トップ | レース結果 | コメント | 技術解説 | チーム分析 | サーキット・ガイド | 動画 | コラム | インタビュー | データ | レース動画 | タイヤ | レース写真 | GP恋人写真 | マシン写真動画 | 特集 | ヘルメット | テスト
2008年06月06日

F1ブレーキ・システム

Brake system

物理的には、エネルギーは物理的システムが仕事をするための能力であると言うことができる。直線を時速300km以上で走っているマシンは、大きな運動エネルギーを有している。エネルギーは損失しないが別の形態に転換するという事実のため、マシンを減速する唯一の方法は運動エネルギーを他の形態に転換することである。レースカーや乗用車のブレーキは、この運動エネルギーを熱に転換するのである。

F1マシンは、数秒の間に時速350kmから約70kmまで減速しなければならないことがある。このような厳しいブレーキング中には、ブレーキローターとパッドの温度は400℃から1,000℃以上に上昇する。この1,000℃は極端なブレーキングで発生し、カーボン・ブレーキディスク(F1で使用される場合、FIAにより厚さは28mm、直径は278mmまでと制限されている)が耐えられる最高温度に近い。

カーボン・ブレーキの適用
F1マシンが時速300kmから完全に停止するまでに要する時間はわずか4秒である。時速200kmで走行中のF1マシンは完全停止までに2.9秒、距離にして65mを要する。時速100kmの場合これらの数字はなんと1.4秒と17mである! このような急ブレーキの場合、ドライバーは約5.4Gの水平減速を経験する。

F1、ブレーキ現在、このようなパフォーマンスを可能にする唯一の構造は、カーボンファイバー製のブレーキ・ディスク/キャリパーの組み合わせである。そのパフォーマンスは素早い減速をもたらすが、低密度のためディスクあたりの重量は1kg未満である。さらに、熱の吸収と発散能力のおかげで、類を見ないほど寿命が長い。レースあたり約800回、コーナリングの前に1,000℃以上に加熱されても、カーボンファイバーは不平を言うことなくグランプリの間、耐えることができる。1980年代まで利用されたスチール/スチール・ブレーキはあっさり見捨てられ、F1の全体的パフォーマンスは最高となった。

ブレーキング性能は無類であるが、カーボンファイバー製ブレーキの使用は、ドライバーが慣れるまでには少し時間がかかる。ヤルノ・トゥルーリは「実際、ブレーキペダルを踏んだあと、最初のミリ秒の間は何も起こらないように感じる。この遅れは、直列のディスク/キャリパーのが作動温度の達するために要する時間だ。ブレーキングの最初の0.5秒間は、0.1秒あたり100℃ずつ上昇する。そのあとは最高1,200℃にまで達することがある。この短い時間が過ぎると、即座にそして急激に減速する」と説明する。最適作動温度になると、パッドとディスクの摩擦係数は0.6にまで増加する。

ドライバーはコックピット内からマシンのフロントとリアの間で制動力の配分を調整することができる。これによってマシンの操縦性が変化する。一般的にはトラックのコンディションによってフロントに優先的に51〜60%を配分する。レース中は、リアの制動力を下げることで、リアタイヤの磨耗が抑制されるので、トラクションに間接的に影響を及ぼす。

一般的な構造
乗用車に利用されているディスクブレーキ・システムと同様、システムの中心部はホイールと同じ速度で回転するブレーキディスクである。ブレーキブロックつきのブレーキパッドはブレーキディスクの周囲に配置される。ドライバーがブレーキペダルを踏むと、ブレーキ液がキャリパーのシリンダーの中に押し込まれ、カーボン・ブレーキディスクがカーボン・ブレーキブロックの間で圧縮される。その結果生じる摩擦により、ディスクとホイールは発熱しながら減速する。

ブレーキ液そのものは、ノーズコーン内のふたつのブレーキ・マスターシリンダーに貯蔵され、場所をとらないようサスペンション部品の間に置かれている。このマスターシリンダーはフロントとリアのブレーキ用のブレーキ液を含んでいる。フロントとリアのシステムは、技術規約により必ず独立して接続されている。このような設計により、フロント・ホイールあるいはリア・ホイールは一方の回路が故障してもマシンを減速させることができる。

下の画像はフェラーリF2008ノーズコーン内のマスターシリンダーを示している。またパワーステアリング・システム用のステアリング・ラックと配管も見える。
フェラーリF2008、ノーズコーン、マスターシリンダー、ステアリング・ラック

(主に規約により多くのバリエーションが認められていないため)かなり単純なシステムではあるが、カーボンファイバー製のためブレーキはF1マシンのなかで非常に高価なパーツになっている。パッドとディスクはいずれも最高のカーボンファイバー(長鎖炭素)を使って製造されている。実際、1枚のブレーキ・ディスクを製造するのに5ヶ月かかる。ディスク製造の最初の段階では、白色のポリアクリロニトリル(PAN)繊維を黒くなるまで加熱する。これによって予備酸化を行い、フェルトと同じように層状に重ねる。そして型抜きして炭化させ、純粋なカーボンファイバーを得る。次に、約1,000℃の稠密化加熱サイクルを2度行う。この段階は数百時間を要し、この間に炭化水素を多く含むガスをオーブンまたは加熱炉に注入する。これによって層状のフェルト用材料が融合して固形材料になる。そして、完成したディスクはマシンに取りつけるサイズに機械加工される。

現在、ブレーキ・パッドとディスクは、ブレンボ、ヒトコ、カーボン・インダストリーなど限られた数のメーカーが提供している。チームはメーカーを選ぶが、ドライバーのマシンによって違う場合もある。例えば2007年のマクラーレンでは、フェルナンド・アロンソはヒトコのブレーキを使用したが、ルイス・ハミルトンのブレーキはカーボン・インダストリー製だった。キャリパーはブレンボ、APレーシング、アルコンが提供している。

冷却システム
F1、ブレーキ、カーボンファイバー温度カーボンファイバーは高温にも耐えられるが、レースの最後の周回までブレーキが有効に機能し続けるためには、冷却が必要不可欠である。そこで、ブレーキ・システムに一貫した気流を供給するため、送風ダクトがホイールの内側に作成されている。現在、冷却システムはかつてないほど複雑になりチームによって大きく異なっているが、すべてブレーキ・ディスクの穴は共通している。

全チームではないにしても一部チームは、ブレーキ・ダクトをふたつのパーツに分けて設計している。小さい方のダクトはキャリパーに冷却空気を供給する。大きい方のダクトは気流をディスクの中央部に向ける。そこから空気の分子はブレーキ・ディスクの冷却穴からディスクの外側に流れ、ホイールのスポークを通ってホイールを出て行く。トロ・ロッソのSTR3は、ブレーキディスクの周りにカーボンファイバー製のシールドを持っており、ブレーキの熱はこのシールドに沿って上昇し、周囲のホイールリムから排除される(下の写真、右)。またSTR3のブレーキ・キャリパーは、トヨタよりも下方に取りつけられている。これはマシンのばね下質量の重心を下げるので、アドバンテージをもたらす。

この冷却プロセスをさらに容易にするために、フェラーリは2001年にホイールの出口でホイールと同じ速度で回転する受動的冷却ファンを導入した。これは、回転するホイールが駆動する、ある種のブレーキ冷却用ガスターボである。高速ではこのファンは実質的に空気をシステムに吸い込むので冷却能力を大きく改善し、ファンなしのブレーキ・ダクトよりもサイズを小さくすることができる。その結果、ブレーキダクトによって生じるラム抗力がかなり抑制される。

トロ・ロッソSTR3、ブレーキ・システムトロ・ロッソSTR3、ブレーキ・システム

2007年のシルバーストンで、フェラーリは静止ホイール・フェアリングを導入した。この装置はホイール周りの気流にとって効果が高いが、FIAはこれをブレーキ冷却補助装置と見なした。このようなフェアリングは軽量のカーボンファイバー製パネルで、ホイールをカバーするが、ホイールとともに回転しない。チームは、マシンの設計において、冷却と空力学的処理が最も関心の高い部分に効果的な排気装置を作り出すことができた。そして2008年シーズン中に多くのチームがこのシステムをコピーした。

新素材
最近、レッドブルなどの一部のチームは、ブレーキダクトの製造にラピッド・プロトタイピング(RP)素材を利用するようになった。具体的に言えば、彼らは常に進歩するパーツの製造をスピードアップするために、CPR社の "Windform XT" を利用しているのだ。実際RP素材は、カーボンファイバーとは異なり、モールドを製造する必要がない。カーボンファイバーの場合はパーツの製造に数週間を要するが、RPを使えばパーツは数時間あるいは数日以内に製造できる。一方で製造が必要な場合は、(カーボン積層化用の)モールドの価格は、複数のパーツで共有されるので、最終的には多数のパーツの合計は低くなる。損益分岐点は、納期、形状の複雑さ、パフォーマンス、設計の迅速変更/改良など、多くのパラメータに依存するだろう。

"Windform" は、PAを元にしてカーボン・ファイバーで充填した素材である。パフォーマンスは他のRP材質よりも高いが、もちろんカーボン積層化パーツよりも劣る。負荷と温度にもよるが、他のプラスチックや合金などと同じくあらゆる構造物に適している。XTタイプは黒色で、融点は175℃である。したがって高温になるブレーキ・ディスクなどには適用できない。

規約
11.1 制動回路および圧力配分:
11.1.1 全マシンはひとつのブレーキ・システムのみが装備されなければならない。このシステムはひとつのべダルによって操作されるふたつの別個の油圧回路のみのよって構成されなければならない。ひとつの回路はふたつのフロント・ホイールを制御し、もうひとつの回路はふたつのリア・ホイールを制御する。このシステムは、回路のひとつが故障しても、ペダルがもう一方の回路のブレーキを操作できるように設計されなければならならい。
11.1.2 ブレーキ・システムは、各回路内でブレーキパッドに働く力が常に同じであるよう設計されなければならない。
11.1.3 ブレーキ・システムのいかなる部分の構成を変更したり、あるいはパフォーマンスに影響を与える駆動装置はすべて禁止される。
11.1.4 マシン走行中のブレーキシステムの変更あるいは調整は、事前の設定なしにドライバーの直接的な物理的入力によってなされなければならず、常にドライバーの完全な管理下になければならない。

11.2 ブレーキ・キャリパー:
11.2.1 すべてのブレーキ・キャリパーは、弾性率80Gpa以下のアルミニウム素材で製造されなければならない。
11.2.2 各ブレーキ・キャリパーをマシンに固定するのに使用できる取りつけ場所は2ヶ所までとする。
11.2.3 各ホイールにつき、最大6本のピストンを有するキャリパーひとつが認められる。
11.2.4 各キャリパーのピストン断面は円形でなければならない。

11.3 ブレーキディスクおよびパッド:
11.3.1 各ホイールにつき、ブレーキディスク1枚が認められる。
11.3.2 ブレーキディスクの厚さは28mm未満、最大直径は305mmおよび最小直径は300mmmとする。
11.3.3 各ホイールにつきブレーキパッドは2枚まで認められる。

11.4 エアダクト:
フロントおよびリアのブレーキ周辺のエアダクトは、ブレーキング・システムの一部として見なされ、以下を越えて突出してはならない:

- ホイールの水平中心線から160mm上方の位置にある地面と平行な面。
- ホイールの水平中心線から160mm下方の位置にある地面と平行な面。
- ホイールリムの内側に平行な垂直面、およびマシンの中心線に向かって120mm移動した面。

さらに、ダクトを側面から見た場合、前方向ではタイヤの外周、後方向ではホイールリムを超えて突出してはならない。

全ての計測はホイールを垂直位置に保持した状態で行なう。

11.5 ブレーキ圧の調整:
11.5.1 ブレーキング・システムは、ドライバーがブレーキ・ペダルに圧力を加えたときに、ホイールがロックしないような設計であってはならない。
11.5.2 ブレーキング・システムは、静止状態においてドライバーがペダルに圧力を加えた以上にブレーキキャリパーの圧力を増加させるような設計であってはならない。

11.6 液体冷却:
ブレーキの液体冷却は禁止される。

-Source: F1 Technical
-Mobile: Amazonモバイル



2日間アクセスランキング
    10日間アクセスランキング
      30日間アクセスランキング


         誤字脱字誤訳誤変換その他間違いご指摘お願いします
        名前:
         
         

        ↑このページのトップヘ