日曜日に開けてみたものの、やっぱりゆっくりだった昨夜の営業。

ふらっとお一人で入って来た男性、「こういうBarは初めてなんです」と若干キョロキョロしながらノンアルコールのドリンクを注文された。茶髪の細面、若い方かなぁ、でも丁寧な話し方だな、などと思いながら他にお客様はいなかったので、色々とお話した。

というより、初めは色々と質問された。

「何年やってるんですか?」とか「楽しいですか?」とかとか。まぁよく聞かれる事を。
「このお店は18年です。その前に10年修行して。仕事は楽しいですよ。お客さんの反応もダイレクトに返ってくるし、やりがいはあります。でもコロナの影響でめちゃくちゃ大変ですけどねー」と。

すると彼は、「自分は鳶職やってて36歳なんですけど、鳶の仕事って若いうちしか出来ないんですよ、現場は。だからある程度年齢が上がると、他の機械を使う職人になったり、独立して社長業をするかみたいに分かれるんですよ。」

あっ、思ったより年齢上だったと思っていたら、彼が続けた。

「こういうBarの仕事って、お客さんから”ありがとう”とか言われるからいいですよね。自分の仕事は、やって当然みたいに思われてるからそういう事は無くって。。。」と。

なるほど。そう感じるのかぁ。

と思いながら私は、「でも、このお酒とか、このカウンターとかを作っている人に直接感謝の言葉は言えないけど、こういう物が無いと私達の仕事も成り立たない訳で。。。」と返したけど、当たり前の話を世の中を知ったような感じで話してしまい、当然彼の心には響かず、やや沈黙。

そんな話をした自分を悔やんだ。

すると、彼が続けた。

「あと、実は自分はプロボクサーもやってて、大晦日の試合で負けちゃって。年齢の事もあるし、ランキングから外れると引退しなくちゃいけなくて。次、試合するかとかまた決めてなくて。。。」 と。

えーーー!


大晦日って、あの「井岡一翔VS田中恒成」の世界タイトルマッチのあった大会。
4階級王者、3階級王者日本人同士の激アツの対決だったあのリング!

私が家で鍋を食べながらみていた大田区総合体育館のリングに、目の前の彼は立っていたのだった。


中野ウルフ(鹿児島・橋口ジム) 36歳 日本フライ級15位 6勝(2KO)8敗4分


29歳でボクシングを始め30歳で遅咲きのプロデビューするも6連敗の苦労人

そこから盛り返しランクインして、日本タイトルマッチが決定するも、その矢先に左目の網膜剝離が診断されタイトルマッチはキャンセルに。

そして5度の手術を受けて復帰した2020年の大晦日の試合で判定負けを喫してしまった。

プロボクサーは37歳を迎えるとライセンスを剥奪されるが、ランカーに入っていれば猶予されるという仕組みがある。

そして、彼は今年の2月に37歳を迎える。


私が学生時代にボクシングをやっていた縁で彼の所属する橋口ジムは、一度だけお店で大会に協賛したこともあったけど、試合は見に行かなかった。
(その鹿児島アリーナでの試合に彼は勝った)


それからまた色々とお話しをした。

ボクシングを始めたきっかけとか。
後楽園ホールのこと。
応援が力になること。


2月に試合を組んでもらえるかもしれないけど、まだ続けるか決めかねていること。

そして、左目が見えにくくなっていること。


人生の大きな岐路に立っているであろう彼に、「頑張って」とか「挑戦して」とか、簡単な言葉はかけられなかった。

ただお店に置いていた、去年私が読んで一番胸が熱くなった一八〇秒の熱量という、まさに中野選手と同じような境遇の引退間近のボクサーのドキュメンタリー本を無理やりプレゼントした。


そして彼のinstgramをフォローした(笑)



お店を開けていたら、フラッとこういう出会いというか、縁があるから、やっぱり楽しい。