「七番勝負で金属探知機で通信機器をチェックする話を書いたりしました」

―――藤田麻衣子(観戦記者)

松本博文「ソフト指し不正疑惑・2 観戦記者に聞く」(cakes、2016.10.24)より
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 二〇一六年十月十五日、異常事態の中で第二十九期竜王戦が開幕した。
 ここで両対局者は金属探知器による電子機器不所持のチェックを受ける。
 将棋史上初の身体検査である。

 私はてっきり、今度の大騒動の中、急遽チェック態勢を築いたのだとばかり思っていた。
 ところがそうではないらしい。
 三浦弘行「スマカン疑惑」が公にされるだいぶ前から決まっていたようなのだ。

 竜王戦挑戦者決定戦「三浦弘行 vs 丸山忠久」の第二局が行われたのは八月二十六日。
 観戦記担当は藤田麻衣子。
 その藤田がこう証言している。

 「それまで(三浦九段が「ソフト指し」の不正を疑われていることは)全然知らなかったです。(第2局は大差で、盤上の変化を詳しく書く代わりに)七番勝負で金属探知機で通信機器をチェックする話を書いたりしました」

 【 ソフト指し不正疑惑】2・観戦記者に聞く(松本博文、cakes 2016.10.24)

 けれどもこの観戦記は土壇場になって載らないことになる。
 第一譜の掲載予定は十月十四日。その数日前に讀賣新聞から藤田に不掲載の連絡があり、「いったい何が起こったのか」と藤田は訝(いぶか)る。そこへ、十二日になって、挑戦者が三浦弘行から丸山忠久へ変更される由の連盟発表があったという順序だ。

 つまり、金属探知器設置は今回の大騒動以前に藤田麻衣子が「幻の観戦記」に記しており、その時点ですでに決定していたのである。
 さらに、この設置を要求したのは渡辺明であり、それを受けた連盟はすでに探知機も購入済みだということを、つい最近出たムック本『将棋名勝負伝説』(宝島社、10月21日発行)で大川慎太郎が明かしている。

 となると、次の渡辺発言をどのように解釈したらよいのか。

 「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪されても構わない」(産経新聞 10月21日20時42分配信)

 渡辺竜王はこのように連盟理事会へ迫ったという。十月十日(あるいは十一日)のことだと思われる。
 この発言を知ったとき私は、「不正発生の可能性がある対局はできない」という意味に釈った。

 違ったのだ。
 藤田の証言や大川の記述のように、このときにはもう金属探知器による不正防止対策はできていたのだ。
 七番勝負が公正に行われることは約束されていた。

 にもかかわらず渡辺明は対局を拒否したのである。