三浦九段は夕食休憩後、自分の手番のときに三十分も席を離れていた。

―――久保利明

「三浦弘行 vs 久保利明」戦(2016.7.26)に対する久保の主張
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 持時間が切迫する夜戦に入り、自分の手番で三十分も席を離れるのはいかにも不自然だ。
 これはもしや……。

 久保利明はそう考え、「週刊文春」の記者にこう語った。

 「証拠は何もないんです。でも指していて(カンニングを)“やられたな”という感覚がありました」(「週刊文春」2016年10月27日号、20日発売)

 これが三浦弘行冤罪事件(竜王位挑戦権不当剥奪事件)の発端である。

 ところが、この「三十分の離席」が久保の妄想(嘘八百)だったということが後に明らかになり、将棋ファンは唖然とした。
 「対局のビデオ映像」という確たるものが残っており、それを検証した結果、久保の発言がデタラメだったと発覚したのだ。

 これが二〇一六年十二月末のこと。

 いったい、このオトシマエを彼はどう付けるのか。
 このとんでもない嘘が流布され、将棋界始まって以来の人権侵害事件が起こったのだ。
 その引き金を引いた責任をどう取るのか。

 当然、ファンは久保の動向を注目した。
 ところが、

 久保は黙り(ダンマリ)を決め込む。

 ようやくこの一件について口にしたのは、年が明けてからの三月十五日だった。
 王将戦の番勝負が終わり、「久保新王将」に記者がこう質問したのである。

 「最後になりますが、久保新王将に伺います。昨年から続いている将棋ソフトの問題ですが、王将戦七番勝負が終わった区切りということで、コメントをいただきたいのですが」

 この質問自体がまるで及び腰で、将棋界にジャーナリズムが存在しないことを改めて痛感させられるのだが、それはともかく、これに対し久保はこう答えている。

 「いろいろ考えていることはあるんですけども、まとめて後日にお話ししたいと思っています。タイトル戦の最中ということもあり、まとめきれていないとこ ろもありまして。自分のなかで皆さんにお伝えできていない部分もあると思うので、その点は後日、説明したいと思います」

 この発言からすでに三ヶ月が経とうとしている。
 だが、いまだに何の「説明」もない。

 この間、五月十八日には王将位就位式があった。
 式後のパーティーには二百人が集まったそうだ。
 加古川市長・スポーツニッポン社長・大阪市淀川区長・毎日新聞社大阪本社総合事務局長・久保の小学校時代の担任、等々……。
 壇上に立ったこれらの人物が、久保が三浦弘行をどれだけ貶めたのか知らないはずがない。
 だが、彼等は一様に久保新王将を祝福したそうだ。
 まるで何事も無かったかのように……。

 冤罪事件の発起人たるこの妄想男は、将棋業界に於いては、断罪されるどころか、逆に祝福される存在らしい。