Global IBIS最新ビジネスコラム Vol.11
~集光型太陽光発電システムの将来性~
2012/3/30
先日、東京電力が定期検査のため柏崎刈羽原発6号機の発電を停止したことで、東電の原発17基の運転が完全に停止しました。福島第一原発事故の影響により、国内54基の原子力発電所で2012年3月末時点稼働しているのは、北海道電力泊原発3号機1基のみとなり、今夏の全国的な電力不足がすでに懸念されています。また、そもそも原発の安全性に大きな疑問が唱えられたことから、原子力に頼らない電力の確保が全世界的な課題となっています。
このような議論で必ずと言っていいほど出てくるキーワードが「太陽光発電」です。近年の技術革新のスピード、市場競争の激化という点では、他に比類ない分野ではないでしょうか。太陽光発電に関連する企業は現在、エネルギー変換効率の向上と生産コストの低減という大きな課題に直面し、果敢に開発競争を繰り広げています。
そんな中、昨年ごろからにわかに注目を集めている太陽光発電システムがあります。それが今回のコラムのテーマである「集光型太陽光発電システム(CPV:Concentrating Photo Voltaic system)です。
太陽光発電システムと言えば、黒い平面ガラスが空に向かってたくさん設置されている光景を思い浮かべる方が多いと思いますが、このCPVは少し趣きが異なります。簡単に言うと、レンズによって太陽光を集中させ、より効率よく発電する、というシステムです。透明な凸レンズが一つのパネルにいくつも並んでおり、見た目はスタジアムの照明に少し似ています。
現在、米国のアモニクスや日本の大同特殊鋼など数社がCPVを製造しており、公的研究機関や国との共同の実証実験をおこない、徐々に実際の発電現場にも採用されつつあります。
このうち、世界シェアの70%を占めると言われているのが米国アモニクスです。2011年10月には、同社のCPV84基が、北米最大の集光型太陽光発電所である「ハッチ・ソーラー・センター」(ニューメキシコ州ハッチ)に設置され、試運転を開始しました。
一方、日本勢も徐々にその存在感をあらわしています。たとえば、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)はEUと共同でセル変換効率45%以上を目指した集光型太陽電池の開発に着手していますし、産総研太陽光発電研究センターもNREL(米国国立再生可能エネルギー研究所)と日米両国で同一のCPVを使った実証実験を2011年1月より5年間の予定で開始しています。
日本の主力メーカーである大同特殊鋼によると、CPVの一番のメリットは太陽電池の数を減らすことができる点にあります。一つのレンズが太陽光を550倍に集光して発電素子(セル)に照射するため、理論上はセルを550分の1に減らすことができます。太陽光発電システムでもっとも低コスト化が難しい発電素子を減らすことで全体的な発電コストを削減することができるのです。これにより、政府の補助がなくても、原子力や石炭エネルギーなどとコスト競争ができる可能性があります。
また、太陽光を追尾することができるため、真夏の消費電力のピーク時でも十分な電力を供給できます。この追尾の動力は電力ですが、「スイッチを一日オンにしていても蛍光灯1本程度の消費電力」(大同特殊鋼担当者)で済みます。
このように、CPVはまさに夢のようなエネルギーシステムですが、実はひとつ問題があります。直達光の強さに比例して発電能力が上がるという特性から、雨が多く、また日光の強さもそれほどではない日本の気候条件には向かないとする意見があるのです。
では、どのような地域に向いているかというと、直達日射が強く、ほぼ晴天という気候条件の地域です。たとえば、砂漠地帯では非常に有望な発電システムと言われています。また、南欧の沿岸地域やアメリカの中西部などもCPV発電所の有力な候補地となります。
現在、日本では集光レンズや多接合型高効率セルといった様々な技術分野でCPV向け製品の開発がおこなわれています。たとえば、日本のクラレでは集光レンズの開発を進め、米国アモニクスに提供しています。また、大同特殊鋼ではさらなる効率向上を目指して豊田工業大学と共同研究を進めています。
CPVが将来、エネルギーシステムの要となるか否かは、日本企業の技術開発にかかっていると言っても過言ではないでしょう。逆に言えば、CPVは日本の高い技術力を海外に輸出する大きなチャンスを秘めているのです。