2010年08月10日

マクラーレンの「スーパーカー・ファクトリー」はロン・デニスイズムに満ちている

Sssh! You're looking at Britain's £800m supercar secret weapon

シーッ! これが英国の8億ポンドのスーパーカー秘密兵器だ
世界のどこに、この不況時に豪華な新しいスーパーカー(とそれを製造する4,000万ポンド(54億3,435万円*)の施設)に身上を賭ける人物がいるというのか? ベン・オリヴァーが、それらしく秘密めいてゾクゾクするほど未来的な場所から報告する... その場所はサリー州ウォーキングである。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:マクラーレン・テクノロジーセンターの生産ラインの横で、カバーをかけられているMP4-12Cスーパーカーのシャシーのプロトタイプ。ボディはまだマシンにとりつけられていない。カバーの下の塊はドライバーズシートの上部。
<写真>マクラーレン・テクノロジーセンターの生産ラインの横で、カバーをかけられているMP4-12Cスーパーカーのシャシーのプロトタイプ。ボディはまだマシンにとりつけられていない。カバーの下の塊はドライバーズシートの上部。

マクラーレン・テクノロジーセンター(MTC)とジェイムズ・ボンドの悪役の隠れ家との類似点は完全に意図的なことである。建物と湖で構成される陰陽のシンボルは道路から見ることはできないが、本当に重要な訪問者(レーシング・ドライバー、株主、スポンサー、顧客など)は、ジェット機やヘリコプターで到着するので、近くの飛行場から遮光されたメルセデスに乗って案内される前に、上空からその眺めを称賛することができる。

自分で車を運転する場合、駐車場にある銀色の円形ポッドのひとつを通り抜け、長くて広くて白い、不気味なほど空っぽの地下通路を下っていく。壁には宇宙時代の文字が描かれている。まるでスタンリー・キューブリックの映画セットからそのまま抜け出したようだ。

突き当たりにあるエレベーターに乗り込むと「大通り」に連れて行かれる。そこでは正門の警備員以来初めて人類に遭遇する可能性が高い。「大通り」はMTCの背骨である。マクラーレンの50年間のトロフィ・キャビネット、何百万ポンド相当の歴史的レーシングカー、モータースポーツの頂点における半世紀近い遺産が納められている。この間マクラーレンはグランプリ優勝168回、ドライバーズ・タイトル12回、コンストラクターズ・タイトル8回、インディ500優勝3回、ル・マン24時間レース最初の参戦で優勝を果たしている。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:完成したMP4-12Cスーパーカー。検査室ではコンセントや送気管のほか、標準としてコンピュータ接続も用意されている。
<写真>完成したMP4-12Cスーパーカー。検査室ではコンセントや送気管のほか、標準としてコンピュータ接続も用意されている。

マクラーレンの本部は、強い印象を与えて威嚇することを目的にしているが、それは成功している。3億ポンド(407億円*)の建物は公式にはフォスター卿によって設計されたが、これはマクラーレンにおけるボンドの悪役、ディテールにこだわることで有名な恐ろしいロン・デニスの作品であることは誰もが知っている。デニスは、1960年代後半にF1メカニックとして仕事を始めた。1981年、34歳にして彼は低迷するマクラーレンF1チームを買収し、1988年までに彼はチームを強化し、その年は16戦中15勝を挙げた。そしてわずか13歳のルイス・ハミルトンと契約した明敏さによって、デニスは推定2億ポンド(271億円*)の個人資産を築き、依然として事業の15%の株式を所有している。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:マシンの車載コンピュータおよび電子装置のためのモバイル・プログラミングおよび診断ユニット
<写真>マシンの車載コンピュータおよび電子装置のためのモバイル・プログラミングおよび診断ユニット

今や彼はマクラーレンの最もリスクの高い冒険的事業を率いている。F1チームをフルスケールのスーパーカー・メーカーにするため、トラックと同じように一般道でも、フェラーリに対抗する英国のライバルになるため、8億ポンド(1,086億円*)を賭けているのだ。しかし彼はそれを高級車の売上げが激減している世界的不況時にやろうとしている。ロンは狂っているのだろうか? 彼は他に選択肢はないと語る。

彼は「わたしの頭の中に焼きついている本当に恐ろしい統計値がある」と言う。「我々がF1に参戦した1966年以来、106のチームが来ては去って行った。ピットレーンに残っているのは我々とフェラーリだけだ。したがって、グランプリチームとしてのみ存続すればいずれ絶滅する。我々は事業を拡大する必要がある」

予定されている3種のスーパーカーのうち最初のモデルが年内に発売されるが、マクラーレンはすでに2,500人の「有資格」顧客をそろえている。「有資格」とは、時速200マイル(321km)のマクラーレンMP4-12Cの値段、17万5,000ポンド(2,377万5,320円*)の小切手を簡単に書くことできるという意味である。

MTCに隣接して建設されている新たな4,000万ポンド(54億3,435万円*)のファクトリー、マクラーレン・プロダクションセンター(MPC)の工事が完了するまで、最初の500台ほどの車はMTCの内部で製造される予定である。しかしMPCで製造される車が、ハミルトンやジェンソン・バトンのレースカーと同じ屋根の下で製造される車よりも、ディテールにこだわらないと考えてはならない。そんなことはロンが許さないだろう。ディテールに対してひどくこだわるため、彼はすでに新しいファクトリーのフロアプランを少し変更させ、カットしなくてもはめ込めるフロアタイルとグラウトを選んだ。

ロン・デニス、マクラーレン・プロダクションセンター(MPC)予定地
ロン・デニス、マクラーレン・プロダクションセンター(MPC)予定地

マクラーレン・プロダクションセンター(MPC)建設現場
マクラーレン・プロダクションセンター(MPC)建設現場

アラン・フォスターは、リバプール出身の穏やかなマクラーレンのオペレーションズ・ディレクターである。彼はマクラーレンに雇用されるまで30年間、世界最大の企業のいくつかで自動車製造の経験を積んだ。スーパーカーは美しく魅力的ではあるが、驚くほど雑に作られていることが多い。デニスは、フェラーリと同じようにエキサイティングだが特に信頼性の高い車を要求している。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:訪問客をMTCに導く地下通路。新しいマクラーレン・プロダクションセンターには見苦しい半分サイズのタイルは存在しない。フロアタイルはカットされることなくはめ込まれる予定である。
<写真>訪問客をMTCに導く地下通路。新しいマクラーレン・プロダクションセンターには見苦しい半分サイズのタイルは存在しない。フロアタイルはカットされることなくはめ込まれる予定である。

フォスターがカードリーダーにセキュリティ・パスをかざすと、両面すりガラスのドアがスタートレックのように、ため息のような音をたてて開く。「ファクトリー」はわたしがこれまで行ったことのあるファクトリーとは全く似ていない。それは小さく(バスケットボール・コート3面くらいのサイズ)、ほぼ無音で、真っ白なタイルは手術室のようにきれいだ。

フォスターは「この床で食事ができるどころか、手術もできるくらいだ」と言う。デニスの清潔さに対するこだわりのため、壁の大半はガラスでできている。

ここで作られている車はまだプロトタイプである。

フォスターは「あの緑の車は完成するとすぐにクラッシュさせる。黒い車はロンや他の役員がテストするためのものだ」と説明する。我々は特に早い時期に取材をすることができたのだ。なぜならマクラーレンは、ライバルに勝る主なセールスポイント、F1マシンと乗用車の密接なつながりをはっきりと示したいからである。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:フロントのブレーキディスクは鉄とアルミの複合材料で、マクラーレンによるとカーボンよりやや軽いという。
<写真>フロントのブレーキディスクは鉄とアルミの複合材料で、マクラーレンによるとカーボンよりやや軽いという。

そのつながりは否定できない。MP4-12は近くにあるもうひとつのマクラーレンの施設で誕生する。そこでは超軽量のカーボンファイバー製「モノセル」シャシーが組み立てられ、アルミニウム構造が取りつけられ、そこにエンジンとサスペンションが連結される。

フォスターは「そこは1980年代と1990年代、マクラーレンのF1マシンが作られた場所だ」と語る。「我々にとって神聖な場所なんだ。そこではアイルトン・セナの亡霊を感じることができる」

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:スプレーペイント・ブースは、マクラーレンのF1チームと共用である。マシンのすべてのパネルは、色を統一するため同じバッチのペイントから塗装される。
<写真>スプレーペイント・ブースは、マクラーレンのF1チームと共用である。マシンのすべてのパネルは、色を統一するため同じバッチのペイントから塗装される。

カーボンファイバーはMP4-12にとって唯一の選択肢だった。このように完全なカーボンファイバー構造は通常、F1マシンあるいはブガッティ・ヴェイロンのようなハイパーカーでしか見られない。しかしマクラーレンの以前の乗用車2種はいずれもカーボンファンバー製だった。1990年代初期のマクラーレンF1は、当時世界最速で、最も高価で、おそらくこれまで製造された中で最高の車だった。ただし、不景気のため107台しか製造されなかった。

メルセデスのためにここで2,000台以上製造さえたマクラーレン・メルセデスSLRは、世界で最も売れたカーボンファイバー車だった。しかし価格は最低30万ポンド(4,075万円*)だった。この価格のフルカーボンの車で利益を出すのは難しいが、マクラーレンは逆行しているように見られるわけにはいかない。ロンのもとでは、すべてのF1マシンがカーボンファイバーで作られている。

ボディはその後、製造ホールに持ち込まれ、キャスターつき台座に乗せられる。生産ラインはない。車はワークステーションの間を押されて進み、2、3人の技術者が美しい道具の力を借りて、非常に高価な部品を取りつける。他の自動車工場に比べると、奇妙なくらい印象的ではない。怒ったような顔をしたオレンジ色のロボットが火花を散らすこともない。その代わり、MP4-12Cはゆっくりときめ細かに作られていく。騒々しい空気動力工具すらない。あらゆるボルトはトルクレンチを持った人の手が締めていく

フォスターは「あらゆることを平穏に静かにすると、人々は自分の仕事により集中することができる」と語る。「うちのスタッフはそういう仕事の方法に慣れている。ここにいる誰ひとりとして、マクラーレンでの経験が5年未満の者はいない。彼らの大半はF1で仕事を始めた。例えばあそこにいるメティン。彼はアラン・プロストの右フロント・ホイールを交換していたんだ」

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:パーツを組み立てた車は、MTC内のステーション間を手動で移動される。一度に6台の作業ができる。
<写真>パーツを組み立てた車は、MTC内のステーション間を手動で移動される。一度に6台の作業ができる。

「見学ツアーで大事な顧客を連れてくると、すぐに注文してくれる。ここを見学した潜在的買い手のうち98%が即座に車を注文したよ」

マクラーレンは、有能なイタリアやドイツのライバル車よりもこの車が優位に立てるようにしたいと願っているが、丸裸にするとそのディテールを見ることができる。

しかしデニスが言うように「グラム単位の問題」である。マクラーレンは軽量化のためのあらゆるチャンスを見逃していないようだ。フォスターは、ダッシュボードを支える軽量アルミニウム製ビームに押されたマクラーレンのロゴを指差す。「通常のデザインではロゴが浮き上がるが、エンボス加工にすることで2.4g軽くなることがわかった。そこで我々はそうした」

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:明るい均一な照明により、細かいペイント作業の欠点も簡単に見つけられる。
<写真>明るい均一な照明により、細かいペイント作業の欠点も簡単に見つけられる。

このようなディテールへのこだわりがあってこそ、MP4-12がスーパーカーのベンチマークになる。しかし、デニスと仕事をするのも恐ろしい経験になる。MTCではデニムやポストイットのメモは禁止されており、従業員はデスクの上に一度にひとつのアイテムしか置いてはならない。

タイル張りに対するデニスのこだわりのため、「大通り」の上の屋根を支える柱の中心部とタイルのつなぎ目も揃っている。さらに彼はMTCで使用される活字書体もデザインした。わたしはデニスに関する都市伝説のいくつかの謎をフォスターに解いてもらうことに決めた。トイレのソープ・ディスペンサーが液垂れしないよう、彼が再設計したというのは本当なのだろうか?

「そうだ。彼はそうしたと思う」

彼は毛深い従業員のひとりに、1日2回ヒゲを剃るよう命じたのか?

「そうだ。その人物は実際わたしの下で働いていた」

ガラスの壁を汚していた一群の鳥を見つけたとき、彼は会議を中断してメインテナンス・チームを呼び出し、「この雁を撃つように言ったはずだが」と叫んだというのは本当なのか?

フォスターは頭を振って「これは都市伝説として残しておくべきだろうね」と答える。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:車に取りつけるばかりになったブレーキディスク
<写真>車に取りつけるばかりになったブレーキディスク

マクラーレンをフェラーリの信頼できるライバルにするためには、デニスのあらゆる力を必要とするだろう。2000年以来スーパーカー市場の価格は6倍に拡大したが、金融危機に見舞われると、あっという間に10万ポンド(1,358万円*)も縮小した

世界的販売台数は絶頂期に比べ38%低下している。マクラーレンの主なライバルであるフェラーリはたいていのメーカーよりも優秀で、2009年の販売台数はわずか5%減の6,250台だった。しかしセンセーショナルな新車カリフォルニアの発表がなければ、その数字はもっと低いものになっていただろう。英国のライバル、アストンマーチンはもっと悪かった。2007年は7,000台の自動車を販売したが、2009年は4,000台にまで落ち込み、スタッフの3分の1を解雇した。

デニスは年間4,000台のマクラーレン販売を予定しており、このチャレンジにうろたえている様子はない。

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:車の中心部の黒いカーボンファイバー製モノセルがむき出しになったプロトタイプ・シャシー。三角形の中心にはエンジン。加熱を改善するためシャシーの低い位置に取りつけられる。
<写真>車の中心部の黒いカーボンファイバー製モノセルがむき出しになったプロトタイプ・シャシー。三角形の中心にはエンジン。加熱を改善するためシャシーの低い位置に取りつけられる。

彼は、小規模な自動車メーカーの多くが来ては去っていったが、我々はそのなかの1社になるつもりはないと語る。「スーパーカーは必ず復活するし、我々はその波に乗るつもりだ。新しいファクトリーのコストを劇的に下げることができた。ビジネスをするのにこれ以上の環境はない。サプライヤーには、我々を儲けのチャンスとして見るのではなく、生き残るための橋と見なすように言ってある」

「だから、この難しい状況はチャンス以外の何ものでもない。現状では、本当に利益が出るのは4、5年先になるが、我々は効率的なプログラムがあり、市場の4%しかターゲットにしていない。これらは保守的な数字だ」

「我々は現実的だと思う」

マクラーレン・スーパーカー・ファクトリー:MTCに沿って作られた湖の水は、風洞の冷却のために利用される。
<写真>MTCに沿って作られた湖の水は、風洞の冷却のために利用される。

-Source: MailOnline
-Amazon: マクラーレンF1 ロードカー 1994 1/12

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*日本時間2010年08月10日11:39 の為替レート: 1ポンド=135.858968円



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