社会保障審議会介護保険部会等で話し合われた次期制度改正の方向性は、認知症高齢者を含めた在宅の重介護者(要介護3以上を想定)を地域で支える新しい介護システムを作りを中心に制度を再設計するというものだ。つまり現在は在宅重介護者を地域で支えるサービス提供ができていないという評価がそこには存在する。

しかしそのために新しいシステムを作るに際して、現行の介護給付費を維持して、新たな給付を上乗せしようという考え方ではなく次のような考え方に基づいて制度改正は議論されている。

1.新しい財源を求めるか、どこかの給付を削らないと新しいことはできない。
2.新しいことを始めるに当たって、誰に負担を求めるのかを考えていかねばならない。
3.新しい財源がない場合は、給付の抑制か、給付対象者を狭めるしかない。

という条件が前提になっているのである。

このことは本年6月22日の閣議決定が大きく影響していると思える。そこで決められた新成長戦略では、公的保険サービスを補完し、利用者の多様なニーズに応える介護保険外サービスの利用促進策(地域における提供促進体制の構築強化を含む)の検討・実施が謳われている。(2011,2012年)。つまり保険給付は出来るだけ抑えて自己負担や地域サービスでそれを補完する方向性が示されたわけである。

同時に「ペイアズユーゴー原則」として、歳出増か歳入減を伴う施策の導入や拡充を行う際、それに見合った恒久的歳出削減、歳入確保による安定的財源を確保することを原則にする ことも決められた。

よって財源を他に求めるような政治力がない介護保険部会等では、介護保険制度の中だけで歳出と歳入のバランスをとるしかないので給付抑制策は必然の議論となってしまう。だから現行サービスの中で財源を別に得ようとすれば、軽度者の家事援助制限や、ケアプラン作成に係る居宅介護支援費(現在全額保険給付)に自己負担を導入しようとか、現在の1割負担を高額所得者などについては2割負担にしようとかいう結論にならざるを得ない。

同時に、そうであるがゆえに介護保険制度改正と報酬改定議論に際しては、すべてのサービスは現行の介護報酬を0ベースから見直して、そして財源がない限り、現行報酬は上げることができないという結論にならざるを得ない。介護職員処遇改善交付金は再来年3月までの限定措置だから、その後、この部分が2012年4月からの介護報酬改定の際に上乗せされて査定される保障もない。

2009年4月に改訂された介護報酬と、介護職員処遇改善交付金で、なんとか職員の給与改善に努めてきた介護サービス事業者は、いきなり梯子を外される可能性がないと言えない。収益を大きく挙げている事業者以外は、このとき人件費を下げて対応するしかないのだろうか?しかしそれでは人は集まらず、事業展開自体が困難になりかねない。

しかも制度全体の見直しとは別の部分で、前任の厚生労働大臣と政務官の思いつきのような「通所介護のお泊りサービスの保険給付化」という新しい給付を国民議論がされないまま作ってしまって、財源がないから他のサービス給付費を下げてこれに充てるという。・・・なんという戦略性に欠けた馬鹿げた制度改正だろう。長妻昭さんと、山井和則さんという2人の前大臣と前政務官ほど、関係者から期待され、そしてその期待を裏切ったタッグはかつてないだろう。

しかし先の衆議院選挙前まで民主党は、介護職員等の給与は月額40.000円上げると言っていたではないか。その方針はどこに行ったんだ。大丈夫かこの政党は・・・。

我々が報酬アップを求める理由は、自分の懐を温めるためではなく、介護サービスに従事する職員に対して定期昇給をきちんと保障した労働対価に見合った報酬を与えない限り、すぐ近い将来に人手不足で介護サービスは崩壊することを肌で感じているからなのだ。

これは介護サービス事業者だけの問題ではないことにすべての国民が気付くべきだ。なぜなら75歳以上の高齢者人口の割合が2007年の約9.9%から、2030年には約19.7%、2055年には約26.5%と増大するのである。この状況を正しく理解しようとすれば、我が国においては、国全体が「危機意識」を持つべきなのでえある。なぜなら介護施設や、居宅サービス事業所が人手不足でサービス提供体制を縮小せざるを得ない地域では、そのしわ寄せは介護を必要とする人自身と、その家族に対して「必要なケアが提供されない」ということによって現実化するからだ。

つまり制度の光の当たらない場所で「野垂れ死に」する国民が増えるという意味だ。そういう国家が先進国とか、民主主義国家と名乗れるのだろうか?そういう国家の政治家は何に向けて責任ある政治活動をしていると主張できるのだろうか。ましてやそういう社会が「最少不幸社会」であるわけがない。しかしペイアズユーゴー原則を社会福祉政策にも適用する限り、そうしう社会になることは確実なのである。

どう考えても、医療や福祉・介護などの制度にその原則を適用することは、国民の生命や暮らしを脅かす結果となり問題であり、医療や福祉政策にペイアズユーゴー原則は適用すべきではないと僕は思う。  

もしこの原則が福祉や介護サービスにも絶対条件であるなら、歳入財源としての税負担を論じることができない有識者介護で制度改正を議論するべきではない。歳入方式も議論できる政治家が制度設計しないとならないはずだ。

そろそろ学者の非現実的な財政論で固まった制度改正議論はやめにして、政治家と言える人々がもっとグローバルな視点から近未来社会づくりの制度改正論をせねばならないのではないか。

政治主導をスローガンに挙げていたのは、いったいどこのどいつだったのか、もういちど振り返ってみるべきである。

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