一花開天下春

永田向生のブログ。「いっかひらきててんかはるなり」 一輪の花が、天下に春の来たことを知らせる様。 一を聴いて十を知ることの意味。 ※当ブログでは個別の相談は受け付けておりません、ご了承ください。

レントゲンと整形外科医の使い方・考え方 第6日

横浜労災時代にERに配布したプリントより抜粋です。

 

外傷<簡易表 疑った病名に対してXp撮影方法をまとめました>

●体幹

■頸椎外傷・カラー外せるか:開口位・頸椎2方向(AP, LAT)の3

頸椎骨折を強く疑った場合はJATECでもCTは推奨されるがXpも撮影下さい。

■肋骨:上位または下位肋骨2方向

■腰部の脊椎圧迫骨折:腰椎2方向  症状に応じて胸椎2方向

■骨盤骨折:ポータブルで骨盤Xp、明らかな骨折あれば整形外科コール

●上肢

■鎖骨骨折:鎖骨2方向(AP30度斜位)

■肩甲骨骨折(肩峰・棘突起・体部・烏口突起)、肩関節脱臼:肩甲骨2方向(正面、スカプラY

■上腕骨近位骨折:肩関節2方向(正面、スカプラY

■上腕骨骨幹部骨折:上腕骨2方向(正面、側面)

■上腕骨遠位骨折、尺骨肘頭骨折、橈骨頭骨折:肘2方向(正面、側面)

■前腕骨幹部骨折:前腕2方向(正面、側面)

■橈骨遠位端骨折:手関節2方向(正面、側面)

■舟状骨骨折:舟状骨2方向   手を尺屈させて撮影する特殊な条件で撮影しないと見逃しうる。

■中手骨:中手骨AP, 斜位(CM関節脱臼以外は側面では中手骨がダブってしまい斜位で2枚)

 どの指の骨折を疑うかコメントを書く。

●下肢

■大腿骨頸部骨折、転子部骨折:患側股関節2方向(正面と患側軸位の2枚)

■大腿骨骨幹部骨折:大腿骨2方向(正面、側面)

 ■大腿骨顆部骨折、脛骨高原骨折:膝関節2方向(正面、側面)

■膝蓋骨骨折:膝蓋骨2方向(正面、側面)

■脛骨骨幹部骨折・腓骨骨幹部骨折:下腿2方向(正面、側面)

 ■足関節内果骨折・外果(腓骨遠位端)骨折:足関節2方向(正面、側面)

 ■踵骨骨折:踵骨正面、軸位、アントンセン3

 ■中足骨骨折:各中足骨の正面+斜位の2

 側面は中足骨がかぶるため、骨傷評価でなく、足背または足底の挫創の異物検索に用いる

■足趾骨折:各足趾の2方向(正面+斜位)

※レントゲン「手」「足」はRAの病勢評価に用いる撮影法で「手」「足」の撮影はERでは見逃しの原因になりえます。

レントゲンと整形外科医の使い方・考え方 第5日

その2・臨床診断での頸部骨折・転子部骨折についてと、臨床推論について

 

 前回に引き続いて、「高齢者の低エネルギー転倒」での股関節痛に対してのお話です。

前述したように患者数は増えていきます。2010年には約18万人,2020年には約25万人,2030年には約30万人,2042年には約32万人の大腿骨頚部/転子部骨折が発生すると推計される.(出典:日本整外科学会、大腿骨転子部骨折ガイドライン)。転倒の病歴があって、主訴股関節痛ならまあ大腿骨頸部骨折、転子部骨折を疑います。もちろん、救急当直中なら、救急車がやってきて、病歴きいて診察してレントゲンをオーダーです。この順番は内科でも一緒のはず、主訴・病歴・診察・そして検査。でも、そして検査、の前に鑑別診断はどれだけ上がっていますかな。え?わかってますよって?「血管系、神経系に、筋骨格系、、、」ってナントカ系という病名は存在しないのですよ。救急で主訴から考える疾患群は田中和豊先生の著書が良書でした(出典:田中和豊 問題解決型救急初期診療)。例えば「頭痛」ならお馴染みのくも膜下出血や脳腫瘍だけでなく、副鼻腔炎や緑内障、海綿静脈洞血栓症も鑑別に、つまり頭の片隅の置きながら臨床を行いたいものです。これ外傷でも同じことがあります。

 疑って検査をしないと見逃しが起こります。診察して痛がっている部位を同定しないとそこに注意してレントゲンを見ないんですよ。認知症があり意思疎通が取れないからどこが痛がっているのかわからないケースはどうするか?だからレントゲンをバシャバシャ撮影することの言い訳にはなりません、決して。診察が難しい?そうなんですよね、わかります。しかし外傷後に右も左も同時に股関節痛がする、ということはあまりないはずです。なので本当にあまり意思疎通のとれない認知症患者さんの場合は、左右差を見るというのも重要です。左右のスカルパ三角、大転子部、恥骨結合、腸骨、後ろに手を回して仙骨部。このへん骨が皮下に触れやすいので触ってみる。診察のコツは残念ですが認知症患者も増える一方です、認知症があるから痛い場所がわかりません、なんてのはこのご時世言い訳にしかかならんのです。え、内科に行くから関係ない?いやいや、痛い場所の同定は、患者さんの「主訴」に関わることです。「主訴」を同定できなければ鑑別診断もたてられません。

 私も絶対大腿骨頸部骨折だと疑ってレントゲンをじーっと穴があくほど見つめても大腿骨に骨折を見つけられず、CTまで撮ったところ恥骨骨折を発見。あとからレントゲンを見てみたところ(専門用語ではないのですが、レトロに見てみたところ、と整形外科医はいいます)、股関節AP像には骨盤しっかり映りますが、しっかりと恥骨骨折はわかりました。単独恥骨結合は手術になることは稀なので、大腿骨近位部骨折と異なり大きくマネジメントが異なります。外傷後の股関節痛、には大腿骨頸部骨折、転子部骨折、転子下骨折、恥骨骨折、坐骨骨折、後方要素の仙骨脆弱性骨折、などが鑑別に上がりますね。

 

今日のお言葉

「鑑別診断無くして検査なし」

 

余談ですが、「患者さんが痛がっているので診察していません!」という医師の方も侵襲的なレントゲンをオーダーしている気がします。

レントゲンと整形外科医の使い方・考え方 第4日

高齢者の股関節その1・大腿骨近位部骨折に絞って説明したいと思います。前述の

「1大腿骨頸部骨折がないと確定するまで大腿骨撮影を行ってはならない。」

に関連する分野ですね。この話は一時期某病院で「骨盤正面+大腿骨4方向」なるオーダーが連続して救急部でなされていて、僕が啓蒙活動をする羽目になった思い出深いオーダー群です。ベテランの技師さんはオーダーした医師に連絡していたみたいだけどね、これは危ないですよ、と。そう、技師さんからの連絡はとても大事なことがあります。

 高齢社会に伴い、転んだ・尻餅をついたなどのエピソードから股関節周囲痛を訴えてくる方が増えています。大腿骨近位部骨折は大きく2種類あります。頸部骨折と転子部骨折です。2つはよく混在されて「大腿骨頸部骨折の高齢女性が来ています、入院適応ですのでお願いします」とベテランのER医からも連絡きますが、この2つを研修医、ER医が本当に鑑別する必要は僕はないと思っています。なぜならどちらにせよ「どんなに高齢であっても手術介入が必要になる(ケースが圧倒的に多いから)」です。そう、レントゲンはマネジメントを決めるツールでした。

 大腿骨頸部骨折でも転子部骨折でも、レントゲンのオーダーも一緒です。「股関節2方向(正面像+患側軸位)」です。他の撮影法はこれで大腿骨近位部骨折を完全に除外してから、でいいのです。この撮影法は、骨盤尾側にレントゲンを置いて正面像を撮影し、痛くない健側の股関節を屈曲させて持ち上げて側面像を撮影します。つまり折れている、かもしれない患側は動かさないで撮影できるのです。おーパチパチ。つまり救急でのレントゲン撮影は「折れている、かもしれない場所を動かさないで撮影する」方法から攻めていくことになるのですねぇ。

 

今日のお言葉「高齢者の低エネルギー転倒で受診した股関節痛に、大腿骨頸部骨折がないと確定するまで大腿骨撮影を行ってはならない。」

 

後述する原則ですが、長管骨骨折はほぼたいてい‘見た目’でわかります。もう明らかに四肢が変位しているという具合にね。

 

レントゲンと整形外科医の使い方・考え方 第3日

今日のお言葉「(無知による)レントゲンは時にとても侵襲的な検査である」

 

 基本的に骨折していても、正確な診断のためにある程度は「イタタタ」とおっしゃる患者さんをレントゲン室であれやこれや動かして撮影しなければいけません。多少は動かさざるを得ないのは実情です。後述しますが、例えば手をついて転んだ橈骨遠位端骨折は、手を乗せて正面像(以下AP,すこし手をひねってもらって側面像(以下LAT)を撮影しなくてはいけません。おー痛い。

 以前横浜労災病院に勤務時に、救急の研修医向けにレントゲンオーダーを作る役目がまわってきました。これだけは止めようね、としていた、いわゆる禁忌レントゲンオーダーを下記にまとめました。これらの撮影は骨折の転位を引きおこすことがあるので患者さんのマネジメントが根本から変わることがあります。レントゲンは、あくまで患者さんのマネジメントを決めるための「手段」だったはずです。「手段」で悪化させてはダメですよね。

 

1大腿骨頸部骨折がないと確定するまで大腿骨撮影を行ってはならない。

2上腕骨近位端骨折がないと確定するまで肩関節軸位撮影を行ってはならない

3膝蓋骨横骨折がないと確定するまで膝蓋骨スカイライン撮影を行ってはならない

レントゲンと整形外科医の使い方・考え方 第2日

そもそも論。レントゲンは侵襲的な検査か。被曝という点で言えば、侵襲的な検査でしょう。胸部レントゲン1回あたりの被曝量は正面で0.1 mSv(出典・大阪大学放射線科HP)です。東京-NY間のフライトが0.2mSvとのこと。つまりなんの考えもなしにバシャバシャレントゲンを撮影することはそれなりの「侵襲」を患者さんに強いていることになります。これをあまり意識していないなら、いっぺん自分がオーダーしたレントゲンに完全にプロテクターつけないで付き添ってみたらよろしい。え、いやだって?なんか気持ち悪いって?その被曝に対して、なんかいやーんだな、という感覚は多分正しいのです。というか、それを電子カルテ上の数クリックか、レントゲンオーダー用紙のさらさらっと書く紙で医師は患者さんに強いているのですよ。

 医療被曝には基本的に上限を設けていません(要出典)。なぜなら「検査で生じうる被曝による健康被害より、その後の治療による恩恵の方が優先される」という原則に基づくからです。きっと。

 

今日のお言葉「レントゲンは被曝においてある程度侵襲的な検査である」

 

よくオーダーされる胸部CT7 mSvとのことなので、こちらの方も問題ですよね。

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