自分だったら絶対にやらないようなことでも、他人の作品では見かけたりすることはよくあります。そういうものに対して単純に批判するのではなく、自分の作品の中に取り込むことでなにかの化学反応が起きる可能性もあるわけで、そういう視点での考察も必要なのではないかと考えています。

空挺ドラゴンズjpg


今回、「空挺ドラゴンズ」という作品で、僕では思いつかなかったような設定がたくさん出てきたので、ここでまとめてみようと思っています。まあ、ディスることで何かが生まれるわけではありませんから、あくまでも考察のための材料として扱おうと思っています。


まず、気になったのは「全員が仲良し」

3人以上の集まりであれば、仲良し度の温度差は必ず出てくるもので、それが原因でコミュニケーションがうまくゆかなくなったりするのはドラマの基本というより、生活をする上での基礎知識のレベルだと思っています。同様に、ひとつの組織の中で不仲な関係ができてしまうのは、人間の感情としては当然起きてしまうことだというのが僕の考えです。

ストーリーの中に「グループ」を作るのであれば、当然不仲な間柄という設定をキャラの中に織り込んでおくのは常套手段とおもわれるのですが、この作品にはそれがなくてドラマの盛り上がりにかけるのではないかというのが僕の感想です。

設定を完璧にしてしまうと「ドラマ」が起こらないので、どこかに「抜け」を作っておく必要はあるはずで、「そういう関係」というグループをあえて作ろうとしたのかもしれませんね。外部に敵がいるストーリーでは「仲間」という強い結束を強調するという意味の設定はアニメではよくあるものだと思っています。ただ、この作品ではどこかに敵がいるわけではないので、そういう「仲良し設定」が目立ってしまい、ある意味不思議な雰囲気を作っています。

余談ですが、僕は韓流ドラマに出てくる「意地の悪い女の人」が苦手で、あまり韓流ドラマを観ない理由なのですが、そういった消費者側の嗜好というのもあるのかもしれませんね。

「龍捕り」という職業が「命がけの危険な職種で~」という設定になっていますが、そこから導かれるキャラ設定ではアニメとして視聴者(原作は漫画なので読者)からの共感を得にくいキャラが出来上がってしまうので、色々と試行錯誤を重ねた結果のキャラ設定なのではという推測もできるのです。


「龍の生態が謎すぎる」のも気になります。

「龍捕り」という職業が成り立つ以上、ある程度獲物についての知識が必要になると思われるのですが、ほとんどが「謎」の生物として扱われているのも違和感があります。

本作が「ジブリ作品」の影響を受けているのではと感じた方も多いと思います。ナウシカに出てくる蟲たちが神々しい雰囲気を持っていて、そのエッセンスを取り込もうとしたのかもしれません。ただ、ナウシカの場合は、人間側から蟲に近づこうと積極的に動くことはなく、それが生態がわからない理由になっていたのですが、龍を捕まえることを生業とするのであれば、知識は多過ぎて困るということはないわけで、そのあたりの線引が僕と合わなかった可能性もあります。

その神々しいはずの龍を「食べたら美味しい」というミカの存在がこの作品の目玉になっていたのかもしれませんが、僕の中ではうまくまとめきれていないように感じました。原作ではもう少し違ったアプローチ(声優さんのキャラ作りも含めて)になっていたかもしれません。ここはぜひ、ミカと対立するキャラを作っておいてその行為を否定するという流れを作っておいてほしかったところです。

タキタが龍の赤ちゃんのお母さんを食べてしまったことを気にしていましたが、僕はお母さんから取った油を飲ませたほうがもっと鬼畜の行為だと感じました。どちらにせよその背徳的行為をどういうふうに筋を通すのかの部分は、もっと尺を使って説明するべきだと感じました。


もっとマイナスの面も描いてほしかった

ジャンルとしては「日常系群像劇」が当てはまると思うのですが、それならばもっとグチャグチャした内容にしたほうがドラマとしては盛り上がるんじゃないかというのが僕の考えです。ベタではありますが「恋愛」とか「憎悪」とかの要素は欠かせないのではと思うのです。閉鎖された空間(捕龍船)の中で男女が共同生活をするのですから、そこでのドラマは「恋愛関係」が中心にならないと不自然な気がするのです。

「龍捕り」が荒くれ者の集団という設定なのに、性欲だけは中学生レベルというのも不自然です。ミカが「食欲のために」突拍子もない行動をとるプロットとのバランスを欠いていると言わざるを得ません。


ちゃんと解説してくれないとグダグダに見えてしまう

商人と龍捕りの関係ですが、平等というのはありえなくて「お金を払うほうが上」というのは常識です。それだと龍捕りが圧倒的に不利になってしまうので、「契約」とか「保険」などが生まれることになるのです。交渉役や事務役などのキャラを作っておくのはこのためで、それっぽいキャラがいるのに活躍の場が設けられていないのは残念です。

捕龍船のクルーにも上下関係というか、指揮系統というものが存在するべきです。「命が懸かった仕事」なわけですから、自分だけでなく他人ににも気遣いが必要になってくると思うのです。責任のある行動をとらせるためにもルールは必要で、それを遵守させる権力も存在せねばならなくて、それを表現するにはキャラ同士の力関係を描く必要があるのです。

友達付き合いでワイワイやっていて、新人クルーが船から転落して生死不明になってしまうようなストーリーにしてしまうと、クィン・ザザ号という存在のプロフェッショナルとしてのレベルが問われてしまうように思います。「プロフェッショナルとしての行動は尽くしたけれども…」という前提が欲しかったのですが、それだけのプロットを入れる余裕がなかったのなら、最初の設定にそれを想像させるようなものがあればと思うのです。



結局のところ、あえてそういう設定にしてあるのですから(設定は作者の自由)、そういうファンタジー要素は広げることができるのなら広げたほうが面白いものができるのではと、色々と考えてみたわけです。