介護報酬の構造は、基本となる本体報酬と、それに加算される報酬によって成立している。しかも本体報酬については、一定のルールをクリアしていなければ減算されるという規定もあり非常に複雑な仕組みとなっている。

つまりサービスの質の担保やサービス事業の良し悪しの評価を、加算・減算という「飴とムチ」として収入額に差をつけるという方法でみている。

この根底には、良いサービスを行っても、悪いサービスを行っても、一律の報酬というのはおかしい、サービスの質の高い事業者には報酬上もきちんと評価し、質の悪い事業者にはそれなりの金額しか保険給付しない、という意味がある。

しかしながら実態を見ると、この加算・減算ルールはその目的を達すべき意味としてはまったく機能していない。それは事業者が加算報酬を得たり、本体報酬を減算されなかったりするためには、自らそれを証明して認められる必要があり、それが正しいか否かは「実地指導」における書面調査により事業者側の記録で確認する以外ないからである。

つまり実際に評価されているのは本来目的の「実際に提供されているサービスの質」ではなく「文章としての記録」に過ぎないのである。

加算報酬は大きく分けて体制加算と実績加算に分けられる。前者は決められた人員配置やサービスの質に繋がる各種ルールをクリアしていることに対し加算されるもので、例えば介護老人福祉施設の重度化対応加算や、ショートスティの夜間看護体制加算(特養)、リハビリ機能強化加算(老健)などが体制加算である。これは体制があればよいもだから、実際の職員配置や求められる整備書式を確認することになる。

それに対し栄養ケアマネジメント加算などは実績加算で、一定のルールを踏襲した栄養ケア計画作成と評価を行っていなければ算定できないから、その確認は実際のサービス提供の記録をはじめとして、算定ルール上の取扱に、漏れがないことを事業者側が証明するため、細かな記録が必要になる。

ということは実地指導の担当者が、頭の悪い指導担当者に当たれば、その担当者が理解できるような記録でなければならないということにもなりかねない。まったく馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

18年3月以前は体制加算であった「個別機能訓練加算」も制度改正後は、実際に個別機能訓練計画を立てて、それを実施するという実績加算に変更になっている。

しかしそのルールは細かく、計画の作成同意のほか、モニタリングの記録など多岐に渡っている。しかも一番の問題は、このルール変更によって実績加算となったことに対し、リハビリテーションの意味さえわかっていないお馬鹿な指導担当者が、この計画内容を「医学治療的なエクササイズプログラム」に限定して考えて、そうした内容が見当たらないと算定不可であるという間違った指導も横行している。(参照:個別機能訓練に対するおかしな理解

個別機能訓練計画を立て、それに基づく具体的サービスを実施することは当然必要であるが、その対象は軽度介護者から看取り介護の対象者まで様々であり、生活における自立の視点というものをしっかり持って、看取りの時期をも含めた計画というものがあり得るという理解が必要だし、一番大事なことは、実際に質の高いサービスを作るために行われている「サービス内容そのもの」の評価が必要で、文章の文言の評価では意味がないということである。

実際の支援が行われているか否かも、支援記録等でしか確認されないから、どんなに非自立的な状況に高齢者が置かれていようと、利用者の表情が暗く乏しい状態のホームであろうと、ルールで決められた記録さえあれば加算報酬を算定されてしまうのであり、求められるアウトカムの評価などとはかけ離れている実態がある。実績加算の実態は「記録加算」でしかないのである。

そもそも加算報酬に限らず、減算に該当しないことの証明も含めて運営規準における様々なルールとしての記録の数が多すぎる。指針だけで何種類作らねばならないのか。指針やマニュアルの数が多すぎて、それは活用するものではなくなって存在するものだけの価値しかなくなっている。そのほかに各種の計画書、説明同意書、評価表・・。支援記録も加算・減算ルールに対応した内容をすべて網羅していないと報酬返還指導の恐れさえある。これでは介護職員より文筆家を雇わねばならない状況である。

かくして下げ続けられる報酬の中で、人手不足の問題も含めて人的配置も厳しくなり、その中で必要な記録、書類だけは増え続ける現状は、介護職員を現場から引き離して机に座らねばならない時間のみを大幅に増やしている。

よって世間的に、表面上、加算報酬を算定でき、減算のないホーム運営をするためには、利用者の外出支援や、職員と利用者のふれあい機会、利用者のペースに合わせた直接介護機会など、一番必要とされるサービスを削って、記録にその時間を回しているか、介護職員のプライベートの時間に記録を持ち込んで帳尻を合わせるしかない。

どちらにしても利用者が真に求める介護や、介護職員が余裕を持って利用者のニーズに寄り添うことなどできなくしているのが記録絶対主義の弊害であり、これほど介護の現場のサービス向上の弊害となっているものは他にない。

まさに利用者や国民のためのルールではなく、指導監督機関のための減加算ルールである。

求められるあまりに膨大な記録の陰で、利用者の希望が達せられなくなりつつあることを国は知るべきだ。こんなルールで介護の質が上がるわけがない。

書類と記録を減らす視点なくして2015年問題も解決できないであろう。

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