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 むか~し職場で残業の出前にソースカツ丼やカツ定食を食べたことがある。
 店に行ったことはない。
 ヒゲ剃り跡が濃い地味なおじさんが年季の入った今にも割れそうなヘルメットを被り、古そうなホンダ・カブに乗って持ってくる。意外や美味しかった。
 数年(数十年?)ぶりに何故かこの店を思い出し、行ってみることに。
 ネットでは大盛りで安くて大人気らしい。昔は地元御用達。時代は流れる。
 ヒレソース丼とカツ丼上を狙っていた。昨日食い過ぎたのでひとつに変更。

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 14:10。あれっ、暖簾が引っ込んでる。
 「終わりですかぁ~?」
 「注文は何?」と不機嫌そうなおばさん。
 「ヒレソース丼」
 「ヒレソース丼、できる?」と厨房に怒鳴る。出来ない!と返事がないからどうやらできそうだ。

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 うわっ、汚い店。
 古い映画で観る太平洋戦争直後の食堂みたいだ。1945年にタイムスリップ。愚連隊を演じる売れない役者4~5人がどんぶり飯を掻っ込む姿が目に浮かぶ。
 壁も床も何もかもが油ギトギト。ビーサンが滑って転ばないか心配。
 「昭和の雰囲気!」などと喜ぶ状況じゃない。
 先客5人。
 化粧のキツい中年女4人組がべちゃくちゃデカい声でお喋り。昼間から酒盛り?と思ったらラーメン。まるで酔っぱらいのトーンだ。そのうち言い争いを始めた。殴り合いのケンカには至らない。
 アウェーの雰囲気がヒシヒシと押し寄せる。

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 おぉっ ゴキブリだ 壁を我が物顔に散歩してる。
 ゴキブリなんて何十年ぶりに見ただろう。小さいヤツだが不気味な赤茶色。ホールでこれだから調理場はゴキの巣窟かも。戦慄が走る。
 ますます高まるアウェー感。

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 来た。丼といっても重だ。ソース丼とはヘンな名前だがソースカツ丼のこと。
 普通のソース丼は豚もも肉。もものカツはかたくて味わい弱くて美味しくない。ソースカツ丼には断然ヒレだ。

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 フタを開ける。甘い香り。
 おっ、うまそう。ヒレカツ3枚。湯気がゆらゆら烈しく上がる。

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 「うまい!」
 ヒレカツ自体はうまい。肉のうま味がある。ややかたい。
 衣はバリッとかた過ぎ。揚げすぎたのか?衣の付け方に問題ありか?

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 ご飯は熱々でイケる。でも昼の部終了時間で炊きたてはあり得ない。もしかして電子レンジでチン?いや、それはないだろう。
 丼つゆ。甘くて曖昧で締まりのない味。雑な味とも言える。不味くはない。

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 2枚目カツは厚い。食べ応えアリ。

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 3枚目。こんなに厚い部分も。中心が赤くて良い具合。
 だが「肉と衣の乖離」はとんかつで一番嫌いな現象。
 プロなのになぜこんな失態を演じるのだろう。しっかり粉を打たなかったのか?冷凍肉で縮んだのだろうか?
 テレビに出る有名な高いとんかつ屋でも乖離したヤツを出して平気なツラ。信じられない狼藉。
 「ウチのはピタッとくっついてるんですよ~」と嬉しい主張の適正価格とんかつ屋。蔓延る「乖離とんかつ」に危惧の念を抱いているのだろう。プロの矜持だ。
 よくテレビで言ってくれた。
 テクニックも思い入れもなく名前だけの不埒な有名店でなく、こういう無名でも真っ当なとんかつ屋が陽の目を浴びてほしい。

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 うんと美味しくはないが残すほど不味くもない。
 きれいに食べきる。ゴキブリのことはすっかり忘れていた。ラッキー。食品添加物まみれの紅生姜は食わない。
 ふたつじゃなくひとつで正解。
 汚い店内、ゴキブリ、イマイチな味。もう一度来たい店ではない。
 懐かしの店だから、もっと清潔ですごく美味しければオムライス、焼きそば、カツ丼上を食べに再訪したかったのだが。
 会計。700円。高くはない。安くもない。
 「2時までなんですか?」
 「はーーー」
 「2時半かと思って来ちゃいました」
 「あーーふふふーーー」
 おっ、さっきは不機嫌だったおば(あ)さん。今は優しそうな笑顔。
 汚さ、ゴキブリ、イマイチ味のマイナス要素がこの笑顔でいくらか減じられた。(2019.7.9)