1.鍼灸治療の変遷

鍼灸治療は、古代中国の石器時代(BC100004000年)までさかのぼる。当時は、石で造られた石針(ヘイ石刀:34cm細く鋭く研いた石刀)を患部に刺したり当てあてたりすることにより、排膿や瀉血を行っていたといわれている。その後、動物の骨で造られた「骨針」、竹で造られた「竹針」、陶器の破片でできた「陶針」などへ変化していく。

 

鍼灸治療が西洋で用いられるようになったのは1819世紀初頭である。ドイツでは、1970年代頃から本格的に導入されており、鍼灸治療はドイツの医学には欠かせない重要な医療のひとつとなっている。

 

鍼灸治療は欧米では代替医療に分類されており、 「毫鍼(ごうしん)」または「微鍼」と呼ばれるステンレス・銀・金などによって作られた細い針を用いる外科的でない技術であると考えられている。欧米では”Acupunctura” と呼ばれており、英語では”Acupuncture”、フランス語では”Acuponcture”、ドイツ語では”Akupunktur”という語が用いられている。

 

ドイツで鍼灸針治療を行うには、Ärzte医師)あるいはH e i l p r a k t i k e rハイルプラティカー:自然療法士)と呼ばれる針治療などの補完代替医療(CAM)を行う国家資格を必要とする。

 

H e i l p r a k t i k e rはドイツのみに存在する制度である。これは、1939年にナチスドイツによって「治療の自由」の廃止を目的として制定された。独立開業権が認められ、鍼灸治療だけではなく、ホメオパシー、神経セラピー、オゾン・酸素療法など各種自然療法を行うことが許可される。

 

患者の症状に対し、実施可能な治療オプションの中より、各々で治療法を選択するという治療が行われる。針治療はその内の選択肢の一つであり、全てのH e i l p r a k t i k e rが針治療を実施しているわけではない。H e i l p r a k t i k e rは非常に技術的なレベルが高く、体質改善、慢性病、疾病の予防の面で優れていると言われている。

 

H e i l p r a k t i k e rの国家資格を取得するには、以下条件の証明が必要である。

25歳以上であること

・最低学歴がHauptschuleであること(日本の中学卒業に相当する)

・犯罪歴がないこと

・感染症、中毒症がないこと

・外国人の場合、ドイツでのビザが必要

 

2008年度現在、ドイツにおいて針治療を行う医師が所属する大手団体「DÄGfA(Deutsche Ärztegesellschaft für Akupunktur)ドイツ鍼医師協会」には、約10,000 名が所属している。ドイツの医師数は、2005年現在で306435人(歯科医などは除く)であり、DÄGfAでは、ドイツに20,00030,000 人の医師が針治療に従事しているとしている。

2.鍼灸針

鍼灸治療に使用する針は、「毫鍼(ごうしん)」または「微鍼」と呼ばれるステンレス・銀・金などによって作られた細い針(鍼)である。鍼灸針は、長さや太さが異なる様々なタイプがあり、国によって長さや太さによる単位は異なっている。ドイツでは長さをメートル法やヤード・ポンド法で、太さをφとメートル法で表す。

 

鍼灸針は、治療の目的に合わせて使いわけられる。

①金鍼

「金鍼」は、金を含んでおり刺入時の痛みが少なく、柔軟性や弾力性が高い上に腐食しにくい。ただし、高価であり、耐久性に劣る。

 

②銀鍼

「銀鍼」は銀素材である。「金鍼」と同様に柔軟性や弾力性があり、刺入時の痛みも少ない。金鍼に比べると安価である。但し、酸化しやすくまた腐食しやすいため耐久性に劣る。

 

③ステンレス鍼

「ステンレス鍼」、鉄にクロムやニッケルを混合させた材質から成る。安価で錆びや腐食に強く、折れにくい。しかし、刺入時に痛みが発生しやすく、他の種類の鍼と比較し、柔軟性や弾力性に欠ける。

 

現在、安全面と安価な面でステンレスのディスポーザブル(使い捨て)針が多く使われている。また、ディスポーザブルでない場合もステンレス鍼が多く使われている。ステンレス鍼使用の場合は、オートクレーブ*による消毒の徹底が必要である。ディスポーザブル鍼灸針は、1箇所に1本の針を使用することになっているので、非常に多数の針が消費される。

*高温高圧の飽和水蒸気による滅菌(オートクレーブ滅菌、高圧蒸気滅菌)処理のための装置(高圧蒸気滅菌器)、あるいはその処理のこと

 

3.ドイツ鍼灸針市場への参入企業

現在、ドイツの鍼灸針市場に参入している主な企業として、 日本のセイリン株式会社、ドイツの国内メーカーMoxom Acupuncture GmbHそして中国の鍼灸針メーカーHWATOが挙げられる。

 

1)セイリン株式会社

1978年、セイリン株式会社は世界に先駆けてディスポーザブル鍼灸針を開発・発売した。同社は、20年以上にわたりドイツの販売代理店3B Scientific GmbHを通し、ドイツを中心に、 欧州諸国へディスポーザブル鍼灸針の輸出を行っている。2010年現在において、同社がこれまでに生産した針は40億本、日産100万本以上にのぼる。

 

セイリン株式会社の各種製品はドイツにおいても高い評価を得ている。これは、現在までに以下の4つの「世界初」を実現したことによる。

・世界で初めて」針治療用ディスポーザブル鍼灸針を開発・製造・販売

・世界で初めて」髪の毛程度の太さ0.12mmの針の提供

・世界で初めて」0.6mmという短い針の提供

・「世界で初めて」金属製鍼柄とプラスチック製鍼管の溶着技術開発

 

セイリン株式会社製品のSEIRIN B-Typは、高品質特殊銅によるステンレス銅で造られており、先端は三重層のシリコンで覆われているため、皮膚に針を刺す瞬間刺激が少ない。また、針の硬さとサイズも豊富で、環境にやさしいポリプロピレンを使用している。

 

2)Moxom Acupuncture GmbH

Moxom Acupuncture GmbHは、ドイツ東部Gräfenhainichenグレーフェンハイニッヒェン)に本社を置くドイツ国内企業である。同社では、ドイツ国内だけではなく、世界各国へ輸出している。

 

Moxom Acupuncture GmbHの鍼灸針の特徴は、高精度に保たれた針先の輪郭やミクロ単位に磨かれた鍼表面である。

 

moxom PL-Xタイプは、指でつまみやすいように鍼柄がプラスチック製に加工され、針のサイズを識別できるように様々な色で区別されている。製品価格は100本入りで7.74€である。 moxom CO-Xタイプは鍼柄がコイル状の形体となっており、銅製に加工されている。 刺入時の痛みが少ないことが特徴のひとつである。 moxom CO-Xタイプの価格は100本入りで7.74€である。

 

3) HWATO Deutschland GmbH

HWATOは、中国の鍼灸針メーカーである。同社社名HWATOは、古来中国の有名な医師の名が由来となっている。

 

同社は、ドイツBaden-Württemberg(バーデンヴュルテンベルク)州にドイツ支社HWATO Deutschland GmbHを設立した。HWATOの鍼灸針は中国で生産され、ドイツ支社HWATO Deutschland GmbHをはじめ世界各国に輸出される。

 

HWATO Deutschland GmbHでは直接販売の他、電話注文やインターネットによる通信販売もおこなっている。 ドイツでは、特に金製と銀製の2種類のディスポーザブル鍼灸針の人気が高い。同社製のディスポーザブル鍼灸針は鍼柄がコイル状に造られているため、滑りにくく使いやすい。また、100本入りセットで3.99€と比較的安価である。

 

4.ドイツにおける鍼灸針市場

ドイツの鍼灸治療において使用される鍼灸針の9割はディスポーザブルステンレス針を使用している。これはドイツが医療先進国であり、鍼灸治療時の痛みの軽減やエイズ、C型肺炎などへの感染防止に対する意識が、欧州各国と比較しても非常に強いことによる。

 

また、ドイツでは鍼灸治療を専門とする医療資格H e i l p r a k t i k e rを設けており、欧州の中でも特に鍼灸治療に対する意識は強く、鍼灸針の使用頻度も欧州各国と比較して高いといえる。

 

前述の通り、現在、ドイツの鍼灸針市場に参入している主な企業として、 日本のセイリン株式会社、ドイツの国内メーカーMoxom Acupuncture GmbHそして中国の鍼灸針メーカーHWATOが挙げられる。

 

日本企業のセイリン株式会社は、ドイツ鍼灸針市場シェアの80%を占める。これは、世界に先駆けてディスポーザブル鍼灸針を開発・発売したこと、また、本来ならば痛みが発生しやすいステンレス製の鍼灸針を、同社の最先端技術により極限まで細く仕上げ、患者の痛みへの負担をなくしたことなど、同市場において同社製品の品質性の高さや安全性への信頼を獲得したことによる。

 

中国のHWATOはドイツ支社HWATO Deutschland GmbHを設立し、販売拠点としており、鍼灸針の発祥の地のメーカーとして事業を展開し成長を図っている。ドイツ国内メーカーMoxom Acupuncture GmbHは、会社の歴史も浅く企業全体がまだ小規模である。その他に、 韓国や米国の企業などが電話注文およびインターネットによる通信販売、あるいはインターネット販売限定で割引サービスなどを行っている。

 

しかし、いずれにしても、これらの企業がドイツ鍼灸針市場シェアの大部分を占めるセイリン株式会社を追い抜くにはまだ時間がかかるだろう。また、現在のところ、鍼灸針のテレビコマーシャルや雑誌の広告などによる宣伝は行われておらず、薬局でも店頭販売はほとんど行われていない。このため、ドイツ国民の鍼灸針メーカーに対する認識は薄いといえる。