ただひとつだけ言えるのは、もしも今回、A九段が竜王戦に出場していたら、将棋界は崩壊の危機にさらされる恐れが濃厚だったということです。

―――小暮克洋(観戦記者)

どうしんウェブ「将棋よもやま話」 2016.10.29
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 「私が不正をしているという噂をまき散らし将棋界を無茶苦茶にした観戦記者の小暮克洋氏だけは、許せないという気持ちはありますね」(三浦弘行、「iRONA」2017.2.7)

 「どうしても言いたいことがある」 三浦九段が初めて語った騒動の内幕(iRONNA編集部、2017.2.7)

 三浦弘行が「許せない」人物として実名を突き付けたこの小暮克洋とはいったい何者なのか。
 彼はこの冤罪事件でどんな役割を果たしたのか。
 彼はこの騒動に対してどんな記事を書いていたのか。

 例の「週刊文春」は二〇一六年十月二十日に発売されているが、実はそれから間もなく、小暮克洋氏は「北海道新聞」に「不正疑惑問題についての考察」なる記事を書いていたのである。
 私は今回これを読み、またしても怒りが込み上げてきた。
 彼はこう書いている。

 「もしも今回、A九段が竜王戦に出場していたら、将棋界は崩壊の危機にさらされる恐れが濃厚だったということです」

 ああ、三浦弘行はこのような論理(実は屁理屈)で挑戦権を奪われたのか。
 こういう「論理」を、私は「殺す側の論理」と言いたい。
 三浦側からの視点、即ち、「殺される側の論理」がまるで無いのだ。

 彼はこうも書いている。

 「絶体絶命の状況でした。将棋界の現況も、痛ましい限りです。が、ほっかむりして突き進んだ場合の将棋界の終焉を思えば、今回、日本将棋連盟が採った措置はやむをえないものであった、と私個人は強く思います」

 これまた明確な「殺す側の論理」である。
 こうしなければ大変なことになる、「将棋界の終焉」「将棋界は崩壊の危機」などと喚(わめ)き立てて挑戦権剥奪を正当化するこの手口。

 こうした「殺す側の論理」により三浦弘行とその家族は地獄に突き落とされたのである。
 さぞかし無念だったことだろう。
 よくぞ耐えてくれたと思う。

 ジャーナリストの使命は、「殺す側の論理」を暴(あば)き「殺される側」の視点で物事の本質を見極めることである。
 だが、将棋界にジャーナリストは存在しない。逆に、小暮克洋のように、自らが「殺す側」へと堕落していく。
 その格好の例として、彼の一文は永久に保存すべきだろう。

 以下、その全文を掲げておく。


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 小暮克洋「不正疑惑問題についての考察」
 ――どうしんウェブ「将棋よもやま話」 2016.10.29――

 トップ棋士の一人であるA九段の不正疑惑問題で現在、将棋界は揺れに揺れています。

 夏ごろから、「A九段が対局中に席を離れる回数が多い。コンピューターソフトを使ってカンニングしているのではないか」との声が複数の棋士から寄せられ、日本将棋連盟の常務会が10月11日に本人を呼んで事情を聞いたものの満足のいく回答が得られなかったため、今年いっぱいの対局停止が決まりました。

 「こういう事態に至っては満足な将棋を指すことはできない」という本人の意向を受けて、連盟は翌日の午後3時までに休場届けを出すように求めたのですが、期限までの提出がなく、上記の決定がなされました。しかしながら、それは成り行き上そうなったというだけで、A九段からの休場申し出がなくても、連盟は本人から合理的な説明がない限りは、自ら同じような強い処分に踏み切ったものと思われます。

 A九段は、事情聴取の4日後には、将棋界最高のタイトル戦である竜王戦七番勝負に挑戦者として出場する予定でした。非常に切羽詰まった段階で日本将棋連盟が動いたのは、その1週間ほど前の対局でも、A九段の行動に重大な疑惑が生じたからです。この2ヵ月ほど、会報等で呼びかけてきた離席についての注意をないがしろにしたばかりか、後日の検証では終盤戦の指し手がソフトが推奨するものとほとんど一致することが判明。盤の前で熟考の末に指された数手のみがソフトが奨める第一候補と異なっていました。それまでA九段が不正を疑われた数局では、ソフトとの「一致率」が異常なほど高いのに加え、「悪手率」という基準でも人間離れした数値を示すことが指摘されていました。局後の感想戦で明らかになった十数手先までの読み筋が、数ヵ所でソフトの予想手順とピッタリ重なる事実も、疑惑を深める大きな要因になりました。いまのところ、本人が不正を否定しているうえに犯行現場の目撃はなく、通信方法の特定もなされていません。前述の「一致率」や「悪手率」、「読み筋の一致」といった確率的、技術的な証明手段が、社会全般に受け入れられているような指紋やDNAに類する説得力を持つと考えるかどうか、で、この問題への見方は大きく異なってくることでしょう。

 ただひとつだけ言えるのは、もしも今回、A九段が竜王戦に出場していたら、将棋界は崩壊の危機にさらされる恐れが濃厚だったということです。この不正疑惑問題については七番勝負開催前から一部週刊誌が幅広く取材を進めており、第1局終了直後からA九段の行為と将棋連盟の対応を糾弾するキャンペーンが始まる懸念がありました。この問題に対する連盟の方針があいまいなままで大々的に特集記事が連載されると、世間一般からは隠ぺい体質が問われ、主催者からも責任が追及されてこの先、将棋連盟の運営が立ち行かなくなることが容易に予想されました。

 もはや最善手はどこにもない、絶体絶命の状況でした。将棋界の現況も、痛ましい限りです。が、ほっかむりして突き進んだ場合の将棋界の終焉を思えば、今回、日本将棋連盟が採った措置はやむをえないものであった、と私個人は強く思います。

 今後は弁護士を中心とした調査委員会が、当該処分の妥当性について精査することになっています。