きのう、ウチのセガレの後輩が家に遊びに来た。そう南光の後輩だ。

その子を久しぶりに見て、「ああ・・・3年前のこの頃だったんだな・・・・7月頃だったかあ・・・」

彼が中学3年生・・・3年前の7月・・・その子の母親から「相談があるのですが・・・」と電話があった。

そして、親子でウチの院に来ました。

「最近、肘が痛いというので病院で検査を受けました。検査の結果、肘の靭帯が伸びきっています。彼は手術をしないとこの先野球は出来なくなります」と言われたそうです。

「中学の夏の大会の前なので、大会まではそのまま頑張って、大会が終わったら高校に入るまでに手術とリハビリをすれば高校でも野球ができるでしょう」という事らしいのです。

私は常日頃から中高生の肘にメスを入れることに対して疑問を持っていたことを知っていた母が相談に来たというわけです。

「まずは肘の状態を見せてください」という事で徒手検査を行いました。
レントゲンで肘の靭帯が伸びきっているかどうかについては判りません。
しかし・・・・肘の可動域や、痛みの部位である程度の状態は判るもんです。

ところが・・・・この子のひじの状態は・・・・私から見たらそこまででもない・・・・・

「???」「コレで手術をしないとダメだという事ですか?」

「ええ・・・今後野球は出来なくなると・・・・」

勿論野球肘の症状はあります。内側上顆に圧痛もあり、屈曲と伸展にある程度の制限と疼痛があります。
しかし・・・・これくらいは普通にある野球肘・・・

確かにこの子は学童の時も野球肘を経験し、中学でも何度かやっています。
だから、靭帯が伸びているという事もあながち間違いではないと思います。

(ホンネをいいますと、この時・・・「マジか!これで手術するの?」と思いました。)

お母さんとその子にはまずは「手術をするかしないかの最終決断については家族で話し合って、納得のいく形で決めてください。私が手術をしない方向に進めてもしダメだった場合責任が取れません」と前置きをしたうえで、

「ただ・・・この子が私の子供だとしたら、私はこの子の今のひじの状態で手術はさせません」
「手術は後からでもできますし、手術をしてしまったら、元の状態には戻れないと思う。」と・・・・自分の子に置き換えて話をしました。

数日後、親子で再来院した際に、「やっぱり手術は見送ります。まずは保存療法で様子を見ることにしました」とのことです。

それから約2Wの完全投球禁止と毎日の治療を行いました。すると、たった2Wで圧痛や屈曲の制限などは無くなりました。

そして、早いかもしれませんが大会も近いので、軽い山なりのキャッチボールと自分でできるストレッチング、投球フォームの見直しを行いました。

「肩や肘を壊すのは投球フォームにあり」と言い続けてきた私の方針に対して親子で一生懸命努力してくれました。

そして、大会も無事に終わり、県大会でも上位に食い込む成績を収めてくれました。
中学野球の引退後もたまに肘の様子をチェックしながら硬式のボールを投げ始めました。

きっと怖かったと思います。不安だったと思います。
「手術をしなければ高校野球はできない」と言われたんですから・・・・

その子は結局3年間、一回も肘の痛みで練習を休むことはありませんでした。
多少のハリが出てくれば早めに来院し、治療とストレッチングの指導、そして投球フォームの注意点を指導しました。元々野球が大好きで意識の高い子です。そういう所も一生懸命です。

そして、先日高校野球も3年間主力として活躍し、夏の予選まで故障することなく頑張ることができました。

その子が昨日うちに来たので「肘はどうだい?」と聞いたら「全然大丈夫です」と・・・
「手術やらなくて本当によかったです!」と言ってくれた。

「あの時メスを入れてたら、あの強肩は無くなってたね・・・まあよく自分でも手入れして頑張ったからだよ!」という会話を交わし「今度ウチの草野球チームに入れよな〜」とスカウトしました。

お母さんも、前に偶然会ったとき「尾花さん!本当に良かったです。ありがとうございました」と言ってくれました。
「自分の子供ならやらせない!と言われたとき、尾花さんを信じることにしました」と言ってくれて嬉しかったです。

そう・・・・医者も我々もアプローチが違うだけで、どちらが正解かは判りません。
もしかしたら手術をしても同じようなパフォーマンスが出来るかもしれません。
しかし・・・セカンドオピニオンは大切です。
有名な病院だからとか、名前の売れた先生だからという理由だけで全てを決めてしまうのは危ない発想だと思います。

私のところにも野球の関係もあって、野球肘の選手は多く来院します。
勿論、その中にはそういう事も考えなくてはいけない選手もいることも事実です。
しかし・・・9割の小中高生は慌ててメスを入れる必要はありません。

野球選手である以上、必ず肩肘の問題は付いて回ります。
そして、それに対する選手、父兄の意識が低いことに危機感を覚えます。

厳しい事をいいますが、肘が痛い・・・・ちょっと治療に来る、忙しいから続けて治療に来ない、痛くなった時だけ「なんとかしてくれ」と来る・・・・これで治るはずがありません。もっと厳しい事を云うと、それをどうにかしろと言われても治療が完結しないのでどこに行っても治りません。

いま、投げ過ぎの問題、投球間隔の問題が甲子園での熱戦から注目されています。

それもあるでしょう・・・・しかし・・・学童や中学の野球において肩肘を壊すのはもっと違うところに問題があります。だから手術をしても問題が解決されない限りまた再発します。

南光の絶対的なキャプテンだった「カンセー」も学童の時に肘を壊しました。
次の代のキャプテンだった「レンヤ」もそうでした。

元々、「きっと壊すよ」と言っていた二人でしたが、壊すまではなかなかフォームも意識も変えづらいものです。

この二人も、投球フォームの見直しを行い、リハビリをしっかりやった結果、肘の痛みの再発も無く、むしろ球速が上がり、球のキレが増し、今では二人とも投手をやっていると言います。

しかも意識の高い「カンセー」は今でも必ず肘の状態を見せに来てチェックを欠かしません。
昔からですが、本当に意識の高い子です。


脱線しましたが、高校野球を全力で全うしたこの子が「本当に良かったです!」と言われたとき、あの時の光景がハッキリと頭に出てきました。

私が何かをしたわけではなく、普通の子と同じように治療しただけ、特別な事をしたわけではないのですが、
この子の意識の高さが野球肘を克服してくれました。

ああ・・・本当に嬉しかったなあ・・・

そして、こんなにたくましくなったんだなあ・・・と
そして・・・・だから自分もそれだけジジイになったんだなあ・・・と
思いました。

こちらから本当にありがとうと言いたいくらいです。

ノスタルジーに耽ったオッサンの独り言でした。

ではでは・・・