棋士は一刻も早く佐藤新会長の元に団結してほしい。

―――先崎 学

第65期王座戦二次予選「三浦弘行 vs 先崎学」自戦記 第四譜(「日本経済新聞」2017.3.6)より
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 「三浦弘行 vs 先崎学」の第四譜。
 ここでも指し手の説明は無く、表題は「百家争鳴」となっている。
 曰く、

 「盤上以外のことになると、(棋士は)百家争鳴、はやいはなしバラバラなのだ」
 「平和で物事がうまくまわっている時はバラバラこそが強みなのだ」
 「ところが、今回のような非常時には、見事なまでにこれが裏目に出る」

 そのように棋士の生態を説明して、第四譜末尾に先崎はこう書いている。

 「棋士は一刻も早く佐藤新会長の元に団結してほしい」

 むろん、組織内の人間としてそう発言するのは当然だろう。
 だが、この事件に関する限り、私は佐藤康光会長を信用していない。
 なぜなら彼は就任後すぐに大失敗をしているからだ。

 谷川浩司前会長の兄俊昭氏らが呼びかけた署名活動。
 その趣旨は、「三浦弘行九段の真の名誉回復を実現するため、真相の徹底究明と、渡辺明氏を中心とするメンバーの適正な処分を求めます!」というものだった。
 二千名を越える人々がこれに賛同し署名(大半が実名)をしコメント(大半が怒り)を寄せていた。
 俊昭氏らはこの結果を直接新会長に手渡したいと希望して調整したが、結局、佐藤会長は自分の手で受け取らず、代理人に任せてしまった。

 馬鹿にするのもいい加減にしろ!

 つまり、これが日本将棋連盟という組織の姿なのだ。
 佐藤会長は、「三浦九段の疑惑は晴れております」と繰り返すのみで、その後真相究明にも適正処分にも全く乗り出そうとしない。
 これではファンの気持が治まるわけがないではないか。

 三浦弘行が疑惑を持たれたということはもはや事件の本質ではない。
 つまり、事件の主役はもはや三浦弘行ではない。
 疑惑は仕掛けられたのである。
 疑惑を仕掛けた連中がいたということこそ事件の本質なのだ。
 この仕掛けた連中こそ冤罪事件の主役なのである。

 けれども、「三浦九段の疑惑は晴れております」という文脈からはこの本質が見えてこない。
 この言葉は依然として三浦を主役の座に据えたままで、疑惑を仕掛けた連中を陰に隠し、結局のところ彼らを庇護してしまう。
 真相究明も何もあったものではない。

 三浦弘行の「真の名誉回復」は、この「疑惑を仕掛けた連中」を表舞台に引きずり出し、「真相の徹底究明」をした上で彼らに「適正な処分」を下すことではじめて達成される。
 それでやっと一般世間は、「ああ、そうだったのか」と納得するのである。「疑惑を持たれた怪しい奴」という評価がようやく、「悪い奴らに陥れられ、本当に気の毒だったなあ」となるのである。

 もちろん、棋士が新会長の下に一致団結するのはいいことだ。
 だが、一致団結して冤罪事件の真相を隠そうとするのは許せない。
 そうではなく、一致団結して三浦弘行の「真の」名誉回復に努めねばならない。
 そのためには、真相の徹底究明と疑惑を仕掛けた連中への適正な処分が不可欠である。

 かかる「真の名誉回復」を、あの署名簿を直接受け取らなかった佐藤康光会長に、はたして期待できるのだろうか。