慰安婦問題では右派の間に、20万もの女性を「連行」するのがはたして可能だったか怪しむ声さえ出ている。
自分にも慰安婦の正確な人数は答えようがない。ほんとうは十万人かもしれないし、五万人かもわからない。もしかしたら御用学者の秦郁彦が見立てたように(計算の間違いが指摘される)、二万人だった可能性すらある。
けれども、もしネット右翼らが通州事件の犠牲者二百人で驚天動地の大騒ぎを演じるのなら、「慰安婦制度」の被害者が同じ規模でしかなかったとしても問題視する価値をもつことなのだろう。

ともあれ。「何十万もの動員が可能だったか?」との疑問については、現に日本軍がそれだけの人数を一箇所に集めて使役した実例を挙げるだけで答えになるとは思う。
その実例とは、あまりも有名な泰緬鉄道建設工事だ。

なぜ世界は、旧日本軍に対して暴虐な軍隊との印象を強めることになったのか? 
真珠湾奇襲やバターン死の行進、そして中国大陸でのことをすべて除外するとしても。
連合軍兵士、それから日本軍の制圧下におかれた地域の人々が大々的虐待を受けた事実において、その否定できない出来事がこれだったのではと思う。




泰緬鉄道建設工事とは

第二次世界大戦中に、日本軍がビルマ・インド侵攻作戦のために建設した、タイとビルマを結ぶ鉄道。
1942年6月から工事開始、43年10月に約415kmが開通した。この工事では日本軍が約1万2千、連合国軍捕虜が約6万5千、東南アジア日本軍占領地域からの徴用(実質的な連行)による労務者はマレー方面から8万、インドネシア方面から4万5千、ビルマ方面から18万、タイから数万、合計40万を超すと推定される。ジャングルの中の工事は難航を極め、捕虜の1万5千、労務者の半数が未帰還という大惨事となった。
http://www.y-history.net/appendix/wh1505-069_2.html




こうした数字を見ると、「14万5000の朝鮮人慰安婦が死んだ」との(荒船清十郎による)不確かな話が国連報告者から疑念もなく信じられてしまったのもうなずける。
アジア人労務者の死亡数については例によって「もっと少ない」との見方が右派の側から出ているが、数の問題で皇軍の責が赦免されるものでないのは南京事件と同様だ。
アジア諸国の「ロウムシャ」の場合も、強制連行された者は稀である。だいたい応募で集められ、賃金による報酬を受け、任期が終われば帰還が許された。ただし現地で過酷に扱われた。

ご多分にもれず泰緬鉄道の件でも、皇軍を擁護する言い訳がいくらでもなされている。
死者が多く出たのは虐待ではなくコレラが原因だ。糧食が乏しかったのは補給の不備による。上層部が工事の完成を急がせ、現場で厳しくせざるを得なかった……しかし結局は、言い訳として通るものがひとつもないというか、ようするに日本軍の体質に責が帰せられる事ばかりなのだ。
常識的見地からすれば、補給も期限も無理が多く、犠牲も甚大になりそうならば、日本の戦争に役立つだけの鉄道工事なんかやらなければよかった。
日本軍でない者ならそう考える。

さて。
慰安婦問題での欧米人の認識はたぶんに、この「泰緬鉄道の虐待」を従軍慰安婦制度に置き換えて見たものだろう。たしかに、タイ・ビルマ国境の限られた地域に何十万ものアジア人労務者が動員できたとすれば、皇軍占領下の全域で20万人の女性を連行するのはわけもないように思える。
「あの軍隊ならそれくらいの無茶はやる」との固定観念はアジア太平洋での日本軍自身の振る舞いによって培われたところが大きい。これは認めなければ。

ところで、ひとつの仮定だが。
もし泰緬鉄道建設工事に英米軍の捕虜を使わず、すべての労力を日本軍と現地徴用の「ロウムシャ」でまかなったなら、戦後になってこれほどの怨恨を持ち越すことになっただろうか? 工事自体が惨劇としてかくも世界的な脚光を浴びせられていただろうか?
(すくなくとも、『戦場にかける橋』という映画は作られなかっただろう)
不謹慎かもしれないが、興味のあるところだ。

実際のところ泰緬鉄道をめぐる戦犯裁判は、「連合軍の俘虜の虐待・虐待致死についての裁判であり、アジア人労働者の虐待に対する裁判はどこの国によっても行われていない」(Wikipedia)。
慰安婦問題についても、もしも日本軍がインドネシアに抑留するオランダ人婦女を何百人も拉致して強姦したりしなかったら、つまり被害者がアジアの女性だけだったらオランダでさえさしたる関心を示さなかったかもしれないのだ。







関連リンク

秦郁彦氏の慰安婦推定方法について
(天に代わりて不義を討つ)
http://tarari1036.hatenablog.com/entry/2013/07/03/212224


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