1.カンボジアの電力事情

インドシナ半島の中央に位置するカンボジアは、タイ、ベトナム、ラオスと隣接し、大河メコンと東南アジア最大の湖トンレサップ湖の自然の恵みに支えられている。アンコールワットをはじめとしたかつてインドシナ半島を支配したアンコール王朝の栄華をしのばせる数々の貴重な遺跡群は世界遺産としても知られている。

 

1953年、カンボジアはフランス統治から独立し、半世紀にも及ぶ混乱期を乗り越え、目覚ましい復興を遂げてきた。しかし、基本的なインフラ改善の面では近隣諸国に比べるとまだ十分なレベルには達していない。

 

現在、カンボジア電力公社(EDC)がカンボジア国内全土の基幹発送電、給配電を担っている。また、電気事業法で定められている義務を実行する独立規制機関としてカンボジア電力庁が設置されている。

 

カンボジア政府は国内外からの投資誘致のために、長期法人税免除をはじめ、投資保証(多国間・二国間投資協定)、特定事業の関税免除等といった投資環境整備を行ってきた。その結果、主要都市では近年の政治的安定、有利な投資政策、非熟練労働力供給等の好条件を背景に、エネルギー供給が十分でない環境下でも外国直接投資(FDI)の誘致に成功している。

 

近年続く持続的な経済成長の結果、都市住民の生活水準は劇的に向上し、人口も社会経済の安定を背景に持続的に増加している。こういった生活水準向上に伴う電力への急速な需要拡大によって、ピーク時の電力需要は発電能力を大きく上回る。このため、政府のエネルギーインフラ開発の推進活動にも関わらず、カンボジア電力供給公社(EDC)の電力網では停電が多発していた。

 

2007年末における電力供給は、一般事業者による卸電力事業IPPIndependent Power Producer)からの購入電力量が全体の85%を占め、カンボジア電力供給公社(EDC)所有の発電所での発電電力量は全体の13%に留まり、残りはタイ、ベトナムからの電力輸入で賄っていた。

 

しかしながら、1998 年と比較すると、電力供給は、都市供給電力に加え、発電機、バッテリーの活用により40ポイント以上の増となっており、大幅に改善されつつある。

カンボジア国民は、不規則に起こる停電を前提に生活が組み立てられており、停電になっても特にあわてることはない。各家庭では夜中の停電に備えてどこの家にもロウソクとライターが常備されており、充電式のランタンもかなり普及している。

 

2.電力供給源としての発電機

カンボジアの首都プノンペンの一般家庭では、停電時間の減少により自家発電機の使用頻度は低下している。現在、プノンペンにおいて自家発電機は、富裕層向けの停電対策、あるいは農業用として販売されている。農業用としての発電機は、放水、ポンプ、送風等のモータと組み合わされて利用される。

20115月、カンボジア首都プノンペンの発電機販売店4店を訪問し発電機に関するインタビューを実施した。以下は、プノンペンの発電機販売店4店舗の販売状況の一例である。

発電機販売店別販売状況の一例

販売店еᰀ

所在地еᴀ

ブランド名˜Ḁ販売会社名˜ἀ

1ℓ
あたりの発電時間[1]ハツデンジカン[1] [1] 



小売価格е
耀
Tang KimChhay
е
耀10 kVA
е
10kVA、組立型

е␀
6 kVA、組立型

 


原産国

1ℓあたりの発電時間

機能

販売価格($

Tang KimChhay

Sangkat Ou Reus Sey III

Shing Hai

中国

1.5

10 kVA

1,000

Tae Chean

Sangkat Stat Chas

Chang Wang

中国

1.5

10kVA、組立型*

880

Tokuta

中国

1.5

6 kVA、組立型

680

Chhin Sokly

Sangkat Phsar Thmey

Kubota

中国

1.5

10kVA、組立型

980

Honda

日本

タイ製)

12

5.5kVA(可搬型発電機ディーゼルセット 及びバッテリー充電機能)

900

Yanmar

中国

12

5kVA、可搬型発電機ディーゼルセット

700

Yokohama

日本中国製)

1.5

6kVA、可搬型発電機ディーゼルセット

450

Tota

中国

12

5kVA、可搬型発電機ディーゼルセット

600

Khang SeangLy

(Yang Dong の販売権を持つ)

3rd Branch: Sangkat Stat Chas

Yang Dong

中国

1

5kVA、可搬型発電機ディーゼルセット

600

Yang Dong

中国

1

15kVA,可搬型発電機ディーゼルセット、約1.2m ×2.2m

2,700

Yang Dong

中国

1

10kVA、組立型

980

*組立型とは、発電機+発電機用ダイナモ、排水用、放水用、排風用といった各種モータとの組み合わせ

 

プノンペンSangkat Stat Chasの発電機販売店Tae Cheanの販売員によると、現在カンボジアで販売されている発電機のほとんどは中国から輸入されているという。同氏によると、中国製発電機は故障しがちで、燃費が悪く、日本製発電機より明らかに品質が劣っているが、販売価格の面で、日本製品は中国製品の23倍と高価であり、中国製発電機の方へ人気が集中するとのことである。

 

一般的に5 kVA - 10 kVA (50Hz)タイプの発電機のニーズが高いという。また、可搬型発電機ディーゼルセットは、発電機と各種モータの組合せタイプより雑音が少なく、燃料消耗も少ないとのことである。

 

Sangkat Phsar Thmeyの発電機販売店Chhin Soklyの販売員によると、首都の停電回数や停電時間の減少に伴い、一般家庭での発電機使用が減少を続けているが、一方で、事務用、ホテル用、商店用などの発電機の使用は加速度的に増加しているという。

 

確認のため、プノンペン市内の5つ星ホテル2カ所、星なしのホテル1カ所、および商用ビルを訪問し、発電機の保有状況に関してインタビューを実施した。以下は、訪問先のホテルおよび商用ビルの発電機使用状況である。

 

ホテルおよび商用ビルの発電機使用状況例

ホテル名

形態

所在地

発電機管理

ブランド名

メーカー国

導入時期

導入費用($

電力/出力など性能

Phnom Penh Hotel

5つ星ホテル

near Kalamaet Hospita, Phnom Penh

ホテルエンジニア

CUMMIN

英国

営業開始時

120,000

1,200kVA100-200Liter/Hour

CUMMIN

英国

営業開始時

120,000

1200kVA100-200Liter/Hour

Sunway Hotel

5つ星ホテル(全403室)

near Wat Phnom, Phnom Penh

外注委託

Yamaha

日本

営業開始時

不明

1000kVA95Liter/hour

Yamaha

日本

営業開始時

不明

1000kVA95Liter/hour

Mekong View River Condo

星なし(全128室)

Phnom Penh

ホテルエンジニア

PERKINS, GET POWER

英国(インド製)

レンタル

300$/

150 kVA30Liter/Hour

Canadia Office Building

32階建て

Phnom Penh

ビル運営会社

CAT

米国

営業開始時

200,000

1600 kVA150Liter/Hour

CAT

米国

営業開始時

200,000

1600 kVA150Liter/Hour

CAT

米国

営業開始時

200,000

1600 kVA150Liter/Hour

CAT

米国

営業開始時

200,000

1600 kVA150Liter/Hour

 

 

プノンペンの5つ星ホテルPhnom Penh Hotelは、英国ブランドCUMMINの大型発電機2台を保有している。同ホテルエンジニアMr. Srong氏によると、同ホテルには4人のエンジニアがおり、ホテル内で使用する発電機や電気製品の操作および修理を担当しているという。同ホテルの発電機は、停電時、ホテル内のロビー、廊下、およびカウンターなど大型エアコンの供給専用として設置されているが、停電の減少により発電機の使用頻度も減少している。これに加え、発電機からの騒音対策のため、ホテル裏遠方に設置していることによる操作性の不便さや、燃料費も問題化しており、さらに発電機の使用頻度が減少しているという。

 

星なしのホテルMekong View River Condoでは、月間使用料300$で英国のPERKINS, GET POWERブランド(インド製)発電機をレンタル使用している。同ホテルでは、停電時に使用中の部屋のみに電力を供給しているという。

 

Canadia Bank Heard Office Building は、32階建てのカナディア銀行の本社ビルである。米国ブランドCATの自家発電機を導入している。導入費用は、200,000$と訪問した中では、最も高額であった。同ビルでは、停電時に発電機を使用してビル全体に電力を供給するとのことである。

 

現在、カンボジアの首都プノンペンに限定すると、電気供給能力は格段に向上し、停電回数と停電時間が激減している。これにより、プノンペンの一般家庭はもちろん、ホテルにおいても発電機の使用頻度は低下傾向を示していると言える。

 

 

3.アンコールワット遺跡のある街「シュムリアップ」における発電機需要

カンボジア人口センサス(国勢調査)によると、都市部では、電力供給は「都市供給電力」が82.5%と8割を超えている。一方、郡部では、電力供給は「都市供給電力」が9.3%と1割程度にすぎない。

 

カンボジアでは、全国人口の約15%を占めるに過ぎない都市部の電力消費量が全国の電力消費量の約90%強を占めている。特に、プノンペン首都圏地域の電力消費量は全国の80%強で、近年の年20%を越える。電力需要の伸びは、このプノンペン地域の旺盛な電力需要の伸びに起因している。世帯電化率は都市部60%、地方部12%程度で、全国平均で約20%である。都市部と郡部との間に、大きな格差が生じている。

 

カンボジアのシェムリアップ州の州都シュムリアップは、アンコールワットを中心に街全体を上げて観光地化に取り組み、現在では超高級ホテルが建ち並ぶ観光地である。

 

2006年現在において、ホテルは1つ星から5つ星まで全部で91あり、ゲストハウス178、レストランはホテル内のものを除き、大小合わせて93存在する。ナイトマーケットもあり、観光客で朝の5時まで賑わっている。そうした様々な施設があることによって、2006年には内外の観光客約140万人を受け入れた。そのうち、海外からは90万人で、アジアからは主に日本、 韓国、そして中国から多く訪れている。

 

シュムリアップ市内は、外資系の超高級ホテルやコンビニ、ネットカフェ、両替商、カンボジアの民族ダンスが見られる高級レストランや外国人対象のレストランが並ぶ。しかし、市街地から数キロ離れると、道は舗装されず電気も水もない地域が存在する。

 

ホテルは、電気の供給不安から、各自発電機を備え自家発電に頼らなければならない。現在、電力供給は、プノンペンに集中しているため、郡部ではホテル用をはじめとした商業用の発電機の使用が加速度的に増加している。前述の、Sangkat Phsar Thmeyの発電機販売店Chhin Soklyの販売員の言う、事務用、ホテル用、商店用などの発電機の使用増は、郡部の需要を指しているのだろう。

 

カンボジア政府は、遺跡保護と観光客の更なる誘致のため、シェムリアップから約60kmの場所に空港を移転拡張する計画を立てているという。これにより、シュムリアップを訪れる観光客数の増大は容易に想像できる。未だ電気供給が十分とはいえないシュムリアップにとって、発電機は必要不可欠であり、その需要増は間違いないと見られる。