周知のように。ひさしい前から安倍晋三が、支離滅裂なことを言い出している。
「朝日新聞が吉田証言を報道したせいで慰安婦問題で非難されることになり、日本の名誉が損なわれ、多くの人が苦しんだ」
まったく。どの口で言うのだろう。

慰安婦制度のことが問題化したのは、一に、戦時中の日本軍に慰安婦制度があったからだ。
奴隷制度や人身売買、女子割礼などとおなじに、それはいつか問題となるはずのものだった。
世界は歴史の上での大日本帝国とその軍隊を非難しており、現在の平和国家日本を責めているわけではない。それなのにわが国が女性の敵のように見られるとすれば、安倍政権が理解不能な思い入れをもって過去の日本軍の名誉を守るのに固執するからではないか。
慰安婦問題の経過を知ればわかる通り、安倍の言葉はまったく時系列を無視したものだし、自分こそ問題を世界的規模に拡大、炎上させた張本人である事実を棚に上げた言い草にほかならない。




海外メディアの反応を見ても、日本の新聞の誤報訂正の件ではまるで無関心なのだが、誤報記事を理由に朝日新聞を親の仇のように吊し上げる日本の首相の異常ぶりにはしだいに関心を寄せはじめている。
日本政府は慰安婦関係の資料の公表は控えるのに、首相の精神状態が発現するのははばからないのだろうか。

それはともかく。

怪しげな資料を紹介したせいで世間を騒がせたというなら、あきらかに祥伝社のドル箱「ノストラダムスの大予言」を解説したシリーズのほうが社会にあたえた被害は大きかったに違いない。
祥伝社といえば最近も、ぼけたような英人ジャーナリストを引っ張りだしての大東亜戦争肯定本をでっちあげたりで、反省の色まるでなしというわけだが。

1970年代。16世紀の占星術師の著作をもとに「今世紀末に人類は滅亡する」と解釈された本が出版されるや、たちまち社会現象を巻き起こし、増刷を重ねた。
『ノストラダムスの大予言』という祥伝社の新書本である。
「予言の的中率は百パーセント」との喧伝によって、巷は騒然となり、実際に一部の人は本の内容を真に受けてしまうほどだった。まさにこの本のせいで、多くの日本人が慄き、苦しんだと言えないだろうか。




東宝によって映画化された『ノストラダムスの大予言』(1974)の一場面




だが結局、2014年になっても世界は存続している。
だから。現在のわが国を見舞っている救いがたい国粋主義の台頭についてももう少し楽観的な見通しを述べていいのかもしれない。

つまり、だ。
いかに「大東亜戦争は正義の戦争だった」などという歴史学も国際政治も、一億人の実体験すら無視したオカルト話が国内の人々を蝕んだにせよ、海外の人々にまで受け入れられることは絶対にないし、日本ですら一過性で終わるだけで後代に根付くようなことはあるまい。
「お父さんたら、あんな馬鹿なこと信じてたんだ〜」
「お、俺は信じなかったぞ。あんなもんデタラメだって、み、見抜いてた」

「ノストラダムスの大予言」のとき祥伝社は、人心を恐慌に陥れるような本で儲けているのを非難され、「このままでは世界はこうなるよ、と社会に警鐘を鳴らすため」と言い訳した。
なるほど、1999年に人類が滅ぶと煽ったことではそういう道理も成り立つかもしれない。そもそも本が話題になった70年代の頃では、1999年なんて一世代も先の話だ。
そんな未来のことまで心配できるかよ、というのが版元の本音だったろう。

ただ今回の大東亜戦争肯定本については、右傾化の津波に便乗しネオファシズムの片棒担ぎをしているだけで、「社会への警鐘」などという大義は間違っても持ち出せまいが。
どんな大波もいずれ引いていくものだ。津波というのは、あってはならない場所に水が押し寄せた状態なのだから。やがて日本が理性を取り戻し、国粋主義者が政界やメディアから駆逐された時に祥伝社はどう申し開きするのだろう。





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