これほどの悪人、これほどのエンターテイナーはもう、棋界には現れないだろう。棋界は本当に惜しい人物を失った。

―――松本博文(中継記者)

「米長邦雄永世棋聖(1)」(松本博文ブログ 2012.12.19)より
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 今回の騒動、もうどっちに転んでも良いことはない。
 田丸昇が言ったように、「どのような結果になっても、将棋界と棋士の信用失墜はまぬがれません」「誰も〈勝ち目がない〉という厳しい状況なのです」ということになる。

 もし米長邦雄が会長だったらこんなことにはしなかっただろう。
 現執行部は鉄のカーテンで情報を遮断し、ファンの不信感をますます増大させているが、彼だったらそれとは真逆のパフォーマンスを見せるのではないか。

 その第一弾が、渡辺明と三浦弘行を壇上に上げての大々的記者会見だ。
 二人にそれぞれの言い分を存分に喋らせた後、会見は次のように進むだろう。

 記者「米長会長自身はどう判断しているんですか、不正はあったのかなかったのか?」
 米長「それは私にも判りません。将棋の神様でもこればかりは分からない」
 記者「調査はしないんですか」
 米長「将棋連盟というのはいい加減なところがございましてね……」
 記者「いったいこれからどうなるのか」
 米長「分かりません。あなたの結婚生活と同じです」
 記者「この問題をうやむやにするというのか」
 米長「いえいえ、将棋界には良き伝統がございまして、全ては盤上の戦いで決する、これが棋士の務めであります」
 記者「ということは、竜王戦七番勝負は予定通り開催するのか」
 米長「渡辺明 対 三浦弘行。世紀の大決戦にご注目いただきたい」
 記者「渡辺竜王には不満があるのでは?」
 米長「対局は棋士の命。如何なる理由があっても、棋士は盤の前に座るのが絶対の務めなんです」
 記者「対局中の不正対策は?」
 米長「心配御無用。金属探知器で身体検査をするということをすでに決定しております。ですから、今度の大一番は人間と人間が脳を振り絞って戦う。その一部始終を御覧いただきたい」

 てなことになって、竜王戦七番勝負には各社から記者が殺到、かつてない盛り上がりを見せる。
 金属探知器での身体検査も堂々とカメラに撮らせる。テレビ各社はそれをニュースで報道。対局終了後はこれまた記者会見。

 まあ、あの電王戦のやり方ですな。
 ニコニコの会員も激増、「将棋世界」も倍の売り上げ。

 結局、米長邦雄は騒動をますます煽り、大手マスコミを巻き込んだ社会的事件に仕立ててしまうというわけ。
 その中で、人間同士の白熱の戦いを見せ付け、風向きを変える。

 悪辣と言えば誠に悪辣。
 けれども、八方塞がりの現況よりもこちらの方が遙かにマシなのでは?
 現在の竜王戦七番勝負ときたら、誰かが「お通夜のようだ」と言っていたけれど、米長流ならファンは大興奮だろう。

 まあ、こんないい加減な想像をふくらませてしまうほど、現在の将棋界は暗い。
 だから、米長だったら、詭弁・はぐらかし・おとぼけ等々を駆使して、全力で難局面を打開しただろうとついつい思ってしまう。
 松本博文ではないが、「棋界は本当に惜しい人物を失った」。

 松本博文が米長邦雄に宛てた追悼の言葉(晩年の米長邦雄をどう評価すべきなのか?――命日に寄せて)