「なぜアメリカは対日戦争を仕掛けたか」
(加瀬英明/ヘンリー・ストークス/藤田裕行)

祥伝社新書。図書館で借りて、読む。
内容的には真新しくもない。例の通りの人々が例の通りに虚構の歴史を弁じまくるという。インターネットに溢れる大日本愛国教の神話を活字にしただけのような記述が延々と続く。

アメリカがいかに悪辣で、日本がいかにアジアと世界の希望だったか、すなわち靖国主義の立場からあの戦争を二部に分けて語る構成だ。
第一部での加瀬英明、第二部での「翻訳」担当の藤田裕行による浅はかで臆面もない対米戦争正当化の主張はいずれも、正読に堪えぬ酷さと言っていい。

しかし今回、これにヘンリー・ストークスという「親日家」の英国人を加え、外側から日本の立場を擁護させることで異彩を放ったものに仕立てた気でいる。
ストークスがらみの本ではより近刊の『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』にも目を通すべきかもしれないが、出版社と邦訳者がおなじでどうせ同じことが書いてあるだろうし、とりあえずこちらの本を読んだ感想だけから判じても間違った結論にはなるまい。

加瀬英明による第一部は、ネット右翼からさんざん聞かされた与太話の羅列である。
勘違いぶりをいちいち指摘したらきりがなくなり本題から逸れるので、ひとつだけ挙げるが。
加瀬は、日中戦争下に米軍人の義勇兵で編成された中国軍の航空部隊フライングタイガーがまやかしであり国際法違反だと言い立てる。
だが当時、中国に押し入った日本が国際社会の非難も無視し中国人の上に爆弾の雨を降らせていたこと、フライングタイガーによる日本爆撃はまさにその抑止策として企てられたことはまるで意に介さないようだ。
こんな言いがかりで「アメリカのほうが先に攻撃する気でいた」と開き直り、真珠湾の不意討ちを反古にできると思うのは、世界でもこれら日本の特定層しかおるまい。






さて。第二部だが。
表向き、英国に生まれ日本に馴染んだ外国特派員として長老的存在であるヘンリー・ストークスという人物の著述を、藤田裕行という者が「訳」したかたちになっている。

しかしストークス氏の真意が、この低次元でネット右翼そのままの思い込みで成り立った本にどれほど反映されているかはまるで断じようがない。一読したかぎりでは、「翻訳」担当の藤田裕行が外国人の名前だけ借り受けて自己の歴史認識を押し通したものとしか思えないからだ。

アメリカの拡張主義の強引さを論じた部分はそれなりに妥当かもしれない。
とはいえストークスという英国人が、いくらアメリカ帝国主義を批判したくてたまらなくても、なにも加瀬、藤田といった明白に右翼思想の日本人と組むことはないし、まして日本帝国主義を擁護するかたちで対米批判を展開しないでもと思うのだが。

だいたいストークス氏の著述は内容の信憑性以前に、本人が書いたかという件でまず疑わしい。対談の書き起こしに関わった女性の証言、無断加筆問題での祥伝社への共同通信の反論「取材の録音がある」など、本人の見解と藤田裕行が「翻訳」したものとで歴史観が食い違っているのは公然の秘密と言っていい。

それは普通に常識をもった外国人による軍国時代の日本への評価を当てはめれば誰にでもわかることだ。ストークス氏のものとされる見解には、本当に欧米人が言ったとして受け取るにはあまりにも違和感がありすぎる。

実際、第二部でストークス氏言うところの「(日本がアメリカと戦い、国土がすべて灰燼に帰した)その結果として有色人種がはじめて大いなる希望の燭光によって照らされ、人種平等の理想が実現した」は、第一部での加瀬英明による「日本が先の大戦で大きな犠牲を払って、幕末から夢見てきた人種平等の理想の世界を、招き寄せたのだった」とまったく変わらない。

ようするに。日本が東亜解放を謳い上げ、白人支配を打ち破ろうと多くの日本人が血を流したおかげでアジア諸国は独立できたばかりか、全地上の有色人種が目覚め、差別のない世界が到来した。
これこそ、嘘と事実の曲解を並べ立てた本書がもっていこうとする、おめでたい結論なのである。


冗談ではない!

アジアやアフリカで多くの国が独立を遂げたのは、それぞれの地で無数の人々が、西欧諸国やアメリカによる支配、そして日本の占領に対し、果敢で粘り強い闘争を続けた成果に他ならない。

今日、白人以外の外国人にはけっして快適とはいえない日本の現実の中で暮らすアジア人やアフリカ人の滞在者は少なくないが、彼らのうち日露戦争以来の日本の帝国主義政策のせいで世界に人種平等がもたらされたなどとは誰一人として真に受けるまい。
2ちゃんねるも在特会も野放し、国内にさえ差別思潮を蔓延させながら、日本の功績で世界から差別が撤廃されたなどとは子供にでも見抜ける戯言だ。

ストークス氏が外国人中の特異例だとしても、なぜかくも海外一般での視点と隔たりがあるのだろう?

ぶっちゃけ、右翼側がストークス氏の私生活でなにか弱みを握ったか、あるいはパーキンソン病を患ったストークス氏が加瀬、藤田の腹話術人形同然になっているのではと疑いを抱きたくなってくる。
確証がないためそうと断定できないもどかしさはあるが、他に考えようがないのだ。

それでもストークス氏の見解が外国人の平均的見解ではないし、ストークス氏に賛同する外国人もかぎりなく少ないとだけははっきり言わねばなるまい。
もしあれらの、「藤田裕行によって訳出されたヘンリー・ストークスの見解」が在留外国人を代表する認識だと思うなら、世界の目というものをみくびるにも程があるだろう。

もっとも祥伝社としては、外国人に読ませるため出した本ではないので、その方面から責められるのは不本意かもしれないが。

しかしこれは、ネット右翼流の嘘を満載した突っ込みどころに欠かない代物である。そういう意味で、心ある人が特定右翼集団のペテンに騙されないよう鍛錬する練習帳として役に立つかもしれない。
あるいは。妄想を史実と言い通し、神経を疑われても平然とする術を学びたければ、この本を読むべきだろう。



それにしても。
こんな大日本への自画自賛を外人に語らせて悦に入る愛国ポルノ本などより、英国のジャック・ストロー法相が極右政党の党首に言い放った「イギリスが戦争に勝てたのは、世界中で何百万もの黒人やアジア人が味方してくれたからだ」という言葉のほうがよほど謙虚で誠意がこもっているし、ずっと多くの人々に感銘をあたえると思うのだが。
日本のバカウヨどもにはまったく時代と人の心が読めていない。




イギリスの世界制覇も終わりを告げるだろうことを、あまり心にかけすぎてはいけない。我々はある期間にわたって制覇し、まずいやり方をした。我々はいくらかは立派で自由主義的なことをしたのだが、我々の指導権を正当化するほどに充分になさなかった。


H.G.ウエルズ(『世界史概観』1946年)



侵略者が恩人になってくれることがありうると思い込むのは、愚かなことです。日本は、インドを英国のくびきから自由にしてくれるかもしれません。
しかし、代わりに日本のくびきを負わせるだけのことです。


マハトマ・ガンディーの言葉
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