
Boichi 作品集 HOTEL (モーニングKC)
強烈なディストピア世界のSF短篇集。特に表題作のHOTELは、地球温暖化が手の付けられない状態まで進行し、地球がやがて金星のように気温が上昇していくことが予見された世界。沸騰した海と強力な嵐の中、人間はおろか生物も住めなくなった地球で、人間が地球に対して行った罪に対する責任として、人間「以外」のDNAを保存するHOTELとそこに搭載された人工知能ルイの数十万年に及ぶ物語。
地獄のような世界となった地球において、悠久とした時間と激烈な環境でつぎつぎと朽ちていくHOTELと自分自身を改良し、数百年、数千年、数万年という時間の中で自分の至上命題であるDNA保存は完璧実行しながら、自分を作った父と母のことを反芻し、そして自分の使命について失敗したと考える。自分は父と母のいいつけを守らなかった悪い子であると。そんな永遠のような時間の果てで人工知能が行き着く世界とは・・・
数十万年という時間の経過をたった40Pで見せてくれるマンガはちょっと他に見たことがなかった。圧倒的の一言に尽きる。表題作の他にも、マグロが食べ尽くされ絶命つした世界で何とかマグロを取り戻そうと妄執的なまでの奮闘とその過程で地球を救ったりする科学者の話や、難病の治療のために冷凍冬眠され、ようやく目を覚ました恋人と最後の三日間を過ごす話など、どれも唸ってしまう。
マンガで重要なのは荒唐無稽な設定をいかに本当の「ように」見せてくれるかどうかで、このマンガは表紙を見てもわかる緻密な作画とSF的科学描写がでそれを支えてくれる。何度でも読みたくなる短編。
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