1.世界のアスベスト市場の概況

アスベスト(石綿は、天然の繊維系酸塩鉱物の総称である。アスベストは、角閃石(かくせんせき)系と蛇紋石系に大別される。角閃石系のアスベスト繊維としては クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アクチノライト(陽起石綿)、トレモライト(透角閃石綿)、アンソフィライト(直閃石綿)の5種類があり、蛇紋石系にはクリソタイル(白石綿) がある。

 

200511、ヨーロッパではアスベストの使用が全面禁止された。日本では19759月に吹き付けアスベストの使用が禁止され、2004年にアスベストを1%以上含む製品の出荷が原則として禁止となり、そして2006年には、アスベストの含有率0.1%以上の製品の出荷が原則として禁止となった。現在、世界の30か国において、種類にかかわらずアスベストの使用が全面的に禁止されている。

 

一方、米国を含む65か国においてはクリソタイルの使用が認められている。例えば、米国では、アスベストを吹き付けた厚紙・波状紙の使用は禁止されているが、それ以外のクリソタイルの使用は認められている。

 

また、中国においても、角閃石系のアスベストの使用は禁止されているが、クリソタイルに関しては使用が認められている。アジアでは、中国市場においてもっとも積極的にアスベストが使用されており、中国では毎年約35万トンのアスベストが生産され、さらに15万トンをロシアとカザフスタンから輸入している。

 

2004年にヨーロッパ共同体とチリがクリソタイルを禁止するという提案をおこなったが、ロシアをはじめとして、ウクライナ、カナダ、キルギス、カザフスタン、イラン、インド、ジンバブウェ、インドネシア、ペルー、イラク、ベラルーシ、及びメキシコの13か国が反対した。

 

クリソタイル協会*よると、クリソタイルは以下のような理由で使用され続けているのだという。

・アスベスト代替品は高価格である(アスベストの3倍以上)。

60年以上前からアスベスト代替品の開発がおこなわれているが、いまだにアスベストと同等の性質を有する代替品が開発されていない。

・アスベスト代替品の製造には相応のコストや技術力が要求されるため、これらに対応する力がなく、アスベストに頼らざるを得ない国も存在する。

・アスベスト代替品の中には、製造過程で環境に悪影響を及ぼす例もある(世界遺産であるバイカル湖を汚染させているセルロース工場など)。

・スウェーデンではアスベスト代替品によるアレルギー症候群が問題になっている。また、ドイツでもアスベスト代替品の製造工場で健康問題が起こっている。

・発展途上国では、コスト面や技術面においてまだアスベスト代替品を使用するだけの力がなく、アスベストを使用することが経済の維持発展に寄与している側面もある。

*クリソタイル協会とはクリソタイル・セメント業界に関連する企業30社以上が加盟する非営利団体で、1997年にロシア連邦中央部のスウェルドロフスク州アスベスト市にて設立された。

 

このように、アスベストは発展途上国にとっては必要不可欠な素材であり、特に前述のとおり屋根用建材に多く使用されている。

2.ロシアのアスベスト市場

ロシアで製造されている建材は、その多くが国内市場向けであり、陶器製のタイルや瀝青建材などの一部が輸出されているに過ぎない(輸出比率は5%から14%)。但し、アスベストを使用した建材は輸出向けが多く、ロシアで生産されるアスベスト建材の約50%が国外に輸出されている。

 

201021日、クリソタイル協会が発表した2009年度のクリソタイル工業に関する統計によると、ロシアでクリソタイルを生産する主要な企業としては、Ураласбест(ウラルアスベスト社、ウラル州)と Оренбургские минералы社(オレンブルグスキーミネラリ社、オレンブルグ州)があり、クリソタイル市場におけるロシアのシェアは60%近くにのぼるという。

 

ロシア以外の国でクリソタイルを生産しているのは中国、カナダ、ブラジルなどである。

 

2009年度において、ロシアは887,779トンのクリソタイルを国内外の市場に供給した。これは前年度の実績を118,221トン下回る数字である。このうち、前年度実績を81,300トン下回る571,720トンが国外に輸出された。主な輸出先としては、中国、ベトナム、タイ、インド、イラン、インドネシアなどである。

 

 

3.ロシアのクリソスタイル市場

ロシアでは、アスベストの安全使用に関する国際労働機関(ILO)協定第162号(1986年)において、鉱物ならびに合成繊維の安全使用に関するILO専門家委員会報告(1989年)で述べられている原則にしたがい、吹き付けアスベストの使用が禁止されている。

 

現在、アスベストの使用が認められている製品は、アスベスト・セメントとアスベスト・セメント管、そしてスレートに限定されている。なお、導管市場におけるアスベスト・セメント管が占める割合は2%以下である、その他は鉄管95%、重合管が3%となっている。

 

ロシアでは角閃石系のアスベストの使用は認められていないものの、蛇紋石系のアスベスト(クリソタイル)は安全な原料として使用が認められており、世界最大規模のクリソタイルの採掘地もある。

 

クリソタイルを使用した主な製品としては、屋根用建材であるスレート(アスベストとセメントを混合した建材)建材が挙げられる。

 

ロシアの屋根用建材市場の素材別シェア分布は、スレート51% (ただし、郊外住宅の建材におけるスレートのシェアは約80%である)、瀝青瓦など 39%、そして金属瓦などが10%となっている。

 

ロシアの屋根用建材市場において、アスベストの代替品としては瀝青瓦のシェアが高いが、近年の石油価格の高騰により、その価格は上昇傾向にある。このため、現時点においては、スレートの人気が最も高い。これは、安価であることに加え、瀝青瓦に比べて耐久性があることも、人気の要因となっている。

 

以下は、屋根用建材の比較一覧である。

 

屋根用建材の比較表

建材類名

利点

欠点

平均価格(USドル)

金属瓦*

 

手頃な価格、外見のよさ、簡単な据え付け、耐火性、耐湿性、耐寒性、軽い

腐食の恐れあり、防音性が低い、避雷針が必要

710$

亜鉛メッキ鉄板

安価、据え付けや修理などが簡単、耐火性、耐寒・耐湿性、軽い

防音性が低い、避雷針が必要

58$

スレート

 

安価、耐久力、据え付けや修理などが簡単、耐火・耐寒・耐湿性、軽い

割れやすい、

防音性が低い、

避雷針が必要

36$

瀝青瓦

 

外見のよさ、色の選択肢があり、敷設する時廃棄物の無い、据え付けや修理など簡単、耐湿性、防音性が高い

温度落差などによって形が崩れる可能性あり、寒冷期での据え付け不可

ロシア製46$、外国製811$

ユーロ

スレート**

 

手頃な価格、軽くて丈夫、据え付けや修理が簡単、環境に優しい、耐寒・耐湿性、色の選択肢あり、外見のよさ

長持ちしない、

温度落差などによって形が崩れる可能性あり

69$

*耐腐食性塗料を塗布した亜鉛めっき鋼板

**ヨーロッパで製造されているアスベストを含まないスレート

 

ロシアにおいて、スレートを製造している主な企業は以下の通りである。

СКАИ社(スカイ社、セブリャコフスク市)

1953年に設立された。50年以上にわたってアスベスト・セメント製品を製造している。ロシア国内と周辺国市場におけるスレートの主要メーカーである。

Белгородасбестоцемент社(ベルゴロドアスベストセメント社、ベルゴロド市)

1992年に設立された。アスベスト・セメント板などを製造している。

Комбинат Красный строитель (コンビナトクラスニーストロイテリ社、ウォスクレセンスク市)

スレートなどの建材を製造している。1929年に設立された。通常のカラースレートである赤・青・茶色の他、ピンク色・カーキ・銀色のスレートを製造しているのが特徴である。

ЛАТО社(ラト社、サランスク市)

1993年に設立された屋根用建材メーカーである。カラースレート(赤・青・茶色)を製造している。

Волна社(ボルナ社、クラスノヤルスク市)

シベリア地方最大のアスベスト・セメント製品のメーカーである。1951年に設立された。6色のスレートを製造している。

 

4.今後の取り組み

空中に飛散したアスベスト繊維(花粉より小さく、直径0.1から1ミクロン、長さ数ミクロン)を肺に吸入すると、約20年から40年の潜伏期間を経た後に肺がんや中皮腫の病気を引き起こす確率が高いため、現在では「静かな時限爆弾」と恐れられている。

 

日本でも1970年代以降の高度成長期にビルの断熱保熱を目的などにアスベストが大量に消費されていたため、その潜伏期間が終わりはじめる21世紀に入ってから、アスベストが原因で発生したと思われる肺ガンや中皮腫による死亡者が増加しており、2040年までにそれらによる死亡者は10万人に上ると予測されている。

 

また、環境省では建築物の解体によるアスベストの排出量が2020年から2040年頃にピークを迎えると予測している。年間10万トン前後のアスベストが排出されると見込まれ、今後の解体にあたって建築物周辺の住民の健康への影響が懸念されている。

 

世界保健機関(WHO)は、世界で12,500万の人々が職場でアスベストに曝露しており、国際労働機関(ILO)は、アスベスト関連の疾病で毎年10万人の労働者が死亡していると推定している。

 

一方、クリソタイルの擁護者らは、安全な使用を行なえば、がんを含むどのような病気をも防ぐことができると主張し、ある人々は中皮腫とはなんら関係がないとすら主張している。

 

ロシア同様、途上国では安い建材への需要に活気がある。2009年には200万トン以上のアスベストが世界で採掘され、その多くは、耐久性、難燃性、安価を特徴とするアスベスト・セメントになり、波形屋根材や導水管用に利用されている。

 

未だにアスベストを使用しているロシアを含む多くの諸国で、実際に何が起きているのかについて、ほとんど分かっていないということが最大の問題と言える。