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2009年06月10日

F1ビジネス、企業スポーツからの脱却 by 田中詔一HRD元社長

Suzuka21.com

講演録
モータースポーツは,誰が支えていくべきかという命題
未曽有の世界的な経済危機のあおりを受け、企業活動が大幅にシュリンク(縮小)。ホンダの衝撃的なF1撤退発表に続き、富士重工がWRC(世界ラリー選手権)から、三菱自動車がパリ・ダカールから、そしてカワサキが2輪の世界選手権(Moto GP)からの撤退が相次ぐ。企業主導が期待できない状況下、モータースポーツは誰が支えるべきなのか。環境変化のなかで、「F1の日」の本シンポジウムは、皮肉にもF1を取り巻く諸要素について、根本から考えなければいけないという意義ある企画となった。

HRDでの在職時代の経験を生かし、「F1ビジネス」を執筆
ホンダが2000 年に第3期F1活動として再参戦した時から5シーズンに亘りF1チームのマネジメントに従事。田中氏は、技術者ではないが、そもそもF1という世界はどのようなメカニズムで運営されているのか、その中でチームはどのようになりたっているのか、そして優勝するためには何が必要か、という側面について深く関与した。日本人の多くは、野球のルールや各プロ野球チームの運営について常識的に知っているのと同様に、欧州の人々はF1についてそれ以上の知識を有している。こうした知識をF1ファン以外の日本人にも伝えたいという意図から、退職後に「F1ビジネス」を執筆した。

F1ビジネスの枠組みを体系的に整理
F1という競技のプレーヤーは、多くの人がドライバーだと信じている。しかし、実態は、F1ドライバーを雇う各F1チーム間の戦いである。バイプレーヤー(脇役)としては、チームにエンジンを供給するエンジン・メーカー(主に自動車会社)やタイヤを供給するタイヤ・メーカー。また、大切なバイプレーヤーとして、その戦いの舞台を提供するのがレーシング・サーキット。競技である以上、競技ルールが非常に大切であり、ルールがチームの不利な方向に変更されれば勝てない。事故発生時のの責任やルール違反か適合かの裁定も含め、ルールに関する、F1のために動くお金の総元締めがFOM(Formula One Management)。FOMがF1に関する商業権を一手に持つ。主なものは、各国のTV放映権とサーキット興業権(日本での例を挙げれば、フジTVと鈴鹿サーキット、富士スピードウェイが支払う金額)。HRDで田中氏が関与していた時代の数字で言えば、プレーヤーやバイプレーヤーの1年間の運営費用が20 億ドル(2,000 億円)相当、FOMの商業権は10億ドル(1,000 億円)の規模であり、年間30 億ドル(3,000 億円)程度が、F1のGNPと言える。

F1は、バーニー氏とモズレー氏の二人三脚の体制
F1体制の特徴は、FIAにマックス・モズレー(69 歳)、FOMにバーニー・エクレストン(79 歳)という二人のドンが長年に渡り君臨。2000 年以降、世界の自動車メーカーの参戦が相次ぎ、F1ビジネスの透明性やガバナンスを改善するような動きも見られたが、本質的には何も変わっていない。例えば、「開催サーキット」の決定がどのようになされるかと言えば、最終的には、金額が決定的な要素だと言っても過言ではない。2005 年にホンダ・チームが出場停止処分を受けたFIA裁定については、政治的思惑が絡んだとの疑念の声もある。F1に投資し、ステーク・ホルダー的な立場にある限り、誰でもF1運営にまつわるガバナンスについて関心を持ち監視していく必要がある。

F1サーカス・・・世界を転戦
2009 年は、世界の17サーキットでF1グランプリが戦われる予定。本来、F1は欧州中心の興業であったが、資金を求めて、近年、アジア、アラブ国を中心に新たなサーキットでの開催が増加。最近10 年間で、マレーシア、バーレーン、中国、トルコ、シンガポール、そして、今年からはUAE(アブダビ)と、新たに6カ国がF1開催国に加わった。F1チームは、レーシング・マシーン、パーツ、その他の機材が、F1チーム100 人を超すスタッフと共に巡業するため、F1サーカスと揶揄されるが、今や正にグローバルなサーカス軍団である。

F1開催において問われる地方自治体の意義
F1日本グランプリの最大の特徴は、鈴鹿、富士ともに、参戦する自動車メーカー自身がオーナーであるサーキットに於いて開催。日本では、それが当たり前と捉える向きも多いが、他国16戦のサーキットで参戦チームが保有しているサーキットは、日本以外に見当たらない。それが普通だとの認識にたてば、ホンダがF1撤退した事実について、地方自治体としても冷静に受け止めていくべきである。むしろ、この機会に頭を切り替えて、F1開催地として、地方自治体が主体的に取り組むための契機とするべきではないか。そもそも、世界の開催国のどこを取って見ても、F1は地方自治体以上に国家的なイベントであり、新たに加わったアジア、アラブの国々の多くは国自体がサーキット建設に関与している。日本においても、東京都がオリンピックの二度目の開催に名乗りをあげたが、日本国家の財政的支援が前提に進められている。日本では、F1開催は自動車メーカーが企業PRとして取り組んでいるとの見方が一般的であり、大凡、日本国政府自体に当事者意識が欠如している。これは他国と比べ、誠に特異な状況と考えられる。それに倣ってか、日本の最大メディであるNHKが、ニュース番組でもF1を取り上げないのには呆れている。NHKの週末番組では、1時間に及ぶスポーツ番組で、この国際的な競技のことを1秒も報道しないというのは、外国人の誰もが信じられないことなのだ。F1開催地の地方自治体は、このことを先ず意識し、機会ある度にPRすることを期待したい。

スポーツの世界の「トリプル・ミッション」という概念
日本でF1をよりメジャーなものにするために、スポーツの世界には、「トリプル・ミッション(三つの使命)」という概念があるということを説明したい。一つは、「勝利」するという使命。勝てるトップ選手が先ず出ること。次に「普及」、トップ選手に憧れ、トライしてみようという人が増えて競技の裾野が広がる。そして「市場」、そのスポーツの関連市場が生まれ、そこからの収益が選手強化につながり、ますます勝てる選手が出てくるというサイクルのこと。女子ゴルフでは、宮里藍の出現によって急速にこのサイクルが実現。一時低迷していた男子ゴルフ界でも、石川遼の出現でこの兆しが見える。フィギュア・スケートでは、荒川静香のオリンピック金メダルに続き、浅田真央によって、サイクルの循環が生まれようとしている。フィギュア・スケートが「普及」すれば、地方のスケート・リンクなどの「市場」が経済性に繋がる。北島康介の金メダルでも、これからの地方スイミング・スクールの隆盛が期待できる。

まとめ:勝てるドライバーのインキュベーター・シティーを目指して
田中氏は、HRDでの経営に際して、F1の世界でも常に「トリプル・ミッション」を意識し、不断の努力をしてきたが、業半ばで引退した。佐藤琢磨の勝利は実現できなかった。佐藤琢磨の才能は高かったが、大学入学後に初めてカー・レースに挑んだという異色の超遅咲きドライバーである。日本のお家芸である野球でいえば、高校野球という国民的イベントがあるからこそ、才能ある少年がリトル・リーグで研鑽し、甲子園を経て、プロ野球界に入る。だからこそ、メジャーでも通用する選手が出る。もう一つのお家芸のマラソンも、正月の大学駅伝や都道府県対抗という伝統的な国民的イベントがあるから、高橋尚子が出て、野口みずきが続くことができた。日本のF1にはこのようなベースがない。F1のチャンピオンドライバーは、よちよち歩きの時代からカート競争に興じてレースの世界に入ってくる。日本でも、そのような長期的な環境作り、草の根運動から始める必要がある。今や、日本でもプロ・サッカーやプロ野球チームは、地域サポート型になっている。鈴鹿にせよ富士にせよ、国際的なレーシング・サーキットを持つ地方自治体は、そういう活動をするにあたって大きなアドバンテージを持っている。インキュベーター(人工孵化器)という言葉は、最近「新しい人材や市場を育てる」という意味でよく使われている。鈴鹿や富士が、勝てるドライバーのインキュベーター・シティーを目指し、長期的な活動計画を立ててもらいたい。それが、トリプル・ミッションのサイクルに乗れば、頂点のF1のみならず、広くモータースポーツのイベントが栄え、それに応じて観光振興を含めた地方の活性化に結びつくのではないだろうか。

基調講演 「F1ビジネス〜企業スポーツからの脱却〜」
講師:田中 詔一氏(Honda Racing Development LTD.初代社長)

-Source: F1経済効果調査 報告書 - pdf
Suzuka21 鈴鹿F1日本グランプリ地域活性化協議会
2009年03月31日
F1経済効果調査報告書が完成!
F1開催に伴う経済効果は,これまでも簡便に試算された事例はあるものの,詳細な調査は実施されてこなかったことから,鈴鹿市が平成20年度に株式会社百五経済研究所に委託し,2006年に鈴鹿サーキットで開催されたF1日本グランプリを基に,対象範囲を鈴鹿市の域内に留まることなく,広域圏で多分野にわたる経済効果を総合的に検証し,F1再開を契機とした地域観光戦略の更なる推進のための調査研究を実施いたしました。
F1経済効果調査 報告書 - pdf
F1経済効果調査 報告書(概要版)- pdf





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