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2009年12月24日

F1のホイール

Roll with it - Spotlight on Formula One wheels

チーム、マシン、ドライバーが最高のパフォーマンスを出そうと協力するF1レーシングはマスターするのが難しい。各パーツの合計よりも総合パッケージの方が大きくなることは間違いないが、決まり文句を使えば「勝利は細部に宿る」ことを覚えておくのは大切であり、F1レーシングにおいては細部以上に重要なものはないのだ。

その究極の代表例はマシンそのものである。ノーズからテールまで、マシンの設計はチームの完璧への追求を体現している。いかに小さい要素であっても、レースあるいはシーズンさえ左右する。そしてどのマシンのどのパーツも、チームを裏切ることがないよう磨きをかけられ(さらに研ぎ澄まされ)ている。

マクラーレンのタイヤ(ブリヂストン)とホイール(エンケイ)、2009年F1中国GP

見過ごしやすく、それを取り巻く話題のタイヤによってしばしば見劣りするホイールは、興味深い好例である。ホイールは、全チームが使用する取るに足らない均一な金属の塊ではない。実際、F1のホイール・メーカーの競争は、エンジンサプライヤーの競争と同じように激しく、チームのホイールに向けられる作業は他の部品に対する作業に匹敵する。

FIAのホイール規約は驚くほど短い。そのホイール数は4つに限定されており(1976年六輪のティレルP34を思い出してほしい)、均一な金属材料から製造されなければならない。ブリヂストンのタイヤに装着した場合の幅は、フロントは305〜355mm、リアは365〜380mmの間になければならない。また完全なホイール直径はドライウェザー・タイヤを装着した場合は660mmを、あるいはウェットウェザータイヤを装着した場合は670mmを超えてはならない。それ以外については、グリッド最高のホイールを設計・製造するのは、ほとんどチームとチームのホイール・パートナーに任されている。

ルイス・ハミルトン、マクラーレンMP4-24、2009年F1スペインGPマクラーレンのホイール(エンケイ)、2009年F1ブラジルGP

言うまでもないが、規約がこのように比較的柔軟性であることと、本当のパフォーマンス的アドバンテージを得るため、チームとサプライヤーとの間には長期的パートナーシップが生まることもある。8度のコンストラクターズ・チャンピオンであるマクラーレンは10年以上エンケイと提携している。エンケイは、世界有数のOEM(相手先商標製品の製造会社)ホイール・サプライヤーで、あらゆる大陸で年間1億輪以上のホイールを製造している。マクラーレンにとって、エンケイを選び、提携を続けていることは明快な決断だった。

マクラーレンのデザインチームの上級メンバーであるルカ・フルバットは「エンケイがホイールの設計・製造のあらゆる面について非常に知識が豊富で、能力のある会社であることは間違いない」と語る。「長い年月をかけて製品を完璧にし、あらゆる機会に性能と品質を向上させたいというエンケイの願望は、マクラーレンの展望と価値観と連携している」

このパートナーシップは、エンケイの日本本社の紙から始まる。マクラーレンが、最大重量、ハブデザイン、剛性、設置条件を指定すると、エンケイのチームが作業にとりかかり、マクラーレンに最終提案を出すまで各種の、通常は20くらいのアイデアを考案する。

ホイールの設計においては、力と重量のバランスが非常に重要である。あまりに重ければマシンのパフォーマンスが低下し、あまりに弱ければ故障のリスクが生じる。これはまさに綱渡りで、それを正確に評価するためにエンケイはマクラーレンから提供される模擬サーキット・データを利用する。このデータと「有限要素解析」と呼ばれるプロセスを利用し、エンケイは多くの複雑な計算を経て、カレンダーの各トラックにおける部品の耐久性を予測できるのである。

興味深いことに、ホイールはタイヤと接触するF1マシンの唯一の部品であるが、F1レーシングの公式タイヤ・サプライヤーであるブリヂストンから設計について直接的関与を受けていない。しかし、ブリヂストンは、縁のプロフィール、タイヤ据付・取外しの凹部などホイールの重要な特徴のいくつかを規定するETRO(欧州タイヤ及びリム技術機構)の仕様にしたがっているので、マクラーレン以外からの外部情報の提供はほとんど必要ではない。

そして毎年、マクラーレン-エンケイのパートナーシップは、技術の新たな改善方法を見出し、ライバルに対するアドバンテージをマクラーレンにもたらそうと努力している。設計の発展は双方にとって変わらぬ目的であり、F1レーシングにおけるすべてのことと同じく、非常に綿密なプロセスである。それを考えると、2010年初戦の5ヶ月前、エンケイの工場での生産に備えて、エンケイとマクラーレンは来シーズンのホイールの設計と仕様を正式に決定した。

フルバットは「最終製品を完璧かつ最適なものにしたいので、ホイール設計は毎シーズン変わる」と説明する。「製造サイクルを定期的に見直している。タイヤ・フィッティングから軽量のペイント仕上げ、より精巧な機械加工からリムとマシンの空力学の空力学的相互作用まで、常に新しいことを取り入れようとしている」

「さらに、レースの全体的結果にとって非常に重要なピットストップ中のタイヤ交換速度に関した側面がある。またマシンを常に合法的にするために、ある程度の注意を必要とするイベント中にタイヤ仕様の形状と重量の差(例えば、ウェットタイヤはドライ用に比べ重量が異なる)を管理することに関する側面がある」

パートナーシップはまた、シーズンごとに変わる規約変更にも対応しなくてはならない。シーズン開始前にホイール設計が承認されなくてはならない2010年については、規約はFIAによって厳格化されようとしている。しかし、ある分野でのチャンスが減った場合、優秀なF1エンジニアなら誰でもそうであるように、エンケイは設計の範囲の中でほかの部分を最大限活用しようとする。

エンケイのマーケティング部門担当役員の寺田孝佳は「ホイールメーカーとして、我々は新しいシーズンのたびに製品を改善・アップデートする自由があります」と説明する。「しかし2010年については、いくつかの分野において、リムの最低厚さを規定するなど、新しいFIAの規約はあまり自由を認めなくなりました。つまり、我々は他の分野で努力するということです。ホイールのスポークとハブの規制は緩いので、これらの分野についてはさらに集中的に開発することができます」

来年のマシンは、フロントタイヤの幅が狭くなり、給油禁止によりレース・スタート時の重量が重くなる。これと新たな支出制限のおかげで、マクラーレンとエンケイの設計部門は興味深い時間を過ごしている。

フルバットは「来シーズンの違いについては、コスト制限、フロントタイヤのサイズ縮小(12.75インチから12インチ)、重いマシンのおかげで、2010年は大きく変わると予想している」と語る。「不況とFIA/FOTAによる財政的制限のため、ホイール設計のチャレンジは、安価なホイール、あるいは寿命5,000km以上という耐久性の高いホイールを目指すことになるだろう」

1シーズンでこれほどの変化があるので、過去10年間ホイールの設計と製造は、トラックでの本当のゲインを得るために常に進化するアプローチにより、飛躍的に進歩しても意外ではない。10年前、ホイールは4kgの重さがあったが、今シーズンは3.6kgだった。最新設計は、1990年代後半の設計よりも、20%以上効率的であると見なされている。

製造技術にも大きな進歩があった。以前は、ホイール製造用のマグネシウムは鋳造されていたが、今ではエンケイの工場でなんと9,000トンのプレスで鍛造されている。ホイールは基本的な形状と輪郭を作り上げるために回転され、その後スポークをつくるために5軸の機械を利用して圧延される。10年前は通常は2軸の機械が使用されていたが、現在は5軸の機械のおかげでエンケイはF1レベルの品質と一貫性を達成することができる。これは緊迫したプロセスであるが、実際はエンケイの作業は始まったばかりである。

寺田は「我が社では、ハブと、タイヤバルブと圧力センサー用の追加の穴も機械加工します」と説明する。「基本的なホイールが完成すると、徹底的に検査をして、一連の非破壊検査を実施し、脱脂、塗装、ラッカー塗装、外見と塗装仕上げの再検査を行ないます。最後に、それぞれのホイールを個別に箱詰めし、マクラーレンに発送します」

これは大量の輸送となる。今年の17戦のカレンダーを通じて、マクラーレンは約350のホイールを使用した。フルバットは「レース週末、各ドライバーはドライタイヤ、ウェットタイヤ、エクストリーム・ウェットタイヤなど21セット(あるいはホイール84セット)まで使うことができるので、通常、各イベントに合計180のホイールを持ち込んでいる」と語る。「レースには新しいホイールを使う傾向があるが、最終的にシーズンが進むと、一部レースでは走行距離の少ないホイールを使い始めるようになる。また、空力学的テスト、デモ走行、オフシーズン・テストにもホイールが必要なので、適切な在庫を維持しつつ世界中にホイールを輸送するという物流問題は、簡単には解決できない」

エンケイは各レースに代表者を送り込まない(マクラーレンがトラックでホイールに気を配る)が、同社の仕事は、シーズンが始まっても終わらない。エンケイは、年間を通じて必要な技術的支援やホイールの修理を提供する。そして、重要なことに、故障という珍しいことが起こるとエンケイが調査を行なう。

長期にわたる設計・検査プロセスにもかかわらず、ホイールの信頼性は100%確実ではない。フルバットによると、エンケイのホイールの理論的寿命は約3,000kmだという。縁石による強打あるいは短時間のコースアウトで故障することは非常に稀であるが、軽い接触、リムを傷つける石、事故などは被害を及ぼすので、実際の平均寿命は2,500kmに近い。

最適の信頼性を確保するため、マクラーレンは定期的にホイールの非破壊検査を実施している。しかしこのような努力にもかかわらず、予想外の事故から守ることは難しいので、ホイールの故障はどうしても発生する。マクラーレンにとって、最も最近の例は2008年スペインGPだった。ドライバーのヘイキ・コバライネンの高速クラッシュは、マシンの左フロントホイールの製造不良が原因とされた。

ヘイキ・コバライネン、2008年F1スペインGP

寺田は「あの事故は、不運な状況が重なって起こりました。ホイール表面に検出不可能な不適切な仕上げが施されたので、ホイールはレーシング速度における予荷重を失ったのです」と説明する。「その結果、ホイールが緩んでブレーキダクトにこすりつけられ、タイヤ圧が突然低下してヘイキの事故につながりました。実験室で全く同じ状況を再現するのは簡単ではありませんでしたが、すべての問題を理解したので、検査手続きをさらに厳格化することができました」

エンケイのハイレベルなF1関与にもかかわらず、F1は彼らの事業のごく一部に過ぎない。乗用車用ホイールが彼らの本業である。しかしF1レーシングにおけるあらゆる物事と同じように、レーストラックと道路の間には持ちつ持たれつの要素があり、形状および機能の面で、最終的に全員のためになるのである。

寺田は「F1のホイールは確かに、大量生産のホイールや、軽量のアフターマーケット用交換ホイールに比べれば微々たるものです」と語る。「モータースポーツでの仕事から、我々は乗用車用ホイールの設計の進め方、軽量化の方法、効率化の方法、燃費と乗り心地を改善する品質などを学びました。そしてモータースポーツでは機能が最も重要ですが、我が社は、スタイル的に、アフターマーケットのホイール売上げに影響を及ぼすようなデザインの考案を目指しています」

-Source: The Official Formula 1 Website
-Mobile: F1携帯日記
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+参照 - 動画 -
サイエンスチャンネル「自動車用ホイールができるまで」
製造方法には、アルミを溶かして型で作る「鋳造」と、溶かさずにつぶしたりのばしたりして作る「鍛造」があります。今回は鍛造の製造工程を紹介します。平たい板が、ローラーの圧力で見事にのびていきます。



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