2014年06月25日

町の命運は、ひとつの恋に委ねられた。 『片隅乙女ワンスモア』1巻(伊藤正臣)


子供の頃、海水浴場で出逢った少年への淡い片想い。
その少年が、高校生の夏休みに自分を捜しにやってきた。
こんな最高なシチュエーションで、少女はすべての選択をまちがえてしまった。
取り返しのつかない事をしてしまった夏を、取り戻すための夏が始まる…。


竜宮町に住む高校2年生の浦島しじみは自分の地味さと華やかな姉との差にコンプレックスを抱く平凡な少女。
補習続きの気だるい夏休みにしじみの前に姿を現したのが、東京からやって来た亀田竜之介君でした。
「子供の頃にこの町の海水浴場で溺れかけた自分を助けてくれた少女」を捜しに来ていた彼を、一目見て「自分が助けた男の子」であると解ったしじみ。しかし彼女は自分自身が彼を助けた少女であると言い出せないまま共に過ごし、ついに事態は最悪の結末を迎えてしまいます。
地味な自分へのコンプレックスに負けて、ずっと思い続けてきた彼に想いを伝えるどころか結果的に騙すようなことをしてしまったしじみは、自暴自棄になって自宅にある”開かない玉手箱”に八つ当たりをし…。


”開けることが出来たら願いごとが叶う”と言い伝えれれてきた浦島家の玉手箱。
実はその玉手箱は本来海に沈むはずだった竜宮町の時間を土地神が封印し、沈没を食い止めていた物だったのです。
本来ならば開くはずのない封印、しかし50年に一度の月食という特別な日で封印が緩んでいたタイミングにしじみが玉手箱を開けてしまった。
かくして竜宮町は海の藻屑に…なるところを、土地神の力で巻き戻された時間。しかし、「運命」まではまだ変わっていない。
再び封印を解いてしまわぬよう、この町を海に沈めぬよう、「運命」を変えるために。
しじみは夏休みをやり直して「竜之介君に告白される」という願いを叶えることになったのです―…。


部屋に住みついた土地神の「たろえもん」にどやされながら、しじみは如何にしてこの恋を成就させるか頭を悩ませます。
同じ時間を繰り返すといっても、すべての事が同じように繰り返すわけではない。少しずつ出来事や人との関わりがずれていくことで、同じはずの日々はまったく別のものになる。
それは単に町を救い、自分の恋を叶えるだけのものではなく。くさり気味で翳りがあったしじみの夏休みは、繰り返しの中でどことなく充実していくように見えます。
しかしパズルのようなやり直しの日々を再構築していった先にあったのは、竜之介君は「浦島しじみ」に感謝こそしていても、自分のように恋心は抱いていないという哀しい事実。なのにしじみは、繰り返し出逢い失う日々の中でますます竜之介君に惹かれていってしまう。
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町の沈没を食い止めるという、少女一人の背中には重すぎる運命が背負わされているのは確か。
しかしそれだけではなく…コンプレックスを抱えた地味少女がその殻を打ち破っていく、これは乙女の意地の物語。不思議に素敵な恋の物語なのです。
チャンピオンで伊藤正臣先生を知っていた人間にとっては、良い意味で裏切られたという印象です。知っていた人も知らなかった人も是非。



manganou at 01:55漫画感想  
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