国民すべてが何らかの医療保険にはいって病気やケガをした場合に医療給付を受けられる制度のことを国民皆保険制度といいます。
日本の場合、1955年(昭和30年)ごろまでは農業や自営業者、零細企業の従業員などを中心として国民の3分の1に当たる約3000万人が無保険者でした。
これが社会問題になり、58年には国民健康保険法が制定され、61年には全国の市町村で国民健康保険事業が始まったことで「誰もが」、「いつでも」、「どこでも」医療保険を受けられる国民皆保険制度が始まりました。
今では、この「国民皆保険制度」を水や空気のように当たり前にように私たちは感じていますが、米国などは先進国でありながらも国民の6人に1人が医療保険に加入できず、まともな医療を受けられない国もあるのです。
健康保険証1枚あればいつでも、どこでも、誰でもが医療機関にかかれる国民皆保険制度は日本が世界に誇れる宝といってよいと思います。

「非関税障壁」と看做される国民皆保険制度、および混合診療解禁のもたらすもの!
さて、「自由貿易の促進」を名目に野田内閣はTPP交渉への参加を急いで決定しようとしていますが、TPPにはいると、すべての関税の撤廃が求められると同時に「非関税障壁」の撤廃が求められることはあまり知られていません。
関税があると値段が高くなって品物が売れませんが、これが日本に品物を売り込みたい人にとっては「障壁」つまり邪魔とみなされます。
そして、商売の邪魔になるものとして、この「関税障壁」以外に「非関税障壁」と呼ばれるものがあるのです。
例えば、米国の保険会社が「健康保険」という商品を日本に売り込みたい場合、日本には国民皆保険制度があって会社員とその家族は「社会保険」に、自営業や農業者は「国民健康保険」に加入しています。
それゆえ、これ以上健康保険など必要ないという人がほとんどです。
だから、これは米国の保険会社にとって商売の邪魔となり、国民皆保険制度が「非関税障壁」と看做される理由になります。
むしろ、TPPの狙いは農業分野よりも35兆円を超える日本の医療市場であり、医療保険の開放がその真の狙いであるといってよいでしょう。
そして、その具体的な第一歩が混合診療の解禁です。
これは保険診療と自由診療の併用を認めることであり、皆保険枠と自由診療枠の二本立て医療となることを意味しています。
これまでは、すぐれた治療法や薬が開発され、その有用性が認められれば保険診療の対象となってきましたが、混合診療が解禁になればそれはなくなります。
そんなことをしたら、保険会社が保険を組めなくなり、「非関税障壁」と指摘されるからです。

さて、医学の進歩は早く、新しい治療法や新薬はどんどん開発されていくでしょうが、それにともない混合診療枠が拡大していき、高度な医療を受けられるのは高い民間の医療保険に入れる金持ちだけとなり、庶民には保険の効く「古くてあまり効かない薬」だけが残されることになっていくでしょう。
そして、もうけ第一の資本主義の論理が医療界に入り込み、医師などのいわゆる「医療資源」は利益が出て、高い報酬が約束される分野に流れ込んでいきます。
その結果として、もうけの薄い農山村や救急医療などでは現在以上の医師不足がおこるでしょう。
行き着くところは地域医療の崩壊であり、国民皆保険制度の崩壊です。
医療分野の問題点から考えてもTPPへの加入は認められるものではありません。

追記
もし、混合診療が25年前に導入されていたら?

25年前は今では一般的におこなわれているMRIやCTもなく、尿道結石を超音波で破壊する医療も保険の対象ではありませんでした。
また、心臓の冠動脈が詰まると、今はカテーテルで血栓を除去し、患者は次の日には退院していますが、この頃は開胸手術しかありませんでした。
さて、これらの治療法は今ではすべてが保険適用となっていますが、もし25年前に混合診療が導入されていたら、これらはすべて保険の効かない治療となっていたでしょう。
そして、お金のない庶民はMRIやCT、心臓カテーテルなどの治療方法の恩恵にあずかれず、所得によって受けられる医療の格差は大きなものになっていたに違いありません。
これからの医学の進歩を考えると混合診療の導入による医療格差の増大は想像以上に大きなものなっていくことが想定されます。