音楽をめぐる雑感、音楽研究活動のご案内などを掲載します。
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「ハンス・ロット祭」①川瀬賢太郎&神奈川フィル(2019年2月9日、横浜みなとみらいホール)

ハンス・ロット(Hans Rott, 1858~1884)の交響曲第1番は近年注目度が高まっているが、日本では演奏された回数がまだ非常に少ない作曲家である。同じ1858年に誕生した作曲家としては、プッチーニ(1858~1924)がダントツの有名人というところであろうか。

このハンス・ロットの交響曲第1番が、神奈川フィルとN響のそれぞれの定期でまったく同じ日に演奏され、しかもそれらがマチネとソワレのため移動して両方とも聴けるとあり、クラシック音楽ファンの間では特にSNS上で「ハンス・ロット祭」のハッシュタグまでつけて話題となっていた。

2月9日(土)、関東地方の大雪の予報に怯えながら、まずは横浜みなとみらいホールへ。

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定期演奏会 みなとみらいシリーズ 第347回

指揮/川瀬賢太郎
メゾソプラノ/藤村実穂子

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マーラー/リュッケルトの詩による5つの歌曲
ハンス・ロット/交響曲第1番 ホ長調

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弦は12型。藤村さんのリュッケルト歌曲は、昨年2月のリーダーアーベントの際にヴォルフラム・リーガーのピアノで演奏されたのを聴いている。告知段階では、第4曲と第5曲は「私はこの世から姿を消した」→「真夜中に」の順であったが、当日はそれが入れ替わり、昨年のリーダーアーベントと同一順序となった。すなわち・・・

1.美しさゆえに愛するのなら
2.私の歌を見ないで
3.私は優しい香りを吸い込んだ
4.真夜中に
5.私はこの世から姿を消した

の配列である(タイトルは藤村訳。プログラム冊子の対訳も同じく藤村訳)。川瀬さんのツイートによると、「…そして長らくこの世から忘れられていたHans Rottに繋がります」。なるほど、思わぬ発想だ。そもそもリュッケルト歌曲は個々に作曲された作品群のため、演奏の際に決まった順序はない。

藤村さんの歌唱は、細部まで入念に「計算」された通りに演奏されているのだが、それが「計算」ではなくパーフェクトな「音楽表現」に昇華されて立ち現れるのだ。低音はメゾの安定感と深み、そして高音はソプラノの輝きと透明感に溢れている。

微に入り細を穿ったドイツ語のディクション。あらゆる音に対する母音の変化はもちろん、子音の豊富なこと。例えば "d" が毎回違っている。母音についてはドイツ語を母語とする者も当然研究を積むだろうが、子音に対する意識は母語でない者の方がむしろ高いかもしれないと思った。

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後半のハンス・ロット。川瀬さんの丁寧なスコア読み込みをオケが体現したといえよう。作曲者自身、自らの耳で実音を聴くことなく早世したのは無念であったろう。生で聴いたのは初めてであったが、想像をはるかに超え、エネルギーの凝縮と爆発に心が震えた。

特に第3楽章の粗削りな3拍子は、スコアを正しく汲み取り、リズムの刻みにこだわった点で好感を抱いた。

ただ、確かに難しいとはいえ第1楽章と第2楽章冒頭のアインザッツの不揃いであったこと、強奏の陰で聞こえてきた細かい乱れは残念。また、金管(Hn7, Tp4, Tb3)と木管が際立ってよく聞こえたのに対して弦が弱く、私の席(3階レフト)からは全体のバランスがあまり良いとは言えなかった。

休憩中、舞台上ではハンス・ロットを前に、トライアングル奏者が入念に準備していたのが印象的であった。いやこれは、確かにトライアングル奏者は非常に労力を要する作品である。各種録音だとバランスを調整してあるのだろう、トライアングルが目立つものとそうでないものがある。生だとこれほど際立って聞こえるとは想像していなかった。

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降雪は予報ほどでは酷くなく、交通機関の乱れもなかったおかげで、スムーズに渋谷へ移動。

高関健&シティ・フィル:マーラー「巨人」ほか(2019年2月7日、東京芸術劇場)

20190207高関シティフィル都民芸術フェスティバル~傑作の森~

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

指揮/高関健
ヴァイオリン/山根一仁
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

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若きマーラーとその時代の音楽を追う1週間にしようと思い、7年ぶりとなるシティ・フィルを聴いた。

メンデルスゾーンの協奏曲を弾いた山根さんは、現在ミュンヘンに留学中の若き俊才。冒頭、楽譜にない装飾音がついたかと思うような入りだったが(実は本当に装飾音?)、次第に安定していったと思う。彼は、各フレーズの終わりをノンヴィブラートに近い奏法でのばし、そしてさらりと切る。粘着性のないスッキリした演奏。彼が常にこの奏法なのかわからないが、今回はほぼ終始そのスタイルだったため、ロマン派の抒情性の表現としては好みのわかれるところかもしれない。

IMG_6834 (1)アンコールに弾いたのはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より第1楽章「妄執(オブセッション)」。ジャック・ティボーに献呈され「ディエス・イレ」がモティーフになったこの曲を、山根さんは高い技術力で難なく弾き切った。

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後半のマーラーの1番は、ひと言にまとめるなら、さすがマエストロ高関だけあって楽譜が透けて見えるような演奏だった。マーラーが何を求めたのかを全集版楽譜を通して示してくれたように思う。

今回は、1995年にヴィルケンスによって部分的に改訂注釈のついた版が使われていた。要するに、第3楽章冒頭のコントラバスの主題が独奏ではなく、パート全員によるユニゾンで演奏される版である。最近では、2017年4月のN響定期でファビオ・ルイージが採用したのが記憶に新しい。

また、最初から目を引いたは1名のトロンボーン奏者が本隊とは別に、下手に並んだ8名のホルン奏者とともに着席していたことだ。最終場面でのホルンの立奏の際に、トランペットとトロンボーンを立たせる準備であることは一目瞭然。実際、ホルンの両脇にいたトランペットとトロンボーンは立ち上がって演奏。わざわざ立奏の金管を一か所にまとめておくのを見たのは初めてであった。

全体について申し上げるなら、瑕もあるが丁寧な演奏だった。私の座席の位置のせいか、第1ヴァイオリンがプルトによって時差をもって響いてくるように思えたのが残念。

オーケストラのアンコールがあった。写真にあるように「新ピツィカート・ポルカ」。

マルク・アルブレヒト&新日本フィル定期:ブルックナー5番(2019年2月2日、すみだトリフォニーホール)

IMG_6857#599 トパーズ
ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB 105(ノヴァーク版)
指揮:マルク・アルブレヒト


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マルク・ アルブレヒトはこの作品に対して重厚な音の大伽藍という印象は与えなかった。総じて爽快でクリアな響き、各楽器・各声部の動きの見通しが利く演奏だった。快走を引っ張るアルブレヒト。

新日本フィル公式YouTubeチャンネルで語ったメッセージの中で、アルブレヒトは第4楽章を登山に譬えた。実際にコンサートを聴いたところでは、いわば一歩一歩足元を確かめながらじっくり山を登るのではなく、視野に入る山頂に向かって一気に突き進むといった印象だった。

こだわりが随所に見られた。例えば、テンポ設定や強弱の細かい変化がそれである。

ただ、
オーケストラが弦14型のこじんまりした編成のせいか、弦がよく歌うのは光って聞こえてきた一方で、金管のフレーズメイキングは素っ気なく感じられた。快速テンポだからこそ、各パートの“温度”の均質性を求めることで、推進力はより説得力を増したのではないだろうか。

日本でマルク・アルブレヒトは、N響、新日本フィル、都響を振っているが、私が日本で聴くのは初めてだった。日本で…というのは、私のハンブルク留学時代、彼はゲルト・アルブレヒトがトップにいた国立歌劇場の座付き指揮者として頻繁に登場しており、何度となく観ていたからだ(ゲルト・アルブレヒトとは親族関係でない)。留学前にマルクの父ゲオルゲ・アレクサンダーがN響を振ったマーラーの6番を聴いた直後の渡独だったので、現地ではマルクの指揮ぶりを意識して注目していた。当時新演出の制作が続いていた《指環》はもちろんゲルト・アルブレヒトが振ったが、それ以外のドイツ系の作品(例えば《ヘンゼルとグレーテル》)だけでなく、《ボエーム》などのイタリア物も手堅く振っていた。

今回、終演後にサイン会があったので、プログラムとブルックナーのスコアにサインをしていただくとともに、懐かしくその話をさせていただいた。2世指揮者とはいえ、叩き上げのオペラ指揮者であり、コンサートでは後期ロマン派をレパートリーの中心に置いているので、これからも注目していきたい。

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昨年来、ツイートしただけで、ブログ記事を作成するに至らないメモが下書きにたくさん残っている状態である。順不同にはなっても、折を見て少しずつ整えていきたいと思う。

【ご報告】「音楽でエンジョイする人生―プロに学ぶときめき術―」第1回吉井實行さん(2018年5月19日)

だいぶ時間が経ってしまいましたが、少しずつおさらいをさせていただきます。

聖徳大学オープン・アカデミー(SOA)の春学期講座において、「音楽でエンジョイする人生―プロに学ぶときめき術―」と題し、全5回のオムニバス形式によるレクチャーシリーズを開催しました。

第1回「オーケストラの演奏会へでかけてみませんか?」(講師:吉井 實行)

第1回は5月19日(土)、日本オーケストラ連盟専務理事 吉井實行さんによる「オーケストラの演奏会へでかけてみませんか?」でした。お出かけくださった皆様、どうもありがとうございました! 吉井さんにも心より感謝しております。

吉井さん

「あのオケのこんなコンサートが・・」というありきたりなオススメではなく、日本のオーケストラの歴史を紐解きながら、日本と欧米の民族性からくる音楽受容の傾向、それを踏まえた日本のオケのプログラミングの実態、アジアにおけるオーケストラの実力向上の舞台裏など、約半世紀をオーケストラ事務局で過ごされたご経験に裏打ちされた興味深いお話を伺うことができました。

講座全景

講座アップ

配布されたオケ連関係の資料を、受講された皆さんはお帰りになってからも眺めていらっしゃるのではないでしょうか。

配付資料

時間の関係で、多くの質疑応答の時間が取れませんでしたが、終了後も残って熱心に質問してくださっている方々がおいでになり、とてもうれしく思いました。

山本全景

海にきらめく珠玉のチャリティガラコンサート16(2018年7月16日、東京藝術大学奏楽堂)

ギルバートと都響のスペシャルコンサートのあと上野へ移動し、藝大奏楽堂で恒例となった海の日のチャリティガラコンサート。日声協の歌手たちを中心に、オペラアリアを第1部と第3部に、合唱を第2部に配した3時間にわたるコンサートだ。

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今回初めてお声を拝聴した方々とひと口感想。

・藤井冴さん(ソプラノ) ほぼパーフェクト
・山下裕賀さん(メゾソプラノ) 声質も表現も素晴らしいメゾ
・醍醐園佳さん(ソプラノ) 伸びやかな声、高音の更なる広がりに期待
・三戸大久さん(バス・バリトン) 堂々たるテ・デウム、小回りの利く曲もお得意にしてほしい
・城宏憲さん(テノール) 芯がはっきりしていながら、優美で伸びやかな声
・大隅智佳子さん(ソプラノ) ストレートで好感の持てる声と表現

長く日本の声楽界を支えてきた大ベテランの面々も、さすがという味を聞かせてくださった。

恒例により、《ナブッコ》から「行け、我が想いよ、金色の翼に載って」で締めくくられたコンサート、今年の収益余剰金は社会福祉法人 読売光と愛の事業団を通じて、東日本大震災と熊本地震、そして大きな被害が出たばかりの西日本豪雨のために寄付されるそうだ。

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