【第2章】



外はちらちらと雪が降り始めていた。



雪というデコレーションは、より一層クリスマスを華やかに彩っていた。


道行くカップルは皆、笑顔を浮かべ、思い思いに聖なる一日を楽しむ。



しかし、幸せばかりが蔓延るわけではない。



華やかさの裏側にはいつもドロドロとした何かが付き物だ。






















「あ゛あぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!全然進みやしねぇぇじゃぁねえかぁぁぁああああぉああああ!!!!!!!!?!?!」



クリスマスはどこもかしこも人が多い。



優しさが飽和状態になっているのだ。



過ぎた優しさが、一人の孤独な青年の心を荒ませた。



「わざわざクリスマスに人混みに行く奴らの気が知れねぇ。馬っ鹿じゃねぇの?あースタジオ楽しみだなーっと!」



そんな青年の怒号のような独り言も虚しく空に消えていき、相変わらず街には笑顔が溢れている。



青年はそれから逃げるように裏道へと車を走らせた。















「あー。やっと渋滞から抜け出せたわ。」



彼はギアを4速、5速へと上げていく。



親から譲り受けたというトッポは、10歳の年齢を感じさせず、軽快な音をたてて路地を走っている。



同じ軽音学部の後輩、秋山絋希から「チョロQみたいな車」と称されていることを彼は知らない。



部員3人を乗せて坂道を駆け上がった時、エンジンから煙を吹いたことも彼は気にしていない。



なぜならこの時、この車だけが彼を優しく包んでくれたからだ。



「やっぱ裏道は早いねぇー!!!!」



単細胞の彼は他の車が知らない抜け道を走らせたことで上機嫌だった。



彼はくにびき大橋の手前まで抜け出した。






















【第3章】



当時彼がいつも通っていたスタジオは、松江の中心に堂々と佇む、片側二車線のこの橋を通った先にあった。



小さな街、松江には、スタジオの数も少ない。



地元のバンドマンの大半は、ここかもう一つ別のスタジオかどちらかに通う。



彼は音の良さからこちらを好んで使っていた。













しかしそれは。



今思えば何かに誘われていたのかもしれない。














「やっとここまで来たかー。時間は…っと…うん、間に合うな。」



彼の計画に珍しく狂いがないことに自然と口角が上がる。



街のムードを除けば、彼の思い通りに事が進んでいるのだから無理もない。







だが、彼は想像だにしていなかったのだ。



この時、静かに破滅へのカウントダウンが始まったことを…
























トッポがくにびき大橋にさしかかった。



松江の中心の橋は、予想通り大混雑だった。



彼の心は再び荒みだす。



その時だ。






















ガフンッ!!!!














「え?」
















ガフッ!!ガフッ!!!!



















「おいおい…まさか…」






















ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガフーン…プシュ…



車は完全に沈黙した。



【最終章へ続く】