んだ(本当の話かどうかはわからない)。
何が何でも日本の特攻隊員の名誉を守ろうという意気込みに満ちた、もっともらしい屁理屈ではある。

しかし一体、どんな理由から憤激するのか?

そもそも、「非戦闘員を標的にしなかった」という日本軍の特攻戦術とは何だったのか? それこそ非戦闘員と変わらぬ年令の若者たちに、爆弾抱えた飛行機を操縦させ標的に突っ込ませる行為だったはずだ。






それ以前に――。



この当然の疑問がなおざりにされている気がする。
逆に言えば、なぜ日本の特攻兵は今日の自爆テロと同じ真似をしなければならなかったのか?

阿川弘之によれば神風突撃が採用されたのは、通常爆撃だと投下弾の命中率が低い割に撃墜される率は高い。それだったらいっそ体当たりさせてしまえ、そのほうが命中率も上がるはずだという「海軍流の合理主義」によるものらしいが、当時の海軍の精神状態がよくわかる言い訳ではないか。

神風特攻隊とはいわば、国民を「人間爆弾」として敵に投げつける大日本帝国による「国家テロ」だったのである。この根本的な事実を理解すれば、怒りをぶつける相手は明快となる。
くだんの老人が実在するとしたら、そして男としての矜持が残っているならば、自分たちの命をそのように扱った大日本帝国という国体に向かって抗議すべきではないだろうか。

散文的に述べれば、国家は国民生活のための道具にすぎないのであり、国民が国家の道具として扱われた時代を、どんなかたちであれ美化してはならないと思う。





(AFP/NEWSTEAM)

2010年、何十人もを巻き添えにしたモスクワ地下鉄自爆テロの実行犯は、17歳の少女だった。
一緒に写っているのは夫であり、その前年に死亡したイスラム武装勢力の戦闘員。
未亡人になった彼女は彼の仇を討とうと自爆テロに志願した。





「ゼロリスト」という言葉をいま、思い付いた。

実際は、人命を軽視し相手方に恐怖をあたえるテロ攻撃そのものだった神風攻撃による日本側犠牲者を、テロリストとおなじに扱われるのを断固として許さないという人たちをさす言葉。
神風特攻隊を自爆テロとは異なる、なにか神聖なものとして差別化せずにいられない人たちのことだ。

国のために命をなげだす行為は、当時は尊い行為と思われた。
今でさえ最高のモラルに属する行為として讃えられもする。
(ハリウッド映画では、「命を粗末にする馬鹿者め」で片付けられる場合が多いが)

あきらかに日本のカミカゼの影響を受け、世界各地でおこなわれる自爆テロを、神風を誇りに思うのとは裏腹で「特攻とは別物」と忌むべきもののように遠ざけ、自爆犯が志願する動機を「狂信」で片付けようとするネット右翼の、特攻隊員だけを特別視しようとする態度。
そこには他の場面でも見せる彼らネット右翼の下劣をきわめた人間としてのあさましさの極限を超え、おぞましさすら感じさせるのである。

さて、余談だ。
祖国を守ろうと命を捨てた日本の特攻隊員は現在でも世界中からその勇気を称揚されているという。
ぼくではない、ネット右翼が言うことだ。
フィリピン軍の高官が日本のカミカゼ攻撃を称賛したという話まであるそうだ。
ネット右翼はそう言っている。

百歩譲って、それが実話だったとして。
ではフィリピン軍が日本軍をみならい、自軍の将兵に爆弾抱えた死を命じるかといえば、そんな真似したら反乱が起こるに違いない。
フィリピン軍の神風礼賛は、日本の援助を取り付けようと話を合わせるための「おもてなし」だったというのが本当のところだろう。
日本から来た右翼系の賓客に対し、「あいつらにはああ言えば悦ぶ」式に表される外交辞令と本音とは違うということだ。

最後に。
「カミカゼを自爆テロに例えるとはテロリストへの冒涜だ。自爆テロは迫害や圧制への命懸けの抵抗だが、日本軍の特攻は侵略国の悪あがきに過ぎなかった」という見方もあるのだと付け足しておこう。
非常にうがっている。




関連リンク

自爆テロと特攻・真珠湾攻撃
(鳥飼行博研究室)
http://www.geocities.jp/torikai007/war/terror.html

「自爆テロやると地獄に堕ちる」
(当ブログ過去記事)
http://blog.livedoor.jp/manfor/archives/51452730.html





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