中国で南京事件の追悼式典。
今年は、南京事件資料のユネスコ記憶遺産登録があったにもかかわらず前年より地味におこなわれ、さらに日本に気を使ったのか、習近平以下最高指導部は出席を見合わせたという。

一方。
「南京」で検索すると、「否定派」の冒涜発言ばかり出てくるのがインターネットの日本語圏だ。
なんにせよ、まず死者に敬意を表すのが人の道だと思うが、日本のネット右翼にそういう心ある反応をまったく期待できないところが凄い。
ある者は「30万も殺されなかった」と憤り、別の者は「虐殺はまったくなかった」とまでうそぶく。
加害側の子孫が被害国に対して、本気で怒っているのだ。
(人間として、どこかずれてる)
しかし真相はどうあれ、戦闘はおこなわれたし、甚大な数の犠牲者が出た。
すべて、日本軍が南京まで攻め込まなければ失われずに済んだはずの命ではないか。

1937年の日本の対中戦争は、普通の国が国際法に定まった手順をもって始めたものではない。
盧溝橋事件以来、日本政府は宣戦布告すらせずに大陸への大がかりな増派を続けていた。
そうするうち日本軍の大部隊が、守備すべき上海租界の領界を超えて中国領土へとなだれ込む。彼らは退却する中国軍を追って、敵方の首都南京にまで攻めのぼった。
11月、つまり南京攻防戦が始まる前の時点で、九ヵ国条約会議はこれを国際法違反として非難していた。
(まあ九か国会議の判断を待つまでもなく、普通の目で見たって、これは侵略だが。そもそも松井大将麾下の部隊がしたことはまったくの独断専行で、軍中央の許可さえ得ていないのだ)

現地軍に侵略の意図があったかはどうでもいい。
行為自体が侵略なのである。
南京で虐殺が起ころうが起こるまいが、すでに日本軍が南京にいたこと自体が重篤な国際法侵犯以外のなにものでもないという状況だ。

そのうえに、日本軍は虐殺までおこなった。城内でも城外でも、略奪や強姦が横行した。
これらは、日本側の記録や証言だけで明らかとなっており、今更このブログで記す必要もない。
すべて中国側の捏造だと躍起になって旧軍の無実を言い張るのは、腐った差別根性を隠しもせぬ日本の国粋ネッター達と見返りが目当ての不良外人という、判で押したような面々ばかり。今後とも、世界から隔絶した彼らの特異な史観が受け入れられる見込みはまるでない。


ところで。
大虐殺否認派の唱和する「なかった、なかった」大音頭を聞いてると、ついには疑いの気持ちが生じてきてしまう。
彼らの、まるで日本と中国の間に南京事件しか存在せず、それさえ否定できれば日本の罪はすべて帳消しになるかのような言いっぷり。もしかして、ほかに歴史を知らんのじゃないだろうかという疑惑だ。
これは怖い。
しかしそう考えれば、ネット右翼のあの救いがたい無茶苦茶ぶりも納得がいく。
本当にそうなのかもしれない。

ふざけんな、南京事件以外にも知ってるぞ。通州事件があるだろ!」とか言われそうだ。
そう、それを待ってた。
通州事件。

関東大震災での朝鮮人殺戮やシベリア出兵でのニコライエフスク事件と比べれば犠牲者数は小さいが、日本の極右勢力が狂おしい執念で宣伝に精出したせいで、ほとんど「分不相応」という言葉を当てはめたくなるほど、実態以上の大惨事として鳴り響いてしまった。
1937年におきた中国大陸の一地方都市での暴動だ。
ネット右翼はこれを、「封印された歴史の闇を、俺らは知ってる」とばかり得々と語るが。実際のところ1960年代には左派系の作家の筆で雑誌の連載小説中に描かれており、大多数のネット右翼が生まれる前の平和な日本で、多くの人から普通に知られていた。
http://www.geocities.jp/ondorion/now/mougen.html#35

問題の肝は、この通州が中国のどこにあったかということ。
いかなる経緯で、通州を首都とする冀東防共自治政府は成立したか?
そこで日本の関東軍が何をしたか?
そしてなぜ大勢の日本人が通州のような小さな町に集まったか?





これら芥子の実からとれる化合物が阿片となり通州から中国全土に売りさばかれ
(関東軍にとって大きな収入源だった)、どれだけの中国人の人生が破綻したことだろう。
だが阿片の商いはおそろしく実入りが良く、一攫千金を狙う者が通州の地に群がった。




さて、本題。
この通州事件を、ユネスコ世界遺産に登録しようと本気で言い張る人々がいる。


「通州事件」ユネスコ記憶遺産に申請へ
 つくる会「世界に知ってほしい」 中国軍の邦人200人殺害

(産経新聞)
http://www.sankei.com/life/news/151211/lif1512110039-n1.html


さすがに絶句である。
つくる会、産経新聞ともども、正気でないとは前々から知っていたが。
一から十まで勘違いで成り立った集団妄想を臆面もなく押し通し、世界の人を改心させる衝撃の真相と思い込んで動じないところ、実に痛い。

通州は当時、日本帝国の傀儡たる冀東防共自治政府の首都だった町で、したがって国民党や共産党の施政は及ばなかった。通州事件を持ちだして中国を非難するというのは、西部劇でいえば、ある居留地で先住民が蜂起し開拓者が殺されたのを理由に、報復を全米の先住民におこなうようなものだろう。
しかも事後、冀東防共自治政府は日本政府に対し、ネット右翼の大好きな謝罪と賠償をおこなっており、この一件については完全に決着がついている。

それと。通州事件を登録申請するにはまず、なぜ保安隊の暴動が起きたか説明しなければならないが。やはり、「国民革命軍によって仕組まれた」とかの宣伝文句を述べ立てるのだろうか?
それはさすがに、「コミンテルンの陰謀で日本は戦争に追い込まれた」と真顔で言い立てるあの田守神論文を登録申請するのとおなじほど イカれてる 無謀というものだ。

ぶっちゃけ。冀東防共自治政府の顛末、通州が阿片の流通基地だった事実、事件の日に保安隊が暴動をおこした経緯を知っていれば、恥ずかしくて日本側から記憶遺産に名乗りなんて上げられたもんじゃなかろうに。
(登録はどうせ、予選落ちだが)

まったく、ユネスコを冒涜するにもほどがある。世界記憶遺産の登録とは、ネトウヨが2ちゃんねるでスレッド立てるのとわけが違うのに。
南京事件資料の件がよほど腹立たしかったのだろうか。





冀東防共自治政府

かなり広い範囲にわたっているのがわかる。
要は、満州国やのちの南京国民政府のような、日本帝国の傀儡国家である



まあ自分としては、あの時代の大陸への野心がむき出しの華北分離工作、関東軍と阿片との関係などを偲ばせるという意味で、通州資料の登録申請にはむしろ賛成したいくらいなのだが。
とはいえ、右翼さんのほうからよりによって「通州事件」をユネスコ記憶遺産に登録申請とは、本気で日本軍国主義を愛する者とも思えない。

なんというか、あまりにも アホ アレだ。ものを知らなすぎる。
おおかた「虐殺」という単語への脊髄反射で、「むこうが南京で来るなら、こっちは通州じゃい」となったのだろうが、それにしても「通州」という大日本の黒歴史を「虐殺」のキーワードでしかわかってないとはあきれ果てるしかない。

極右な人々は今後も、通州事件にかぎらずあらゆる材料で反中宣伝の発信を続けるだろうが、断言しておこう。
中国人の残虐性を言い立てるのが南京事件の犯罪性を相殺させたい一念からであれば(他に理由などありそうもないが)、世界への効き目はまるでない。

大戦末期、ソ連に攻め込まれたドイツでも、赤軍兵の陵辱にドイツの婦女子は言語に絶する悲惨を味わった。通州事件など比較にならない、広範にわたる規模でだ。それでも、ソ連がドイツにこんな酷いことをしたからドイツが東欧でおこなった残虐行為を反古にしようなどと言う人はいないのだ。


追伸
通州事件を登録申請するなら、ついでに、平頂山事件陽高事件の登録もよろしく。





関連リンク

通州事件は、日本の傀儡冀東政府の保安隊が日本軍に誤爆されたためおきた反乱で、事件後、冀東政府は日本に正式に謝罪・賠償しているのに、やたら「通州事件をなぜ隠すのか」と質問する人がいるのはなぜですか?
(Yahoo!知恵袋)
https://t.co/CYPDLYydrz


冀東防共自治政府
(世界史の窓)
http://www.y-history.net/appendix/wh1504-046_1.html


冀東防共自治政府とは何ですか?Wikipediaを読んでもよくわかりません。誰が何の目的で樹立したのか、また成立の背景など、わかりやすく教えていただけませんか?
(Yahoo!知恵袋)
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1428316094




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