TBS

2010年07月28日

 7月26日の日経ビジネスオンラインに「Twitterやfacebookをビジネスにどう生かす 米国でソーシャルメディア「責任者」が急増」という記事があった。これはアメリカのビジネス雑誌『Bloomberg Businessweek』内のコラムを日本語訳したものらしい(元記事は7月15日更新)。この記事の内容から頭に浮かんだことを書きつつ、企業のツイッター利用について考えてみる。特にメディア企業のアカウントに注目する。

 本エントリのタイトルに「ネットリテラシーの重要性」と書いたが、そもそもネットリテラシーとは何か。この言葉を定義するのは非常に難しい。よってここでは、企業のツイッター責任者に求められるのは何かということを列挙することで、私が考えるネットリテラシーの定義に代えることにする。

・「人間らしさ」を出すこと
 つまり、個人の能力・魅力が重要ということだ。このことは、ブログ「きらら2号」でも言及されている。私たちは、企業という無機質なイメージのある組織体に「人間らしさ」を求めている。これはネット上では特にそうである。なぜなら、ネット上の企業サイトはきまりきったことしか書いていなく、大体は堅苦しい表現で覆われているからだ。

 そこで、その「人間らしさ」を醸し出すためには、やはり一人の個人が何らかの魅力あるツイートを繰り返すことが良いだろう。もちろん、一つの企業アカウント内で異なる人間がツイートをしても良いと思うが、その場合はその都度、誰が書いたのか分かるように署名を入れるべきだろう。

 では「人間らしさ」を出すとは具体的にどういうことか。メディア企業の中でいい例がNHKだ。NHKはいくつかのアカウントを持っているが、その中でも特徴的なのがNHK広報局=「@NHK_PR」だ。自己紹介の欄には次のようにある。
アカウント名のPRはパブリック・リレーションズの略です。また、ツイートにやや癖がありますので、苦手だとお感じの方はアンフォローを。なお、1人で運用しているため業務の状況や担当者の体調によって止まることがあります。

 実際、宣言通り、「癖」のあるツイートが多い。ただ、読んでいて不思議といやな気持はしないのだ。例えば。

本日はこの辺で失礼いたします。もしよろしければ、この後もNHKを少しお試し頂けると幸いです。総合1:10「ワンダー×ワンダー(再)」。BS2では4:55「お手軽工作室▽DIYの頼れる相棒グルーガン」です。明日は別件に直行しますので、午後からのツイートです。それでは ciao!!12:19 AM Jul 27th via HootSuite

このように番組の宣伝もする。しかし、「本日はこの辺で失礼いたします」「それでは ciao!!」というくだけた雰囲気を積極的に押し出す。

さて、私は別件に行かなければなりませんので、BS1とBS2の「私が気になる今日の番組」は、また後ほどご案内します!なお、ハートネットTVのアカウントは @nhk_heart です。それではっ…すたたたたたたっ、だっぱーんっ!(←別件へ向かう音)11:25 AM Jul 26th via HootSuite

このように擬音も混ぜつつ、時にはごく個人的な嗜好を表明したり、TBSのツイッターアカウントとつつき合いをしたりと、まさに「人間らしい」側面を見せている。

 ここでわざわざよくない例を紹介する必要はないかもしれないが、私自身がそのツイートを見ていて、あまり気持ち良くない(より良くできると思う)ものお挙げておく。それは毎日RT編集部(mainichiRT)=「mainichiRT」と朝日新聞のWEBRONZA=「@webronza」。

 前者は、ツイッターユーザーのツイートを紙面に掲載する媒体であるため、その投稿の呼びかけが中心となっており、ともすれば「転載可なご意見 #mainichirt のタグでお願いします」という「お願いツイート」ばかりになりがちだ。後者は、どんどん(ほぼ毎日のペースと思われる)とメインのテーマが変わり、その度に「テーマ+URL」というツイートが流れ、無機質そのものである。両者とも、時には例外的なツイートもあるものの、その数の少なさと堅苦しい感じが何とももったいない。もちろん、時間的、経済的な問題があるとは想像するが、経営陣はツイッターにかけるコストは、後から十分回収できると考えた方がいいだろう。

・質問に答えること
 これについてはホリエモン(堀江貴文さん、@takapon_jp)を例にしよう。堀江さんは個人なので事例としてはふさわしくないかもしれないが、ちょうどいいツイートがあったので。

いつも思うのですが、堀江さんはこういう質問には妙に律儀に答えるw RT @takapon_jp: 尻に興味なし QT @zyukenn
@takapon_jp じゃあお尻は? 約9時間前 via HootSuite

これは神田さんというユーザーが堀江さんのツイートにRTを付けたものだが、「いつも思うのですが、堀江さんはこういう質問には妙に律儀に答えるw」という指摘は興味深い。「質問」の中でも、特に個人的な好みや属性についての質問にはきちんと答えることは大事だろう。これは既に上で指摘した理由からだ。
 
 堀江さんはメルマガでも、読者からの質問に丁寧に答えるというパフォーマンスをしているらしい(有料。私は未だ購読していない。参考→堀江貴文インタビュー vol.1 「ホリエモンにネットでお金を儲ける方法を聞く」-現代ビジネス-田原総一朗のニッポン大改革)。そのスタイルが読者から高評価を受け、今では「一万人いかないぐらい」の数の読者を集めているという。

 これを企業の場合に置き換えれば、このような個人に関する質問が来るようになったときには、読者が(企業に対してはもちろん)個人に対して興味を持ち始めたということで、「成功」と捉えるべきだろう。このような質問が来たら、「しめた!」と考えて、何よりも早くリプライをすべきである。

 そしてもちろん、批判的なニュアンスを含んだ質問や明らかに批判だけのツイートなどにも、きちんと対応すべきである。ソーシャルメディア、特にツイッターが画期的なのは、企業への質問がすべて可視化されていることだ。ツイッターの自分のページの右側にある検索画面から、他のアカウントにどのようなリプライが来ているか、確認することができる。例えばそこに「@maru_kiichiro」と入れれば、私のツイートに対してどのような反応が来ているか見ることができるということだ。

 一つだけ悪い例を紹介すれば、TBSのぶうぶ=「@tbs_channel」がある。江川紹子さんがサンデーモーニングに出演できなくなった件で(参考→当ブログ6月24日の記事「【TBS「サンデーモーニング」江川紹子さん「降板」】の新聞記事が酷い」)、@tbs_channelに対しては多くのリプライがなされていた。

予想通りツイッターのTBSアカウント( @tbs_channel )にはリプライ多数→http://bit.ly/bAXhLv しかしTBSアカウントのツイートは18日午前11時から更新していない様子。11:43 AM Jun 20th via yoono

しかし、このツイートで書いたようにTBSぶうぶは反応せず、結局現在まで触れていない。さらに残念なことに、このようなツイートをしていた私は数日後、@tbs_channelからリムーブされた。

 もちろん、これは個人的な恨みつらみを書きたくて公表しているのではない。メディア企業という、どうしても公共性を問われてしまう企業にあって、その視聴者からの質問に答えないというのはあまりに認識が甘いということを指摘したいのだ。もちろん、質問の中には誹謗中傷や怒りを覚えるものも多いだろう。しかし、すべてに反応する必要は必ずしもなく、答えやすい質問から、誠実に返答していくことはできる。「質問は無かった」ということにしてしまうのは、ツイッターにおいてはもはやできない。

 このように返答をする中で、火に油を注ぐような答えをしてしまうこともある。それをしないためにも「ネットリテラシー」を身に付けておくことが大切だ、ということを書こうと思ったのだが、長くなったので今回はここでやめておく。実際に企業で働いているわけでもない私が偉そうに書くことには批判があると思うが、何卒お許しを。


丸山紀一朗続きを読む

maru_kiichiro at 10:25コメント(0)トラックバック(0) 

2010年06月24日

 TBS「サンデーモーニング」江川紹子さん「降板」事件。これは5月23日の放送中に、張本勲さんの発言に対して「えー?」などと反応した江川さんが、出演予定だった6月20日の放送に出演できなくなり、それを江川さん自身がツイッターに投稿したことで明らかになった。少し遅くなったが、この件を扱った新聞記事が酷いので、ここで紹介する。

ちなみに、5月23日の問題の(/とされている)シーン↓(おそらく、そのうち削除されるでしょうが。)

 この件を扱った大手新聞は、私が調べた限り朝日・産経・読売の3紙。その記事の内容をみてみよう。

朝日・産経は直接取材せず、読売は「ツイッター隠し」
 まず、朝日は「張本氏の「喝」で…江川紹子さん“降板”」(6月19日)、産経は「張本氏と衝突? 江川紹子氏が出演見合わせ TBS『サンデーモーニング』」(6月18日18時09分)という記事でそれぞれ取り上げている。

 しかし、中身を読めばわかるように、両紙とも「江川さんのツイッターによると」「江川さんはツイッターで」などと引用するのみで、江川さんに対する直接の取材(電話も含め)をしていない(TBSに対しては両紙とも取材している様子)。少なくとも、していないように読める。これについては、「昨日今日報道された中で、唯一私に話を聞いてきたのが東スポ」と江川さん自身もツイートしていることから、実際に取材していないと言えるだろう。

 また、読売の「張本勲さんと対立?江川紹子さん出演見合わせ」(6月18日20時38分)という記事にいたっては、「~ことが、18日分かった」と書くのみで、「ツイッター」という単語すら登場させていない。これでは新聞しか読まない読者は、情報ソースが全く分からない。江川さんが本件に初めて触れたツイートは18日の12:16で、読売の記事は同日20:38であることからも、ソースはまず間違いなくツイッターであるにもかかわらず、である。ちなみに、この「分かった」という書き方は、上杉隆さんが「スピリチュアル報道」(『ジャーナリズム崩壊』幻冬舎新書、2008年、44頁~)と揶揄する、典型的な日本の新聞の手法。情報ソースを表示していないこの記事は、もはや論じるに値しない。

直接取材しなかった理由
 さて、ではなぜ朝日・産経(・読売)の各新聞は江川さんに直接取材しなかったのか。その理由はいくつか考えられるが、私は「もはや聞く必要性を感じなかった」というのが一番の理由なのではないかと考えている。というのも、江川さんのツイートを見直していただければ分かるが、彼女自身がツイッターユーザーからの多くの質問に答えているからだ。例えば、以下のようなものがある。

そのあと2,3のやりとりはありましたが、張本氏が許せないのは、最初の「え~」というリアクションなんだそうです RT @amnos725 岩隈くんのえ~だけで喝いれられたんですか・・・1:11 PM Jun 18th via web


そういう提案もしました RT @basskobata そんなに江川さんと一緒に出たくないなら、あのコーナーだけ江川さんが下がるとか、そういう対応の仕方はないのか1:14 PM Jun 18th via web


それも提案しました。けど番組全体から降りなきゃダメ、なんだそうです RT @kom_a スポーツコーナーのときだけ江川さんが退席っていう案とかはなかったのでしょうか。。?1:17 PM Jun 18th via web


私は、お会いします、と申し上げましたが、なしのつぶてでした RT @kanekomitsuharu 張本さんと直接話し合いの機会を作ることはできなかったのでしょうか。1:29 PM Jun 18th via web


実は、張本氏が「江川を出すな」と要求されたのは、これが2度目で、最初の時は関口さんが助け船を出して下さいました。今回は、関口さんが何を言っても譲れないと、張本氏が主張されたそうです RT @oh_no_ohno 関口さんが助け船を出すという事もないんですね1:36 PM Jun 18th via web



 この他にも、質問が来ているか否かにかかわらず、当然ながら彼女自身がさまざまなことをつぶやいているのだ。これでは新聞記者からすれば、もはや仕事がなくなってしまった、と感じるのだろう。再び上杉さんの著書で恐縮だが(私は上杉隆を神と崇めているわけでは決してない)、『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか』(普遊社新書、2010年、87頁)で参議院議員の山本一太さん(@ichita_y)が、「『こんなにまとめてツイートされちゃったら商売あがったりだ』とある記者が言った」と紹介していることが想起される。

 朝日の記事が「ツイッターブームは今後も同様の内幕暴露を生みそう」と指摘しているように、ツイッターの本質的な特徴の一つが、ここから見えるような気がする。(もちろん、ここで「ブーム」という言葉を使っていることには引っかかる。)


 それでは、新聞記者の役割は何なのか。やらなければならないことや出来ることは何なのか。だが、この議論にはここでは突っ込まない。ずるいかもしれないが、今回は上記の記事が酷いということを指摘するにとどめる。

 しかし、この部分について、現実性を伴った議論を生むということがツイッターには可能である、という点は重要だ。なぜならこの議論は、「ジャーナリスト」の定義を考え直すきっかけにも、「公共」とは何かを考えるきっかけにもなり得るからである。凝り固まっていた議論が、現実性を帯びつつ再び活性化する可能性を、私は感じるし、感じたい。


丸山紀一朗

maru_kiichiro at 00:38コメント(2)トラックバック(0) 
最新コメント
購読者数・ブックマーク数相関グラフ
↓クリックお願いします↓
人気ブログランキングへ
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ