『弱虫ペダル』渡辺航/週刊少年チャンピオン連載中
金城主将のリタイアという衝撃を乗り越え、箱学を追う総北の巻島と1年生3人。
激しい坂の続くラストステージ。まずは追いつかなければ勝負にもならない。その状況を打開すべく先陣を切ってチームを引き出したのは登りが苦手だったはずの鳴子でした。


いやあ、表紙からして良い表紙なのですがまさに23巻は鳴子章吉の独壇場!
本誌で読んでいた頃も「こういうのが読みたかったんだ!」と毎週燃えておりましたがこうやって単行本で読むと改めて、また。


自他共に認めるところである”派手好き”鳴子はインターハイ最終日のコースを取り巻く観客へのパフォーマンス&レスポンスを活力に変えて登りの速度を上げていきます。
”派手好き”が単なる鳴子というキャラクターの性格付けだけでなく、走りにまで反映されているのが読んでいて気持ち良いところです。手を伸ばしてきた観客とハイタッチ、向けられたカメラには目線を向けて周囲を魅了し、総北コールで場を包ませてしまうその盛り上げ力は単なる派手好きの域を超えています。「目立ちたがり」というと軽い言葉に聞こえそうですが、自身の実力で注目を集めた上で周囲の反響を自分のエネルギーに変換してしまうほどの「目立ちたがり」なんてそうそういやしません。
さらにインターハイ前、同じスプリンターでもある田所からのアドバイスを受けた鳴子は自分の特性を活かした独自のクライムを開発。チームメイトすら驚く本物の成長を見せつけます。


しかしその走りはその瞬間にすべてを賭ける鳴子自身の覚悟があったからこそのものでした。
視界すら徐々に奪われながら、坂道のナビゲートを頼りについに箱学の背中を捕えた鳴子。ですが、彼自身が箱学に追いつくことはありませんでした。
書いて字の如く、真っ赤に燃え尽きた総北の「赤いマメツブ」。ゴールを迎えられなかったといっても、役割を全うしたその表情には一片の曇りもなく、輝いていました。
この仕事を「自己犠牲」と呼ぶ気にはなれません。鳴子自身もその瞬間を最高に”派手”に輝き、またチームに引き継ぐことで彼の魂はコースを走り続けるから。

また、前巻で田所の最後の引きで箱学との差を縮めた瞬間を目の当たりにしたことで、鳴子にとって田所から受けたアドバイスの大切さがさらに強くなったことも彼の急成長の一因となったと言えるでしょう。確実に、着実に繋がっているチーム総北。

この鳴子の活躍に最も感化されたのが、同じ総北1年生の今泉。
幾度となく精神的な脆さを見せ躓きかけてきた彼がようやく本当の成長を見せるときが来たようです。
インターハイ初日のスタート時に鳴子が語った「こうして3人で肩くんで 3日間 トップでゴールできたらいいやろな」という夢の実現が叶わなくなったこの時だからこそ、好敵手でもある今泉が背負ったのは金城主将に替わる「総北のエース」という重い看板。
派手好き鳴子と対極にある「先頭が一番静か」という自身が持つ美学の原点に立ち返った彼はこのまま先頭を駆け抜けるのでしょうか?その今泉が弱さを克服するうえで乗り越えることが必須ともいえる「あの男」も徐々に近づきつつあります。


3年生が「経験」に裏付けられた勝負をするのであれば、1年生は積み重ねられた経験があればあるほど思いもつかないような勝負を仕掛ける。
インターハイ、決着の刻が近づきつつあるようです。




余談ですが、普段は風景写真が多い単行本の折り返し写真が今回は渡辺先生のご尊顔でした。
最近描かれる渡辺先生の自画像は丸いキャラクターですが、秋田書店版『制服ぬいだら♪』1巻の折り返し自画像と比較してみると…
2012060900330000

完全に一致。
この自画像はいままで表現された先生の自画像の中でももっとも似ていると思っていたのですが、こうして並べるとあまりにもソックリで笑ってしまいました!最近の自画像キャラは可愛いけど似てはいないので…w



過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
漫画脳:インターハイ開幕!疾走感、御堂筋、そして腹筋(アブ)へ… 『弱虫ペダル』9巻(渡辺航)
漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
漫画脳:心理戦の限界を超えた先に 『弱虫ペダル』15巻(渡辺航)
漫画脳:捨て行くものと信じるもの 『弱虫ペダル』16巻(渡辺航)
漫画脳:”チーム”の形は一つじゃない 『弱虫ペダル』17巻(渡辺航)
漫画脳:過去、決別、純粋な強さ 『弱虫ペダル』18巻/渡辺航
漫画脳:そしてついに出逢った2人 『弱虫ペダル』19巻(渡辺航)
漫画脳:主人公を成長させるのは  『弱虫ペダル』20巻(渡辺航)
漫画脳:一つの絆の境地 『弱虫ペダル』21巻(渡辺航)
漫画脳:総北ジャージは真の「完成形」へ 『弱虫ペダル』22巻(渡辺航)

『弱虫ペダル』・坂道から消えたのはオタク魂ではなくて
漫画脳:描き文字に見る、渡辺航先生イズム
『弱虫ペダル』 小野田坂道と御堂筋翔~最も近くて、最も遠い2人

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