本邦未公開のロシア映画『スターリングラード』をネットで拝見。
ロシアのテレビ局サイトでの配信で、台詞はロシア語とドイツ語だけ。当然、邦訳の字幕なしだが、見てる分にはまあわかる。そもそも映像だけで把握できないようではどうしようもない映画ということだ。

説明の要もないほど有名なスターリングラード攻防戦。その渦中、一街区をめぐる独ソ両部隊の死闘を描いた群像劇。
ただし迫真性に満ちた実録風の展開を期待すると肩すかしを食う。

激しい戦闘場面の連続だったのが一段落した中盤からは、ロシア側の主人公とドイツ側の主人公、それぞれに女性がからんだ流れになってくる。
戦場それも最前線に不相応にも、恋愛や家庭的団欒を持ちこんだらという感じ。

コアな戦争映画好きからは「もたつくだけ」と酷評される所存だが、よくある「無理して女性キャラ出しました」とは違う気がする。ありそうもない設定ながら、まさにあり得ないもの、望んでも得られないものを置くことで戦争の非道性、理不尽を際立たせるのが本作の狙いだろう(監督はあのセルゲイ・ボンダルチュクの息子。脇役でも出演)。

とは言っても、反戦映画らしいヒューマンな感動を求めてもやはり裏切られる。
戦闘の見せ方はあくまでアクション映画のそれだ。CGやスローモーションを多用、『300』調のスプラッタな活劇を繰りひろげる。
殺った殺られたのスリルで盛り上げ、楽しませようとするわけで、いくぶん虚しさは否めない。
すでに社会主義国の映画ではないのだなと実感。

実際、ソ連時代の戦争映画と違って、ドイツ等海外での手応えも意識した作りがされ、敵軍将校の人間性にまで踏み込んでいる。
(この描き方は、『南京!南京!』を思わせる。映画の出来栄え、戦闘の迫力とスケールも『南京!南京!』と同じ程度か。悪くない水準という意味だが、殺し合いを見せ場にしてしまったところは、『南京!南京!』とくらべ格が落ちるかもしれない)

映画『スターリングラード』を見てわかるのは、ロシアの映像表現がソ連時代から続く伝統のような閉鎖性を捨て、ガラパコス状態から脱しつつあることだろう。

物語はなんと、2011年東日本大地震の被災地にロシアの義援隊が飛来するところから始まる。
この義援隊が瓦礫の中をスキャンし、生き埋めになったドイツ女性(いや、どういうわけか)を発見、救助作業を進めるうち、ひとりの老隊員が女性を励まそうと語りかけるのだが、自分の父親は第二次大戦を戦った勇士ということで、そこから母親に聞かされたスターリングラード戦の回想へと進んでいく。
意図のよくわかる作り方。昔はドイツ(や日本)と戦ったけど今では若い世代のドイツ人(と日本人)まで恨んでない、友邦として救助までするじゃないかと言いたいのだ。










スターリングラード戦勝70周年記念と銘打ち、ロシア初の3Dアイマックス方式で上映、国内で空前の収益を上げたこの大型商品、あいにく中国とウクライナを除けば海外ではまるで受けなかったという戦果は惜しまれるのだが。
(北米市場でわずか100万ドル、英国で10万ドル、ドイツや日本に至っては劇場公開すらされていない)


ロシア
中国
ウクライナ
米国・カナダ
ポーランド
英国

$52,033,664
$11,520,000
$3,410,087
$1,013,945
$237,287
$101,469
(Box Office Mojo)


独ソ戦の話だから忌避されたとも思えない。
ジュード・ロウが主演したほうの『スターリングラード』(2001)は米国でも評判を呼んだ。
こちらは国外で知名度をもつ俳優がトーマス・クレッチマンだけだし、なによりも世界に流通させるための感覚がまだこなれていないのだろう。
それでもロシア映画は今後、海外の才能とも混ざり合い、間違いなく国際市場に食い込んでくる。

その気概は、映画の音楽をわざわざ米国のアンジェロ・バダラメンティにまかせたことにもあらわれている(『ツイン・ピークス』の人)。
まあ出来はといえば、加古隆の『映像の世紀』テーマ音楽の影響が強い感じでさほど印象に残らないのだが。ぶっちゃけ、『映像の世紀』のサントラをそのまま使ったほうがよかったくらいだ。

それにしても。スターリングラード戦を扱った映画でこれと言える決定打がいまだに出来ないのはどうしてだろう?
本作品もそうだが、ソ連時代の『白銀の戦場 スターリングラード大攻防戦』、ドイツの『スターリングラード』、そしてジャン・ジャック・アノーの『スターリングラード』、どれも限られた局面を照射するだけで、全体状況を俯瞰するように大々的な規模でまとめあげたもの――『史上最大の作戦』や『空軍大戦略』、『トラ・トラ・トラ!』や『ヨーロッパの解放』のような――がまだないという。

あまりにも重大な戦いなので畏れ多くてうかつに手を出せないからではあるまい。






関連リンク

こちらのサイトで全編を視聴できます

https://russia.tv/video/show/brand_id/47307


Stalingrad (2013 film)
(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Stalingrad_(2013_film)





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