大手介護サービス事業者「メッセージ」が、ジャパンケアサービスに対して実施していたTOB(公開買い付け)により、ジャパンケアサービスの株の94%を取得した。

これにより西日本を中心に、介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を経営するメッセージが、東日本を中心に事業展開する訪問介護サービス大手のジャパンケアサービスを連結子会社化することになる。

メッセージはジャパンケアサービスを合併するつもりはなく、運営にも干渉しないらしいが、今後メッセージは、サービス付き高齢者向け住宅を全国各地に作り、そこに子会社化したジャパンケアサービスのノウハウを取り入れた自社の24時間巡回サービスを貼り付けて、事業の全国展開を図っていくことは明らかである。

このこと自体は民間企業の事業展開であるから、外部の人間がとやかく言うような問題ではない。あくまで一企業の経営戦略上の問題としてTOBが行われたとしか言いようがなく、そのことを良いとも悪いとも論評するのは筋違いであろう。

しかしそれ以前の問題として、介護保険制度改正と、その関連法の改正の動きをみると、国の制度が一民間企業の経営戦略に利用されたような後味の悪さが残る。

なぜなら、メッセージの橋本会長は、サービス付き高齢者向け住宅協会の会長でもあり、高齢者住まい法の改正により創設された、厚生労働省と国土交通省の共管である「サービス付き高齢者住宅」の誕生に積極的に関わった人である。

さらに多くの関係者が知るように改正介護保険制度により創設された「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の「あり方委員会」には、ジャパンケアサービスの代表取締役のほか、同社の外部理事が委員として検討に加わっている。モデル事業に参加した他社の代表委員が一人であることに比べると、これは少しいびつな委員構成だ。つまり同社が議論の方向性を誘導していると、うがった見方もできるのである。

新年度から創設される「サービス付き高齢者住宅」と「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」。

その両者の創設議論に深く関わった2人がトップに立つ企業同志が連結したわけである。しかもジャパンケアサービスにとってメッセージは、あくまでブラックナイトではなく、ホワイトナイトである。ずいぶんうまい具合に事が運んだものだ。結果的には、国が新しい連結企業の誕生に大きく手を貸したようなものである。これは偶然か、必然か、あるいは何らかの意図があってのものかは外部の人間には知りようがない。どちらにしても「地域を巡回しない24時間巡回サービスが生まれる」で指摘したような事業展開が全国規模で行われていくことは間違いないだろう。

セントラルキッチン方式や、初期投資の抑制のために建物を地主に建ててもらって借り上げる賃貸借方式を採用して低コストの介護付き有料老人ホームで実績を残したメッセージが、国のモデル事業にも参加した24時間巡回サービスの大手企業を下請け化して、サービス付き高齢者住宅を全国展開していくことは必然で、その先にサービス競争が行われることも必然だろう。

それは既存の施設サービスを巻き込んだ競争となることも必然だが、その中で福祉援助としての施設サービスの質は担保できるだろうか?実際にはメッセージの経営する介護付き有料老人ホームのサービスの質には首をかしげる向きもある。低コスト化された人材なりのサービスでしかないという評価もある。ここをどう見ていくのか、検証と検討が必要だろう。

その中で、特養はどう生き残っていくのか?メッセージが展開する、サービス付き高齢者向け住宅と24時間巡回サービスをセットにした事業展開に対抗し得るのだろうか?

メッセージの橋本会長は2日の会見で、「高齢者が生きがいを持って暮らせる環境をつくり、それを持続していくためには、自宅でも施設でもどこに暮らしていても必要なケアが提供されるシステムが求められる。”住まいとケアの分離”が必要になる」と語っている。この意味は地域包括ケアシステムの中心的サービスは、「住まいとケアの分離」がされている同社の事業展開が主流だという意味で、逆に言えば、特養などの既存の施設サービスは「住まいとケアの分離」されていないサービスだから、将来的に消えてなくなれという意味だ。

しかし日本の介護の将来は本当に「住まいとケアの分離」を進めるべきなのだろうか?

例えば「24時間巡回サービスの在り方委員会報告書」には

継続的アセスメントに基づき、定期訪問の回数やタイミング、提供時間の長さについて、事前に訪問計画が立案されるものの、実際のサービス提供においては、施設におけるケアと同様に、利用者の心身の状況に応じて、提供時間の長さを延長または短縮したり、提供のタイミングを変更しながら、必要なサービスを提供するといった「時間」の概念にとらわれない柔軟な対応を前提とする

と書かれているが、実際に地域を巡回するサービスにおいて、この時間調整は不可能である。これは「住まいとケアを分離していない」施設サービスであるからこそ可能になるものである。施設サービスを軽視する24時間巡回サービスの在り方委員会が、このことに関して言えば「施設におけるケアと同様に」と、施設サービスの優位性を認めているのだから、特養は、こうした個別ケアをしっかり行って、そのエビデンスを作っていかねばならない。

また報告書には
排泄は昼夜に渡り最も頻度の高いケアであり、本人のペースで行うことが望ましいが、トイレやポータブルで行う場合、突発的な尿意・便意等に随時訪問が間に合わないような状況を出来るだけ回避するため、適切なアセスメントに基づき、本人の日常的な排泄のタイミングを把握した上で、定期訪問のタイミングを決定することが重要ではないか

などという馬鹿げたことも書かれている。突発的な尿意・便意を予測できる神業アセスメントは実際には存在しない。しかし施設サービスは、突発的尿意に対応できるエビデンスを作ることができる。ここを特養の機能として目指していかねばならない。

さらに24時間巡回サービスは「住まいとケアの分離」がされ、そこに訪問して、訪問した時間にケアすることを前提にしているので、24時間巡回サービスを受ける対象者が、24時間中の複数の訪問時間にそこにとどまっておらねばならず、高齢者住宅や自宅の内部だけでケアが完結されてしまう「住まいの中への引きこもり」を生みだす可能性を内包している。

そうであれば、特養は、利用者と地域の接点を失わないように、外出機会や地域とのふれあいを重視したケアを展開していく視点が一層求められるであろう。

「住まいとケアの分離」は本当に、国民に求められている方向なのか。そのことは今後の日本の介護を考える際の、大きな課題となるであろう。



出版記念シンポジウム・愛を語らずして介護を語るなは、こちらをクリックして下さい。

新刊のネットからの購入は
楽天ブックスはこちら
アマゾンはこちら
↑それぞれクリックして購入サイトに飛んでください。

ブログ書籍化本第1弾・続編第2弾、好評発売中。下のボタンをプチっと押して、このブログと共に応援お願いします
人気ブログランキングへ


介護・福祉情報掲示板(表板)