こういう男達が次から次へと登場してこそ将棋界は面白くなるのだろう。

―――米長邦雄

『将棋の天才たち』(講談社、2013年)より
―――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ボンクラーズ vs  米長邦雄」の対局料が一千万円だと知り、橋本崇載が激怒して会長室の米長邦雄の元へ押しかけたのは二〇一一年の秋頃だと思われるが、それより三年程前、同じ会長室で米長は橋本に取材している。

 「週刊現代」の連載エッセイに橋本を取り上げるためで、ちょうど棋王戦のベスト4まで彼が勝ち上がった頃だった。橋本、当時二十五歳。

 このエッセイの中で米長は、茶髪にしたりパンチパーマにしたりといった橋本の奇行ぶりを肯定的に綴っている。
 それに較べ、羽生世代の連中は「優等生だらけであって、いささか面白味に欠ける」と言うのだ。

 いかにも米長邦雄らしい評価ではないか。
 彼は無茶をするタイプの人間が好きなのだ。

 橋本が三人でカラオケに行ったときのこと。 
 三人のうちの一人がプロのオペラ歌手・錦織健。もう一人が玄人はだしの神吉宏充。
 朗々と歌う二人を前にして橋本は切れた。
 「これはいじめだ!」
 ところが――

 「しかし酒を飲んで開き直り、二人の前で何曲も歌ったというから、その度胸は大したものである。こういう男達が次から次へと登場してこそ将棋界は面白くなるのだろう」

 二〇〇八年十一月頃の橋本崇載に対する米長の評価である。
 それから約三年後、橋本は会長室に押しかけ、「賞金一千万円を自分の懐に入れるのは会長としての道義に反する」と詰め寄るわけだ。

 このときの他にも、彼は何度か会長室を急襲したらしい。
 しかし、「うるさい、帰れ!」という態度を米長は一度も見せなかった。
 十分に話を聞きながら、ああだこうだと返しては横道に逸れ、「絶対に尻尾をつかんでやる」という橋本の意気込みも空回り。結局はすごすごと会長室を後にすることになる。

 「いつものらりくらりと巧妙に論点をずらしていくので、煙に巻かれてしまう。そのあたりではやはり、役者の違いを認めるしかなかった。私にもう少し実績があり、発言力があったなら……と悔しく感じたものだった」(『棋士の一分』より) 

 米長はこの種の会話をむしろ楽しんでいたフシがある。
 「役者の違い」を見せ付けながらも、この若者の蛮勇に若干のエールを送っていたような気がしてならない。

 ――「こういう男達が次から次へと登場してこそ将棋界は面白くなるのだろう」と。