【第4章】



「おかーさーん!ほら見てみて!カブトムシ捕まえたよー!」



「あら、よかったねー!大事にしてあげなきゃだめよー?」



「へへー!わかってるよー!」

















青年はいつかの思い出を浮かべていた。


そう、彼がまだ汚れなく純粋無垢だったあの頃を。



燦々と照らす夏の太陽…



母の笑顔…



ガリガリ君…



ガリガリの妹…



ガリレオガリレイに似た近所のおばさん…



























「パッパー!!!!!!!!」





















「!!!!!!!!!!!!???」



けたたましいブザー音によって青年は我にかえった。



バックミラー越しの2tトラックの運転手は苛立ちをあらわにし、こちらを睨んでいる。



無理もない。



なぜなら青年のトッポは、只でさえ大混雑のくにびき大橋の一車線を完全に封鎖する形で停車していたのだから。



真後ろのトラックはギリギリまで青年の車に寄せ、その躯体に相応しい圧迫感を放っていた。



しかしキーをいくら捻ろうとも、「ギギー!!」という耳障りな甲高い音が響くだけで、車は動く気配を微塵もみせない。



何故ならばこの時青年の愛車は、



「液体推進燃料枯渇現象」



に見舞われていたからだ。




















そう。







俗に言う「ガス欠」だ。



青年の車にはエンプティランプというものが存在しない。



従ってガソリンの残留は己のフィーリングに頼るしかない。



車をユサユサ揺すって「チャポチャポ」という音が確認できれば、それ即ちまだイケるというアナログな手法をとっていたツケが遂に回ってきたのだ。



くにびき大橋片側車線は、大橋の遥か出前から行列を成しており、それはあたかも夏休み中のディズニーランド、スプラッシュマウンテンさながらの様相だ。



青年は途方に暮れた。



とりあえずハザードを点け、中央分離帯に降りた。























ここで気付いただろうか。



何故降りた先が中央分離帯なのかと。





















そう。




















青年は何故か片側2車線道路の右車線に停車していたのだ。



ガフンガフンと言い出した時、彼はなぜかバンドルを思いっきり右に切った。



従って降りた先は自然と中央分離帯になるというわけだ。



冒頭でも述べたように、くにびき大橋は松江の中心に位置しており、その橋を越えた先には「SATY」が存在する。



ここで理解しておいて頂きたいのは、松江SATYは絶大なる集客力を誇るという事実だ。



「松江にはそこしか行くところがない」



これが松江市民共通の見解だ。



クリスマスともなればその集客力はピークを迎える。



どいつもこいつも何かの怪しい宗教の総本山にでも参拝するかの如く松江SATYに吸い込まれていく。



これで分かっただろう。



そこに通ずる、云わば神聖なる参拝道を封鎖した彼は、完全なる異常者だということが。



某バンドのドラム、A葉氏の言葉を借りるなら



「何してくれちゃってんの!?」



まさにそんな状態だった。



青年は中央分離帯に仁王立ちし、精一杯の虚勢を張った。



これから参拝に行く車からは最大限の憤怒を、参拝から帰路に着く車からは最高級の嘲笑を。



彼は一手に引き受けた。



気持ちで負ける訳にはいかなかった。



青年はおもむろにに携帯電話を取り出し、当てもなく携帯をいじくった。




















「いや、別に慌ててなんかねぇよ」



彼はまるでそう言っているかのような雰囲気を醸し出そうとしていたが、傍目からは全くそうは見えなかった。



哀れという他に言葉が見当たらない。







最終章へつづく