トップ | レース結果 | コメント | 技術解説 | チーム分析 | サーキット・ガイド | 動画 | コラム | インタビュー | データ | レース動画 | レース写真 | GP恋人写真 | マシン写真動画 | 特集 | ヘルメット | テスト
2007年09月16日

FIA世界モータースポーツ評議会「裁定」全文:FIA公式プレスリリース

国際自動車連盟
世界モータースポーツ評議会の裁定
国際競技コード第151(C)条−ボーダフォン・マクラーレン・メルセデスについて
2007年9月13日

世界モータースポーツ評議会(以下「WMSC」)は、ボーダフォン・マクラーレン・メルセデス(以下「マクラーレン」)が国際競技コード第151(C)条に違反したという嫌疑を検討するため、2007年9月13日に会議を開催した。


1 背景

1.1 2007年6月24日スクーデリア・フェラーリ・マルボロ(以下「フェラーリ」)は、機密情報が不正に利用されていることが確実である可能性を示唆する情報を受け取った。フェラーリはその後、マクラーレンの当時のチーフ・デザイナー、マイク・コフラン(以下「コフラン」)が機密情報を所持しているということを確認したことを報告した。

1.2 2007年7月3日、フェラーリとコフランのイングランドおよびウェールズ高等裁判所における訴訟(以下「高等裁判所の訴訟」)に関連して、同裁判所の権限のもとコフランの自宅の家宅捜索が行われた。WMSCに提出された証拠によると、この家宅捜索中にフェラーリに属する約780ページの機密情報文書が押収されたという。

1.3 家宅捜索の結果に照らし、フェラーリは2007年7月3日FIAに書簡を送り、FIAがこの件に関する調査を開始することを検討するよう依頼した。

1.4 予備調査のあと、FIAは2007年7月12日にマクラーレンに書簡を送り、2007年7月26日パリで開催されるWMSC臨時会議(以下「7月26日のWMSC会議」)に出席するよう要請した。マクラーレンには、7月26日のWMSC会議において、2007年3月から7月までの間に国際競技コード第151(c)条に違反して、フェラーリに属する文書と機密情報を不正に所持した嫌疑に答えるよう伝えられた。具体的には、マクラーレンは、以下に示すひとつ以上の目的のために、以下に示すひとつ以上の技術文書を不正に所持したという嫌疑をかけられた:
図面、レイアウトおよびデジタル・モックアップ・スキーム、技術文書、報告書、特に重量配分、エアロダイナミクス、部品の設計、サスペンション、ギアボックス、油圧系、水・オイル・燃料システムの設計、アセンブリ、製造技術設計などに関連した手順を含む、2007年フェラーリF1マシンの設計、工学、製造、点検、検査、開発、走行。

1.5 この嫌疑に対して、マクラーレンは7月26日のWMSC会議前に広範囲の資料を提出し、会議の中でも詳細な口頭弁論を行った。マクラーレンは、コフランによるフェラーリの機密文書の所持については争わなかったが、特に以下の点について反論した。

(i) 問題のフェラーリの機密文書がマクラーレン内で回覧されなかったこと。

(ii) マクラーレンは、コフランがフェラーリの機密文書を受け取ったことにより、それを使用せず利益を受けなかったこと。

(iii) フェラーリの機密文書を受けとって扱ったコフランの行為は「悪事を働いた従業員」のものであり、マクラーレンには責任がないこと。

1.6 WMSCは、7月26日のWMSC会議においてマクラーレンから提出された反論と証拠を検討し、マクラーレンはフェラーリの機密情報を所持しており、それゆえ国際競技コード第151(c)条に違反しているという結論に達した。

1.7 審議中いくつかの不十分な要素が注目されたものの、違反の重要性を評価し、WMSCは、この情報がFIAフォーミュラワン・ワールドチャンピオンシップ(以下「チャンピオンシップ」)の運営に干渉するような方法で利用されたという十分な証拠はないと結論した。

1.8 しかし、特に関連する手続き(特に高等裁判所の訴訟、およびイタリアにおける犯罪捜査、マクラーレンおよびフェラーリにおける各種の内部犯罪科学的捜査)がいくつか進行していることを意識して、WMSCはさらなる証拠、特にフェラーリの機密情報がマクラーレンによって利用されチャンピオンシップに被害が及んだことを証明する具体的な情報が明るみに出た場合、結論を再検討する権利を明確に保留した。

1.9 そこで以下のような裁定に達した:
「世界モータースポーツ評議会(WMSC)はボーダフォン・マクラーレン・メルセデスが、フェラーリの機密情報を所持しており、それゆえ国際競技コードの第151c条に違反していることを納得した。しかし、この情報が、FIAフォーミュラワン・ワールドチャンピオンシップに不適切な影響を与えるような方法で使用されたという証拠は不十分である。したがって我々は処分を科さない」

「しかし、将来フェラーリの情報がチャンピオンシップに損害を与えるために使用されたことが判明すれば、我々はボーダフォン・マクラーレン・メルセデスをWMSCに召喚する権利を留保する。この場合、同チームは2007年チャンピンシップだけではなく2008年チャンピオンシップからも除外される可能性がある」

「WMSCは、ステップニー氏とコフラン氏を召喚し、彼らが長期間に渡り国際的モータースポーツから追放されるべきではない理由を証明してもらう。そしてWMSCはこの件に対応する権限をFIA法務部に委託した」


2 WMSCの再召集

2.1 2007年7月26日のWMSC裁定(以下「7月26日の裁定」)に続き、新しい証拠が明るみに出たので、FIAはWMSCによる検討を行う価値があると評価した。

2.2 したがってWMSCの新たな会議が2007年9月13日に召集された(以下「9月13日のWMSC会議」)。

2.3 関係者全員(マクラーレンおよびフェラーリを含む)に新会議が通知され、WMSCにおいて(一部については機密情報の編集後)提示される新しい証拠のコピーを提供された。WMSCはマクラーレンおよびフェラーリに書面による資料を提出するよう要請し、事前に受理した。

2.4 またマクラーレンとフェラーリを代表する口頭弁論も行われ、9月13日のWMSC会議にではWMSCは関係者に質問を行った。また、マクラーレンおよびフェラーリには、相互の証人を反対尋問する機会が与えられた。

2.5 WMSCが検討した重要な要素の一部を以下に示す。競技のために、素早い裁定を発表することが大きな責務であることを考慮して、以下の項目は検討事項の完全なリストでもなく、WMSCに提出された全証拠の要約を意味するものではない。


3 新しい証拠−マクラーレン・ドライバー間のe-メール

3.1 7月26日の裁定後の期間中FIAは、FIAの調査に関連したe-メールがマクラーレンのドライバーの間で交換されているという具体的な申し立てがあったことを知らされた。

3.1 そこでFIAは3人のマクラーレン・ドライバー(アロンソ氏、ハミルトン氏、デ・ラ・ロサ氏)に書簡を送り、この申し立てが事実に基づくものであるかどうかを確認し、本件に関する可能性があり、フェラーリ、フェラーリの従業員であるナイジェル・ステップニー(以下「ステップニー」)あるいはフェラーリまたはステップニーに由来するあるいは関連する技術情報あるいはその他の情報に言及した、電子通信(送られたものでも保存されたものでも可)を含む、関連文書のコピーを作成するよう依頼した。

3.3 マクラーレン・ドライバーには、競技者およびスーパーライセンス・ホルダーとして、フォミュラワン・ワールドチャンピオンシップの公平性と合法性を保証する義務があることを指摘した。事実の確認および情報が他の方法で明らかにならないようにするため、FIAはその書簡に対する回答において情報を提供した場合は、国際競技コードあるいはF1規約の違反手続きがとられることはないという保証を与えた。しかしドライバーには、のちに関連する可能性のある情報を公表しなかったことが明らかになれば、深刻な結果につながる可能性があることを伝えた。

3.4 3人のドライバー全員が回答した。ハミルトンは、FIAの要請に応えるような情報を所持していないと答えた。アロンソ氏とデ・ラ・ロサ氏はいずれも、WMSCが大いに関係あると認めたe-メールを提出した。その後(マクラーレンの要請により)アロンソ氏とデ・ラ・ロサ氏は、これらe-メールが送受信されたという確認、およびこのe-メールに関する状況説明を声明書としてWMSCに提出した。このe-メールは、アロンソ氏とデ・ラ・ロサ氏がいずれも、コフランを通じてフェラーリの機密情報を受け取っていたこと、両ドライバーがマクラーレンのデザイナーであるマイク・コフランからフェラーリの情報を受け取り、その情報が機密であり、フェラーリの元エンジニアであるナイジェル・ステップニーからコフランに渡ったものであることを知っていたことを明白に証明している。


3 重量配分

3.5 2007年3月21日9時57分、デ・ラ・ロサ氏はコフランに次のように書き送った。
「やあマイク、赤いマシンの重量配分を知っているかい? シミュレーターで確かめるためにはそれを知ることが重要なんだ。よろしく、ペドロ」

「追伸、明日シミュレーターを使う予定だ」

3.6 デ・ラ・ロサ氏はWMSCに提出した証拠について、コフランがフェラーリの重量配分の正確な詳細をテキスト・メッセージで返信してきたことを認めた。

3.7 2007年3月25日1時43分、デ・ラ・ロサ氏はフェルナンド・アロンソにe-メールを送り、オーストラリアGPの2台のフェラーリのマシンのセットアップに関して、小数点2桁の位置の重量配分を提示した。

3.8 アロンソ氏は2007年3月25日12時31分(ふたりは異なる時間帯にいた)、このe-メールに返信した。彼のe-メールには「フェラーリ」という言葉で始まる節が含まれており、その中で彼は「その重量配分には驚いたな。100%信頼できるかどうかわからないけど、少なくとも目を引くね」と述べている。e-メールは、フェラーリの重量配分と比較したマクラーレンの重量配分の話題が続く。

3.9 デ・ラ・ロサ氏は2007年3月25日13時02分に以下のように返信した。「フェラーリの情報はすべて非常に信頼できるよ。元チーフ・メカニックのナイジェル・ステップニーからきているんだ。今は何のポストにいるのか知らないけどね。彼はオーストラリアで、キミが18周目にピットストップすると教えてくれた例の人物だよ。彼はうちのチーフ・デザイナーのマイク・コフランととても仲がいいんだ。彼がコフランに教えたんだよ」

3.10 デ・ラ・ロサ氏がコフランに送ったe-メールは、彼は翌日シミュレーターでテストするためにフェラーリの重量配分を知りたいと希望していた(「シミュレーターで確かめるためにはそれを知ることが重要なんだ」)ことを具体的に示している。デ・ラ・ロサ氏は2007年9月13日の会議で、コフランが質問に正確な詳細まで答えたとき、彼(デ・ラ・ロサ)はマクラーレン・マシンのセットアップとあまりに違っているために、実際にシミュレーターでテストできないと判断したとWMSCに説明した。デ・ラ・ロサ氏はその後、この情報を重要ではないと見なしたと述べている。WMSCにとっては、テスト・ドライバーが個人的にそのような判断を下すことは非常に可能性が低いように見えた。また、デ・ラ・ロサ氏がその情報を重要でないと判断したのなら、なぜそれを数日後の3月25日のe-メールでアロンソと話し合ったのかも不明である。デ・ラ・ロサの証拠はまた、利益のためにフェラーリの情報をテストすることについて何の迷いやためらいもないことを明白に示しており、今回テストをしないのは、技術的な理由によると述べている。

3.11 マクラーレンのチーフ・エンジニアであるロウ氏は、シミュレーター・テストに関する決定は、通常、複数のエンジニアリング・スタッフおよび(自らテストを実施する他のスタッフ)が関わるという明白な証拠を提出した。シミュレーターでテストする内容に関して、テストドライバーが独自に決定する可能性は非常に低いように見える。

フレキシブル・ウィングとエアロ・バランス

3.12 2007年3月25日の同じe-メール交換において、デ・ラ・ロサ氏は、本人言うところの「僕らがフェラーリが使っていると考えるシステムのコピー」であるフレキシブル・リアウィングのテストを実施したと述べている。また、時速250kmにおけるフェラーリ・マシンの正確なエアロ・バランスも特定された。リア・ウィングが、フェラーリ・マシンの観察によってコピーされた可能性は十分あるが、メール交換の文脈(これはデ・ラ・ロサ氏がステップニー経由なので「非常に信頼できる」と説明している情報の一部である)から、エアロ・バランスはフェラーリの機密情報であり、ステップニーからコフランを通じてデ・ラ・ロサ氏に渡ったものである。

タイヤ・ガス

3.13 デ・ラ・ロサ氏からアロンソ氏に2007年3月25日1時43分に送信されたe-メールは、タイヤの内部温度とブリスタリングを抑制するためにフェラーリが注入しているガスを特定している。このe-メールは(ガスに関して)「試さなくてはならないね。簡単だよ!」という表記で終わっている。

3.14 アロンソ氏はこれに対して12時31分に、マクラーレンはフェラーリがタイヤに使用しているガスをテストすることは「とても重要」である。なぜなら「彼らは他のチームとは何か違うことをしている」からであり、「今年だけじゃないよ。他にも何かあるはずだ。たぶんこれが鍵かもしれないね。今回のテストで試すことができればいいな。これを優先的にテストしたいね」と返信した。

3.15 デ・ラ・ロサ氏は2007年3月25日13時02分、以下のように述べた。「100%賛成だね。(タイヤ・ガスを)近いうちにテストしなければならない」

3.16 アロンソ氏とデ・ラ・ロサ氏との間のe-メール交換により、両者がフェラーリがタイヤに使用しているガスを試すことに熱心であることが明らかになったが、デ・ラ・ロサ氏がWMSCに提出した証拠によると、彼はマクラーレンチームがこのガスを試すことができるかどうかをブリヂストンのエンジニアに独自に持ちかけることにした。彼は、マクラーレンの専門スタッフとは話し合わなかったと述べている。彼の証拠では、問題のブリヂストンのエンジニアは、ガスがマクラーレンにアドバンテージを与えるかどうかを疑問視した。デ・ラ・ロサ氏によると、彼はマクラーレンの誰にも相談せず、このガスが明らかにフェラーリで成功しているという事実にも関わらず、このアイデアは放棄され、マクラーレンではタイヤにおけるこのガスのテストは実際に行われなかったという。

3.17 WMSCにとって、テストドライバーが、チーム内の誰ともそれ以上話し合うことなく、独自に外部と相談する可能性は低いように見える。また、テストドライバーがこの件を推進するかどうかを独自に判断する可能性も低いように見える。最終的にデ・ラ・ロサ氏の証拠は、フェラーリの情報を利用することに対して何の迷いやためらいもないことを明白に示しており、今回はそうすることによるアドバンテージがないと結論されたに過ぎない。

ブレーキング・システム

3.18 2007年4月12日12時25分、デ・ラ・ロサ氏はコフラン氏に「(詳細な技術情報を参照して)フェラーリのブレーキング・システムについてできるだけ説明してほしいのだけど? コックピット内部から調節しているのかな?」と書き送った。

3.19 e-メールで説明するにはあまりに複雑であるといういくつかのメールが交換されたあと、コフラン氏は2007年4月14日14時40分にフェラーリのブレーキング・システムを支える原理を説明する技術的解説を返信した。フェラーリは、提出されたこの解説がブレーキング・システムの原理の正確な(ただし不完全な)説明であることを認めた。コフランは「同じようなものを検討している」と述べてメールを締めくくっている。この発言は、フェラーリのシステムの詳細を知る立場になったことでマクラーレンのシステムが機能し、フェラーリのシステムが直接的にコピーされたものでなくても、このような知識がないまま設計するよりもマクラーレンにとってはアドバンテージが大きかったことを強く示唆している。

3.20 2007年3月25日のデ・ラ・ロサ氏とアロンソ氏のe-メール交換も、マクラーレンのブレーキング・システムのいくつかの面を取り上げており、「僕らの持っている情報からすると、フェラーリも同じようなシステムを持っているようだ」と述べ、フェラーリのシステムの非常に具体的な部品(機密保持のためここでは公表できないがフェラーリの機密情報から得た知識であることが証明されている)についての説明が続いている。

ピットストップ作戦

3.21 前述の通り、デ・ラ・ロサ氏の2007年3月25日13時02分のe-メールは「フェラーリの情報はすべて非常に信頼できるよ。元チーフ・メカニックのナイジェル・ステップニーからきているんだ。今は何のポストにいるのか知らないけどね。彼はオーストラリアで、キミが18周目にピットストップすると教えてくれた例の人物だよ。彼はウチのチーフ・デザイナーのマイク・コフランととても仲がいいんだ。彼がコフランに教えたんだよ」と述べている。

3.22 WMSCに提出された証拠によると、(キミ・)ライコネン氏はオーストラリアGPでは実際は19周目にピットストップを行っている。しかしデ・ラ・ロサ氏は、ステップニーを信頼できる情報源と信じる理由としてこの情報を挙げている。これは、マクラーレンがチームの作戦を決定する際に少なくともこの情報を考慮したことを強く示唆している。

3.23 WMSCに提出された証拠はまた、ステップニーは、バーレーンGP中にフェラーリのドライバーのひとり以上がどの周回でピットストップするかについて、コフランに情報を提供していたことを証明している。マクラーレンは、この情報が最終的に不正確であったことから、その重要性を疑ったかもしれない。しかしWMSCに提出された証拠によると、セイフティーカーがレース序盤に出動したため、ピットストップ作戦が変更された可能性が高い。セイフティカーの出動をレース前に知ることは不可能で、ピットストップの予想が不正確であったとしても、マクラーレンがレース前に自らの作戦を決定する際に、受けとった情報を検討および考慮しなかたことにはならない。

3.24 いずれにしろ、他チームのピットストップ作戦がマクラーレンに事前に明かされたことは合法ではないが、両ドライバーはフェラーリの機密情報を不正に受け取っていることを知っていたという非常に明白な証拠がある。MWSCの知る限り、この情報漏洩を報告あるいは阻止する努力はなされなかった。


4 新しい証拠−コフランとステップニーとのコミュニケーション

4.1 7月26日のWMSC会議に提出された証拠は、コフランとステップニーとの間の接触回数は限定されていたことを示していた。コフランの宣誓供述書(高等裁判所の訴訟に関して提出された)は、このような接触の回数を特定し、彼からフェラーリの特定の機密情報を彼から渡された場所を示していた。WMSCは、これらの接触を検討したが、さならる接触の具体的な証拠はなかった。7月26日のWMSC会議における関心の中心は、コフランの自宅で発見された780ページのフェラーリの文書の伝達にあった。

4.2 ステップニーからコフランに渡ったフェラーリの機密情報が、780ページの文書だけではないことを強く示唆する新しい証拠が明るみになった。この証拠は、7月26日のWMSC会議で認められたよりもコフランとステップニーとの間でより高いレベルのコミュニケーションがあったことを証明している。この証拠は、コフランとステップニーの間で交わされた電話、ショートメール・サービス(SMS)、e-メールの記録を正式に分析した結果であり、フェラーリから提出され、イタリア警察を経由するものなので信頼できると見なされる。この証拠には以下のものが含まれている。

4.3 報告書「添付書類8」で、イタリア警察は、2007年3月21日から7月3日までの期間、コフランは、ステップニーの個人携帯電話から23回着信を受けており、4回その電話に発信していることを証明した。同期間、コフランはステップニーから124通のSMSメッセージを受信し、ステップニーに66通を送信した。

4.4 報告書「添付書類9」で、イタリア警察は、2007年3月1日から4月14日までの期間、コフランとステップニーとの間でやりとりされた23通のe-メールを示すログを特定した。

4.5 報告書「添付書類10」では、イタリア警察は、2007年3月11日から4月14日までの期間、コフランとステップニーとの間でさらにやりとりされた98通のSMSメッセージと、8回の電話通話(異なる電話)を特定した。

4.6 2007年3月11日から7月3日までの期間、コフランとステップニーとの間では、合計すると少なくとも288通のSMSメッセージおよび35回の電話通話がやりとりされた。

4.7 接触回数は、2007年3月末マレーシアにおけるフェラーリのプライベート・テストが実施されている間にかなり増加し、2007年3月18日のオーストラリアGP、2007年4月8日のマレーシアGP、2007年4月15日のバーレーンGP、2007年5月13日のスペインGPの期間中に急増した。

4.8 またイタリア警察の証拠は、マレーシアで実施したテストに関して、ステップニーはフェラーリのチーフ・メカニックであるウグッツォーニ氏から技術的詳細を聞き出そうとして、当時のフェラーリ内で注目を集めたとしている。

4.9 さらに、9月13日のWMSC会議(前記参照)に提出されたマクラーレン・ドライバー間のe-メールは、明らかにコフランがフェラーリ・マシンに関する情報をステップニーから受け取り、その情報をマクラーレンチームの他のメンバーに渡していたことを明確に示している。

4.10 フェラーリあるいはマクラーレンのいずれも、(7月26日のWMSC会議およびそれ以降)フェラーリの機密情報が問題の期間中にステップニーからコフランに渡ったことについては争っていない。しかし、接触の回数とタイミングに関する新しい証拠により、コフランにフェラーリの機密情報が組織的に流れた可能性が高まり、情報交換は2007年7月3日にコフランの自宅で発見されたフェラーリ文書の伝送に限定されない可能性が非常に高いという結論が導かれる。この結論は、マクラーレン・ドライバー間のe-メール交換(前記参照)によっても裏付けられる。

4.11 マクラーレンは9月13日のWMSC会議における提出資料で、このコミュニケーションの回数とタイミングに関する新しい証拠は、すでに知られていること、すなわちコフランとステップニーは不法にフェラーリの機密情報を共有していたことを確認するものに過ぎないと述べている。また、マクラーレンは、コフランとステップニーは独自に行動しており、おそらく共に新たな雇用を求める予定だったのであろうと示唆した。

4.12 WMSCは、この点に関しては決定的な結論を出さなかったが、コフランとステップニーが単に新しい雇用を求める計画を促進するために情報を共有していたとすれば、テストおよびグランプリの時期に接触が増加する特段の理由およびコフランがマクラーレン・ドライバーと情報を共有する特段の理由もないので、求職活動と上記で説明された接触の回数とタイミングとを一致させることは難しいと見なした。 

4.13 さらに、マクラーレンチームにおけるコフランの役割を考えれば、2007年7月26日のWMSC会議では、コフラン自身が、複数のグランプリ現場におけるフェラーリ・マシンに関する最新情報を(個人的あるいはマクラーレンにおける職務として)直接あるいは即座に利用することができたようには見えなかった。しかし、前記で詳細に述べたように、9月13日のWMSC会議において、WMSCはこれが真実とは異なり、コフランは実際にオーストラリアGPとバーレーンGP中にフェラーリのドライバーがどの周回でピットストップするかというステップニーの発言を少なくともひとりのマクラーレン・ドライバーに伝えていたことを示唆する新しい証拠を得た。コフランと少なくともひとりのマクラーレン・ドライバーとのコミュニケーションは、前記のようにコフランとステップニーとの接触が最も集中していた期間の一部と正確に一致する。

4.14 コフランとステップニーとの間のコミュミケーション、およびマクラーレンのドライバー間のe-メール交換の数とタイミング(前記参照)を考えれば、他の説明がない場合は、WMSCはコフランがステップニーからフェラーリのさまざまな機密情報を受け取り、少なくともその情報の一部をマクラーレン内の他のメンバー(例えばデ・ラ・ロサ氏およびアロンソ氏)に伝わったと推論することが合理的であると見なすものである。

4.15 つまり、コフランとステップニーの接触の回数とタイミングに関する新しい情報は、コフランとステップニーの間の接触の性質に対するWMSCの認識、ドライバー間のe-メールに関するWMSCの認識および、コフランが受け取ったフェラーリの機密情報がマクラーレンにおける彼の仕事に影響を及ぼした可能性に対して必然的な影響を与えた。


5 マクラーレンにおけるコフランの役割

5.1 マクラーレンが7月26日のWMSC会議に提出した資料によると、コフランは、比較的限定された経営的役割を果たしており、経由を説明することなくアイデアを提案することは不可能であったことを示していた。マクラーレンの提出資料では、コフランは詳細なフェラーリの技術情報を所持していたにもかかわらず、マクラーレンの多数のメンバーに知られることなくマクラーレンに利する情報を使用することができなかったことを証明した。マクラーレンは、マクラーレンのマシンの変更にフェラーリの機密情報が利用されたことに気づかなかった多数のエンジニアの供述書を提出した。

5.2 9月13日のWMSC会議に提出された資料は、コフランはマクラーレン・マシンの設計においてWMSCが以前認めたよりも積極的な役割を有していた可能性を示した。

5.3 WMSCは、コフランがステップニーからの機密をマクラーレンに渡した結果、フェラーリの完全な設計がコピーされ、その後マクラーレン・マシンにそのまま組み込まれたという証拠を持たない。しかし、コフランの知っていたフェラーリの機密情報が、彼の業務上の判断に影響を与えなかったことを受け入れるのは難しい。マクラーレンがコフランの知識から利益を受けていたのであれば、フェラーリの設計を完全にコピーする必要はない。例えば、フェラーリの機密情報はマクラーレンの設計部門の他のスタッフに対して、表明したコフランの見解、例えばどの設計プロジェクトを優先すべきか、どの研究を推進すべきかなどに影響したに違いない。コフランは異なる設計課題にアプローチする代替方法を提案できる立場にいたので、獲得したアドバンテージはわずかであったかもしれない。


6 ニール氏の証拠

6.1 7月26日のWMSC会議において(証拠は9月13日の公聴会でも繰り返された)、コフランはマクラーレンの上司であるニール氏に、ステップニーがフェラーリの機密をコフランに渡そうとしたことが明らかにされた。ステップニーからのさらなる接触を防ぐため、ニール氏の勧めによってファイアウォールが設定され、コフランはステップニーとの接触を絶つよう指示された。その後数週間たらずしてコフランはニール氏に数枚の写真を見せようとした。ニール氏本人によると、写真の入手方法からして、コフランがそれらを所持するべきではないと感じたという。マクラーレンの上司として、ニール氏は事実を確認して適切な行動をとるかわりに、コフランに写真を破棄するようアドバイスした。マクラーレンがファイアウォールをインストールするよう要請した直後に、既知のフェラーリの機密情報源との接触を中止するよう同じ従業員に対して指示が出されているが、WMSCはこの件をさらに調査する行動がとられず当局者であるFIAに適切な開示がなかったことは、非常に納得できないと指摘する。


7 マクラーレンが所持していた情報の性質

7.1 WMSCは、マクラーレンが不法に所持していた情報の性質は、使用された場合、あるいは多少なりとも考慮された場合、マクラーレンに大きな競技上のアドバンテージをもたらす性質の情報であったと考える。

7.2 9月13日のWMSC会議において、マクラーレン・マシンはフェラーリ・マシンと大きく異なっているので、コフランの所有していたフェラーリの文書はマクラーレンにとって具体的に利用できるあるいは関心のある情報を含んでいなかったとする証拠が、マクラーレンのエンジニアリング・ディレクターのロウ氏から提出された。この証拠は、明らかにフェラーリの文書の目次を検討したことに基づいている(ロウ氏は、文書そのものは見ていないと述べた)。

7.3 WMSCはこの説明を受け入れない。WMSCの公聴会および書類資料、WMSC委員の直接の知識から、フォーミュラワンチームは互いの技術に大きな関心を抱いており、観察、写真証拠、その他の手段を通じて互いの設計および革新を研究することに(規約の範囲内で)努力を惜しまない。さらに、コフランの所有していた技術情報は、WMSCの認めるところでは、大いに重要であり、使用あるいは考慮した場合に間違いなく競技上のアドバンテージをもたらすものであった。


8 WMSCの評価

8.1 WMSCは関係者全員の証拠提出物を慎重に検討した。

8.2 WMSCは第151(c)条の違反があったと結論(および再確認)した。

8.3 7月26日の裁定において、WMSCは第151(c)条の違反があったと判断した。この違反の重要性の評価において、WMSCはあらゆる証拠(あるいは当時は欠けていた証拠)を含む多数の要素を考慮し、不正に所持されていたフェラーリの情報が実際に利用され、競技上のアドバンテージをもたらしたと考える。考慮したほかの要素には、問題の情報がマクラーレンの他のメンバーに広まったとする証拠がほとんどないという反論が含まれる。そしてWMSCはコフランの限定された役割、およびコフランが唯一の悪事を働く従業員であったという反論を理解した。

8.4 マクラーレンは、受け取った情報はマクラーレン・マシンを強化しなかったことを示す詳細な資料を提出した。マクラーレンは、WMSCに対して「実際の利用」と実証されかつ項目分けされたパフォーマンス上のアドバンテージが合理的な疑問を残さない程度(例、刑法の証明基準)に証明されなければ、WMSCは法において処罰を科すことはできないと示唆した。

8.5 WMSCはこの示唆を却下した。WMSCは、第151(c)条を適用する全面的な権限を有しており、第151(c)条の違反および/または処罰の適用を正当化するために、フェラーリの機密情報がマクラーレンに直接コピーされたこと、あるいはマクラーレン・マシンに直接利用されたことを証明する必要はないことを強調する。またWMSCは、不法に所持された情報が、具体的に特定された競技上のアドバンテージ、あるいはいかなるアドバンテージをもたらしたことを証明する必要もない。むしろWMSCは、他チームの情報所持を処罰に値する違反として扱う資格を有している。

8.6 より限られた証拠に基づく7月26日の裁定では、評議会はマクラーレンの違反の重要性は、WMSCの立証責任に関する法的検証にはつながらないという認識だった。WMSCは、その時点の証拠に基づき7月27日の裁定で処罰を科すこともできたが、(コフラン氏以外にフェラーリの情報の拡散がなかったとするマクラーレンの提出資料に一部に基づき)そうしないことを選んだ。

8.7 WMSCは、フェラーリの技術をコピーしたという証拠について、施設および設計の査察を提案したマクラーレンの申し出をFIAが受け入れずに処罰を科した場合は不当な行為になるというマクラーレンの立場に留意した。しかし、前述のように、違反の発見あるいは処罰の適用に、マクラーレンがフェラーリの技術を直接組み込んだという証拠は必要ない。とはいえ、WMSCはこの申し出の率直かつ協力的な性質に留意し、裁定に達する際にこれを考慮した。

8.8 今回提出された証拠を鑑み、WMSCはマクラーレンの非難されるべき行動がコフランの行動のみであることを受け入れない。この状況は、マクラーレンの認識あるいは同意なしに独自に行動したマクラーレンのひとりの危険な従業員の行動に発したものであるかもしれないが、入手した証拠を全体の状況の中で検討すると、以下の事実が明らかである:

- コフランは以前認められたよりも多くの情報を有しており、数ヶ月間にわかって組織的な方法で情報を受け取っていた。

- マクラーレンチーム内で情報がある程度まで広まっていた(例、デ・ラ・ロサ氏およびアロンソ氏)。

- マクラーレンチーム内で広まった情報には、高度な技術的機密情報だけでなく、フェラーリの競技上の作戦に関する機密情報も含まれていた。

- マクラーレンにおける職務のなかで、デ・ラ・ロサ氏は不法であると知っていた情報源からフェラーリの情報を要請かつ受け取り、その要請の目的はシミュレーターでテストすることであると明示的に述べた。

- 問題の機密情報がアロンソ氏と共有された。

- マクラーレンのスタッフの数人は、明らかにフェラーリの機密情報をチームのテストで使う意図があった。これが実施されなかったのは、単に技術的に実施しない理由があったからである。

- (WMSCが理解する)マクラーレン内におけるコフランの役割により、彼がフェラーリの機密情報を知ったことで業務上の判断に影響があったかもしれない。

8.9 WMSCにとって、コフランの行動はマクラーレンに競技上のアドバンテージを与えるために意図されたことが明らかである。彼はフェラーリのピットストップ作戦、ブレーキング・システム、重量配分、その他の事項に関する情報をマクラーレンのテスト・ドライバーに伝えた。さらに、コフランの疑う余地のない経験を考えれば、彼はアドバンテージをもたらす方法と、チーム内の異なるスタッフの役割について深く知っていた可能性が高い。彼の活動が、デ・ラ・ロサ氏とのフェラーリの情報共有に留まっていた可能性は非常に低い。また、彼の仕事が、彼が所有しているフェラーリ・マシンに関する情報によって何らかの形で影響を受けなかった可能性も非常に低い。

8.10 さらに、WMSCにとって、いかなるF1ドライバーも、フェラーリの機密情報(例、タイヤ注入用の物質あるいは重量配分)の取り扱い、あるいはこのような情報の使用方法あるいは使用の是非の決定について単独の責任を有する可能性は非常に低いように見える。コフランの経験を考えれば、彼はこのことを知っていたはずであるし、彼がこの情報をマクラーレンに明かすつもりがあったのであれば、デ・ラ・ロサ氏のみに明かした可能性は低い。

8.11 したがってWMSCは、マクラーレンの複数の従業員または業者がフェラーリの機密情報を不正に所持していた、あるいは、他のマクラーレンの従業員または業者が不正に所持していること知っていたと判断する。さらに、WMSCは、マクラーレンのスタッフの数人が、フェラーリの機密情報の一部をテストで使用する意図を有していたと判断する。

8.12 この証拠により、WMSCはある程度の競技上のアドバンテージが得られたと結論する。ただし、そのアドバンテージを具体的に定量することは永遠に不可能かもしれない。

8.13 このような要素によりWMSCは、マクラーレンの違反の重要性に対して、7月26日における認識とは実質的に異なる認識をもつに至った。今回WMSCは、処罰が当然であると考える。

8.14 WMSCは、マクラーレンに処罰が科せられる可能性が高いことを示唆し、マクラーレンおよびハミルトン氏の弁護人から処罰の妥当性に関する提案を聴取した。WMSCは、その提案を十分に考慮し、裁定に達した。


9 裁定

9.1 前述の理由により、WMSCはマクラーレンが国際競技コード第151(c)条に違反していると判断する。

9.2 したがってWMSCは、国際競技コードの規定に従い、2007年FIAフォーミュラワン・ワールドチャンピオンシップに関して以下の制裁措置をとる。

- 2007年コンストラクターズ・チャンピオンシップの全戦について、マクラーレンに与えられた全ポイントを剥奪する。誤解を避けるために、マクラーレンは2007年チャピオンシップの残りのレースに出走することを認められるが、2007年シーズンの残りにおいて、コンストラクターズ・チャンピオンシップにおけるポイント獲得、あるいは上位3位フィニッシュの場合の表彰台参加は認められない。これまでのチャンピオンシップにおいて他の競技者が獲得したポイントは、マクラーレンのポイント剥奪以外に影響はない。

- 罰金1億米ドル(マクラーレンが2007年コンストラクターズ・チャンピオンシップから除外されなかった場合にチームの結果に対してフォーミュラワン・マネージメント・リミテッド社が支払う合計額を差し引く)。この罰金は、この裁定日から3ヶ月以内に支払うものとする。

9.3 主要な責任はマクラーレンにあるが、競技のため、そしてマクラーレンのドライバーは2007年8月30日付けの書簡でFIA会長から個人的処分の免責を提示されているので、WMSCは例外的にドライバーに個人的な処罰を科す、あるいはドライバー個人のチャンピオンシップ順位に影響する処罰をマクラーレンに科すことは不適切であると考える。したがって、両マクラーレン・ドライバーは、彼らが2007年シーズンこれまでに獲得したドライバーズ・チャピオンシップ・ポイントをすべて保持し、2007年シーズンの残りのレースについてドライバーズ・チャンピオンシップ・ポイントの獲得と表彰台参加を認められる。

9.4 さらに、マクラーレンが、2008年チャンピオンシップのいかなるライバルに対してもアドバンテージを不正に得ていないことを確認するために、WMSCはFIA技術部門に対して、マクラーレンの2008年マシンにおける準備作業を調査し、マシンにフェラーリの機密情報が組み込まれていないかどうかを判断して、2007年12月のWMSC会議に報告するよう指示した。WMSCがこの報告を検討し、2008年チャンピオンシップへのマクラーレン参戦に関して、処罰の適用の可否を含めて別の裁定を下す。現在のこの裁定は、参戦条件が満たされている場合、マクラーレンの2008年チャンピオンシップへの参戦資格に影響するものではない。

9.5 マクラーレンは、控訴する権利を有している。控訴がFIA国際控訴裁判所に提出された場合、この裁定の抗力は控訴の結果を待つ間も停止しない。


署名

.................................
マックス・モズレー
FIA会長
2007年9月13日、パリ


+関連記事
2007年09月15日
FIA、世界モータースポーツ評議会での裁定全文公開:FIA公式プレスリリース
2007年09月15日
FIA世界モータースポーツ評議会裁定全文の概要

ステップニー フェラーリ コフラン マクラーレン ホンダ スパイ事件関連リンク集





今日+昨日アクセスランキング
    10日間アクセスランキング
      30日間アクセスランキング

         誤字脱字誤訳誤変換その他間違いご指摘お願いします
        名前: