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大河ドラマ『真田丸』第17回では、劇中で片桐且元(演:小林隆さん)が徳川家康(演:内野聖陽さん)のもとに使者として趣き、その書状の内容を読み上げるシーンがありましたね。その時、「表裏比興(ひょうりひきょう)」という言葉が出てきました。いまや真田昌幸の代名詞として、真田関係の本には必ずと言っていいほど取り上げられている言葉ですので、見たこと聞いたことがあるという方も多いでしょう。

ところで、この「表裏比興」。どんな意味なのでしょう?
これにはいろいろ解釈はあるようですが、ネットで調べたところ、『デジタル大辞泉』には「比興」の意味として、「不都合なこと、いやしいこと、卑怯なこと」などが掲載されていますので、「裏表のある卑怯なやつ」くらいの意味だったのではないでしょうか。昌幸のことを悪し様に言っているというわけです。

……まあ言われてみれば、北条についたり、徳川についたり、上杉についたりと、昌幸としては生き残るために必死だったわけですが、傍から見れば強い大名については離れを繰り返して定まらんヤツ。なかなか信用できない、なんて卑怯なやつだというのもうなずけますね。。。

ちなみに、これは後世言われるようになったというわけではなく、実際に史料に登場しています。


■史料にみる「表裏比興」

ドラマでは冒頭に記した通り、片桐且元が家康に向けて書状を読み上げた際に出てきていましたが、史料としては、天正14年(1586)8月3日付けで上杉景勝に宛てた石田三成らの添書内にこの言葉が出てきます。この中で、三成らは「真田は表裏比興の者だから、成敗されるべきだ。家康が軍勢を向かわせると思うので、あなたがたは真田に味方したりしないように」と言っています。
この辺りの「手出し無用」のくだりはドラマでは秀吉が景勝に直接伝える形で描写されていましたね。

さて、昌幸を信用ならないやつ呼ばわりしている秀吉ですが、この時期、真田絡みで裏表をどんどん変えていたのは実はむしろ秀吉の方でした。この時期の秀吉の変心の履歴を少しご紹介しましょう。

天正13年11月の時点では、秀吉は昌幸に宛てた書状の中で、「家康は不届き者なので成敗してくれる!」と大きなことを言っていたんです。これには昌幸もほっと一安心だったことでしょう。
ところが、天正14年7月に家康が真田攻めの準備を進めると、秀吉はこれをいったん引き止めたものの、8月には「真田をやるのか、やるなら徹底的にやれ」と急に焚きつけるようなことを言いだしたのです。さらに上杉景勝には「手出し無用」という旨を記した、さっきの書状を送ったのです。

にも関わらず、今度は9月までの間に家康の真田攻めを中止させてさらに家康と和解してしまいます。短期間にずいぶんコロコロ態度が変わっていますね。この突然の態度の変化は、理由を明らかにしている史料がないので、なぜそうしたのかは定かではありません。

しかし秀吉は、10月には母である大政所を家康の元にやって、12月にはついに念願だった家康上洛を実現しました。うまいこと家康に臣下の礼をとらせることに成功したところをみると、この一連の手際良さ、もしかしたら真田征伐の一件も計画通りで、うまいこと利用したということなのかもしれませんね。


■大河ドラマ『真田丸』での描かれ方

ちなみに、この顛末はドラマでも描かれていました。秀吉がうまいこと家康を服従させるシナリオとして、この一件を利用した形になっていましたね。ドラマでの流れはこうです。

もともとは「真田は俺が守ってやる」と言っていた秀吉。
なのに、家康から「真田を攻めたいから許可してくれ」という書状が届くといったん信繁に意見を求めたものの、最終的には許可を出してしまいました。

これを聞いた信繁が大いに焦って、秀吉に考えなおすよう直言しまくりましたが、「うっさい!」と一括される始末。腑に落ちない信繁がふてくされているので、第17回の劇中では秀吉はついに真相を知らせ、この対応の狙いを次のように述べていました。

「家康はわしの顔を立てた。だからこちらからも一度は家康の顔を立てる。これであいこ。そのうえで戦の中止を命じた時、家康がどう出るか。これを見極めたい」

実際これで家康の腹を見極めた秀吉は、母を人質に出すことを決意。しかし、それによって、放送終了までの間に家康を上洛させて臣下の礼をとらせることに成功しました。結果的に秀吉の思惑通りに事は進んだというわけです。
この辺り、秀吉を演じている小日向さんは「底の見えなさ」を演じるのがうまいなあと思いました。ニコニコしていながら、腹では何を考えているかわからない異様な威圧感がありますね〜。これから晩年にかけての秀吉の描かれ方には注目です。


■おまけ

ところで、劇中では信繁が三成から「もっと物事の裏を読め。素直なだけでは生きてはいけぬ」と言われるシーンがありました。真っ直ぐというのは長所でもあると思いますが、目的によっては遠回りになることもある性格でもあります。ことに駆け引きなどには向かないでしょう。

正論を述べるだけではダメで、そこにどういった裏があり、誰がどのように考えているのか。
それを意識して行動することはたしかに重要な気がしますねえ。

 

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