特養等の施設における介護職員への医療行為解禁、あるいは介護職員ができる行為の拡大を論ずる際に、必ず出される反対論として「常時、医療対応が必要な高齢者を特養に入所されることが問題だ。」という意見がある。

しかしこの反論ほど的外れなものはない。施設介護職員の行える行為拡大、一部の医療行為監禁とは、何も常時医療対応が必要な状態の高齢者に対応するためではないのである。

特養利用者の具体的医療ニーズとは例えば、医療機関で対応すべき病状に限らず、加齢とともに緩やかに生ずる身体機能の衰えに起因する問題であったり、治療を必要とするような急性疾患はなくとも枯れるように徐々に嚥下機能が低下して最終的に経管栄養が必要になることであったり、インスリン注射で血糖値管理さえできれば医療機関への入院が必要でないケースであったり、インフルエンザなどの感染症を発症し、一時的に点滴が必要ではあるが入院までは要しない状態である場合が考えられる。

つまり特養利用者の医療ニーズとは常時医療対応が必要である状態をいうわけではなく、ある一定期間あるいは1日のうちの特定時間帯に医療対応ができれば日常生活に支障がない状態が多いのである。

そのような利用者の医療ニーズに対応するためには第3者の医療行為支援が不可欠である。しかし特養の看護職員の配置基準は50人定員で2名、100人定員でわずか3名である。多くの特養では配置基準以上の看護職員を雇用し、看護職員が配置されない日が生じないように365日看護職員を配置するなどの自助努力で対応しているが、現行の運営財源である介護給付費で支出できる人件費には限界があり、日によっては看護職員を1名しか配置できない場合もあるし、看護職員の夜勤対応は困難であり、結果的に夜間は介護職員しか配置されていない特養が全体の大部分を占める。よって365日24時間にわたる看護職員による医療行為支援は不可能であり、夜間に緊急の医療対応ニーズが生じても、介護職員が行えるような行為であっても、現行法上は、看護職員の呼び出しを行い、その到着を待たねばならない。しかし例えば褥創部の便汚染などの際に、褥創処置が医療行為であるという理由のみで、看護師の不在の間に何も処置対応ができない現実は非常におかしなものである。そしてそれによって不利益を受けているのは特養利用者であり、それは今後の問題として考えるならば、国民全体にとっての不利益と言える問題である。

このため昨年11/20「安心と希望の介護ビジョン」において、特養での医療行為について、現在、在宅でしか認められてこなかった有資格者ではない者による「喀痰吸引」や介護職員が行えば法律違反となる「経管栄養の処置」などの一部の医療行為を、特養でも「研修を受けた介護職員」に認める方針が示された。その方針の具体化のため「特別養護老人ホームの入所者における看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会」の議論が今年2月から始められ、年内に各地の特養でモデル事業を行って安全性を検証し、来年度の実施を目指すという方針が示された。

ところがこの結論たるや、全く「お粗末」としか言いようがなく、モデル事業で検証する介護職員による行為については、例えば喀痰吸引では、吸引できるのは肉眼で確認できる口の中だけで、鼻や気管切開した部分は対象外とされた。

このように危険を理由に喀痰吸引のできる範囲を制限しているが、在宅ではALS患者の喀痰吸引の際など口腔内だけでなく人工呼吸器をつけた喉の部分も含んで行うことが認められているのに、在宅より医師、看護師の管理が容易であり安全性は高まる施設における行為に、そのことを認めないのは矛盾を残したままで問題解決には程遠いと言わざるを得ない。これでは数十分ごとに常時喀痰吸引が必要なALSの方々は、今後も特養入所が不可能である。

ただ、この結論については、口腔内のみであっても、今まで認められてこなかった特養の介護職員による喀痰吸引が認められたことは第1歩であり、今後それが拡大される可能性があることについて評価する向きもあるだろう。

しかしより一層お粗末な結論といえるのが、経管栄養についての問題である。今回の結論では、チューブの接続や流動食の注入は看護職員だけが行うとされ、今までとなんら変更はない。

介護職員が行うことが可能な行為としてモデル事業で検証される行為とは「注入中の観察・注入後の頭部の状態維持・看護職員への結果報告・片づけ・記録」である。

そもそもこんな行為は今まで、それさえも認められていなかったのかと首をかしげるような内容にしか過ぎず、問題解決としてはほとんど意味がないといってよいだろう。観察や結果報告など別に医療行為と何も関係のない行為で、今までだって行っていて問題なかった行為ではないか。経管栄養中に姿勢が乱れて苦しそうにしている利用者の枕の位置をずらして良恣意を確保することがモデル事業で「入後の頭部の状態維持」として検証されなければならないこと自体が「お笑い」の世界である。

特養の利用者の医療ニーズとは何か、それに現実的に対応するには何が必要かということを「真面目」に考えれば、特定業種の職域・職権を守るための理屈など社会悪でしかない。日本看護協会はこのことを肝に命ずるべきである。

そして将来にわたって特養利用者の医療ニーズに的確に対応するためには、最低限でも在宅で医療の有資格者以外が行為としては可能な喀痰吸引は口腔内に限らず認められるべきであるし、家族が行うことができるインスリン注射や、経管栄養の濃厚流動食注入・タンクと繋がった部分(体と繋がった部分は別で、これは看護職員対応がふさわしいだろう)のチューブ交換等も認めるべきである。

このような行為をモデル事業でさえも検証しないような結論であるなら、検討会自体が時間と金の無駄遣いと結論付けてよいだろう。

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