マルカドブックス

東海地方を縦横無尽、全国各地に神出鬼没の取材・執筆・編集事務所@西三河より、買って読んだ本のことでも書いてみるシリーズ。

ヨンダホ0346~Mellow Waves

コーネリアスのすべて 別冊ele-king第六号
Pヴァイン・日販アイ・ピー・エス
Cornelius×Idea Mellow Waves コーネリアスの音楽とデザイン
誠文堂新光社


Cornelius×Idea: Mellow Waves
誠文堂新光社
2017-06-23


 コーネリアスこと小山田圭吾がアルバム「Mellow Waves」を発売したのにあわせて刊行されたミュージシャン本。前作「SENSUOUS」から11年ぶりということだが、自分にはつい数年前のことのように思える。トシを取るというのは恐ろしいことだ、と戦慄した40半ばの初夏。
 本書で驚いたのは、SENSUOUSの先行シングルMUSICとBREEZIN'のジャケ写が「パノラマ写真を撮る業者みたいなことをやってる人。不動産屋の空いている部屋を360度で見せるっていうのを仕事でやってて」というカメラマンが撮ったものだという話。当時それを見た時はアートなのかなんなのかよくわからなかったのだが、そういうことか、と。

20170812-1
西三河で小山田といえば小山田地蔵である。
(愛知県安城市箕輪町 2017.08.02)

ヨンダホ0345~佳代のキッチン2&3

女神めし 佳代のキッチン2
踊れぬ天使 佳代のキッチン
原宏一/祥伝社文庫/祥伝社




 車内にキッチンを設えたワゴンで「移動調理屋」をやりながら日本各地を転々とする三十路女性料理人の旅&料理&人情物語連作集。物語世界の居心地が良すぎて文庫の2巻を読み終わってからもからもそこから離れ難く、同時発売されていた単行本の続編も買い(小説の単行本は四、五年に一冊くらいしか買わないのに)、そのうえ読み終わるのが惜しかったので間に前出の「復讐者マレルバ」を挟みながらゆっくり読んだのだった。
 嫁に読ませたところ「展開がワンパターンでつまらん」と言われた。さまざまな土地の人とのふれあい、主人公のお節介によるハッピーエンド、新天地への旅立ち、という繰り返しは確かに嫁の言うとおりではある。だが、自分の心持ちは、この物語のように衣はふんわりしながら身はしっかりしたアナゴの天ぷら的なものを求めていた(たとえが雑すぎ)。
 この二冊を読んで、今年の冬くらいからどこか荒涼としていた心が確かに潤い、なんだか前向きな気持ちになれたのだ。おそろしく表現が陳腐な感想ではあるが、人間そういうときもあるよネ。と思えた40半ばの初夏。

20170813-1
2巻第5話の舞台になった佐賀関へは嫁と行ったことがある。佐賀関は関サバ・関アジ・精錬所の町。日豊本線幸崎駅からバスで行き、数時間の滞在中に料理屋で海鮮丼を食って精錬所の「購買会」でアジ寿司を買ったのだが、料理にはたいして興味がないので味は覚えていない…。
(大分県大分市佐賀関 2006.12.30)

ヨンダホ0344~復讐者マレルバ

復讐者マレルバ 巨大マフィアに挑んだ男
ジュセッペ・グラッソネッリ、カルメーロ・サルド/早川書房

復讐者マレルバ――巨大マフィアに挑んだ男
ジュセッペ グラッソネッリ
早川書房
2017-06-08


 作者はシチリア出身で、老舗の巨大マフィア、コーザ・ノストラが自分の一族を殲滅しようとしたので、80年代後半~90年代前半に新興マフィアを率いて復讐に挑んだ人物。92年、27歳の時に逮捕され、現在に至るまで獄に繋がれているのだが、獄中で文盲を克服して学問を修め、そして書き上げた自身の半世紀という。
 悪いヤツといえば悪いヤツなのだが、義侠心が強く人情あふれる魅惑的な人物で、オマケに女にモテモテ。復讐譚もさることながら女性との精神的・肉体的絡みの描写が厚いところが面白く、これぞパブリックイメージのイタリア人という感じだ。
 本書を読む限りでは悔悛しているようだし、もういいトシだから早くムショから出してあげてもいいんじゃない?とつい思ってしまった。
 それにしても近頃の早川書房のノンフィクションは当たりが多い。

20170811-1
作者の少年時代の愛称「マレルバ」はイタリア語で雑草の意味という。
(名古屋市瑞穂区豊岡通3 2017.07.30)

ヨンダホ0343~断片的なものの社会学

断片的なものの社会学
岸政彦/朝日出版社



 本書の作者は「生活史」を研究テーマにした社会学者として、様々な人にインタビューすることを仕事にしているという。ぼんやりとダークな何かに包まれている社会は孤独な個人の日常の断片で成り立っていて、長年にわたりそうした個人に取材を重ね社会を考察していくなかで感情が揺さぶられながらも論文には掬えなさそうなさまざまなことを、学者らしく冷静な筆致で綴っている。…という感じか。うまく内容を説明できないのだけれど、冷静でない人が多い今の世の中でものを考えるときに何か示唆を与えてくれそうな、逆に突き放されているような、妙に引っ掛かる本である。
 作者の専門である生活史の聞き取りがどのように社会学的な研究成果に帰結するのかよくわからないので、作者が書いた論文を読んでみたいものだ。

20170810-1
本書に挿入されている写真のように撮ってみた写真。
(名古屋市東区徳川町 2017.07.21)

ヨンダホ0342~モキュメンタリーズ

モキュメンタリーズ 1
百名哲/ハルタコミックス




 モキュメンタリーとは「モックなドキュメンタリー」、ドキュメンタリー風フィクションのことらしい。例えばこのような話だ。

 私は商売柄、あちこちで秘蔵されている貴重な歴史資料を目にする機会が多いが、岡崎市郊外のさる建設業者の方を取材をしたとき、「こんなの知ってる?」と畳半畳ほどもある大きな古い図面を見せてもらった。「昭和2年3月5日記」と記されたそれは、どうやら15階建ての円柱形タワーのようである。「ウチのひいじいさんが描いたものらしいんだけど、どこに建てようとしていたのか、誰から発注されて描いたのか、ぜんぜん記録が残っていないんだよね。よかったら調べてみて、わかったらどっかに書いてよ」。

 その図面をカメラで接写させてもらい、りぶらの司書や教育委員会に訪ねてみたのだが、それが何なのか誰も知らない。もちろん岡崎市史などの資料にも記載されておらず、手がかりが何もない。そんなとき、豊橋在住の有名な絵はがきコレクターのところへ取材に行った際、資料の山の中から「御大典記念岡崎博覧会会場見取図」なるチラシ大の書類に遭遇する。そこには図面と同じ形をした「岡崎タワー」が、城跡の岡材公園内に描かれているではないか!
 それにしても岡崎博覧会なんて聞いたことがない。所有者のコレクターも、これは他の資料と十把一からげで東京の古書店から購入したものの中に入っていたもので、詳細は分からないという。

 その後たまたまさる旧家の方と知り合い、その方が少しだけ岡崎タワーのことを知っていた。なんでもこの計画は岡崎の民間団体が企画したものなのだが、当時の岡崎政財界の有力者から猛反発をくらい、初期の段階で頓挫させられたというのだ。「私も噂でしか聞いたことがないんですが、博覧会のタワーに反対した人たちは旧岡崎藩士の一派らしいです。かつての岡崎城より高い建物を岡崎につくることはまかりならん、とか…」。

 これをとっかかりに地道な調査を続けたところ、どうやら徳川家康を盲信するカルトめいた団体が岡崎にあったらしいことがわかった。そして、この「岡崎タワー」を計画した人たちを卑劣な方法で岡崎から追い出したらしいことも。追い出された人たちは逆襲を誓い、昭和9年に建設された「六供浄水場配水塔」の設計者を取り込んで、幻の岡崎タワーのデザインをそこに盛り込ませたという。

 これは面白い話だからどこかに書かなければ!と思い調査を進めていた私のところに、あるとき「これまで人知れず岡崎市政に影響力を持つたさる有力者」の代理人を名乗る人物から突然連絡があって驚いた。「申し訳ありませんが、これは岡崎市が今まで公表してこなかった重要機密に関わることですので、これ以上の深掘りと記事の執筆は差し控えていただけませんか。もしお聞き入れいただけない場合は、しかるべき処置を取らざるをえません…」。

 というのがモキュメンタリー。もちろん上記は全部ウソ話(ヨタ話?)である。
 本書は、多少事実が混じっているフィクションを作者の分身キャラが見聞するという体の連作短編集。掲載の4編とも面白いが、特に「海軍カレーに対抗して“陸軍ナポリタン”が存在した」の巻は秀逸。次作も期待。

20170727-1
本書収録の「走れメロス」で、オーストラリア人ドルオタのメロス、もと地下アイドルの軍曹さん、バイトで二人の旅を同行撮影する百野くんが歩いたと思われる沼津の海岸。P63参照。
(静岡県沼津市大塚 2010.01.10)
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