久しぶりに名将言行録を読んでいたら、変な話があったのでご紹介しましょー。まあ…関ヶ原関係ないけどね!!!
■大杉抜右衛門
毛利元就が出雲の月山富田城に籠もる宿敵・尼子義久を攻めていた時のことである。元就は富田城から七里ほどのところにある洗合というところに陣取って城を包囲していた。このため、尼子軍はどんどん枯渇していき、ついに和睦の使者を送るに至った。
和睦の使者となったのは大杉抜右衛門という奇妙な名前の大男だった。この男、顔は老けてもいるが、体つきは体格相応に筋骨隆々として、誰もが一目で怪力自慢だと認められる男であった。その奇妙な名前もこの怪力自慢にふさわしいもので、かつて尼子経久が健在だったころに、周囲二尺もある大杉を引き抜いたことがあり、経久に激賞されてこう呼ばれるようになったのだという。
陣中には毛利軍の将が数人集まり、抜右衛門の口上を聞いていた。
「…くだんの如しにて、和睦をご承知いただきたい。」
一通りの口上を終えた抜右衛門は顔を上げぬまま、元就からの言葉を待った。元就は腕を組んで抜右衛門を見ていたが、ふっと床机を立つと、こう声をかけた。
「抜右衛門どのよ、そなたたしかあれよな。杉の大木を抜いて経久公にそう称せられたんだったよな。聞いておるぞ。」
抜右衛門はなおも頭をあげぬままで「はっ。仰せのとおりにて…」とだけ言った。しかし、内心では「なぜそんなことを聞くのか」と訝しく思った。
■杉の木を抜け!
ややの間をおいて、元就は「まあ面をあげい」と言った。抜右衛門が顔をあげると、元就が陣の入り口付近を指差していた。
「あれに大木とはいかぬが杉の木があるのがわかろう。あれを抜いて見せてくれぬか。」
抜右衛門がそちらを見ると、たしかに杉の木がある。元就の言うとおり、さほどの大木ではないが、幹のしっかりした木であった。とてもじゃないが、抜こうと思って抜けるものではない。
「申し訳ございませぬが、その儀は使者の任にあらず。お許し願いたい。」
抜右衛門は固辞した。抜けないと侮られると思ったのである。「そんなことをしに来たのではない」ということを盾にして断った。
元就の機嫌を損ねるのはまずいのだが、和睦の使者である以上は、現状よりも立場を弱くすることは絶対にできない。
しかし、元就がしつこい。「よいではないか」とニヤニヤと笑いながら、何度も「やってみせよ」とうるさかった。しかし、抜右衛門はあくまでも固辞した。しだいにうんざりしてきて、「なぜこうもしつこいのだ、あんな木を一人で抜けるわけがないではないか」と思い始めた。
■抜くやつがいる!
5、6回も問答したであろうか。ついに元就が折れた。
「ううむ、仕方ないのお。抜右衛門どのは何かと頑固者のようじゃ。」
元就は眉をハの字にしていたが、機嫌を損ねたというわけではなさそうだった。そして、抜右衛門は元就の次の言葉に驚いた。
「よし、されば、貴殿ほどでもなかろうが、当家にも強力自慢がおるゆえ、その者に抜かせて見せよう。」
「……!?」
抜右衛門は思わず黙ってしまった。(あれを抜く者がおるのか??)
「藤十郎をこれへ」
元就は側近にそう告げると、再び床机に腰を下ろした。
しばらくして、廻神藤十郎というものがやってきた。見た目は抜右衛門と変わらぬ大男である。抜右衛門よりは若いであろうが、腕も足も太い。見るからに強力自慢というところが抜右衛門と共通していた。
元就は藤十郎が来たのを見ると、
「きたか、藤十郎。さっそくだが、陣前の杉の木を引き抜いて、ここな大杉殿にお見せ仕れ。」
と命じた。藤十郎はまったく動じる気配もなく、あっさりと「承知」とだけ言うと、ずんずんと杉の木の前に進んで行き、がっしと幹に抱きつくと、気合一番、一気に杉の木を引き抜いて前に倒してしまった。
「おうおう、見事見事。」
元就はぱちぱちと手を叩いて藤十郎を賞賛しながら、抜右衛門の方を見た。抜右衛門は口を開けたまま脂汗をかいて、倒れた杉の木に目を見張っていた。
その様子を見た元就はニヤリとすると、言葉を継いだ。
「さてさて、和睦の話であったな。いやはやどうしたものかのう。言うては何じゃが…当方は押しつぶすこともできるわけじゃからのう。条件を変えるわけには参らぬものか。」
要するに抜右衛門の持ってきた和睦の条件がずうずうしいと言っているのである。
元就がそういったのも束の間、抜右衛門は元就の方に向き直って言った。
「城に立ち返り、主君と相談して参りまする。」
あっさり引き下がったかっこうで、抜右衛門はそそくさと毛利陣を出ていってしまった。
■実はこんな仕掛けがあった
抜右衛門の使者口上を聞くために集まっていた毛利軍諸将は「藤十郎が使者を追い返しましたな。」と手を叩いて喜んだ。元就はこう返した。
「使者があの抜右衛門だということは、鉢屋の透波(すっぱ:忍のこと)の報告でわかっていた。力を見せ付けておかぬとな。」
ところが、実際には使者が抜右衛門であることを知った元就が、敵の戦意消失を狙って、今回の筋書きを整え、あらかじめ根を絶っておいたのだという。さすがに並みの力では抜けないが、力自慢の藤十郎ならばさほどのものでもなかったのである。抜右衛門は謀略の天才によって、まんまと嵌められてしまったわけであった。
こうも狙い通りに進めた元就もさすがですが、根を絶っておいたとはいえ、怪力自慢の抜右衛門に「とても抜けない」と思わせるような大きさの木を持ち上げた藤十郎がすごい。どんだけ怪力なのか…。どんな鍛錬をしとるのやら…。
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