Global IBIS最新ビジネスコラム Vol.9

~耐震シェルターについて~

2011/11/30

 

「シェルター」というと、みなさんは何を想像されますか? 「核シェルター」、あるいは「ノアの方舟」的な、ある種キワモノを想像される方も多いのではないでしょうか。

 

今回、このコラムで取り上げるのは「耐震シェルター」です。今回は少し提言めいたことを書いてみようと思います。偉そうなことを言いますが、しばしお付き合いをいただければ幸いです。

 

先の東日本大震災では、犠牲者の方の多くが津波によるものでしたが、1995年の阪神・淡路大震災では、古い木造住宅を中心に建物の倒壊とその後の火災によって就寝中の多くの方が命を落としたことはまだ記憶に新しいと思います。しかし、のど元過ぎれば・・・、ではないですが、変化の激しい日常を生きていると、大災害の記憶もつい遠くになりがちで、当時抱いた危機感を持続させるのはなかなか難しいことです。

 

さて、東日本大震災の直後、ニュース報道や新聞・雑誌では、「耐震シェルター」がたびたび取り上げられていました。耐震シェルターとは、既存の住宅の、特に寝室部分を鉄骨などで耐震補強し、住民の安全を確保するというものです。大きく分けて、ベッドを安全空間にするシェルターとひとつの部屋を安全にするシェルターの2種類があります*。設置費用はおおむね30万円前後から200万円ほどと種類によって幅があります。

*出典:東京都耐震ポータルサイトより

URLhttp://www.taishin.metro.tokyo.jp/learn/ploof/04.html

 

ところが最近はあまり報道もされませんし、住宅メーカーやシェルターメーカー(多くは中小規模の建設会社や工務店)が普及に力を入れているといった感じもありません。これとは対照的に、ハイブリッドカーや太陽光パネル、家庭用バックアップ電源の側面も持つEVといった環境・エネルギー分野の新技術や新製品は、政府の支援もあって、国民の認知度が格段に増しています。また、実際かなり普及している製品もあります。しかし、このような製品群にくらべ、耐震シェルターの認知度はいまひとつと言わざるを得ません。

 

冒頭で「キワモノ」と断じてしまいましたが、「核シェルター」に関して言うと、実は欧米では普及率が非常に高く、スイスではほぼ100%、ノルウェーで98%、米国では82%の普及率を誇るそうです*。中でもスイスの高い普及率は、すべての住宅に核シェルターの設置を義務付けるという政府の強い姿勢の成せる技です。ちなみに、この規制は今年20114月まで効力があったもので、設置者と政府が設置費用を折半するというものでした。

*出典:NPO法人日本核シェルター協会ウェブサイトより、普及率は全人口に対し何%の人を収容できるシェルターが存在するかを基準に算出

URLhttp://www.j-shelter.com/

 

周知の通り、スイスは永世中立国です。したがって、自国の身は自国で守らねばならず、軍事防衛力で鉄壁な防衛策を講じる必要があります。「核シェルターの義務化」が、国民に自分の身は自分で守るという意識を否応なしに植えつけたであろうことは想像に難くありません。

 

翻って日本はどうでしょうか。核の危険はともかく、日本は世界有数の地震国です。住宅が倒壊する危険性が非常に高い国です。戦争とは異なり、地震は予測することができません。言うまでもなく同盟国が守ってくれるというものでもありません。自国の身は自国で守るしかないのです。

 

つまり、核シェルターを義務付けたスイス政府のように、日本も政府主導で耐震シェルターの普及を強力に推進する必要があるということです。EVもいいですが、その前に、国の財産である国民の命を守る耐震シェルターの普及に政府は全力を傾ける必要があると私は考えます。

 

現状では耐震シェルター設置の助成は各自治体に委ねられているようです。それも高齢者・障害者世帯や低所得世帯のみを対象にした助成制度も多くみられます。また、助成制度ですから、設置を考えている人がわざわざ申請しなくてはいけません。これではなかなか普及は進まないでしょう。

 

もし大都市圏で深夜・早朝に大地震が発生し、就寝中の働き盛り世代が住宅の倒壊やその後の火災により数千人、数万人規模で命を落としたとしたら、日本の経済にとって非常に大きな打撃となるでしょう。人は国の宝です。日本の経済力、ひいては国力を維持させるためにも、地震国である日本の政府は耐震シェルターの普及に本腰を入れるべきだと思います。

 

また、大手住宅メーカーやゼネコン、エンジニアリング会社のみなさんも、力を集めて、政府にもっと働きかけてみてはいかがでしょうか。耐震シェルターが一つの産業となれば、当然雇用も生み出すでしょうし、各企業にとっても得るものは大きいのではないでしょうか。